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17話

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カイルサイド


次の日


スマホを見てもテオンさんからの連絡はなかった。


その次の日もテオンさんからの連絡は来ることはなかった。


はぁ…やっぱり嫌われたか…


そう思いながらスマホを見つめため息を落としていると、ジノくんから泣き叫ぶような連絡が入り、俺は慌ててジノくんのマンションに行くとそこにはもう…


ジノくんのアンドロイド・アユはいなかった。


K「ジノくん…なにがあったの…」

J「お前の時と同じだよ…いきなりpurple社が来てアユを連れてった。」

K「は!?いやでも…俺の時はまだクーリングオフ期間だったけど…ジノくんは…?」

J「明日でちょうど2週間…クーリングオフ期間が終わるはずだった。」

K「なんなんだよそれ…またクーリングオフ期間に回収するなんて…ジノくん、あの会社…やっぱヤバイとこなんじゃねぇの…?」

J「ほんと…人の心を弄びやがって最低な会社だな……」


ジノくんはそう言って震えながら涙を流した。


俺はジノくんの痛みが分かるから何も声をかけてあげれなかった。


励ましの言葉なんかでその心の隙間が埋まらない事など俺は十分すぎるほど知っているから。


K「ジノくん…飲みに行きません?朝まで付き合いますよ。」


ジノくんの涙が止まり始めた頃…俺はジノくんにそう言った。


J「だな…行くか。」

K「ジノくんの行きたい所に行きましょう。」


そうして俺はジノくんの大きな背中について行くとそこは…


K「ここ…っすか?」


そこはテオンさんが働いているチキン店だった。


J「テオンって子から連絡きたのか?お前この前、連絡先渡してたろ?」

K「来てません…実質振られました。なのでここ以外にしません?さすがに気まずい。」

J「いるならさ。諦めるなよ。」

K「え?」

J「アンドロイドが居なくなってから初めて手に入れたいと想った人が目の前にいるんだろ?なら、連絡来ないくらいで諦めるな。」


ジノくんはそう言って俺の背中を押し店内にグイッと押して入る。


あまりの気まずさから店内に入りたくない俺は全力でジノくんの手を拒むが、こういう時のジノくんは力が強く俺は流れ込むようにして店内に入り、俺は目を疑い驚いた。


K「えぇぇぇ!!!?ちょ!!ジノくん!!!?」

J「うん?どうした?」

K「見て!!ほら!!」


俺の声を聞いてジノくんは俺の後ろから顔を覗き出し、その姿を捉えると俺の肩に置いてあったジノくんの手がカタカタと震えだした。


「お客さんどうするの?そんなとこに突っ立たままで。」


びっくりするほど無愛想なその店員の顔を確認するようにガン見しながら俺は頭を下げる。


K「た…食べます。2人。」

「じゃ、空いてるとこに適当に座って。」

K「は…はい。」


俺は立ちすくむジノくんの腕を引っ張り慌てて空いてる席に座るとジノくんの耳元で言った。


K「ちょジノくん…どうする!?あの人、ジノくんのアンドロイドだったアユにそっくりじゃん!?」


そう、そこにいたのはジノくんのアンドロイドだったアユと全く同じ顔をした女性がいたのだった。


J「だ…だよな…ど…どうしよう…し心臓が…い…痛い…」

「ご注文は?」


アユにそっくりな顔をしたその彼は俺達を不思議そうな目で見て水を前に出した。


K「ビールとヤンニョムチキンで…」

「はいよ~」


やる気があるのかないのか分からない感じの彼女を見ていると仕事は完璧に的確にこなしていた。


J「名前…なんて言うんだろ…」

K「聞いてみたら?」

J「いやでも…」

T「なにユアちゃんのことジッと見つめてんの?知り合い?」


俺とジノくんが夢中になってコソコソとアユに似ている彼を見つめていると、逆方向から声がして驚いた俺が思わずビクッと体を震わせ振り返るとそこにはテオンさんがいた。


K「うわぁ!!びっくりした…テオンさん…」

T「ってかなんで大の男2人がソファに並んで座って身を寄せ合ってるの?もしかして2人ってそういう関係?」


テオンさんは目を細め指先で俺とジノくんを交互に指すが、俺たちはテオンさんのその言葉により慌てて距離を取る。


K「ま…まさか…」

Y「ちょっと、テオン!!配達から帰って来たんならサボってないで店手伝って。」

T「ユアちゃん、ごめん。」

K「ユア…テオンさん!あの人の名前ってユアさんって言うんですか?」


