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フェリの性別
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ギルドのパーティーがあったその日から三日後。主であるフェリが帰ってきた。顔にも血の跡がこびり付いたような状態で、タクマとミルファリアは慌てた。
「ちょ、主さんっ、大丈夫かよ!」
「主さまっ」
駆け寄ろうとする二人に、慌ててサイファが衿元を掴み引き止める。く、苦しい……。
「何するんですかサイファさんっ」
「あの時の主さんは、ガイアスさん以外が触れると殺されるぞ」
殺される。その言葉に、ゾッと悪寒がした。仕方なく様子をみていると、ガイアスが近付き頭を撫でた。
「おかえり、フェリ」
「……疲れた」
「体を清めよう」
そう言い、ガイアスは服が汚れるのも構わずフェリを抱き上げる。そのまま、浴室へと向かって行った。
「……ふう、今回は何もなかったか」
「その口ぶりからするに、前は何かあったのですか?」
おずおずと質問するミルファリアに、アイシャが代わりに応える。
「前回は機嫌が悪くて、家のドアとその周辺の壁が壊されたの」
と呑気に言うアイシャ。サイファはやれやれと肩を落とす。
「いや、機嫌が悪いのは仕方がねえよ? でも直すのは俺なんだよね……」
知らなかった。この家の補修とかはサイファの仕事だったのか――。そんなことを思っていると、ふと、前から気になっていた疑問を投げかけた。
「あの、二人は主さんの性別、知ってます?」
その言葉に、二人は目を瞬かせた。
「うーん……主さん、どっちにもとれる顔立ちしてるからなあ」
「考えたことなかったわ。主様は神だからってことで納得してたし」
守り人の先輩である二人も、フェリの性別は知らないらしい。ミルファリアに視線を向けるが、首を横に振るだけだ。
「前に聞いたら『どっちでもあるしどっちでもない』って言われて……」
そう、前に聞いた時、フェリは確かにそう言った。どちらでもあるし、どちらでもない……さっぱりわからない。
「今お風呂に入ってるんだし、覗いて来れば?」
アイシャの爆弾発言に、サイファが慌てる。
「おいおいっ、覗いてそれがばれて風呂場壊されたら、誰が直すと思ってるんだよ」
「それは勿論、覗きに行くタクマとあんたでしょ」
「俺もう確定!?」
あまりにも突然のことに、タクマは目を見開く。アイシャは「当たり前でしょ」と言葉を続けた。
「仮に男だったら私達は覗けないわ。それにガイアスさんも一緒の筈だし、尚更無理よ。サイファは匂いでばれるだろうし、となったら消去法でタクマしかいないわ」
あまりの正論に、言葉が返せない。というか、覗きに行くこと前提では?
「……よし、頑張れタクマ」
「あ、逃げた!」
サイファはタクマに任せる気満々らしい。……仕方ない。言い出したのは自分だ。行ってみるとするか。そう考え、家の外に出た。
浴室は家の中でも大きく作られている。換気扇なんてものがないこの世界では、窓を開けて入浴するのが一般的だ。そっと窓に張りつき、ゆっくりと中を覗き込む。湯気の向こうからは、ガイアスの逞しい胸筋と腹筋が見える。フェリは此方に背を向けているので、髪で後ろ姿からは性別がわからない。というか、上を見るべきか? それとも、下を見るべきなのか? タクマは頭を抱えながら悩んだ。
「フェリ、背中を流そう」
ガイアスに言われ、フェリが向きを変える。横向きになったフェリは普段見る険しい表情ではなく、穏やかな表情だった。ガイアスの前では、あのような表情を見せているのか――。
「今回も、頑張ったね」
「頑張ってない。私の使命だ」
そう淡々と答えるフェリに、ガイアスはそれでも、と言葉を続ける。
「君は頑張っているよ。君が自分を褒めない分、私が君を褒め続けよう」
「……ありがとう、ガイアス」
「それほどでも」
一体、何を頑張ったのだろうか――。血が大量に付着することが、頑張ったこと? 訳がわからない。
横向きになったとしても、フェリの上も下も見えない。ガイアスの立派なガイアスは見えるのに……。
「翼を出して。洗ってしまおう」
「ん……」
言われて、フェリは真紅の大量の木の枝を彷彿とさせる翼をゆっくりと背中から出現させる。その一本一本を、ガイアスは丁寧に磨いていく。気持ちいいのか、フェリのは眠たそうだった。
「次は前だ。こっちを向いて」
(来た!)
