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第二十話
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「愛の証だって周りから言われているわ
だけど、私とシャロルの何を知って言っているの?と思うの」
「本当は何も知らないのに、分かっている情報から知ったつもりになるのかもしれません。実際、このオメガ棟にシャロルが来るのはカリーノ様の発情期のときだけですから、シャロルがカリーノ様を寵愛しているって思うのは自然な気がします」
自分で言った言葉に傷ついて胸が痛み、嫉妬の感情が渦巻く。
「すごい的確な分析だね」
アルヴィさんが感心したように言う。
「いえ、そんな。経験したことを少し話しただけで」
「そうなの。じゃあ、リディ、あなたは私の首筋の噛み跡は、どっちだと思う?」
「俺は…愛の証じゃなくて、枷であって欲しいと、どうしても思ってしまいます。シャロルが他の誰かを寵愛しているなんて…やっぱり嫌なので」
俺のちっぽけな願望を聞いたカリーノ様は、今までの真剣な表情から一変し笑顔をこちらに向ける。不機嫌になるならまだ分かるが、何故笑顔になるのかが分からなくて、若干不気味にさえ思えた。
混乱している俺をよそにカリーノ様は
「シャロルが私を噛んだ理由を知ってる?」
と俺に聞いてきた。
カリーノ様はシャロルに見初められて番になったこと以外、俺は何も知らない。
「理由は聞いたことがありません」
俺が素直に答えると、カリーノ様は
「あら、やっぱり、まだ話してないのね」と小さく呟いて、何かを閃いた様子でニコニコと満面の笑みをこちらに向ける。カリーノ様の情緒が全く読めない俺は、次にくる言葉に備える。
「シャロルがね、私を噛んだ理由は簡単にいうと人違いなの」
「人違い?それって、本当はカリーノ様以外と番になろうとしていたってことですか?」
シャロルが番になりたかった人物がいたことに衝撃を受けた。俺は離れている間のシャロルのことを知らないのだと思い知らせる。人違いで番になったカリーノ様でさえ、こんなに寵愛しているのだから、本当に番になりたかった相手には、もっと…。シャロルは、その人より俺を選んでくれるだろうか。
「そうよ。わたしのフェロモンに当てられて、衝動的に噛んでしまったって言ってたわ。オメガのフェロモンに耐性のある、あのシャロルが。でも、よくよく理由を聞くと、私のフェロモンの香りが、忘れられない恋人のフェロモンと似た香りだったから本能的に噛んだみたいなの」
「忘れられない恋人…」
「蜂蜜のような甘い香りがするってシャロルに言われたことあるでしょ?私達のフェロモンは香りが似ているんだって。自分たちじゃ全然分からないけど」
「それって…」
カリーノ様の話から一つの結論に辿り着いたが、それはあまりにも自分に都合がよすぎる気がして
「シャロルは、私をリディだと勘違いして、番にしたの。私を噛んだときには、あなたにはもう番がいたはずだけど、フェロモンの香りで理性が吹き飛んでたんでしょうね」
「俺と間違えた…」
「ええ。シャロルが番に望んでいるのは、昔も今もリディ、あなただけ」
だから私は偽物の寵妃なのよ。と言うカリーノ様の表情は晴れやかだった。
「話してしまって、よろしかったのですか?殿下に叱られますよ」
アルヴィさんがカリーノ様を案じるように言う。
「いいのよ!叱るって言っても、番になった経緯を、まだ話していなかったシャロルが悪いのよ。あぁ、話せてスッキリした!部屋の中でも寵妃を演じるの大変だったのよ」
偽物の寵妃や、寵妃を演じるといった予想外の言葉が次々出てきて、頭の整理が追いつかなくなる。
「じゃあ、あのっ、カリーノ様はシャロルを愛しては…」
「私達は互いに性愛の感情はないわ。番になって以降、シャロルとそういった関係もないの。シャロルはリディを一途に思い続けていたから、安心して」
カリーノ様はさらりと話すが、それなら発情期の時はどうしていたんだろう。カリーノ様の発情期のときにシャロルは部屋に来ていたはずだし。
「もしこれ以上、何か聞きたいことがあるなら、それは私じゃなくてシャロルに聞いた方がいいわ。執務が終わったら、すぐにここに来るだろうから。今朝だって、あなたの側を中々離れなかったから、執務に行かせるの大変だったのよ」
「そうだったんですか」
朝にそんなことになっていたなんて、全然知らなかった。
「それよりも、さっきは意地悪しちゃってごめんなさいね。もし、あの程度で音をあげるようならシャロルには諦めるよう言うつもりだったの」
カリーノ様が言った内容にギョッとする。
今まで、試されていたということか。だから、あんなに情緒の振れ幅があったのかと納得した。
「それは、どうしてですか?」
「身分違いの恋愛は、ただでさえ障害が多いのよ。それでシャロルは王太子でしょ?周りからの妨害ややっかみが通常の比じゃないわ。寵妃の立場でも、そうだったから、恋人なら尚更そう。だから、リディ。あなたは、シャロルに愛される覚悟を持ちなさい。どんな障害が立ちはだかっても、シャロルと乗り越えるっていう意思を」
「はい。何があっても、もう二度とシャロルの側から離れないって決めたので」
「それなら、安心して私は寵妃を引退できそうね。ねぇ、アルヴィ」
「そうですね。そうしたらこの窮屈な生活とももう少しでおさらばですね」
カリーノ様とアルヴィさん、互いに見つめる目は、いつもより熱がこもっていた。
「あのっ、もしかして、二人は…」
「…リディ、体調はもう大丈夫か?」
