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番外編 庭園デート
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ユグドラス邸の庭園は、多くの薔薇に彩られている。今の季節は蔓薔薇の時期で、庭園内のアーチ等を色とりどりの色の薔薇が咲き誇っていた。
「綺麗ですね、セシル様」
「ああ」
日除けの傘を指し、隣を歩くセシリアスタへ笑みを向けるレティシア。今日は日柄も良く、公務も休みのセシリアスタと共に庭園デートを楽しんでいた。庭園の薔薇は一株ずつ剪定され、棘も丁寧に切り取られている。そっと目の前の黄色の薔薇に触れるセシリアスタを、レティシアは美しいと思った。
「レティシア、君も香りを楽しむと良い」
「はい」
そっと薔薇の花弁に顔を近づけ、香りを堪能する。仄かな薔薇の香りに顔が綻んだ。
「良い香り……」
「満開になればもっと香りも楽しめるだろうな」
「セシル様は薔薇がお好きなんですね」
そう言うと、セシリアスタは「そうだな」と答えた。薔薇を一輪とりレティシアの髪に付けると、静かに微笑んだ。
「どの薔薇も好きだが、やはり一番は君だな」
そんな甘い言葉に、レティシアは頬を紅潮させる。恥ずかしい人だと思いながらも、嬉しさについ頬が緩んでしまう。
「もう、セシル様ったら……」
照れ臭そうに言いながら、髪に付けて貰った薔薇にそっと触れる。どうにかして、この薔薇を保存できないだろうか――。などと考えてしまった。
「おや、庭園でデートですか?」
話しかけられ、声の方に振り返るレティシアとセシリアスタ。振り返ると、年配の庭師であるヴィンセントが立っていた。
「こんにちは、ヴィンセントさん」
「おや、レティシア様。お似合いですよ」
髪に付けたセシリアスタの取った薔薇を見て、微笑みながらそう言うヴィンセントに、レティシアは礼を述べる。
「ありがとうございます」
「セシリアスタ様だけでなくレティシア様にも気に入っていただけて、儂は幸せ者ですなあ……現役引退後は孫に自慢出来そうです」
そんなことを言うヴィンセントに、セシリアスタは困った顔を向けた。
「ヴィンセント、お前にはまだ現役でいてもらわねば困るぞ」
「ほほ。この老いぼれをまだ使ってくださるのはセシリアスタ様くらいです。まだまだ現役でいますよ」
微笑みながらそう答えるヴィンセントに、困った表情を浮かべたセシリアスタ。そんな二人を前に、レティシアはくすくすと笑みが零れた。
「では、どうぞ薔薇たちを見て楽しんでいってください」
そう言うと、ヴィンセントは奥の方へと歩いて行った。セシリアスタは安堵に息を吐く。
「ヴィンセントさんは庭師として長いのですか?」
「ああ。オズワルト邸に居たときからの庭師だ」
セシリアスタがオズワルト邸に居たときからとなると、相当なベテランだ。セシリアスタに対しての対応も子どもに接しているかのように見えたのも、あながち間違いないのかもしれない。
「レティシア。奥に東屋がある。行こう」
「はい、セシル様」
手を差し伸べられ、その手を取る。優しく握られる手の温もりが心地よく、レティシアは顔を綻ばせた。ゆっくりと蔓薔薇の咲き誇る庭園を歩くと、奥に木漏れ日が差す東屋があった。屋敷の周辺の薔薇は葉だけとなっているが、この東屋の周りの薔薇は今が満開の時期を迎え色とりどりの花弁の薔薇がレティシアとセシリアスタを出迎えてくれた。
「ここは今が満開なのですね」
セシリアスタはハンカチを取り出し椅子に敷くと、レティシアをそこに座らせる。その隣にセシリアスタも腰を下ろした。
「ああ。ヴィンセントの計らいで、ここら一帯は遅咲きになるように植えられている」
「そうなんですね……とても綺麗です」
赤や白、ピンクに黄色、紫などの薔薇が一面に咲き誇っている様は圧巻だ。レティシアはうっとりと、その光景を眺めた。
「薔薇に囲まれたレティシアも綺麗だったぞ」
「もうっ、セシル様ったら……」
突然の発言に、レティシアは頬が紅潮する。結婚してから、セシリアスタはよくこうした言葉を言うようになった。理由が理由なので仕方ないが、家族を失った私への気遣いなのかもしてない――。
「そういうセシル様も綺麗ですよ」
言い返せば、セシリアスタは首を傾げた。どうやら、自分の美貌には疎いようだ。そんなセシリアスタに、レティシアは笑みが零れた。