ガイアスに向き合うように振り返るフェリ。ガイアスは髪紐を口に咥え、髪を手で梳きだす。これでこのハラハラドキドキの覗き見ともおさらばだ……! そう思った瞬間、足元の尖った石を思いっきり踏んでしまった。
「いっでえ!」
その声に微睡んでいたフェリは目を覚まし、翼の一部を窓の外に突き出す。タクマは咄嗟に避けたが、確実に頭部を狙っていた。冷や汗が頬を伝う。
「貴様……何をしている」
ドスの効いた声でフェリが窓の側に歩み寄る。やはり髪の毛で胸は見えない。
「え、いや、その……あはは……」
「……」
フェリの視線がとてつもなく痛い。というか怖い。心臓を握られているみたいに胸が苦しくなる。
「さっさと消えろ。我は機嫌が悪い」
コクコクと頷き、タクマは痛む足を気にすることなく走って家に駆け込んだ。
「あ、おかえりなさーい。どうだった?」
にこやかかつ呑気に話しかけてくるアイシャに、タクマは深呼吸して息を落ち着ける。
「……ばれました」
その言葉に、アイシャはミルファリアを連れて部屋に逃げて行った。サイファはというと、頭を抱えながら自室へと向かった。
「ちょ、みんな狡い!」
「何が、狡いと……?」
背後から掛けられた声に、思わず体が跳ねる。振り返れば、苦笑しているガイアスと不機嫌を表情にはっきりと表す主の姿があった。
「全員ここに呼べ」
「……はい」
この後、守り人全員して正座を三時間するという罰を与えられるのだが、それは別の話。
「ちょ、主さんっ、大丈夫かよ!」
「主さまっ」
駆け寄ろうとする二人に、慌ててサイファが衿元を掴み引き止める。く、苦しい……。
「何するんですかサイファさんっ」
「あの時の主さんは、ガイアスさん以外が触れると殺されるぞ」
殺される。その言葉に、ゾッと悪寒がした。仕方なく様子をみていると、ガイアスが近付き頭を撫でた。
「おかえり、フェリ」
「……疲れた」
「体を清めよう」
そう言い、ガイアスは服が汚れるのも構わずフェリを抱き上げる。そのまま、浴室へと向かって行った。
「……ふう、今回は何もなかったか」
「その口ぶりからするに、前は何かあったのですか?」
おずおずと質問するミルファリアに、アイシャが代わりに応える。
「前回は機嫌が悪くて、家のドアとその周辺の壁が壊されたの」
と呑気に言うアイシャ。サイファはやれやれと肩を落とす。
「いや、機嫌が悪いのは仕方がねえよ? でも直すのは俺なんだよね……」
知らなかった。この家の補修とかはサイファの仕事だったのか――。そんなことを思っていると、ふと、前から気になっていた疑問を投げかけた。
「あの、二人は主さんの性別、知ってます?」
その言葉に、二人は目を瞬かせた。
「うーん……主さん、どっちにもとれる顔立ちしてるからなあ」
「考えたことなかったわ。主様は神だからってことで納得してたし」
守り人の先輩である二人も、フェリの性別は知らないらしい。ミルファリアに視線を向けるが、首を横に振るだけだ。
「前に聞いたら『どっちでもあるしどっちでもない』って言われて……」
そう、前に聞いた時、フェリは確かにそう言った。どちらでもあるし、どちらでもない……さっぱりわからない。
「今お風呂に入ってるんだし、覗いて来れば?」
アイシャの爆弾発言に、サイファが慌てる。
「おいおいっ、覗いてそれがばれて風呂場壊されたら、誰が直すと思ってるんだよ」
「それは勿論、覗きに行くタクマとあんたでしょ」
「俺もう確定!?」
あまりにも突然のことに、タクマは目を見開く。アイシャは「当たり前でしょ」と言葉を続けた。
「仮に男だったら私達は覗けないわ。それにガイアスさんも一緒の筈だし、尚更無理よ。サイファは匂いでばれるだろうし、となったら消去法でタクマしかいないわ」
あまりの正論に、言葉が返せない。というか、覗きに行くこと前提では?
