8 / 13
8
しおりを挟む
聖女としての聖務は忙しい。朝一番に聖女補佐達と共に礼拝堂の清掃から始まり、次に女神像のお清め、禊、礼拝と続き、最後に礼拝に来る人々へ祈りを捧げる。これだけで一日が終わってしまう。そんな毎日ではあるが、充実した日々ではある。二歳の時から行っていることではあるが、これが日常だ。
そんな日常に、お茶会という新たな責務が増えたのは自業自得とはいえ面倒だ。そう思ってしまうのは仕方ないと思って欲しい。
そう、目の前の青年を見て思うセラだった。
「今日はよろしく頼むよ」
「あ、はい……」
ミスティリア国第二王子、クリスタス・フォン・ミスティリア。金髪に水色の目をした、一つ年上の青年だ。彼には幼い頃かに決められた婚約者がいた筈……それなのに、どうして夫候補に立候補したのだろうか?
聖女の夫に、王族がなったという事例は何度かある。だが、王族はその特別性故に立候補制である。ということは、彼は自分から立候補したということになるのだ。そういえば……。
「あの、本来四人目になる筈だった人って、どんな人だったんですか?」
「四人目? ああ、彼のことかい?」
彼、ということは年は近いのだろうか。クリスタスの言葉を待つと、意外な返答が帰って来た。
「彼はグリスタニアの特別な公爵でね。全ての属性を扱えるという相当な魔導士だから、是非とも迎え入れたいと父である国王が同盟国であるグリスタニアに交渉していたんだけど、グリスタニア側が首を縦に振らなくて……そうしている間に、当の本人が婚約者を決めてしまったんだ。だから今回の夫候補は三人だけなんだ」
「な、なるほど……」
四人目の人にも、一目会ってみたかったと思ったのは仕方ないと思う。だって、本来は四人の中から決めるというしきたりだから。でも、一人減ったのはセラとしては有難いことだ。
「僕としては、一人ライバルが減ったから嬉しいけどね」
にこりと王族らしからぬ発言をするクリスタスに、セラは苦笑いを浮かべた。そして、どうしても聞きたくなった。
「あの……どうして、立候補なんてしたんですか? 婚約者様だっているのに……」
その言葉に、クリスタスは目を瞬かせ、すぐに笑みを向ける。
「婚約者は親同士が決めた相手だ。だけど、君は違う」
「え?」
「君と初めて会ったのは、礼拝堂に視察に行く父に連れられて礼拝堂に行った時だ。その時に君を見て、この子だって感じたんだ」
手を掴まれ、真っすぐ見つめられる。その眼差しは熱を持ち、愛おしい者を見る目だった。
「君が、ずっと前から好きだったんだ。どうか、選んで欲しい」
「え、あの、その……」
じっと食い入るように見つめられ、次第に頬が赤くなる。一昨日のユーゴスといい、どうしてここまで皆、真っすぐ見つめてくるのだろうか。
「時間はまだある。でも、可能ならば一日でも早く、君と一緒になりたい。それが僕の願いだ」
水色の瞳の筈なのに、クリスタスの目には熱い情熱の色が見えた。ああ、もう……どうすればいいんだろうか。
そんな日常に、お茶会という新たな責務が増えたのは自業自得とはいえ面倒だ。そう思ってしまうのは仕方ないと思って欲しい。
そう、目の前の青年を見て思うセラだった。
「今日はよろしく頼むよ」
「あ、はい……」
ミスティリア国第二王子、クリスタス・フォン・ミスティリア。金髪に水色の目をした、一つ年上の青年だ。彼には幼い頃かに決められた婚約者がいた筈……それなのに、どうして夫候補に立候補したのだろうか?
聖女の夫に、王族がなったという事例は何度かある。だが、王族はその特別性故に立候補制である。ということは、彼は自分から立候補したということになるのだ。そういえば……。
「あの、本来四人目になる筈だった人って、どんな人だったんですか?」
「四人目? ああ、彼のことかい?」
彼、ということは年は近いのだろうか。クリスタスの言葉を待つと、意外な返答が帰って来た。
「彼はグリスタニアの特別な公爵でね。全ての属性を扱えるという相当な魔導士だから、是非とも迎え入れたいと父である国王が同盟国であるグリスタニアに交渉していたんだけど、グリスタニア側が首を縦に振らなくて……そうしている間に、当の本人が婚約者を決めてしまったんだ。だから今回の夫候補は三人だけなんだ」
「な、なるほど……」
四人目の人にも、一目会ってみたかったと思ったのは仕方ないと思う。だって、本来は四人の中から決めるというしきたりだから。でも、一人減ったのはセラとしては有難いことだ。
「僕としては、一人ライバルが減ったから嬉しいけどね」
にこりと王族らしからぬ発言をするクリスタスに、セラは苦笑いを浮かべた。そして、どうしても聞きたくなった。
「あの……どうして、立候補なんてしたんですか? 婚約者様だっているのに……」
その言葉に、クリスタスは目を瞬かせ、すぐに笑みを向ける。
「婚約者は親同士が決めた相手だ。だけど、君は違う」
「え?」
「君と初めて会ったのは、礼拝堂に視察に行く父に連れられて礼拝堂に行った時だ。その時に君を見て、この子だって感じたんだ」
手を掴まれ、真っすぐ見つめられる。その眼差しは熱を持ち、愛おしい者を見る目だった。
「君が、ずっと前から好きだったんだ。どうか、選んで欲しい」
「え、あの、その……」
じっと食い入るように見つめられ、次第に頬が赤くなる。一昨日のユーゴスといい、どうしてここまで皆、真っすぐ見つめてくるのだろうか。
「時間はまだある。でも、可能ならば一日でも早く、君と一緒になりたい。それが僕の願いだ」
水色の瞳の筈なのに、クリスタスの目には熱い情熱の色が見えた。ああ、もう……どうすればいいんだろうか。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。

[完結]裏切りの学園 〜親友・恋人・教師に葬られた学園マドンナの復讐
青空一夏
恋愛
高校時代、完璧な優等生であった七瀬凛(ななせ りん)は、親友・恋人・教師による壮絶な裏切りにより、人生を徹底的に破壊された。
彼女の家族は死に追いやられ、彼女自身も冤罪を着せられた挙げ句、刑務所に送られる。
「何もかも失った……」そう思った彼女だったが、獄中である人物の助けを受け、地獄から這い上がる。
数年後、凛は名前も身分も変え、復讐のために社会に舞い戻るのだが……
※全6話ぐらい。字数は一話あたり4000文字から5000文字です。
敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!
桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。
※※※※※※※※※※※※※
魔族 vs 人間。
冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。
名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。
人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。
そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。
※※※※※※※※※※※※※
短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。
お付き合い頂けたら嬉しいです!

邪魔しないので、ほっておいてください。
りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。
お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。
義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。
実の娘よりもかわいがっているぐらいです。
幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。
でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。
階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。
悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。
それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

私は逃げます
恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。
そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。
貴族のあれやこれやなんて、構っていられません!
今度こそ好きなように生きます!

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる