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第二十三話 side.シャロル
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「殿下、こちらの書類にサインを」
「殿下、前回話していた政策の件ですが」
席につき執務が始まると、士官たちが次々と私の元に仕事を持ってくる。
「その政策については、費用対効果が低いから見直しだと伝えたと思うが、改善案ができたのか?」
「後、他にサインが必要な書類はまとめておいてくれ。空き時間に目を通す」
私がそれぞれに返事をし士官たちの波が落ち着くと、私の左側の壁の近くの席に座っていたダンテがくるりとこちらを振り返る。
「やっと落ち着いたな。じゃあ、俺からも。こちらの書類にサインをお願いします、殿下」
「…あぁ」
ダンテがいきなり殿下呼びをしたから、いつものおふざけかと思ったら、きちんと仕事の書類で拍子抜けする。
「あっ、意外そうな顔してる!俺だってさたまにはきちんと仕事するよ」
「たまにではなく、毎回きちんとしてくれれば言うことないのだがな」
「そうだよダンテ!やればできるのに、いつものらりくらりして。僕達はシャロルを支えるために居るんだから、もっとやる気だしてよ!」
「あぁー。はいはい。分かってますよー」
ダンテと逆側の壁のデスクからヒュイが立ち上がる。ダンテに喝を入れるが、当の本人には全く響いていない。
「もうほんとに適当なんだから。それよりシャロル、フレグランス変えた?最近、やたら甘ったるい臭いするよ?僕はこの香り好きじゃないな」
ヒュイは鼻を指の甲で触り眉間に皺を寄せる。
甘い臭いの心当たりを考えると、一つしかなかった。
「うーん。甘い匂いなんてするか?」
ダンテも鼻をひくつかせて私の匂いを嗅ぐが、私と同じように甘い匂いは感じないようだ。
「変えてないな。甘い匂いならカリーノの移り香じゃないか?」
「じゃあやっぱり、カリーノ姫の香りなのかな?」
「そうじゃないか。だってここの所、毎日通ってる位、お熱だもんな」
「そうだな」
ダンテの茶化しを軽く受け流して、ヒュイの様子を横目でみる。
「カリーノ姫にお熱なのはいいけど、うちの姫様にも御渡りをしてよ。カリーノ姫だけが懐妊したら、貴族間のバランスが崩れちゃう」
「そうだな。検討はするがヒュイ、お前の所の姫君は少し節制させたらどうだ。今の姫君を抱き上げたら私の腰が砕ける」
私が言うと、ダンテがブフッと吹き出す。横目でみると声を押し殺して肩を振るわせている。どうやらダンテのツボに入ったらしい。
「何言ってんのさ、シャロル。うちの姫様はボンキュッボンってやつだよ!抱き心地はいいと思うから、御渡りよろしくね!」
「考えておく。それよりヒュイ、外に用事か?」
私に一方的に宣言すると、ヒュイはデスクに戻り近くにかけてあった外套を羽織る。外勤があるとは聞いていないが…
「ごめん、伝え忘れてたね。ちょっと姉様達に呼ばれているから、午後からお休みもらいます」
ヒュイには上に姉が3人いる。姉達は、それぞれ嫁いでいるが母親の命日には集まっているようだ。ヒュイが今日、呼ばれたのもその関係だと思う
「分かった。御母君の命日がそろそろか。今年は私もみて墓参りに行きたいと思う」
「覚えてくれてたんだ。ありがとうシャロル。シャロルが墓参りに来てくれたら母様も喜ぶと思う」
「ヒュイは大切な友人だから、大事な日は覚えている」
「あっ!俺も覚えてるからな!何か入り用だったら、いつでも相談に乗るぞ」
「はいはい。ダンテもアリガトウ。じゃあ、今日は失礼するね」
「ああ」
ヒュイが出ていった執務室の扉が閉じるのを眺めているとダンテが私の肩に手をおく
「ボンキュッボンは、引っ込んでいる所がなきゃ、ボンキュッボンじゃないよな?」
「そうだな」
大変くだらない話を振られて、また適当に流す。きっとこれはダンテなりの気遣いだ。そしてダンテは言葉を続けた
「もし泣きたくなったら背中はいつでも貸してやるよ」
「…ああ。すまない」
ダンテはそれ以上、何もいわなかった。静かな沈黙が部屋に立ち込める。
扉は閉じられ、向こう側から人の気配はしない。私達の言葉は彼には届いていないだろう。
そんなとき、重苦しい沈黙を破るように扉がノックされた。
