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第四章

2 謎の少年

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 レティシアとメルヴィーが声の方に振り向くと、そこに居たのはこちらを向きながら椅子の背もたれに手を乗せる黒髪の少年だった。髪形は襟足までのショートヘアで、目は薄い琥珀色。年は十代前半くらいといったところだろうか。

「ねえ、それ、カーバンクルだよね」
 レティシアの肩に乗るカールを指でさしつつ訊ねてくる。レティシアは「ええ」と答えた。
「この子は大切な家族なんです」
「キュウ、キュウ!」
 ね? と話しかけると、カールは嬉しそうにレティシアの頬に顔を摺り寄せた。
「ふーん……」
 カールにだけ視線を向ける少年は、そのまま指をさしたまま言葉を続けた。
「ねえ、それ頂戴よ」
「え?」
 この少年は、さっきの言葉を聞いていなかったのだろうか? レティシアは困惑しながら「ごめんなさい」と告げた。
「さっきも言ったけれど、この子は大切な家族なの。離れることは出来ないわ」
「そうですわ。それに、カーバンクルは本来、国が保護をしておりますの。彼女は特例で許可を得ているのですわ」
 レティシアの言葉に、メルヴィーも言葉を合わせる。そんな二人に、少年は大きく舌打ちをした。
「魔法も使えない不良品の癖に、言うことだけは偉そうだね」
「んなっ!?」
 怒りを露わにするメルヴィーを余所に、少年はもう用が無いとばかりに席を立ち、教会から出て行った。







「もう! 何なんですの! さっきの少年は!?」
 教会近くのカフェに入り、四人でお茶を楽しむ。だが、メルヴィーとカイラは先程の少年のことで怒り心頭のようだった。
「メルヴィーさん、カイラも……落ち着いてください」
「いいえ! こればかりは落ち着いていられませんわ!! 初対面の方に対する態度ではありませんし、レティシアさんを馬鹿にするなんて、失礼にも程があります!」
「そうですよ! お嬢様にあんな言い方するなんて……許せませんっ」
 怒りにショコラティーエをフォークで突き刺しながら、勢いよく食べる二人。そんな二人を余所に、アティカは何か考えごとをしているようだった。
「アティカ、何かあったの?」
「あ……いえ」
 レティシアの問いに「なんでもありません」と言い紅茶を飲みだすアティカ。そんなアティカの前で、何故かメルヴィーとカイラが仲良くなり出していた。
「あなた、中々いい態度をしていますわ。気に入りましてよ」
「メルヴィー様に気に入られるなんて……光栄です!」
 ガッ、と強く手を握り合う二人に苦笑しつつ、レティシアはショコラティーエを頬張った。








 屋敷に戻り、セシリアスタが帰ってくるまで刺しゅうをしてようと裁縫道具を取り出す。ゆったりとした時間の中、糸球にじゃれるカールを見つつ刺しゅうを続けていると、そろそろ時間になっていた。
「そろそろね」
 言いながら、裁縫道具を簡単に片づけ部屋を後にする。レティシアの後を追いながら、カールもついて行った。

「おかえりなさい、セシル様」
「ただいま、レティシア」
 エドワースと共に王宮から帰って来たセシリアスタを出迎え、共に食堂に向かう。道すがら、互いに今日一日の出来事を話した。



「……カールを欲しがる少年、だと?」
 レティシアの言葉に、眉を顰めるセシリアスタ。レティシアは頷き、言葉を発した。
「その子、私達には目もくれず、カールだけを見ている感じでした」
「その少年、すぐさまカールをカーバンクルだと気付いたのか」
「はい」
 図鑑には、写真やイラストは載っていない。聖獣ということもあり、密猟などの危険性も考慮され、図鑑などには文章のみで記載されるくらいだ。それなのに、あの少年は一目でカーバンクルだと見抜いた。
「……暫く、様子を見るか。教会に行く際、カールは置いていった方がいいだろう」
「わかりました」
 カールの身の安全を考えれば、その方が賢明だろう。レティシアは強く頷いた。

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