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第二十八話
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「シャロルのためだよ!こいつの存在がシャロルを貶めるから、シャロルを守り、たくて…」
自信満々に話し始めたヒュイの声がどんどん尻すぼみになっていく。ヒュイは気まずそうにシャロルから視線を外す。
「そうか…そんな理由でリディに、こんなことを…」
シャロルが静かに呟くと、ヒュイの肩がビクリと揺れる。俺からはシャロルの表情はみえないが、もしかしたらこの状況はヒュイにとっても予想外なのかもしれない。
「僕は…僕は間違えたことはしてないよ!シャロルの立場を守るためには必要なことなんだ!ダンテもそう思うだろ?」
「どうだろな。リディを排除することがシャロルの為だとは思えないけど。シャロルがリディに振られただけで自暴自棄になったのは、ヒュイも見ていただろ?シャロルがまたあんな状態になってもいいのか?」
「失恋で荒れるのなんて人生の中でほんの一瞬でしょ?だいたいは時間が解決するっていうから、シャロルも、こいつのことなんて忘れられるよ。近い将来、離れてよかったって思う日が必ず来る!」
ヒュイは力説しているが、その視線はシャロルではなくダンテに向いている。ヒュイはシャロルが怖いのか、そちらの方を見る気配はない。
「……。リディが私から離れたとしても、私はリディを忘れられないだろう。確かに時間は失礼の傷は癒してくれるかもしれない。でも心にリディがずっと居続けるんだ。だからリディがお前の番だとしても、私はリディを手放す気はない」
シャロルの言葉に俺は息をのんだ。
-シャロルは、いつから気付いていたんだ?
俺の独りよがりだとしても、シャロルには隠し通していたかった。この事実をシャロルが知ったら傷つくだけじゃない。シャロルの大切な人を失うことになるから…
「…何か勘違いしてるよ、シャロル。こいつの番は子爵でしょ?僕じゃない」
ヒュイは苦しい嘘をつく。シャロルが番はヒュイといったからには、何か確証をつかんでいるはずだ
「最後くらいは正直に話してくれることを期待したんだが、仕方ないか。リディは今、 発情期が来ているのだろう?私やダンテはリディのフェロモンが分からないが、番はフェロモンが効くから体が辛いんじゃないか?」
「全然っ…あいつのフェロモンなんか分からない。だから辛くなんかない」
「そんなこと言って、ヒュイってばギンギンになってるじゃん!」
「触んな!これは、サージャのフェロモンに反応しただけだから」
ヒュイを押さえつけたままダンテがヒュイの下半身に触れると、ヒュイは金切り声で拒絶する。
「…そこの彼は発情期じゃなくてもフェロモンが出るのか」
「そうなんだ!特異体質なんだよ!」
「そうか。でも今は彼の体質はどうでもいい。私の立太子パーティーの時にリディが受けた仕打ちを、ある人が教えてくれた。誰だか分かるな」
「…シャロルが何を言っているのか、僕には全然分からない」
しらばっくれようとするヒュイを無視してシャロルは続ける
「その人は、かつて私の乳母だった人。そして、ヒュイ、お前の産みの親だ」
さすがのヒュイもシャロルの方を見る。その目は驚きで大きく開かれていた。
「なんで…なんでシャロルがそれを知ってるの?」
反論なのか呟きかも分からない弱々しい声でヒュイは言う。
「ヒュイの出自はエイメ侯爵家のトップシークレットだから、外部に情報が漏れないように徹底していたんだろ?でも人の口に戸はたてられないからな」
「じゃあ、母さんがシャロルに僕の生まれも全部話したの⁈」
ダンテが言った言葉にヒュイはダンテをキッと睨みつけ、また金切り声をあげる。
「ヒュイの出自を教えてくれたのは、お前の姉達だ」
「姉さん達が…そんなこと言うはずない!父さんや亡くなった母上から固く口止めされていたんだから!」
