今日もまた孤高のアルファを、こいねがう

きど

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第二十七話

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「あ"あ"っあ"ー」

振り下ろされたナイフは俺の手のひらを貫き、俺は激痛に悶える。刺された場所は熱く、そこに心臓があるかのように、ドクドクと脈打つ。

痛みで涙が滲み視界はぼやけていたが、ヒュイがどうゆう表情をしているのかは想像がついた。きっとこいつは、俺が悶え苦しんでいるのを見て笑っているだろう。

「前回は刺さなかったから油断したでしょ?でも今回はもう容赦しない。シャロルがお前を追いかけるなら、お前を消してしまえばいいだけだから」

ヒュイは不穏なことを楽しそうな声音で話す。こいつにとっては俺の命を奪うことなんて、羽虫を潰すことと変わらないのだろう。

「ふざけんなっ…何度もお前の思い通りになんて、んぐっ」

「リーテ、ヒュイ様に汚い言葉を使わないで」

サージャにまたも手で口を塞がれた。ヒュイを罵ろうとすると必ずサージャに阻まれるのはサージャがヒュイのことを慕っているからなんだろう。

「サージャ、そのまま黙らせておいて…」

「ん"ー」

ヒュイは俺のブラウスに手をかけると、前の合わせを引きちぎる。力任せに引っ張られ、ボタンがどこかに弾け飛び床に転がる音がした。
曝け出された俺の体を一瞥した後、ヒュイは俺の胸元や腹周りを何かをなぞるように指を這わす。

「なぁ、この跡はシャロルが付けたの?」

「……」

シャロルがつけたキスマークの場所を確認し終えると、不機嫌を隠さず俺に聞く。シャロルと触れ合えないように俺を番にしたのに、結局それは意味が無かったことに苛立っているのだろう。俺がヒュイの質問に答えずにいることを肯定と受け取ったのか、跡がついている部分に噛み付いてきた。

「ん"ん"っ…ん"」

「シャロルは、お前をどんな風に抱くんだ?こうやって、優しく触る?」

「ん"っ…」

シャロルが優しく触る想像をしているのか、噛んだ所をヒュイに舌で愛撫され、鳥肌が立つ。

「それとも、こんな風に激しく?」

「ん"ーっ…ん"」

足の間に膝を割り入れられ、俺のものを膝頭でグリグリと刺激する。普段なら痛く感じるほど、強く擦られているのに、発情期ヒートを起こしている体は痛みさえ快感に変換してしまう。

「気持ちがなくても、簡単に感じるんだな。やっぱりお前みたいな淫売な奴はシャロルの側に居るべきじゃない」

ヒュイは俺の首に両手をかけると、思い切り締め上げる。

「ん"っ」

全身で抵抗しようともがくが、サージャに体をおさえつけられているので、抵抗らしい抵抗ができない。足をバタつかせると、ヒュイの股を足が掠める。
そこはいきり勃ち存在を主張していた。でも、そんなことを気にしている余裕はなく、息ができずにもがき苦しむ。徐々に脳への酸素が足りなくなってきたのか、体が温かくなり意識が遠のいていく。そして目の前が真っ暗になった。

---

「っ…シャ…な」

何やら騒がしい声に意識が引き戻される。

「うぇっ…はぁっはぁっはぁっ」

頭がはっきりする前に喉の閉塞感に襲われ、思い切り息を吸う。呼吸が整うと、誰かに背中を撫でられていることに気づく。

「リディ、大丈夫か?」

聞き慣れた声に顔をあげると、シャロルが心配そうに俺を覗き込んでいた。ここには居るはずのないシャロルが座って俺を抱き抱えている。

「シャロル…なんでここに?」

「エイメ家の馬車がオメガ棟から出たと報告を受け急いで追ってきたんだ。今度こそリディを守りたかったが、こんなに傷だらけになるまで待たせて、すまなかった」

呆然と呟いた俺にシャロルがここに居る理由を話す。

-え?なんで?エイメ家の馬車って?

だが、ただでさえ発情期で思考がまとまらないのに半覚醒の頭では、うまく理解できない。そんな時、部屋に金切り声が響く

「ダンテ、離せよ!」

「ヒュイ様を離してください」

ダンテに片腕を固められ、ヒュイは床に突っ伏していた。サージャはヒュイを助けようとダンテにしがみつくが、華奢なサージャの力ではダンテはびくともしない。

「離したらリディに危害加えるだろ?だから少し大人しくしててな。ヒュイの大好きなシャロルから大切なお話があるからさ」

ダンテはヒュイにいつもの調子で返すとシャロルに視線で合図をする。シャロルは俺を床に座らせ、血だらけの絨毯の上に落ちていたナイフを拾い上げヒュイに近づく。

「ヒュイ、この状況はどういうことか説明してくれるか?」
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