今日もまた孤高のアルファを、こいねがう

きど

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第二十一話

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「体調は大丈夫だから、一回離れて。カリーノ様が見てるから、な?」

シャロルの腕を解こうとしても、何故かガッチリホールドされて離れない。

「シャロル殿下、リディが嫌がってるから離してさしあげたら?」

「リディは嫌がってはいない。照れているだけだ。それよりカリーノ、まさかと思うがリディに余計なことを話してはいないよな?」

「余計なことって何かしら?恋人に振られたあなたが、自暴自棄になってオメガの園ここを作ったことかしら?それとも…」

「うん。わざと言っているな」

ワクワクした様子で言うカリーノ様の言葉を遮るように、シャロルは溜め息を吐き呟く。
カリーノ様は可愛くてシャロルに従順なタイプかと思っていたが、実はそうではなかったようだ。

「カリーノ様、殿下に対してあまり言葉が過ぎますよ。誰にだって秘密にしておきたい過去が一つや二つあるんですから、その辺にしてみては」

「あら、シャロルの肩を持つのね。それなら、アルヴィも私に秘密しておきたい過去があるってことなのかしら?」

やはりカリーノ様の諌めるのはアルヴィさんの役目のようだ。でも、カリーノ様はというと、アルヴィさんの言葉の端にひっかかり、ムクれている。

「そんなもの、もう無いですよ。一番隠しておかなきゃいけなかったことは、もう随分と前に貴方に知られてしまいましたから。ね、カリーノ様」

アルヴィさんがカリーノ様の前で片膝をつき、顔を覗きこんで、何か含みのある言い回しをする。俺たちには、何のことか全く検討がつかないが、カリーノ様には分かったようで、みるみる顔を赤くした。

「そうね。そうよね!もぉ、アルヴィのせいで変な汗かいちゃったわ!お風呂入りたいから、準備をお願い」

「はい。準備してきますね」

カリーノ様はアルヴィさんに、そう伝えるとアルヴィさんはテキパキとお風呂の準備に取り掛かる。

「あとシャロル、頼まれていたものは、これでいいかしら?」

「あぁ。すまない、助かる」

カリーノ様はシャロルにピンクの便箋を渡す。シャロルは言葉少なに、それを受け取ると胸元にしまう。

「シャロルの寵妃役もあと少しだと思うと、寂しく感じるわ。うまくいくこと願っているから」

「あのっ…寵妃役があと少しって、どういうことですか?」

カリーノ様の発言に驚き、二人の間に割って入る。

「そのままの意味よ。私はシャロルの目的が達成されたら、寵妃の役目から解放されるの」

「シャロルの目的…」

「詳しくはシャロルに教えてもらって。私はお風呂の準備しなくちゃ。あ、あと、シャロル。数日後に発情期が来る予定だから、その時まだ寵妃だったら御渡りをお願いね」

「分かった。その時には、いつも通りカリーノの部屋ここに来る」

「はーい。そういえば、シャロル今日は、ここで泊まる予定よね?あの部屋は二人で好きに使って」

「ああ。分かった」

「それじゃあ、リディ。おやすみなさい」

「あ、おやすみなさい」

シャロルとの会話が終わるとカリーノ様は幾分早い、就寝の挨拶をする。これは今日の仕事はおしまいという合図だ。お風呂に向かったカリーノ様の姿が見えなくなると、俺はシャロルの腕を解いて立ち上がる。

「俺は部屋に戻らなきゃだけど、その前にさっきカリーノ様と話してた内容について教えて」

「分かったが、リディ、部屋に戻るとは?」

シャロルが頓珍漢なことをいいだす

「俺は使用人用の部屋があるから、そっちに戻らなきゃ」

「あぁ、そのことか。リディにはしばらく、カリーノの部屋に滞在してもらう。もちろん、このことはカリーノも了承済みだ」

「はぁ⁈なんで?」

「使用人用の部屋では、リディに何かあったときに私が駆けつけることができない。その点ここなら、私が通っていても不自然ではないだろ」

「そうだけどさ…さすがに、カリーノ様に申し訳ないよ…」

「なぜ、カリーノに申し訳ないんだ?」

「仮にもシャロルの寵妃を演じてくれてるのに、当のシャロルが使用人おれにうつつを抜かしてるんじゃ、なんか悪いじゃん」

「あぁ、それなら問題ないぞ。カリーノもアルヴィと仲良くしているみたいだから」

「え⁈やっぱり、あの二人ってそうなの?」

シャロルの衝撃発言に思わず大きな声が出る。

「ああ。カリーノが寵妃を辞めるのも、それが理由だ」

「それって、アルヴィさんと一緒になりたいってこと?」

「そうだ。母国にいた頃は、カリーノにそんな気持ちは全くなかったみたいだが、アルヴィがカリーノをここまで追いかけてきた熱意に絆されたらしい。」

そういえば前に聞いたことがある。カリーノ様がシャロルの番になった頃すぐ、アルヴィさんは母国での地位を全て捨ててカリーノ様のもとに来たって。それを話してたオメガの使用人は、
「地位も全て投げ捨てて、カリーノ様に人生を捧げるなんて、アルヴィさんの愛を感じる」とか言ってた。

「地位を全て投げ捨てて来るって、相当な覚悟だよな…」

「そうだな。それでいてカリーノに振られたら目も当てられなかったな」

「うわっ。不吉なこというなよ」

「リディは…」

「ん?」

「リディは、もし私が今の地位を全て投げ捨てたら、私に呆れるか?」

シャロルがらしくもなく不安そうに聞いてくる。

「なに今更なこと言ってるんだよ。俺は、別にシャロルが王子だから好きになったんじゃない。言葉が少し足りないとことか、何度も諦めずに口説いてくるとことか、何より身分で人を判断しないシャロルだから好きになったんだよ。今更、王子じゃなくなったくらいで嫌いになんてならない…うわっ」

「リディ、ありがとう。愛してる」

俺が言い終わる前にシャロルにきつく抱きしめられた。

-やっぱり、もう大丈夫だ

番ができたばかりの頃はシャロルに抱きしめられただけで拒絶反応がでて、それがショックで仕方なかった。こんなに悲しい気持ちになるならいっそ、出会わなければ良かったと、あの時は本当に思ってしまった。

「あのさ、シャロル…」

「なんだ?」

「俺、シャロルの誕生日のとき、『出会わなければよかった』なんて、酷いこと言ってごめん。俺さ、シャロルと出会わなかった人生なんて、もう考えられない」

「私もだ。リディがいない人生なんて考えられない。リディ、もっと触れてもいいか?」

俺が黙って頷くとシャロルは、俺を横抱きにして、さっきまで俺が眠っていたゲストルームに連れていったのだった。





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