96 / 96
第四章
3 再び会う少年
しおりを挟む
翌日、日課となっている礼拝を済ませようと教会に向かうと、教会の敷地前でメルヴィーを見かけた。声を掛けようと近付くと、彼女は険しい顔で前を見ている。どうしたのかと思って彼女の視線の先を見つめると、昨日会った少年がいた。
「何度も言いますが、一般人は聖獣を飼育することは禁止されていますわ」
「あんたには関係ない。俺が用があるのは、あの不良品だけだ」
睨み合うメルヴィーと少年。メルヴィーは少年の言葉に怒りを露わにする。
「その言葉、訂正なさい。侯爵夫人に対して無礼ですわ」
「はっ、本当のことを言っただけだけど?」
「彼女は魔法も使えますわ。もう一度言います。訂正なさい」
睨むメルヴィーに、どうでも良さげに振る舞う少年。近くを歩く住民も、二人の険悪な雰囲気を遠巻きに見ていた。
「メルヴィーさん」
慌てて、レティシアが駆け寄る。メルヴィーはレティシアに振り返った。
「レティシアさん、来たんですのね」
「ええ、あの子は……」
そう言いつつ、レティシアは少年に視線を向ける。少年はレティシアの爪先から頭の天辺まで見上げていくと、カールが居ないことに気付いたのか、不機嫌な表情を浮かべた。
「……ねえ、カーバンクルは?」
「何故、そこまでカールを欲するの?」
「質問に質問で返すなよ。馬鹿なのか、あんた」
一向にこちらの問いに答える気がないのか、少年は眉間に皺を寄せたまま近付いてくる。メルヴィーがレティシアの前に立つ。
「まあいいさ。あんたと交換で無理矢理奪うから!」
エンチャントを使い、勢いよく走ってくる。メルヴィーは合わせるかのようにエンチャントを発動し、少年の腕を掴む。
「はあっ!!」
腕を掴んだまま、少年の体を肩にかけ、地面に叩き付ける。叩き付けられる瞬間、目を見開いた少年と目が合った。
「がっ!」
地面に勢いよく叩き付けられた瞬間、何処からともなく現れた水の輪に少年の体が拘束される。メルヴィーは「あっけないものですわ」と言いつつ、微かに乱れた髪を後ろになびかせた。
「この、離せ!」
「離せと言われて離す阿呆が、どこにいますか」
喚く少年にメルヴィーはそう答える。呆気に取られるレティシアと拍手をするカイラを余所に、アティカは魔道具でセシリアスタに連絡をした。
「この少年か」
やって来たセシリアスタに、少年はそっぽを向く。こめかみに皺を寄せるセシリアスタを見つめながら、エドワースはやれやれと肩を落とした。
「メルヴィー嬢、協力感謝する」
「いえ、正当防衛とはいえ、こちらも街中で魔法を使ってしまいましたわ」
「それは仕方ない。それに正当防衛ならば魔法の使用は許される」
セシリアスタの言う通り、街中での魔法の使用は正当防衛以外は許されていない。基本的にそれはどの国でも同じだ。少年はそれを知っての上で、魔法を使ったのだ。セシリアスタの怒りの矛先はそこではないが、それでも怒りを感じていた。
「少年はこちらで預かる」
「お願いいたしますわ」
メルヴィーは礼を述べ、レティシアへ振り返る。
「さ、後は任せて行きましょう」
「は、はい」
背中を押され、レティシアはメルヴィーと共に教会に向かいだす。その時、少年が慌てたように叫んだ。
「待てよ! おい、カーバンクルを寄越せ!」
「お前、この状況わかってるか?」
エドワースの言葉に唇を噛み締め、少年は俯く。メルヴィーの使った水魔法の上にエドワースが新たに同様の水魔法を施し、少年を拘束する。少年を立たせ、セシリアスタとエドワースは少年を連行していった。
その後ろ姿を、レティシアは目で追っていた。
「何度も言いますが、一般人は聖獣を飼育することは禁止されていますわ」
「あんたには関係ない。俺が用があるのは、あの不良品だけだ」
睨み合うメルヴィーと少年。メルヴィーは少年の言葉に怒りを露わにする。
「その言葉、訂正なさい。侯爵夫人に対して無礼ですわ」
「はっ、本当のことを言っただけだけど?」
「彼女は魔法も使えますわ。もう一度言います。訂正なさい」
睨むメルヴィーに、どうでも良さげに振る舞う少年。近くを歩く住民も、二人の険悪な雰囲気を遠巻きに見ていた。
