今日もまた孤高のアルファを、こいねがう

きど

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第十八話

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『シャロルと出会わなければ良かった』

俺が声高に放った言葉に相手は傷ついた表情をする。

-ちがう!ちがうんだ!シャロル!俺は…

自分から傷つけたくせに弁明しようとするが、声がでない。傷つけた相手の顔が涙でにじみよく分からなくなり

「はぁっ…はぁっ」

目が覚めた。

薄暗いなか見える天井は、豪奢なつくりをしていて、自分の部屋でないことにすぐ気付く。体を起こそうとしたら、グラリとめがまわっ、そのままベッドに倒れこんだ。枕に思いきり頭が沈み込む。その時にフワリとシャロルの香りがした。その香りで、また思考が悪夢の方へ戻る。

-もうシャロルの誕生日あの日は過ぎたじゃないか。…シャロルはまだ俺を愛してるって言ってた。

手の甲で目元を覆い、大きく息を吐く。そうしているうちに半覚醒だった意識がはっきりしてきた。それと同時に、何とも言い難い不調に襲われる。何とかして不調を逃そうとしていると、ノックの音がした後すぐ、誰かの足音が近づいてくる。

「リディ大丈夫か⁈」

「もしかしたら拒絶反応がまだ続いているのかもしれません。すぐに薬を持ってきます」

心配そうに俺に駆け寄ってきたシャロルにアルヴィさんが諭すように言い、すぐに踵を返す。
シャロルは不安そうな顔をして、俺の額に張り付いた前髪を指ですく。

「シャロル…」

「すまない。無理をさせたな」

自分の声かと疑う程に枯れた声でシャロルの名前を呼ぶと、シャロルは応えるように俺の額に自分の額をくっつける。シャロルの体温に、悪夢でささくれだっていた心が落ち着いてくる。

「殿下…お薬をお持ちしました」

「あぁ。アルヴィ、後は私が対応する」

シャロルは俺から体を離すとアルヴィさんからティーセットを受け取ると、言葉少なく伝える。

「わかりました。何かあればすぐお呼びください」

そう言うとアルヴィさんは静かに部屋から出ていった。シャロルはティーポットの中身をカップに移し、俺の上半身を抱き上げる

「リディ飲めるか?」

「ん…」

カップの中身を口に含むと、雑草の香りと苦味が口中に広がる。これは飲んでいいものなかと疑うレベルだった。ただでさえ体調が悪いのに、こんなもの飲めやしない。まだ中身が入ったカップをシャロルに返す。

「不味いか…。この薬湯の効果は間違いないとアルヴィが言っていた。だから飲んでくれないか?」

シャロルが背中を撫で諭すように言ってくるが、俺は無言で首を振る。
何度かそんなやりとりをしいたら、シャロルの方が痺れを切らし俺の手からカップを取る。その中身を口に含むと、俺の顎をすくいあげ口移しで薬湯を流し込まれた。

「ふっ…んんっ…うっ」

暴れて抵抗するも、全く効果はなく結局カップの中身がなくなるまで繰り返された。

「はぁっ…はぁっ…ひどいっ」

「確かに、これは酷い味だな」

「ちがっ…もういいっ…寝る」

ただでさえ悪かった体調が、あの謎な薬湯とシャロルとの押し問答のせいで、さらに悪くなった気がした。なかば八つ当たりのように良い、シャロルに背を向け寝転ぶ。

「体調が悪いのに、すまなかった。あれは不味いが、効果があるとカリーノが言っていた」

-なんで、そこでカリーノ様が出てくるんだよ

シャロルが俺の頭を撫でながら言った内容にイラついたが、反論する気力が残っていなかったので、そのまま目を閉じた。シャロルは俺が眠るまでずっと側にいて、俺は背中にベッドサイドに座るシャロルの温もりを感じながら微睡に落ちていった。

* * *
次に目が覚めた時には部屋はすっかり明るくなり、窓の外からは使用人達が洗濯ものを広げながら談笑する声が聞こえる。

「……。やばいっ寝坊だ」

もうとっくに起きる時間を過ぎていることを察し急いでベッドから降りた時に、はたと思い至る。

-そもそもここはどこなんだ?

昨晩、看病…らしきことをしてくれたシャロルの姿は、今は見当たらない。アルヴィさんが出入りしていたドアを慎重に開く。その隙間から外の様子を確かめると、二つの人影。片方が俺の存在に気づいて声をかけた。

「リディ、体調はどう?」

アルヴィさんはいつもと変わらない調子だ。
言われてみれば、昨晩起きた時よりも体調は大分マシになっていた。

「だいぶ、良くなりました…あの、こんな時間まですみません」

ドアを開いた先はカリーノ様の私室、つまり俺が寝ていた部屋はゲストルーム代わりの寝室という訳だ。

「体調良くなって良かったわね…寝坊なんて、丸2日も寝ていたんだから、気にしないわ。それよりもリディ」

部屋の中央に置かれたソファに腰掛けたカリーノ様は普段からは考えられない程に冷たい声だ。俺はカリーノ様のただならない雰囲気に生唾を飲み込む。

「私に何か言わなくちゃいけないことがあるんじゃないの?」

俺を射抜いたカリーノ様の瞳は静かな怒りをたたえていた。
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