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5話

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テオンサイド


俺は何のために生まれたのだろう?


いや、違う。


俺の人生はとても幸せだった。


優しい母さんに愛されてじいちゃんに可愛がられ、毎年春になると母さんと親戚の住む街を訪れた。


親戚の住む家の近くにはとても美しい桜が並ぶ公園があり、俺はその桜を見たくて親戚の家にお泊まりしている間、毎日その公園へ通った。


今でも桜を見上げればあの頃の幸せだった人生に戻ったみたいに穏やかな気持ちになれる。


しかし、そんなにも幸せだったはずの俺の人生はアイツと交わった事により最も簡単に崩れ落ちた。


俺は大切な人を失い、アイツは俺の身体を愛する人の代わりに弄び、俺の心は壊れていった。


そう、全てはあの日から俺の人生が変わってしまった。


アイツから逃げても俺が出会う男どもはいつも俺を愛してると口先ではいうのに何故か俺にはそれが本心には聞こえなかった。


しかし、その男たちは諦めることなく俺を口説き誘い俺の心に甘い蜜を落とし、俺がその気になり感情を相手に表現しはじめるといつも「ごめん。こんなはずじゃなかったんだ…」そう言って俺を弄ぶかのように消えていく。


なんで?


何がいけなかった?


俺を感情のないアンドロイドだとでも思ってた?


俺は人間だよ?


ちゃんと俺には心があるんだよ?


その度に俺は思うんだ…


アイツにこの身体を弄ばれたせいで俺は誰にも愛されなくなってしまったんだと。


もう…誰も好きにならない。


もう…誰も愛さない。


もう…誰の言葉も信じない。


そう呪文のように唱える俺は幼い頃に撮った一枚の桜の写真を見つめる。


イル…会いたいな…


彼はどんな大人になったのだろ?


どんな声をしてどんな性格で…


どんな顔をしているのだろう?


俺が8歳のとき、母さんと親戚の家に遊びに行った時に偶然、出会った彼。


俺の大好きな桜のある公園の近くで出会い、その公園の場所を俺がイルに教えてあげた。


数日間、一緒に遊んだだけでイルというあだ名しか知らない。


そんな彼を想い出すのは寂しくて苦しくて自分が押しつぶされそうになった時ばかり。


幸せだったあの頃に出会った彼をいつも想い出しては俺は今日もひとり、舞い散る桜を見上げて涙を流す。


イル…


キミは一体どこにいるの…?


ずっと探してるのに…


桜の木の下で約束したじゃん…


ボクを忘れないでって…


なのにイルは忘れちゃったのかな。


幼き頃の俺と彼が映る写真を桜の木に重ねながら、俺は数十年前に桜の木の下で彼と交わした叶うはずのない約束を桜の木の下で祈るんだ。


イル…会いたい。


つづく
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