「メルヴィーさん」
慌てて、レティシアが駆け寄る。メルヴィーはレティシアに振り返った。
「レティシアさん、来たんですのね」
「ええ、あの子は……」
そう言いつつ、レティシアは少年に視線を向ける。少年はレティシアの爪先から頭の天辺まで見上げていくと、カールが居ないことに気付いたのか、不機嫌な表情を浮かべた。
「……ねえ、カーバンクルは?」
「何故、そこまでカールを欲するの?」
「質問に質問で返すなよ。馬鹿なのか、あんた」
一向にこちらの問いに答える気がないのか、少年は眉間に皺を寄せたまま近付いてくる。メルヴィーがレティシアの前に立つ。
「まあいいさ。あんたと交換で無理矢理奪うから!」
エンチャントを使い、勢いよく走ってくる。メルヴィーは合わせるかのようにエンチャントを発動し、少年の腕を掴む。
「はあっ!!」
腕を掴んだまま、少年の体を肩にかけ、地面に叩き付ける。叩き付けられる瞬間、目を見開いた少年と目が合った。
「がっ!」
地面に勢いよく叩き付けられた瞬間、何処からともなく現れた水の輪に少年の体が拘束される。メルヴィーは「あっけないものですわ」と言いつつ、微かに乱れた髪を後ろになびかせた。
「この、離せ!」
「離せと言われて離す阿呆が、どこにいますか」
喚く少年にメルヴィーはそう答える。呆気に取られるレティシアと拍手をするカイラを余所に、アティカは魔道具でセシリアスタに連絡をした。
「この少年か」
やって来たセシリアスタに、少年はそっぽを向く。こめかみに皺を寄せるセシリアスタを見つめながら、エドワースはやれやれと肩を落とした。
「メルヴィー嬢、協力感謝する」
「いえ、正当防衛とはいえ、こちらも街中で魔法を使ってしまいましたわ」
「それは仕方ない。それに正当防衛ならば魔法の使用は許される」
セシリアスタの言う通り、街中での魔法の使用は正当防衛以外は許されていない。基本的にそれはどの国でも同じだ。少年はそれを知っての上で、魔法を使ったのだ。セシリアスタの怒りの矛先はそこではないが、それでも怒りを感じていた。
「少年はこちらで預かる」
「お願いいたしますわ」
メルヴィーは礼を述べ、レティシアへ振り返る。
「さ、後は任せて行きましょう」
「は、はい」
背中を押され、レティシアはメルヴィーと共に教会に向かいだす。その時、少年が慌てたように叫んだ。
「待てよ! おい、カーバンクルを寄越せ!」
「お前、この状況わかってるか?」
エドワースの言葉に唇を噛み締め、少年は俯く。メルヴィーの使った水魔法の上にエドワースが新たに同様の水魔法を施し、少年を拘束する。少年を立たせ、セシリアスタとエドワースは少年を連行していった。
その後ろ姿を、レティシアは目で追っていた。
1
お気に入りに追加
2,682
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(28件)
あなたにおすすめの小説
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
愛を知らない「頭巾被り」の令嬢は最強の騎士、「氷の辺境伯」に溺愛される
守次 奏
恋愛
「わたしは、このお方に出会えて、初めてこの世に産まれることができた」
貴族の間では忌み子の象徴である赤銅色の髪を持って生まれてきた少女、リリアーヌは常に家族から、妹であるマリアンヌからすらも蔑まれ、その髪を隠すように頭巾を被って生きてきた。
そんなリリアーヌは十五歳を迎えた折に、辺境領を収める「氷の辺境伯」「血まみれ辺境伯」の二つ名で呼ばれる、スターク・フォン・ピースレイヤーの元に嫁がされてしまう。
厄介払いのような結婚だったが、それは幸せという言葉を知らない、「頭巾被り」のリリアーヌの運命を変える、そして世界の運命をも揺るがしていく出会いの始まりに過ぎなかった。
これは、一人の少女が生まれた意味を探すために駆け抜けた日々の記録であり、とある幸せな夫婦の物語である。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」様にも短編という形で掲載しています。