「そうそう!最初は全然口を割ってくれないから、どうしようかと思ったよ。でもシャロルが、王太子として自分の腹心のことは把握しておきたいって言ったら、すんなり教えてくれたよ。それに、お姉さん達、ヒュイをだいぶ心配してたぞ」
「心配って…僕は姉さん達を心配させるようなことはしてない!僕は、エイメ家の名に恥じないように正しく振舞っている!」
「ヒュイが出自に劣等感があるから、それを埋めるために正しくあることを求めすぎていると言ってたぞ。でもさ、母君を子爵と離縁させ使用人として側に置いて監視するのは正しい振る舞いなのか?」
「正しいよ!正しいに決まってる!エイメの名誉を守るために不穏な芽はつむがなきゃいけないだろ!」
「それは本当にエイメ家当主の不義を隠すためだったのか?自分の犯した罪を隠蔽するためじゃないのか?」
「シャロルまで、そんなことを言うの⁈僕は、僕はっ…」
シャロルがヒュイに近づき問いかけると、ヒュイはシャロルにまで牙をむく
「ヒュイ、お前がリディにしたことを、私は絶対に許さない。お前が私に抱いているイメージは幻想だ。信頼していた幼馴染の暴走を止められずに愛する人を失った、そんな情け無い男なんだ」
「違う!シャロルはそんなんじゃない!シャロルは、誰もが尊敬する立派な王太子でしょ!シャロル以外はオメガやベータから生まれて、アルファから生まれたシャロルだけが正しく生まれたんだよ」
「私はもう王太子ではない」
「は⁈何言ってるの⁈シャロルは王太子でしょ?誰にシャロルの代わりができるのさ!」
「王弟殿下が代わりに王太子になる」
「は⁈ダンテ何言ってんの?そんなのハルバー侯爵も、エイメ侯爵も許すはずない!」
「それがさ…こんな手紙がきてさ」
ダンテはヒュイにピンクの便箋を見せる。それは、どこかで見覚えがある気がしたが、回らない頭では上手く思いだせない。
「それがどうしたのさ」
「この手紙はうちの親父宛に届いてさ。内容はなんと、びっくり。シャロルが野良のオメガを囲っていることと、色恋に狂っていることが詳細に書かれていたんだ」
「そんなの誰がシャロルを嵌めるために、でっちあげた内容だろ!」
「そう思うよな。たださ、この手紙が確かな相手から届けたから問題だったんだよ」
「誰だよ、それ」
「カリーノだ。この手紙はカリーノが私を弾劾するために書いたものだ」
シャロルがダンテに代わり、手紙の主の名前を告げる。カリーノ様の名前を聞いて、俺はある光景を思い出した。あの手紙は、カリーノ様の私室でカリーノ様からシャロルが受け取っていた。
-シャロルが自ら王太子を降りたんだ
俺はその事実に気付き呆然とした。
自信満々に話し始めたヒュイの声がどんどん尻すぼみになっていく。ヒュイは気まずそうにシャロルから視線を外す。
「そうか…そんな理由でリディに、こんなことを…」
シャロルが静かに呟くと、ヒュイの肩がビクリと揺れる。俺からはシャロルの表情はみえないが、もしかしたらこの状況はヒュイにとっても予想外なのかもしれない。
「僕は…僕は間違えたことはしてないよ!シャロルの立場を守るためには必要なことなんだ!ダンテもそう思うだろ?」
「どうだろな。リディを排除することがシャロルの為だとは思えないけど。シャロルがリディに振られただけで自暴自棄になったのは、ヒュイも見ていただろ?シャロルがまたあんな状態になってもいいのか?」
「失恋で荒れるのなんて人生の中でほんの一瞬でしょ?だいたいは時間が解決するっていうから、シャロルも、こいつのことなんて忘れられるよ。近い将来、離れてよかったって思う日が必ず来る!」
ヒュイは力説しているが、その視線はシャロルではなくダンテに向いている。ヒュイはシャロルが怖いのか、そちらの方を見る気配はない。
「……。リディが私から離れたとしても、私はリディを忘れられないだろう。確かに時間は失礼の傷は癒してくれるかもしれない。でも心にリディがずっと居続けるんだ。だからリディがお前の番だとしても、私はリディを手放す気はない」
シャロルの言葉に俺は息をのんだ。
-シャロルは、いつから気付いていたんだ?