俺がそうテオンさんに問いかけると、テオンさんは俺を目を細めるようにして見ていて俺はギクリとする。


T「そうだけど…なんで?」

K「い…いや別に…ってか俺…テオンさんからの連絡待っ…」

Y「テオン!これお願い!」

T「はーい!」


テオンさんは俺が渡した連絡先のことなんて忘れてしまったのか、何事もないような顔をして俺の言葉を聞き流すと、仕事に戻って行った。


K「ジノくん…やっぱり、アンドロイドに似た人が実在するから俺たちのアンドロイドは回収されたってことで間違いないですよね?」


横にいるジノくんはもうユアさんに夢中で、ずっとビールやチキンを運ぶのに忙しいユアさんを目で追っていて、俺の言葉でやっと視線が戻ってくる。


J「おそらく…でもpurple社だって実在するかしないか審査通してから作ってるはずなのに…おかしいよな…身近な俺たち2人ともが回収されるなんてそんなの…」

K「おかしすぎるでしょ…しかも俺、オンが回収されたあと少し調べたんですよ。どうやってあんな生身の人間みたいなアンドロイドを作ってるのか。」

J「マジ?で、なにか分かったの?」

K「それが他の会社が作ってるアンドロイドの仕組みはなんとなく分かったんですがpurple社のアンドロイドの仕組みだけは分からなかった。どう考えても国の定めている法律を違反しないと作れないんですよ。」

J「だからそれだけ他のアンドロイドよりも依存性が強いって訳かもな。」

K「うん…おまけにあの会社、自分とこの社員の首に毒入りのチップを装着して不利な事を言おうとすれば毒殺なんて…」

J「やってる事は殺人なのに事故として処理されたもんな…」

K「そうなんですよ…だから俺、やっぱりpurple社のこともっと調べてみようと思って…」


そう話していると俺たちの目の前にチキンの乗ったお皿がドンっと置かれ、ビクッと驚いた俺たちが見上げるとそのにはテオンさんがいて俺たちは思わず口を閉ざす。


俺たちはわざとらしく咳払いすると座り直し、何もなかったかのような顔をしていると真顔のテオンさんが俺を見て言った。


T「興味本位であの会社を探るのはやめな。大変なことなるよ。」


その言葉だけを残して戻ろうとするテオンさんの手首を俺は咄嗟に掴む。


すると、テオンさんはチラッと俺に冷たい視線を送った。


K「テオンさんは一体…あの会社のなにを知ってるんですか?あの時に言った加害者って…どういう意味ですか?」


俺の問いかけに沈黙のまま答えずにいるテオンさん。


俺もテオンさんの手首を離さずにじっとテオンさんを見つめたまま握っていると、突然俺の腕をグッと掴み強引にテオンさんの手首から離させた太い腕が目に入った。


そこには俺よりもはるかにデカいあの大男がいて俺は思わず口籠る。


「お客さん。ウチの従業員に馴れ馴れしく触られたら困ります。ウチではそんなお触りのサービスしてないんで。そういうのが希望でしたらそういうお店に行ってくださいね。」


怒りに満ち溢れた声でそう言うとテオンさんがその男を宥めるようにその男の腕に手を置き…


親しげな2人を見た俺はチクッと胸が痛くて思わず視線を逸らした。


この人とテオンさんは一体どういう関係なんだろ…


T「ソウスケくん大丈夫だから…」


上目遣いでソウスケという男にそう言うテオンさんを見て、じわじわと湧いてくる嫉妬と苛立ちを覚えた俺はそれをかき消すようにビールを飲み干した。


T「もう、これ食べたら今日は帰って。」


テオンさんはそう言い残すとソウスケという男と共にキッチンの方へと戻った。


イラついている俺の様子を伺うようにジノくんが俺の顔をチラチラと見る。


俺はそれに気づいていたが何も言うことなく、ジノくんと無言のままチキンを貪り食べた。


会計をするためレジに向かうと俺に気づいたソウスケという男が出てこようとしているのをテオンさんが止めテオンさんがレジに来た。


K「さっきは…すいませんでした。」


そう言うとテオンさんはレジを打ちながら言った。


T「…キミはさ?俺に惚れてんの?それともあの俺そっくりなアンドロイドに惚れてんの?」

K「それは………それは!!」

T「やめやめ!やっぱどうでもいいし。」


テオンさんはそう言うと俺の言葉を聞く前にお釣りを俺に強引に渡し、俺はテオンさんに背中を押されるようにしてそのまま店を後にした。


だが俺はそのお釣りを受け取りながら思った…


もし…テオンさんが話を止めなかったら俺は一体なんと答えてたんだろうかと。


つづく
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