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第三章

16 洞窟の中を歩く

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 ティアドルチェの言葉に導かれるまま、レティシア達五人とティアドルチェ、フェンフォルト、その護衛各二人の計九人は、観光スポットの裏手にある石の扉を開け中に入っていく。煌々と輝く洞窟に感激しながら、レティシアは言葉をかける。
「あの、ティアドルチェ様、ここは?」
「この道は関係者以外は立ち入ることの出来ない通路よ。この奥に、王族しか入ることの許されない場所があるの」
 その言葉に、フランカは発言する。
「姫様、まさかとは思いますが、禁制区域まで案内するおつもりですか?」
「別に私がいるんだから大丈夫でしょ。それに、折角の新婚旅行なのよ。見て帰らなきゃ損じゃない」
「ティアドルチェ様……」
 そこまでしてくれることに、レティシアは嬉しくなった。フェンフォルトは相変わらずセシリアスタに話しかけている。
「セシリアスタ様、魔法の勉強は何年くらいなさっていたのですか?」
「そうですね……アカデミーに通っている間でしたので、九年ほどでしょうか」
「それ程!? それくらい行えば、僕も魔法が強くなれるでしょうか?」
 その言葉に、セシリアスタは微笑みながら、肩へ手を乗せた。
「殿下が本当に極めたいと望めば、きっと叶いましょう」
 ぱああ、と目を輝かせるフェンフォルト。そんなフェンフォルトに、ティアドルチェはやれやれと溜息を吐いた。
「フェン、あんたは王位継承者でしょ。魔法にうつつは抜かせられないでしょうが」
「う……」
 はっきりと告げられてしまい、フェンフォルトは肩を落とす。そうか、ダグラスの第一王子ということは、王位継承権第一位ということだ。となると、その彼の婚約者であるティアドルチェは妃候補なのだ。レティシアは珍しい出会いに、小さく笑みを浮かべた。
「この洞窟は明かりがないのに眩いのはなんでですか?」
 カイラが率直な疑問をぶつけると、フランカが振り向き言葉をかける。
「大気中のマナのお陰です。洞窟内に濃度の濃いマナが充満しているので、それが洞窟の壁に反射してこうして明るくなっています」
「へえ……」
 カイラはきょろきょろと辺りを見渡しながら歩み続ける。レティシアも、同様に歩いていた。

「さ、此処からは王族のみが通れる場所よ! 結界が張ってあるから、私が通ったらすぐに入ってね」
 そう言い、ティアドルチェが数歩踏み出した。印が書かれているということは、本当なのだろう。残る八人は一斉に一歩踏み出す。一番後ろにいたエドワースが振り返り手を翳すと、見えない壁があるのか手にバチッ、と光が触れた。
「確かに結界が張ってあるわ」
「ふふーん! 王族のみが入れる場所だからね。もう足下にマナフラワーが咲いているわよ」
「え?」
 足下に? レティシアが足元を見ると、小さな水晶で出来たような花が咲いていた。背丈は低く、花弁は幾重にも大気中のマナが密集しいったのか、薔薇のような花弁に見える。地面に直截花が生えたような印象だ。それを見て、レティシアは自然と「綺麗……」と言葉を零した。他にも大きな水晶の塊が地面から生えており、神々しさすら感じられた。
「でしょ! この先にはもっと大きなマナフラワーがあるの! さ、行きましょ!」
 自慢げに話すティアドルチェについて行き、一行は壁にも自生しているマナフラワーを鑑賞していく。ここはマナフラワーが咲いているからか、先程の洞窟よりも眩い気がした。
 ふと、真ん中あたりを歩いていたセシリアスタがティアドルチェの前に行き、足を止めさせる。
「ちょ、何よ!」
「静かに……賊が入り込んでいる」
 セシリアスタの言葉に、エドワースとフランカ、フェンフォルトの護衛が周りを囲む。フェンフォルトはティアドルチェの側に行き、盾になるべく前に出た。
「ちょっと、フェン邪魔よ」
「ティアは僕が守るんだ!」
 その言葉に、頬を赤らめるティアドルチェ。そんな二人のやり取りを見ていると、大きな水晶の陰から何人もの男達が出てきた。
「なんで? ここは王族しか入れない結界が張ってあるのに……」
 驚愕するティアドルチェを余所に、男達はにたにたと笑いながらにじり寄ってくる。
「俺達の邪魔はするなよ? 折角のお宝だ。壊されたら堪らねえ」
「ふざけないで! ここはティリアの聖域よ。その聖域を穢す輩が偉そうなことを言わないで!」
「ああ?」
 ティアドルチェが叫ぶと、男が怒りに任せ魔力を放出しだした。それを合図にこちらも戦闘態勢に入ろうとしたその瞬間、鈍い音と共に男が倒れた。
「は?」
 呆気に取られる賊の一味。目の前には、いつの間に移動したのかセシリアスタが倒れた男の前に居た。
「ここで魔力を放出するな。何が起こるかわからんぞ」
「こ、この!」
 一人がやられたのを皮切りに、一斉にセシリアスタに襲い掛かる。だが、男達が動いた瞬間、鈍い音が響きその場に倒れ伏す。最初に倒れた男の前からセシリアスタの姿はなく、次々に最初に倒された男の側に賊が山積みになっていった。
「え、え?」
 訳の分からない光景に視線を動かすレティシア。鈍い音が聞えなくなると、セシリアスタが瞬時に山積みにされた男達の前に現れ、賊の男をポイ、と放り投げた。
「何が、起きたの……?」
「ただエンチャントで加速し、鳩尾を殴って気絶させただけだ。手を出してくれ」
 そう言いながら、フランカに手を差し伸べるセシリアスタ。言われるがまま、フランカは手を添えた。
「そのまま親衛隊でも誰でもいい。この状況を報告すべき相手を思い浮かべてくれ。思い浮かべたら、相手に状況を説明すればその相手に伝わる」
 フランカは半信半疑でいう通りにし、言葉を紡ぎ出す。手を離し、暫くすると親衛隊が駆け付けた。
「本当に伝わった……」
「魔力伝達をしただけだ。そこまで難しいものではない」
 驚くフランカを余所に、セシリアスタは肩や首の凝りを解そうと腕を回している。そんなセシリアスタに掛け寄り、レティシアは言葉をかけた。
「セシル様、さっきのはエンチャントなのですか?」
 それにしては早すぎた。一般的に火属性と水属性を標準として、地属性は力に特化し、風属性は素早さに特化している。だが、力も素早さも尋常ではないものだった。あの鈍い音を聞いても、相当な力だ。セシリアスタだからこそ強いのだろうか――。そう思うレティシアに、セシリアスタは耳元に顔を寄せ、小声で話した。
「闇属性のエンチャント魔法は、瞬発火力に特化しているんだ。故にああした動きが出来る」
「なるほど……」
 小声で頷き、山積みになった賊を見やる。瞬発火力に特化しているからこその力と動きだったのなら、先程起こった出来事も頷ける――。
「どうする?一番大きなマナフラワーが咲いているのはこの先だけど……」
 レティシアに訊ねるティアドルチェ。レティシアは微笑みながら、「此処までで十分ですよ」と答えた。ティアドルチェは残念そうな顔をしていたが、これ以上王族以外が立ち入るのは不味いだろう。彼女に感謝しつつ、来た道を戻り出した。
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