俺の独りよがりだとしても、シャロルには隠し通していたかった。この事実をシャロルが知ったら傷つくだけじゃない。シャロルの大切な人を失うことになるから…
「…何か勘違いしてるよ、シャロル。こいつの番は子爵でしょ?僕じゃない」
ヒュイは苦しい嘘をつく。シャロルが番はヒュイといったからには、何か確証をつかんでいるはずだ
「最後くらいは正直に話してくれることを期待したんだが、仕方ないか。リディは今、 発情期が来ているのだろう?私やダンテはリディのフェロモンが分からないが、番はフェロモンが効くから体が辛いんじゃないか?」
「全然っ…あいつのフェロモンなんか分からない。だから辛くなんかない」
「そんなこと言って、ヒュイってばギンギンになってるじゃん!」
「触んな!これは、サージャのフェロモンに反応しただけだから」
ヒュイを押さえつけたままダンテがヒュイの下半身に触れると、ヒュイは金切り声で拒絶する。
「…そこの彼は発情期じゃなくてもフェロモンが出るのか」
「そうなんだ!特異体質なんだよ!」
「そうか。でも今は彼の体質はどうでもいい。私の立太子パーティーの時にリディが受けた仕打ちを、ある人が教えてくれた。誰だか分かるな」
「…シャロルが何を言っているのか、僕には全然分からない」
しらばっくれようとするヒュイを無視してシャロルは続ける
「その人は、かつて私の乳母だった人。そして、ヒュイ、お前の産みの親だ」
さすがのヒュイもシャロルの方を見る。その目は驚きで大きく開かれていた。
「なんで…なんでシャロルがそれを知ってるの?」
反論なのか呟きかも分からない弱々しい声でヒュイは言う。
「ヒュイの出自はエイメ侯爵家のトップシークレットだから、外部に情報が漏れないように徹底していたんだろ?でも人の口に戸はたてられないからな」
「じゃあ、母さんがシャロルに僕の生まれも全部話したの⁈」
ダンテが言った言葉にヒュイはダンテをキッと睨みつけ、また金切り声をあげる。
「ヒュイの出自を教えてくれたのは、お前の姉達だ」
「姉さん達が…そんなこと言うはずない!父さんや亡くなった母上から固く口止めされていたんだから!」
「そうそう!最初は全然口を割ってくれないから、どうしようかと思ったよ。でもシャロルが、王太子として自分の腹心のことは把握しておきたいって言ったら、すんなり教えてくれたよ。それに、お姉さん達、ヒュイをだいぶ心配してたぞ」
「心配って…僕は姉さん達を心配させるようなことはしてない!僕は、エイメ家の名に恥じないように正しく振舞っている!」
「ヒュイが出自に劣等感があるから、それを埋めるために正しくあることを求めすぎていると言ってたぞ。でもさ、母君を子爵と離縁させ使用人として側に置いて監視するのは正しい振る舞いなのか?」
「正しいよ!正しいに決まってる!エイメの名誉を守るために不穏な芽はつむがなきゃいけないだろ!」
「それは本当にエイメ家当主の不義を隠すためだったのか?自分の犯した罪を隠蔽するためじゃないのか?」
「シャロルまで、そんなことを言うの⁈僕は、僕はっ…」
シャロルがヒュイに近づき問いかけると、ヒュイはシャロルにまで牙をむく
「ヒュイ、お前がリディにしたことを、私は絶対に許さない。お前が私に抱いているイメージは幻想だ。信頼していた幼馴染の暴走を止められずに愛する人を失った、そんな情け無い男なんだ」
「違う!シャロルはそんなんじゃない!シャロルは、誰もが尊敬する立派な王太子でしょ!シャロル以外はオメガやベータから生まれて、アルファから生まれたシャロルだけが正しく生まれたんだよ」
「私はもう王太子ではない」
「は⁈何言ってるの⁈シャロルは王太子でしょ?誰にシャロルの代わりができるのさ!」
「王弟殿下が代わりに王太子になる」
「は⁈ダンテ何言ってんの?そんなのハルバー侯爵も、エイメ侯爵も許すはずない!」
「それがさ…こんな手紙がきてさ」
ダンテはヒュイにピンクの便箋を見せる。それは、どこかで見覚えがある気がしたが、回らない頭では上手く思いだせない。
「それがどうしたのさ」
「この手紙はうちの親父宛に届いてさ。内容はなんと、びっくり。シャロルが野良のオメガを囲っていることと、色恋に狂っていることが詳細に書かれていたんだ」
「そんなの誰がシャロルを嵌めるために、でっちあげた内容だろ!」
「そう思うよな。たださ、この手紙が確かな相手から届けたから問題だったんだよ」
「誰だよ、それ」
「カリーノだ。この手紙はカリーノが私を弾劾するために書いたものだ」
シャロルがダンテに代わり、手紙の主の名前を告げる。カリーノ様の名前を聞いて、俺はある光景を思い出した。あの手紙は、カリーノ様の私室でカリーノ様からシャロルが受け取っていた。
-シャロルが自ら王太子を降りたんだ
俺はその事実に気付き呆然とした。
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