今日は快晴。この薔薇たちに囲まれながら、大切な人と過ごす時間を満喫しようと改めて思ったレティシアだった。
「綺麗ですね、セシル様」
「ああ」
日除けの傘を指し、隣を歩くセシリアスタへ笑みを向けるレティシア。今日は日柄も良く、公務も休みのセシリアスタと共に庭園デートを楽しんでいた。庭園の薔薇は一株ずつ剪定され、棘も丁寧に切り取られている。そっと目の前の黄色の薔薇に触れるセシリアスタを、レティシアは美しいと思った。
「レティシア、君も香りを楽しむと良い」
「はい」
そっと薔薇の花弁に顔を近づけ、香りを堪能する。仄かな薔薇の香りに顔が綻んだ。
「良い香り……」
「満開になればもっと香りも楽しめるだろうな」
「セシル様は薔薇がお好きなんですね」
そう言うと、セシリアスタは「そうだな」と答えた。薔薇を一輪とりレティシアの髪に付けると、静かに微笑んだ。
「どの薔薇も好きだが、やはり一番は君だな」
そんな甘い言葉に、レティシアは頬を紅潮させる。恥ずかしい人だと思いながらも、嬉しさについ頬が緩んでしまう。
「もう、セシル様ったら……」
照れ臭そうに言いながら、髪に付けて貰った薔薇にそっと触れる。どうにかして、この薔薇を保存できないだろうか――。などと考えてしまった。
「おや、庭園でデートですか?」
話しかけられ、声の方に振り返るレティシアとセシリアスタ。振り返ると、年配の庭師であるヴィンセントが立っていた。
「こんにちは、ヴィンセントさん」
「おや、レティシア様。お似合いですよ」
髪に付けたセシリアスタの取った薔薇を見て、微笑みながらそう言うヴィンセントに、レティシアは礼を述べる。
「ありがとうございます」
「セシリアスタ様だけでなくレティシア様にも気に入っていただけて、儂は幸せ者ですなあ……現役引退後は孫に自慢出来そうです」
そんなことを言うヴィンセントに、セシリアスタは困った顔を向けた。
「ヴィンセント、お前にはまだ現役でいてもらわねば困るぞ」
「ほほ。この老いぼれをまだ使ってくださるのはセシリアスタ様くらいです。まだまだ現役でいますよ」
微笑みながらそう答えるヴィンセントに、困った表情を浮かべたセシリアスタ。そんな二人を前に、レティシアはくすくすと笑みが零れた。
「では、どうぞ薔薇たちを見て楽しんでいってください」
そう言うと、ヴィンセントは奥の方へと歩いて行った。セシリアスタは安堵に息を吐く。
「ヴィンセントさんは庭師として長いのですか?」
「ああ。オズワルト邸に居たときからの庭師だ」
セシリアスタがオズワルト邸に居たときからとなると、相当なベテランだ。セシリアスタに対しての対応も子どもに接しているかのように見えたのも、あながち間違いないのかもしれない。
「レティシア。奥に東屋がある。行こう」
「はい、セシル様」
手を差し伸べられ、その手を取る。優しく握られる手の温もりが心地よく、レティシアは顔を綻ばせた。ゆっくりと蔓薔薇の咲き誇る庭園を歩くと、奥に木漏れ日が差す東屋があった。屋敷の周辺の薔薇は葉だけとなっているが、この東屋の周りの薔薇は今が満開の時期を迎え色とりどりの花弁の薔薇がレティシアとセシリアスタを出迎えてくれた。
「ここは今が満開なのですね」
セシリアスタはハンカチを取り出し椅子に敷くと、レティシアをそこに座らせる。その隣にセシリアスタも腰を下ろした。
「ああ。ヴィンセントの計らいで、ここら一帯は遅咲きになるように植えられている」
「そうなんですね……とても綺麗です」
赤や白、ピンクに黄色、紫などの薔薇が一面に咲き誇っている様は圧巻だ。レティシアはうっとりと、その光景を眺めた。
「薔薇に囲まれたレティシアも綺麗だったぞ」
「もうっ、セシル様ったら……」
突然の発言に、レティシアは頬が紅潮する。結婚してから、セシリアスタはよくこうした言葉を言うようになった。理由が理由なので仕方ないが、家族を失った私への気遣いなのかもしてない――。
「そういうセシル様も綺麗ですよ」
言い返せば、セシリアスタは首を傾げた。どうやら、自分の美貌には疎いようだ。そんなセシリアスタに、レティシアは笑みが零れた。
今日は快晴。この薔薇たちに囲まれながら、大切な人と過ごす時間を満喫しようと改めて思ったレティシアだった。
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