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16話

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テオンサイド


屋上にいた彼は間違いなくイルだった。


それを確信した俺は少し歩きたくなりマンションに着く前にタクシーを降りた。


フラフラと歩きながら幼かったあの頃の思い出を思い返す。


確か俺とイルが出会ったのは俺が8歳の時でイルは俺よりも2歳くらい年下だったはず。


数日間という短い時間しか一緒にいなかったのに、俺の後ろをついて回るイルが俺は可愛くて仕方なかった。


どうやって仲良くなったのかも、イルのフルネームも覚えてないのにあの日々のことはよく覚えている。


俺が小さな頃から親戚の家に行ったときに必ず訪れる桜がある公園。


そこでイルと出会った俺は約束もしていないのに親戚の家にいる間、毎日のようにイルと一緒に遊んだ。


そして、桜の木の下で一緒に写真を撮ったのが俺が持っている唯一、イルが写るあの写真。


次の日に家へと帰る予定だった俺は、家に戻るとインスタントカメラで一緒に撮った写真を母さんにお願いして近くの写真屋さんで現像してもらった。


そして、俺が家に帰る日の当日、イルと会っていた公園に行き俺は桜の木の下でイルと約束したんだ。


ボクは絶対にキミを忘れないよ。だからイルもボクを忘れないで…大人になったボクを見つけてね。って…


その街を離れ、家に帰る時間となり俺は泣きながらイルにサヨナラを伝えると、イルもその写真を握ったまま静かに涙をポロポロとこぼし、俺はイルのことが見えなくなるまで手を振り泣きながら帰った。


イルとの大切な思い出を懐かしみながら歩いていると、いつもよりゆっくりと歩いたはずなのにすぐにマンションにたどり着いた。


マンションのオートロックを開けようとすると突然、着信が鳴り、ディスプレイをみるとそこにはソウスケくんの文字が浮かんでいる。


T「もしもし?ソウスケくん?どうしたの?」

S「休みの日に悪いな。ユアが体調悪くなったみたいで今からユアの代わりに店出れない?1人だと手におえなくて。」

T「あぁ~わかった。今、マンションの下だからすぐ着く。」

S「悪いな。気をつけて来いよ。」

T「は~い。」


俺はソウスケくんとの着信を切り店に向かう。


ユアちゃんはソウスケくんの幼なじみで、今では同じ店の仲間として一緒に働いている。


ユアちゃん体調悪いのか…心配だな…


そう思いながら店の中に入ると俺は思わず固まった。


T(え…な…なんで…)


そこには賑わう店内で知らない誰かにビールを注がれてベロベロに酔っ払い泣いてる彼がいたから。


S「テオン!!休みなのにごめんな。このチキンあのテーブルに運んで!!」


1人でてんてこまいだったのか、慌てた様子のソウスケくんが俺にチキンを渡し指差した先はもちろん…彼の席だった。


T「え……」


彼のテーブルでは肩幅の広い男の人がベロベロに酔っ払って泣いてる彼を慰めてる。


はぁ…やだな…


アンドロイドのこと思い出してまた、彼は泣いてんのかな…


そう思ったらまた、グサッと胸の奥が痛くなりその気持ちを閉じ込めるように軽く深呼吸する。


どうか彼が俺だって気付きませんように…


そう思いながら俺は顔を少し背けてチキンをそのテーブルに置いた。


T「お待たせしました。スパイシーチキンです。」


カチャとテーブルにチキンのお皿を置いて離れようとしたその瞬間…!!


「俺に気づいてました…よね?」


彼はまるでウサギのように目を真っ赤に染めて涙ぐむ目で見つめ、俺の手首をギュッと掴んでいた。


彼に触れられている所に全神経が集中し脈を打つ。


俺はそんな感情を悟られないように彼と目を合わせずにいると彼は俺の手首をそっと解放し…


何故か俺の心の中はその手が離れてしまうのが名残惜しい気持ちでいっぱいになった。


しかし、そんな感情を出すことなく彼のテーブルを離れ、キッチンの中へと戻った俺はキッチンで身を潜めて呼吸を整える。


すると、ソウスケくんが心配そうに俺の顔を見つめる。


S「あいつ……知り合いか?」

T「は!?あんなアンドロイド依存症のやつなんか好きじゃないし!?」

S「誰も好きかなんて聞いてないけど?知り合いかと聞いただけなんだけど?」


勢いよく言った俺の言葉を聞いたソウスケくんは呆気に取られていて、俺の顔を呆然とした顔で見つめる。


T「はぁ!?な!?知り合いでもなんでもない!!」

S「ふ~ん…テオンはあんなのがタイプなんだな。」

T「だから!!」


ソウスケくんはそう言って俺を揶揄うと笑いながら仕事に戻り、俺も彼とは目を合わせないようにしながら仕事をこなした。


そして、閉店時間になるとソウスケくんが彼たちの席に向かい、俺はそんな彼を気にしない素振りをして皿洗いをする。


すると、彼は俺の元に駆け寄り無愛想な態度の俺に連絡先を渡して店を出て行った。


俺は彼の背中を見つめるとそのままその連絡先をゴミ箱に捨てた。


そんな俺の様子を見たソウスケくんが不思議そうに言った。


S「捨てて良かったのか?知り合いなんだろ?」

T「あんなアンドロイド依存症の奴なんか知らないってば…俺は誰かの代わりになるのはもう嫌なんだ…」


誰かの代わりに生きる地獄を俺は知っている。


例えそれが生身の人間ではなくアンドロイドだったとしても同じこと。


その相手が俺の初恋の彼なら尚更…


そう…イルとは幼いころ数日間、一緒に遊んだだけだったが俺にとってはそれが初恋だった。


だからどこかで偶然出会えるかもしれないとあんなに期待をしながら生きてきたのに…


まさか、アンドロイド依存症になりアンドロイドを失った悲しみで自ら命を絶とうとしていたなんて…ただただショックだった。


アンドロイドの代わりに愛されても俺はきっと彼に酷いことを言って傷つけ、自分も傷つくだけ。


だから俺は彼の幼い頃の思い出も全て自分の記憶から忘れようと心に決めたのだ。


つづく
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