竜帝は番に愛を乞う
浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿の両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。
【完結済】姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです
鳴宮野々花@軍神騎士団長1月15日発売
恋愛
王国の片田舎にある小さな町から、八歳の時に母方の縁戚であるエヴェリー伯爵家に引き取られたミシェル。彼女は伯爵一家に疎まれ、美しい髪を黒く染めて使用人として生活するよう強いられた。以来エヴェリー一家に虐げられて育つ。
十年後。ミシェルは同い年でエヴェリー伯爵家の一人娘であるパドマの婚約者に嵌められ、伯爵家を身一つで追い出されることに。ボロボロの格好で人気のない場所を彷徨っていたミシェルは、空腹のあまりふらつき倒れそうになる。
そこへ馬で通りがかった男性と、危うくぶつかりそうになり──────
※いつもの独自の世界のゆる設定なお話です。何もかもファンタジーです。よろしくお願いします。
※この作品はカクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェにも投稿しています。
そんなに妹が好きなら家出してあげます
新野乃花(大舟)
恋愛
エレーナとエーリッヒ伯爵が婚約を発表した時、時の第一王子であるクレスはやや複雑そうな表情を浮かべていた。伯爵は、それは第一王子の社交辞令に過ぎないものであると思い、特に深く考えてはいなかった。その後、エーリッヒの妹であるナタリーの暗躍により、エレーナは一方的に婚約破棄を告げられてしまうこととなる。第一王子のエレーナに対する思いは社交辞令に過ぎないものだと思っていて、婚約破棄はなんら問題のない事だと考えている伯爵だったが、クレスのエレーナに対する思いが本物だったと明らかになった時、事態は一変するのだった…。
私は逃げます
恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。
そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。
貴族のあれやこれやなんて、構っていられません!
今度こそ好きなように生きます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
まだ読み途中ではありますが、家族からの冷遇っぷりに心が痛くなりつつも先の気になる展開で、ページをめくるのが楽しかったです。レティシアには本当に幸せになってもらいたいです。
魔導公爵は非の打ちどころのないイケメンですね。見た目や能力だけでなく、行動力や根回しの早さなどレティシアを思っての行動が素敵です。
あと個人的に明るくて主人思いなカイラが好きです。彼女がレティシアのそばにいてくれてよかった。
素敵な小説を紹介していただきありがとうございました。続きも気になるのでぜひ読ませていただきます!
コメントありがとうございます。そういっていただけて本当に嬉しいです(´;ω;`)今後も頑張って書いていきますので、よろしくお願いいたします!
最新話が1章の最後に間違って投稿されてますよ!
コメント、また指摘してくださりありがとうございます!間違えてました💦おしえてくださり、本当にありがとうございます。
コメントありがとうございます!
公爵は普段から自分に対する警戒心はそんなに高くないです。自分に対してなら、何が起きても解決出来ると自負しているから他の人が触れてもそこまで大きなリアクションはしないという…でも嫌悪感は十分にあります。溜め息でどうにか誤魔化してはいますが、凄く不快なのです。文章に出来ず、すみません。
強さはこれから見せられればと思っております💦本当にすみません😣💦⤵️