「……よし、頑張れタクマ」
「あ、逃げた!」
サイファはタクマに任せる気満々らしい。……仕方ない。言い出したのは自分だ。行ってみるとするか。そう考え、家の外に出た。
浴室は家の中でも大きく作られている。換気扇なんてものがないこの世界では、窓を開けて入浴するのが一般的だ。そっと窓に張りつき、ゆっくりと中を覗き込む。湯気の向こうからは、ガイアスの逞しい胸筋と腹筋が見える。フェリは此方に背を向けているので、髪で後ろ姿からは性別がわからない。というか、上を見るべきか? それとも、下を見るべきなのか? タクマは頭を抱えながら悩んだ。
「フェリ、背中を流そう」
ガイアスに言われ、フェリが向きを変える。横向きになったフェリは普段見る険しい表情ではなく、穏やかな表情だった。ガイアスの前では、あのような表情を見せているのか――。
「今回も、頑張ったね」
「頑張ってない。私の使命だ」
そう淡々と答えるフェリに、ガイアスはそれでも、と言葉を続ける。
「君は頑張っているよ。君が自分を褒めない分、私が君を褒め続けよう」
「……ありがとう、ガイアス」
「それほどでも」
一体、何を頑張ったのだろうか――。血が大量に付着することが、頑張ったこと? 訳がわからない。
横向きになったとしても、フェリの上も下も見えない。ガイアスの立派なガイアスは見えるのに……。
「翼を出して。洗ってしまおう」
「ん……」
言われて、フェリは真紅の大量の木の枝を彷彿とさせる翼をゆっくりと背中から出現させる。その一本一本を、ガイアスは丁寧に磨いていく。気持ちいいのか、フェリのは眠たそうだった。
「次は前だ。こっちを向いて」
(来た!)
ガイアスに向き合うように振り返るフェリ。ガイアスは髪紐を口に咥え、髪を手で梳きだす。これでこのハラハラドキドキの覗き見ともおさらばだ……! そう思った瞬間、足元の尖った石を思いっきり踏んでしまった。
「いっでえ!」
その声に微睡んでいたフェリは目を覚まし、翼の一部を窓の外に突き出す。タクマは咄嗟に避けたが、確実に頭部を狙っていた。冷や汗が頬を伝う。
「貴様……何をしている」
ドスの効いた声でフェリが窓の側に歩み寄る。やはり髪の毛で胸は見えない。
「え、いや、その……あはは……」
「……」
フェリの視線がとてつもなく痛い。というか怖い。心臓を握られているみたいに胸が苦しくなる。
「さっさと消えろ。我は機嫌が悪い」
コクコクと頷き、タクマは痛む足を気にすることなく走って家に駆け込んだ。
「あ、おかえりなさーい。どうだった?」
にこやかかつ呑気に話しかけてくるアイシャに、タクマは深呼吸して息を落ち着ける。
「……ばれました」
その言葉に、アイシャはミルファリアを連れて部屋に逃げて行った。サイファはというと、頭を抱えながら自室へと向かった。
「ちょ、みんな狡い!」
「何が、狡いと……?」
背後から掛けられた声に、思わず体が跳ねる。振り返れば、苦笑しているガイアスと不機嫌を表情にはっきりと表す主の姿があった。
「全員ここに呼べ」
「……はい」
この後、守り人全員して正座を三時間するという罰を与えられるのだが、それは別の話。
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