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1 始まり
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子爵令嬢として生を受けたティファニアには、階級の高い伯爵令息のアーデルという婚約者がいる。二人は仲睦まじく、互いの将来について語り合った。それ程、愛し合っていた。……筈だった。
「ねえ、お姉さま」
家に帰り一段落していると、背後から甘ったるい声がかけられる。振り返れば案の定、妹のフィーリアがそこに立っていた。
「フィーリア……」
ティファニアには妹と良い思い出がない。それもその筈、フィーリアはティファニアの気に入ったものを欲しがる癖があるからだ。それは幼少期の頃からあり、隣の芝は青いとばかりに自分のものはとても良いものに見えるのか、手あたり次第にかすめ取っていった。そんな妹が、わざわざ部屋に来てまで何を言い出すのだろうか。ティファニアは身構えた。
「お姉さま、そんなに身構えないで。ちょっとお願いがあるだけなの」
金の髪に青い目と、庇護欲を駆り立てられる可愛らしさがあるフィーリアがモジモジしながら言葉を続ける。こういった仕草の時は、また私のものが欲しい時の態度だ。ティファニアは内心溜息を吐いた。
「なに? はっきり言いなさい」
いい加減、このぶりっ子じみた態度は止めて欲しい。仮にも成人間近の十七歳のする態度ではない。ティファニアが先を急かすと、フィーリアは何を勘違いしたのか、目を輝かせながら言葉を発した。
「あのね、私アーデル様が欲しいの!」
「……は?」
この子は何を言っているのだ? 仮にも結婚前の私に、婚約者を譲れと、そう言っているの?
「フィーリア、それは無理よ」
「何故? お姉さまは何時も私に譲ってくれてたじゃない」
「っ」
あんたが私から奪うまで泣き止まないから仕方なく渡していただけなのに! そうはっきりと言ってやりたくなったが、そんなことを言っても無駄だ。フィーリアには通じない。
「それでもだめ。私とアーデルは結婚を控えているの。今更婚約破棄だなんて出来る訳がないでしょ」
強めに言うと、フィーリアの表情が次第に険しくなってきた。また、何時もの『発作』を起こすつもりね……。そうティファニアが思った直後、フィーリアは口を大きく開け泣き出した。
「うわああああああん!」
「フィーリア、どうしたの!?」
その声に、慌てて両親が私の部屋に入ってくる。何時もこうだ。自分の言うことが叶わなかったらすぐに大泣きして、両親を呼び出す。これが何時もの『発作』。ティファニアはそう考えている。
「ティファニア、またフィーリアを泣かしたのか」
「勝手に泣き出したんです。結婚前の私にアーデルとの婚約を破棄しろといい出したんです」
「本当なの?」
母がフィーリアを抱き締め、問いただす。嗚咽を溢しながら、フィーリアはこくんと頷いた。
「だって、だって……アーデル様のことが好きになってしまったんだもの……」
「だからって、結婚前の私に婚約破棄しろだなんて失礼にも程があるわよ」
ティファニアの言い分は尤もだが、それが通じないのがこの三人なのだ。だんまりとして何かを考えだす両親に、嫌な予感がしてならない。ティファニアは背筋を冷や汗が伝った。
「そうだ、この際アーデル君の結婚相手をフィーリアに変えることは出来ないか打診してみよう」
「……は?」
何を言い出すの? 父様は……。
「そうね、フィーリアが幸せになれるならば相手側に打診してみましょう」
フィーリアの幸せって、私の幸せは……?
「本当!? 嬉しい、ありがとうお父さま、お母さま」
先程までの大泣きが嘘のように満面の笑顔を向けるフィーリア。またしても、この子に奪われるの? ううん、そんなの、アーデルが許すはずがない。きっと大丈夫。大丈夫よ、ティファニア……。
だが、アーデルは結婚相手の交換を受け入れた。ティファニアは、目の前が真っ暗になった。アーデルまで、私よりも妹を選ぶの……?
「ねえ、お姉さま」
家に帰り一段落していると、背後から甘ったるい声がかけられる。振り返れば案の定、妹のフィーリアがそこに立っていた。
「フィーリア……」
ティファニアには妹と良い思い出がない。それもその筈、フィーリアはティファニアの気に入ったものを欲しがる癖があるからだ。それは幼少期の頃からあり、隣の芝は青いとばかりに自分のものはとても良いものに見えるのか、手あたり次第にかすめ取っていった。そんな妹が、わざわざ部屋に来てまで何を言い出すのだろうか。ティファニアは身構えた。
「お姉さま、そんなに身構えないで。ちょっとお願いがあるだけなの」
金の髪に青い目と、庇護欲を駆り立てられる可愛らしさがあるフィーリアがモジモジしながら言葉を続ける。こういった仕草の時は、また私のものが欲しい時の態度だ。ティファニアは内心溜息を吐いた。
「なに? はっきり言いなさい」
いい加減、このぶりっ子じみた態度は止めて欲しい。仮にも成人間近の十七歳のする態度ではない。ティファニアが先を急かすと、フィーリアは何を勘違いしたのか、目を輝かせながら言葉を発した。
「あのね、私アーデル様が欲しいの!」
「……は?」
この子は何を言っているのだ? 仮にも結婚前の私に、婚約者を譲れと、そう言っているの?
「フィーリア、それは無理よ」
「何故? お姉さまは何時も私に譲ってくれてたじゃない」
「っ」
あんたが私から奪うまで泣き止まないから仕方なく渡していただけなのに! そうはっきりと言ってやりたくなったが、そんなことを言っても無駄だ。フィーリアには通じない。
「それでもだめ。私とアーデルは結婚を控えているの。今更婚約破棄だなんて出来る訳がないでしょ」
強めに言うと、フィーリアの表情が次第に険しくなってきた。また、何時もの『発作』を起こすつもりね……。そうティファニアが思った直後、フィーリアは口を大きく開け泣き出した。
「うわああああああん!」
「フィーリア、どうしたの!?」
その声に、慌てて両親が私の部屋に入ってくる。何時もこうだ。自分の言うことが叶わなかったらすぐに大泣きして、両親を呼び出す。これが何時もの『発作』。ティファニアはそう考えている。
「ティファニア、またフィーリアを泣かしたのか」
「勝手に泣き出したんです。結婚前の私にアーデルとの婚約を破棄しろといい出したんです」
「本当なの?」
母がフィーリアを抱き締め、問いただす。嗚咽を溢しながら、フィーリアはこくんと頷いた。
「だって、だって……アーデル様のことが好きになってしまったんだもの……」
「だからって、結婚前の私に婚約破棄しろだなんて失礼にも程があるわよ」
ティファニアの言い分は尤もだが、それが通じないのがこの三人なのだ。だんまりとして何かを考えだす両親に、嫌な予感がしてならない。ティファニアは背筋を冷や汗が伝った。
「そうだ、この際アーデル君の結婚相手をフィーリアに変えることは出来ないか打診してみよう」
「……は?」
何を言い出すの? 父様は……。
「そうね、フィーリアが幸せになれるならば相手側に打診してみましょう」
フィーリアの幸せって、私の幸せは……?
「本当!? 嬉しい、ありがとうお父さま、お母さま」
先程までの大泣きが嘘のように満面の笑顔を向けるフィーリア。またしても、この子に奪われるの? ううん、そんなの、アーデルが許すはずがない。きっと大丈夫。大丈夫よ、ティファニア……。
だが、アーデルは結婚相手の交換を受け入れた。ティファニアは、目の前が真っ暗になった。アーデルまで、私よりも妹を選ぶの……?
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