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コカトリスパニック

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「タクマ、今日暇か?」
 朝一番にサイファに訊ねられ、タクマは何故か嫌な予感がした。何故だかは知らないが。
「えっと……暇です」
「良し、なら今日は俺らと一緒に行くぞ」
「え?」
 そう言うと、サイファは席について朝食を食べ出す。一体、何をするというのだろうか?



「よーし、先ずは装備屋に向かうぞ」
 地上に降り、一番にアルクスのビルが経営する装備屋に向かうことになる。一体、サイファは何をさせようと言うのだろうか。
「ビル。石化防止の加護の付与されたアンクレットと耐毒のアンクレット二つ、それと防護作用のある鞄も頼むわ」
「お前さん、今度はそいつらも連れて行くのか?」
 ビルは呆れながら、云われた通りのものを差し出す。サイファはそれを受け取りお金を払うと、タクマとミルファリアの二人に装備するように言った。
「あの、サイファさん、何処に行くんでしょうか?」
 タクマ同様、何処に行くのかも知らされていないミルファリアが訊ねる。サイファはにっと笑みを浮かべると「食材採取」とだけ言った。その言葉に、タクマとミルファリアは顔を合わせ、首を傾げたのだった。






 サイファに小脇に抱えられ連れてこられたのは、アルクスから遠く離れた鬱蒼とした森だった。木々は深い緑色をしており、草が覆い茂っている。生き物の気配がしないのが反って恐ろしいくらいだ。
「サイファ、そろそろ目的を言っておいた方が良いんんじゃない?」
 アイシャにそう言われ、サイファも「そうだな」と言い両脇に抱えていたタクマとミルファリアを下ろした。
「ここはコカトリスの生息する森だ。今から、俺達でコカトリスの卵泥棒をする!」
「え」
「え?」
 タクマとミルファリア、二人は固まった。今、サイファは何て言った? コカトリスって、あのRPGとかに出てくる、毎朝食べてる卵のあのコカトリス?
「コカトリスは知ってるだろうが、鶏の頭に竜に似た翼、蛇の尾に黄色い羽毛を持つやつだ。大きさは、そうだな……俺を越えるな」
「でかっ!?」
 思わず突っ込みを入れてしまう。そんなタクマに、サイファは言葉を続ける。
「何時もは俺が引き付けてる間にアイシャに卵をちょろめかして貰ってたんだが……あっちも学習してきてよ。最近中々うまくいかねえんだわ。だから、今回はミルファリア、お前に手伝って貰おうと思ってな」
「私、ですか?」
 意外な人選に、タクマも指名されたミルファリアも目を瞬かせる。どういう意味だ?
「ミルファリアの『魅了』が効くか試したいんだよ。もし無理でも、セイレーンの歌には催眠効果もある。それをうまく利用して、その間にたアイシャとタクマで卵を盗む! ってことさ」
「なるほど」
「あ、でもコカトリスって、即死させる効果なかったでしたっけ?」
 冷や汗を垂らすタクマの言葉に、サイファはにっと笑顔を向ける。
「俺らは不死だぞ? すこし気を失う程度だって」
「あ、そうですか……」
 これは確定事項のようだ。タクマは深く溜息を吐き、アイシャの側に寄る。
「もう、毎朝の卵料理の為にも頑張りなさいよ!」
「はーい……」
 卵料理の好きなアイシャはやる気十分だ。かくいうミルファリアも、自分が役に立てるかもとやる気に満ちている。ここは腹を括るしかないようだ。
「よし! んじゃまずはおびき寄せるか」
「どうやってです?」
 訊ねるミルファリアに、「耳を塞いでろ」と声を掛ける。嫌な予感がして、タクマも急いで耳を押さえた。
 サイファはすうっ、と息を盛大に吸い込むと、勢いよく吠えた。その瞬間、森の木々が大きく揺れ、辺りにサイファの声が反響していた。
 地響きかと思うくらいの足音が聞こえだす。近付いてくるその足音に、アイシャと共に木の陰に隠れる。現れたのは、サイファの倍以上有る大きさのコカトリスだった。
「クエエエエエッ!!」
 大きな鳴き声と共に、サイファに襲いかかる。サイファは尻尾の蛇の噛みつき攻撃を避け、ミルファリアに合図する。
「『魅了』!」
 コカトリスに向かって、魅了をかけるミルファリア。一瞬コカトリスの動きが止まったが、すぐに興奮した形相でミルファリアに襲い掛かる。瞬時にサイファがミルファリアを抱え、その場から退避する。吐き出された毒は足元の地面を溶かした。
「さ、あたし達は行くわよ」
「あ、はいっ」
 アイシャの言葉に、サイファ達に視線を向けていたタクマは急いで彼女の後を追った。走り去る間際、ミルファリアに視線を向ける。視線が合うと、強く頷いてくれた。






「此処が、コカトリスの巣よ」
 森の奥地に向かい、更に鬱蒼と草木が茂った場所を進むと、木の生えていない開けた場所に出た。そこには岩や枯れ枝が敷き詰められた大きな鳥の巣があった。近付いてみると、二、三個の卵が置かれている。
「さ、早く鞄に入れて」
「え、このままですか?」
 鞄を開け、アイシャは一目散に手前の卵を鞄にそのまま詰める。丸い楕円形の卵が入った鞄は大きく膨らみ、少しの衝撃でも中の卵が割れそうな気がした。
「ビルの装備屋で購入した鞄なら、中に耐衝撃用の加護が付与されてるから卵を入れても大丈夫よ。さあ、親鳥が返って来ないうちに早く」
 確かに、何時コカトリスが戻ってくるかわからない。タクマは急いで鞄を開け、卵を一つずつ静かに入れた。
「よし、これでオーケーね。急いで戻るわよ」
「はい」
 来た道を急いで戻る。卵の重さは何時も調理しているからわかってはいたが、肩に下げた状態で抱えるのは意外と重い。卵を持つ前と変らない速度で走るアイシャに、ついて行くのがやっとだった。

「お! 来たか!」
 そう元気に言うサイファ。目の前には、口から泡を吹かして倒れているコカトリスがいた。
「……サイファ、あんた……」
「わりいわりい、倒しちまった」
 そう呑気に言うサイファは、自分よりも倍の大きさのコカトリスを肩に抱えた。
「これも美味いだろうから、持って帰ろうぜ」
 サイファの言葉に、アイシャは深く溜息を吐く。タクマとミルファリアは目を瞬かせ、サイファを見やる。
「あの、サイファさん」
「ん? なんだ、タクマ」
「それ調理するの……」
 指を指しながら、タクマは訊ねる。サイファはにこやかに笑みを向け「お前だな!」と答えた。タクマは盛大に飴息を吐いた。




 アイシャの魔術で浮かして貰いながら、転移魔法陣のある洞窟の側まで移動する。ミルファリアは翼の使い方も慣れたのか、自由に飛べるようになっていた。
「よし、今日はコカトリスパーティーだな!」
 にこやかなサイファを前に、三人は苦笑いするしかなかった。
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