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1話

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ある日の午後


俺は久しぶりにカフェを訪れる。


空いていた窓際の席に座り店員にアイスコーヒーを注文し外を眺めると、そこには桜の花びらが舞い落ちる…そんな麗しい光景に見向きもせず忙しなく通り過ぎてゆく人たち。


そして、こんな世の中になってしまった現代に俺は小さなため息を落とす。


桜を見上げればいつも懐かしい気持ちになり、まるで初恋をしたかのようなトキメキを感じていた。


それは何故なのか自分でも分からないが、年に一度感じるその初々しい気持ちが心地よく俺は1人、桜を見つめるのが大好きだ。


惚れ惚れとするほどの美しい桜を見つめていると店員は俺の前にアイスコーヒーを置き、俺はガムシロップとミルクを入れクルクルとストローで混ぜていると久しぶりの明るい声が俺の耳に入ってきた。


「カイル~久しぶり!元気だった?」


その明るい声と同時に顔を上げる俺は笑顔を見せる。


K「元気ですよ?突然、会いたいなんて連絡してきてどうしたんですか?ジノくんが珍しいですね。」

J「うん?お前に見せたいものがあって!ちょっと待ってて?」

K「はぁ…?」


高校の時に同じバイト先の先輩だったジノくん。


ジノくんとは5つ歳が離れていたが、いつも冗談を言い合い、俺たちは気の合う仲間となっていた。


しかし、それぞれ就職し働くようになってからは夜飲みに行くことは時々あっても、こんな昼間にカフェへ呼び出されるなんて非常に珍しい。


昨日、ジノくんから突然連絡が来たと思ったらいきなり、カイルに見せたいものがある!そう言ってジノくんは無理やり俺に約束を取り付けてカフェに呼び出されたのだ。


すると、ジノくんは色白の男性を連れて戻ってきた。


彼女かな?そう思いながら俺は軽くその女性に頭を下げるが、どうもジノくんの様子もその人の様子もおかしい。


J「お待たせお待たせ!はいっ…ちゃんとご挨拶して?出来るよね?」


そう言ったジノくんの言葉で俺は気づいた。


K「ジノくん…これまさか…アンドロイド!?」

J「正解。ほら、ここにマーク入ってるだろ?」


ジノくんはそう言って横にいるアンドロイドの首を見せると、そこにはバーコードのようなマークと数字が並んであった。


しかし、目の前にいるアンドロイドは一見、全くアンドロイドには見えず、まるで本当に生きている人間のようで俺は戸惑う。


K「なんか…他のアンドロイドより更に人間っぽいですね…」

J「purple社が発売したばかりの最新の限定モデルだからな!!アユ?昨日一緒に練習したろ?挨拶してごらん?」


ジノくんはまるで恋人に話しかけるかのようにデレデレとした顔をし、甘い声でアンドロイドにそう話しかけていて、俺はそんなジノくんの姿を見てゾッとする。


「はじめまして…ジノさんのアンドロイド…アユです…」


まるで話し方も人間のようで、今までアンドロイドにあった特有のアンドロイド訛りが一切なく、他のアンドロイドモデルに比べるとはるかに性能のレベルは上がっていて、首元のマークがなかったら人間なのかアンドロイドなのか正直、見分けがつかないほどだ。


K「よろしくお願いします…って…話し方まで人間みたいですね?」

J「だろ?この最新限定モデルは見た目だけじゃなく、話し方も肌触りも全てが人間みたいで柔らかくて、すべすべで何よりも…!!」


興奮して力説するジノくんの耳は真っ赤に染まっていて、ついにジノくんもアンドロイドにハマっちゃったんだな…って思ったらなだか悲しくなった。


今の世の中、成人を過ぎて金さえ払えば誰でも自分好みの人間型アンドロイドを手に入れることができる世の中になってしまった。


しかし、俺自身そんな世の中に微かな違和感を感じ、成人になると同時にアンドロイドを購入した仲間を尻目に俺は今までアンドロイドとの関わりを持つことはなかった。


そして、俺は興味ありません!と顔に書いたような声のトーンでジノくんに問いかける。


K「それで?なによりもなんなんですか。」

J「ん?それが!アッチが最高にいい…もうあんなの知ってしまったら…人間の女には戻れない…いや…アユ以外はもう無理!イケない!あ…でも!俺たちはアンドロイドの性別は決めれないだよね…それはpurple社が作るアンケートに答えて決まるんだけどさ。」