「なんだ」
「殿下ご報告がございます」
報告の内容を聞き、私とダンテは部屋から駆け出した。
「殿下、前回話していた政策の件ですが」
席につき執務が始まると、士官たちが次々と私の元に仕事を持ってくる。
「その政策については、費用対効果が低いから見直しだと伝えたと思うが、改善案ができたのか?」
「後、他にサインが必要な書類はまとめておいてくれ。空き時間に目を通す」
私がそれぞれに返事をし士官たちの波が落ち着くと、私の左側の壁の近くの席に座っていたダンテがくるりとこちらを振り返る。
「やっと落ち着いたな。じゃあ、俺からも。こちらの書類にサインをお願いします、殿下」
「…あぁ」
ダンテがいきなり殿下呼びをしたから、いつものおふざけかと思ったら、きちんと仕事の書類で拍子抜けする。
「あっ、意外そうな顔してる!俺だってさたまにはきちんと仕事するよ」
「たまにではなく、毎回きちんとしてくれれば言うことないのだがな」
「そうだよダンテ!やればできるのに、いつものらりくらりして。僕達はシャロルを支えるために居るんだから、もっとやる気だしてよ!」
「あぁー。はいはい。分かってますよー」
ダンテと逆側の壁のデスクからヒュイが立ち上がる。ダンテに喝を入れるが、当の本人には全く響いていない。
「もうほんとに適当なんだから。それよりシャロル、フレグランス変えた?最近、やたら甘ったるい臭いするよ?僕はこの香り好きじゃないな」
ヒュイは鼻を指の甲で触り眉間に皺を寄せる。
甘い臭いの心当たりを考えると、一つしかなかった。
「うーん。甘い匂いなんてするか?」
ダンテも鼻をひくつかせて私の匂いを嗅ぐが、私と同じように甘い匂いは感じないようだ。
「変えてないな。甘い匂いならカリーノの移り香じゃないか?」
「じゃあやっぱり、カリーノ姫の香りなのかな?」
「そうじゃないか。だってここの所、毎日通ってる位、お熱だもんな」
「そうだな」
ダンテの茶化しを軽く受け流して、ヒュイの様子を横目でみる。
「カリーノ姫にお熱なのはいいけど、うちの姫様にも御渡りをしてよ。カリーノ姫だけが懐妊したら、貴族間のバランスが崩れちゃう」
「そうだな。検討はするがヒュイ、お前の所の姫君は少し節制させたらどうだ。今の姫君を抱き上げたら私の腰が砕ける」
私が言うと、ダンテがブフッと吹き出す。横目でみると声を押し殺して肩を振るわせている。どうやらダンテのツボに入ったらしい。
「何言ってんのさ、シャロル。うちの姫様はボンキュッボンってやつだよ!抱き心地はいいと思うから、御渡りよろしくね!」
「考えておく。それよりヒュイ、外に用事か?」
私に一方的に宣言すると、ヒュイはデスクに戻り近くにかけてあった外套を羽織る。外勤があるとは聞いていないが…
「ごめん、伝え忘れてたね。ちょっと姉様達に呼ばれているから、午後からお休みもらいます」
ヒュイには上に姉が3人いる。姉達は、それぞれ嫁いでいるが母親の命日には集まっているようだ。ヒュイが今日、呼ばれたのもその関係だと思う
「分かった。御母君の命日がそろそろか。今年は私もみて墓参りに行きたいと思う」
「覚えてくれてたんだ。ありがとうシャロル。シャロルが墓参りに来てくれたら母様も喜ぶと思う」
「ヒュイは大切な友人だから、大事な日は覚えている」
「あっ!俺も覚えてるからな!何か入り用だったら、いつでも相談に乗るぞ」
「はいはい。ダンテもアリガトウ。じゃあ、今日は失礼するね」
「ああ」
ヒュイが出ていった執務室の扉が閉じるのを眺めているとダンテが私の肩に手をおく
「ボンキュッボンは、引っ込んでいる所がなきゃ、ボンキュッボンじゃないよな?」
「そうだな」
大変くだらない話を振られて、また適当に流す。きっとこれはダンテなりの気遣いだ。そしてダンテは言葉を続けた
「もし泣きたくなったら背中はいつでも貸してやるよ」
「…ああ。すまない」
ダンテはそれ以上、何もいわなかった。静かな沈黙が部屋に立ち込める。
扉は閉じられ、向こう側から人の気配はしない。私達の言葉は彼には届いていないだろう。
そんなとき、重苦しい沈黙を破るように扉がノックされた。
「なんだ」
「殿下ご報告がございます」
報告の内容を聞き、私とダンテは部屋から駆け出した。
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