俺の質問は、いつの間にか部屋に入ってきたシャロルに後ろから抱きしめられたせいで、聞くことは出来なかった。
だけど、私とシャロルの何を知って言っているの?と思うの」
「本当は何も知らないのに、分かっている情報から知ったつもりになるのかもしれません。実際、このオメガ棟にシャロルが来るのはカリーノ様の発情期のときだけですから、シャロルがカリーノ様を寵愛しているって思うのは自然な気がします」
自分で言った言葉に傷ついて胸が痛み、嫉妬の感情が渦巻く。
「すごい的確な分析だね」
アルヴィさんが感心したように言う。
「いえ、そんな。経験したことを少し話しただけで」
「そうなの。じゃあ、リディ、あなたは私の首筋の噛み跡は、どっちだと思う?」
「俺は…愛の証じゃなくて、枷であって欲しいと、どうしても思ってしまいます。シャロルが他の誰かを寵愛しているなんて…やっぱり嫌なので」
俺のちっぽけな願望を聞いたカリーノ様は、今までの真剣な表情から一変し笑顔をこちらに向ける。不機嫌になるならまだ分かるが、何故笑顔になるのかが分からなくて、若干不気味にさえ思えた。
混乱している俺をよそにカリーノ様は
「シャロルが私を噛んだ理由を知ってる?」
と俺に聞いてきた。
カリーノ様はシャロルに見初められて番になったこと以外、俺は何も知らない。
「理由は聞いたことがありません」
俺が素直に答えると、カリーノ様は
「あら、やっぱり、まだ話してないのね」と小さく呟いて、何かを閃いた様子でニコニコと満面の笑みをこちらに向ける。カリーノ様の情緒が全く読めない俺は、次にくる言葉に備える。
「シャロルがね、私を噛んだ理由は簡単にいうと人違いなの」
「人違い?それって、本当はカリーノ様以外と番になろうとしていたってことですか?」
シャロルが番になりたかった人物がいたことに衝撃を受けた。俺は離れている間のシャロルのことを知らないのだと思い知らせる。人違いで番になったカリーノ様でさえ、こんなに寵愛しているのだから、本当に番になりたかった相手には、もっと…。シャロルは、その人より俺を選んでくれるだろうか。
「そうよ。わたしのフェロモンに当てられて、衝動的に噛んでしまったって言ってたわ。オメガのフェロモンに耐性のある、あのシャロルが。でも、よくよく理由を聞くと、私のフェロモンの香りが、忘れられない恋人のフェロモンと似た香りだったから本能的に噛んだみたいなの」
「忘れられない恋人…」
「蜂蜜のような甘い香りがするってシャロルに言われたことあるでしょ?私達のフェロモンは香りが似ているんだって。自分たちじゃ全然分からないけど」
「それって…」
カリーノ様の話から一つの結論に辿り着いたが、それはあまりにも自分に都合がよすぎる気がして
「シャロルは、私をリディだと勘違いして、番にしたの。私を噛んだときには、あなたにはもう番がいたはずだけど、フェロモンの香りで理性が吹き飛んでたんでしょうね」
「俺と間違えた…」
「ええ。シャロルが番に望んでいるのは、昔も今もリディ、あなただけ」
だから私は偽物の寵妃なのよ。と言うカリーノ様の表情は晴れやかだった。
「話してしまって、よろしかったのですか?殿下に叱られますよ」
アルヴィさんがカリーノ様を案じるように言う。
「いいのよ!叱るって言っても、番になった経緯を、まだ話していなかったシャロルが悪いのよ。あぁ、話せてスッキリした!部屋の中でも寵妃を演じるの大変だったのよ」
偽物の寵妃や、寵妃を演じるといった予想外の言葉が次々出てきて、頭の整理が追いつかなくなる。
「じゃあ、あのっ、カリーノ様はシャロルを愛しては…」
「私達は互いに性愛の感情はないわ。番になって以降、シャロルとそういった関係もないの。シャロルはリディを一途に思い続けていたから、安心して」
カリーノ様はさらりと話すが、それなら発情期の時はどうしていたんだろう。カリーノ様の発情期のときにシャロルは部屋に来ていたはずだし。
「もしこれ以上、何か聞きたいことがあるなら、それは私じゃなくてシャロルに聞いた方がいいわ。執務が終わったら、すぐにここに来るだろうから。今朝だって、あなたの側を中々離れなかったから、執務に行かせるの大変だったのよ」
「そうだったんですか」
朝にそんなことになっていたなんて、全然知らなかった。
「それよりも、さっきは意地悪しちゃってごめんなさいね。もし、あの程度で音をあげるようならシャロルには諦めるよう言うつもりだったの」
カリーノ様が言った内容にギョッとする。
今まで、試されていたということか。だから、あんなに情緒の振れ幅があったのかと納得した。
「それは、どうしてですか?」
「身分違いの恋愛は、ただでさえ障害が多いのよ。それでシャロルは王太子でしょ?周りからの妨害ややっかみが通常の比じゃないわ。寵妃の立場でも、そうだったから、恋人なら尚更そう。だから、リディ。あなたは、シャロルに愛される覚悟を持ちなさい。どんな障害が立ちはだかっても、シャロルと乗り越えるっていう意思を」
「はい。何があっても、もう二度とシャロルの側から離れないって決めたので」
「それなら、安心して私は寵妃を引退できそうね。ねぇ、アルヴィ」
「そうですね。そうしたらこの窮屈な生活とももう少しでおさらばですね」
カリーノ様とアルヴィさん、互いに見つめる目は、いつもより熱がこもっていた。
「あのっ、もしかして、二人は…」
「…リディ、体調はもう大丈夫か?」
俺の質問は、いつの間にか部屋に入ってきたシャロルに後ろから抱きしめられたせいで、聞くことは出来なかった。
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