やっぱりな…


結局この世の中の人間達がアンドロイドにハマる要因はそこだ。


最新限定モデルであろうがなかろうが…


なぜか、人間の生活を手助けし補助する目的で開発されたはずの人間型ロボットであるアンドロイドには発売当初から性的な機能が備え付けられていた。


それは馬鹿げた機能だとジノくんも俺と一緒に話していたはずなのに…今、目の前にいるジノくんは現に隣に座るアンドロイドの頬にチュチュとキスをして、アユにメロメロになっていて俺はそんなジノくんに呆れ返る。


K「ジノくん、なにを急にアンドロイドなんかのこと真剣に語ってるんですか?どうせ気に入らなくなったらすぐ廃棄処分にしてまた、新たなアンドロイド買うんでしょ?」


金に余裕さえあれば、人間は取っ替え引っ替えに新モデルのアンドロイドに買い替え、今まで気に入って使っていたはずのアンドロイドを平気で廃棄処分とする。


そんな当たり前となった光景が俺は嫌いだったし、見た目が人間とほぼ同じなだけにそんな事をしている人を見るとなんとも言えない気持ちになっていた。


J「確かにそんな奴もいるけど俺はアユだけ!いい加減お前も買ってみたら?まぁ、変な意味じゃなくてもさ?部屋の掃除や洗濯もしてくれるし便利だよ?」


ジノくんは俺にアンドロイドという存在を認めてほしそうにそう言ってくるが、正直俺はアンドロイドを欲しいとは思えない。


K「いや…自分で出来ますし…」

J「そう言わずさ!ほら、紹介割引券もらったからこれでアンドロイド買って来いって!!今の時代、アンドロイド持ってないなんてスマホ持ってないのと同じくらいアナログ人間だぞ?」


そう言ってジノくんは俺の手に紹介券を無理矢理持たせ、俺の前向きな返事を期待するかのようにジノくんは俺をじっと見つめる。


K「はぁ…」


俺は腑抜けた返事をしただけなのにジノくんはヨシッ!!と納得して立ち上がる。


J「有効期限が今月末までだから早く行けよ?じゃ!俺はアユとデートだから!」


そう言ってジノくんはアンドロイドのアユと仲良く手を繋いで俺に手を振り消えて行った。


いやいやいや。


今月末ってもうすぐじゃん。


俺は1人カフェでその割引券と睨めっこする。


確かに周りを見渡せば人間の横にはアンドロイドがいる風景が当たり前となっている。


まるで恋人のようにアンドロイドを大切に扱う人間もいれば…


まるで奴隷のようにアンドロイドを粗末に扱う人間もいる…


俺はどちら側の人間になるんだろう。


そんな事を思いながら割引券に視線を戻すとふと、目についた文字…


クーリングオフ制度?


アンドロイドを購入後、気に入らなければ14日以内であればアンドロイドを返品できるとそこには書いてあった。


気に入らないなら返品すればいいっていうのはお試し期間みたいなもんかな?


まぁ、アンドロイドと生活をした事もないのに頑なに反対するのも頭の堅い頑固親父みたいで良くないだろう…


そう思った俺は一度、アンドロイドと生活をしてからアンドロイドが有りか無しか考えるのも1つの方法だと思い、俺はジノくんが購入した最新限定モデルであるアンドロイドを開発した大企業のpurple社へと向かった。


つづく
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