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第三章

12 ダグス旅行

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 翌朝。目を覚ますと、横向きに寝そべりながら此方をじっと見つめるセシリアスタと目が合った。
「おはよう、レティシア」
「おはようございます、セシル様」
 まだ重たい瞼を擦りながら、セシリアスタに挨拶をする。そっと頬に手を添えられ、顔が近付いてくる。そのまま触れるだけのキスを受け入れた。
「今日はダグスの観光をしよう」
 上体を起こし、ベッドから出ると着替えを始めるセシリアスタ。そんな彼の背中を微睡む頭で見つめながら、レティシアは「はい」と小さく頷いた。
 セシリアスタが上着を脱ぐと、筋肉の締まった背中が目に映る。逞しい裸体に、思わず見惚れてしまう。
「そんなに凝視されると、流石に私も恥ずかしいな……」
「あっ」
 ハッとし、慌てて視線を逸らす。その後スラックスを履き替える音が聞こえ、恥ずかしさに頬が紅潮していく。ボーッとしたいたとはいえ、凝視してしまうなんてなんてはしたないのかしら――。 レティシアは羞恥に耳まで赤くなっていった。

「おはようございます。入ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わない」
 セシリアスタが声を掛けると、カイラとアティカが室内に入ってきた。入れ替わるようにセシリアスタが部屋から出て行き、湯あみを済ませることにする。軽めに湯あみを済ませ、髪をアティカに整えてもらう。今日は珍しくポニーテールにして貰った。勿論、髪紐はテトスで購入したあの髪紐だ。
 軽めに化粧を施して貰い、髪形に合わせオリーブ色のバブルドレスに袖を通して部屋から出る。隣のエドワースの部屋にいるであろうセシリアスタに声を掛けるべく、エドワースの泊まる部屋をノックした。
「セシル様、支度が出来ました」
「ああ、今行く」
 声を掛けられ、部屋の中からセシリアスタとエドワースが出てくる。軽く挨拶をし、朝食を取りに向かった。




 朝食を取り終え、食後の紅茶をゆったりと飲んでいると、セシリアスタが今日の予定を切り出した。
「今日はダグスの市場を見に行こう」
「市場、ですか?」
 首を傾げるレティシアに、セシリアスタは言葉を続ける。
「ああ、ここダグスは市場が盛んなんだ。店で買うよりも活気が溢れているから楽しめるだろう」
 紅茶の入ったカップを片手に、セシリアスタが外を眺める。確かに、窓の外から見える市場は活気も賑わいも桁違いだ。それに、市場ならばカイラとアティカも楽しめるだろう――。
「市場、楽しみです」
 そう素直に告げると、セシリアスタは微笑んだ。



 ホテルの前で集合ということにし、カイラとアティカ、エドワースの三人は先に市場へと向かって行った。侍女二人の護衛としてエドワースが一緒ならば安全だろうとのことだ。
「レティシア」
「はい」
 差し伸べられた手を握り、共に市場へと向かって歩きだす。よく見ると、露店には多くの服飾が陳列されている。可愛らしい服や綺麗なドレスなど、様々な服が並ぶ道を見て回りながら、ある店の前で止まった。
「ここでいいか」
 セシリアスタに連れられ店内に入ると、そこは布地専門の店のようだった。透き通るような薄い生地や魔糸の刺しゅうが施された記事など、様々な布が壁一面に並べられていた。
「店主。この中で魔糸が織り込まれた布地はあるか」
「ちょいとお待ちを」
 ゆっくりとした足取りで布地を探し出す店主。セシリアスタの方に視線を向けると、セシリアスタはにこやかに微笑んだ。
「魔糸が織り込まれた布地は頑丈だ。専門の仕立て屋に頼むしかないが、作られる服は防護服にもなる。おまけに自分と同じ属性の魔石が使われていれば、自身の魔力増強にもつかえる」
「そうなんですね」
「ダグラスはそうした魔糸を使った布地が市場でも多く取り扱われている。君にも護身用に何着かジャスミンに仕立てて貰おう」
 話をしていると、四つの布地と二つのレース生地が二人の前に出された。どれもハリと艶がある生地で、レティシアは布地だけでも綺麗だと思えた。
「うちにはこれだけですね」
「なら全て買おう」
「ありがとうございます」
 にこりと微笑む店主におまけとして魔糸の刺しゅうが施された髪飾りを貰い、店を後にする。他の店でも柄のある魔糸の織り込まれた布地を購入し、時折レティシアの為にとアクセサリーの店に入ったりしながら、市場の観光を楽しんだ。
「そろそろ時間か」
「戻らなきゃですね」
 布地を片手で抱えるセシリアスタは、人混みの増えてきた道を掻き分けるように進んでいく。離れないようにと、繋いだ手はしっかりと繋がれている。レティシアは肩に乗るカールに微笑み、セシリアスタの背を見つめながらセシリアスタの手をぎゅっと握りしめた。
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