手乗り姫

ねこいかいち

文字の大きさ
上 下
3 / 8

手乗り姫と雀

しおりを挟む
 空を眺めながら、コニックと二人、おじいさんからの言葉の答えを考えるニアは、何度目かわからない溜息を吐きます。
「『何の為に』か……」
「ニア、僕も思ったけど、どうして人間のいる外の世界がいいの?」
 コニックの言葉に、ニアは体を起こして視線を向けました。
「ずっと興味があったから! でも、『何の為に』って聞かれたら答えられなかった……」
 蹲り、膝に額を擦り付けて再び考えだすニア。そんなニアの元に、一羽の雀がやってきました。

「やあニア。困りごとかい?」
「チュジャン……」
 近くの木の枝に留まったのは、雀のチュジャンでした。ニアは溜息を吐きながら、事の経緯を話します。
「フムフム……ニアは『何の為に』行きたいのか。それがわからないんだね」
「うん。ずっと興味はあったの。でもそれは『何の為に』っていう答えにはならないわ」
 コニックは二人の会話を聞きながら、大きな欠伸をします。ニアについて行くと決めた以上、共に旅に出るのは構わないとコニックは思っています。ですが、危険と隣合わせの人の世界にだけは、ニアを連れて行きたくないのもコニックの思いでした。そんなコニックの思いに気付かないニアは、チュジャンと言葉を交わします。
「簡単だよ、ニア。興味があるんだろう? それが『何の為に』に繋がるさ」
 チュジャンの言う言葉の意味がわかりません。ニアは首を傾げるばかりです。
「どういう意味なの?」
「興味を持ったから、行きたいのだろう。行った時、君は『何が』したいんだい?」
 諭すような言葉に、ニアは考えます。行ったら、私がしたいこと……。
「沢山の生き物と接したいわ。向こうで生きている動物、昆虫、出来ることならば人とも触れ合いたいわ」
 ニアの答えに、チュジャンは「ほら。答えがでただろう?」と。微笑みながら言いました。


 笑顔でチュジャンに礼を述べると、ニアはおじいさんの元に走っていきました。
 残されたコニックは、チュジャンをじっと睨みます。
「ニアに応え教えちゃって、良かったのかよ」
「私は誰の味方でもある。村長だって、若い頃は旅をしていたんだ。ただニアの冒険の舞台が人の世界なだけさ」
 チュジャンの反応に、コニックはやれやれと肩を落としました。



「おじいちゃん!」
 言えに飛び込み、ニアはおじいさんの元に駆け寄ります。
「……答えが出たのかい?」
「うん。私、人の世界で住む多くの動物たちと言葉を交わしてきたい。可能ならば、人とも触れ合いたい。興味しかなかったけど、今は違うよ。住む世界が違うからこそ、どんな生活をしているのか、それも知りたいの」
 ニアの言葉に、おじいさんは微笑みました。ぎゅっと抱き締められ、背中を擦られました。
「……コニックの言うことは絶対に守りなさい。それが条件じゃ」
「うん」
「出発はちゃんと準備をしてからじゃ。いいね?」
「うん!」
 ニアはおじいさんに、満面の笑顔を向けました。夢の第一歩、始まりです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ぷれぜんと

よこいみさと
絵本
贈り物のお話。

大人の絵本・おじさま

矢野 零時
絵本
大人の絵本ずきの人たちのために、少し残酷で悲しい話を書いてみました。 もちろん、子供である、あなたが読まれても、楽しんでいただけると思います。 話の内容ですか、それはお読みになってください。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

3兄妹のおはなし

猫崎ルナ
絵本
このお話は、ちびっこ3兄妹の内緒のお話。 私達の秘密のお話。 1話完結のお話。

【怖い絵本】ピエロのびっくりばこ

るいのいろ
絵本
昔買ってもらった、ピエロの出てくるびっくりばこ。 ボタンを押すと、ピエロが飛び出すおもちゃ。 小さい頃は、怖くて苦手だった。 ピエロの顔が怖くて。 ピエロが、いつも笑ってて。

泥棒、明日を盗む。

羽川明
絵本
明日がこなかったら、どうなってしまうの? 明日を盗んだ泥棒さんと、明日がこなくなった街の人たち。 いったいどうなってしまうのでしょう?

わたしのゆめ

苺花
絵本
1人のねこさんがゆめをめざしたりゆう

おもちのうた

よこいみさと
絵本
お餅のお話。

処理中です...