今日もまた孤高のアルファを、こいねがう

きど

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第十二話

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「言いたくない訳じゃなくて、後半部分は噂の通りなので、俺から話すことはありません。」

「それは、君が殿下を裏切って他のアルファと番ったってことは、事実ということでいいの?」

 俺が望んだかは別にして、シャロル以外と番になってしまったのは紛れもない事実。現に俺の頸にはシャロルじゃないアルファの噛み跡がある。
 みんなが知りたいのは、俺がシャロルを裏切ったということだけ。相手が誰かなんて大して興味はないんだ。

「はい。あの、話を聞いていただいて、ありがとうございました。あの、俺…僕の素性はここだけの話でお願いします。ハルバー侯爵から、リーテと名乗り素性は隠すように指示を受けているので…」

 感情に流され素性を隠すことなく昔の話をしてしまったが、本来は許されないことだ。なのでアルヴィさんに念の為の口止めをする。多分、そんなことしなくても、他人の情報を吹聴する人ではないと思う。
 でもオメガの園ここには、あいつの関係者もいる。そいつらに知られるわけにはいかないんだ。

「うん。もちろん口外なんてしないから安心して。君に素性を隠すように指示したのにも、何か理由があるのだろうし。君の話を聞く限り、殿下が君に何か思う所があっても仕方ないし」

「何か思う所って、何度も言いますが、シャロル…殿下は俺のことなんて…。カリーノ様を大切な番って言ってましたし」

 正室の件は敢えて伏せたが、自分で言った言葉に傷つく。

「あぁ、君が愛しいとかのプラスの感情じゃなくて、裏切られた絶望感とか恨みのマイナスの感情の方かな。そうじゃなきゃ、昔の恋人を自分の番の使用人にするなんて考えられないからさ」

 アルヴィさんにそう言われ喉が窄まり息が詰まる。今の今まで、シャロルに恨まれている可能性を考えていなかったのだ。

「恨んでいるのに、俺をカリーノ様の使用人にする方が不自然じゃないですか?俺なら、嫌いな奴の顔なんて見たくないから、近づきもしないですよ」

「自分を振った相手に復讐する一番の方法って何だと思う?」

 復讐?だいぶ、物騒な話になってきた

「復讐なら、同じことを相手にし返すのが一番じゃないですか?」

「あぁ、ヨリを戻してこっ酷く振るって方法もあるよね。でも今回は、ーーーーー」

 アルヴィさんの言葉に俺は喉が窄まり、息苦しくて仕方なかった

 * * *
「リーテ、これもお願い」

「おう!にしても、全部黄色の花なんだな」

アルヴィさんに過去を話してから早数日。午前の太陽の日差しが柔らかく降り注ぐ、中庭の一角で俺たちは花の植え替えをしている。
そして植え替える花が全て黄色だったので、不思議に思い聞いたのだ。

「あぁ、それはシャロル殿下をイメージしているからね」

「殿下を?」

 俺は何故かサージャの答えに違和感を感じ聞き返す。
 黄色といえば、爛漫としたイメージだが、シャロルはそれに当てはまらない気がしたからだ。

「うん。殿下のお髪が金だから、それに近い黄色の花。あとは、人目を惹く孤高さを姫君はイメージしたみたいだよ」

「あぁ、言われれば確かに。そんでサージャのとこの姫君の熱量が、この花の量なんだな…」

 サージャの説明を聞いて腑に落ちたが、植え替えをする花の量を見てげんなりしてしまうのは仕方ないだろう。なんたって、中庭のテーブルセットから一望できる範囲全てを植え替えしなきゃいけないだから。
 さすがに、俺とサージャだけでは明日の午後までに間に合いそうもないので、庭師や他の部屋の使用人にも手伝って貰っている。

「殿下と初めて顔を合わせるから、だいぶ張り切ってるんだよね。ティーセットを割ったのがリディで良かったよ。他の使用人だったら、こんな機会はなかっただろうし」

 先日のティーセットの件は、サージャの姫君主催のお茶会にカリーノ様がシャロル同伴で出席することで、話がまとまったのだ。

「カリーノ様には申し訳ない気持ちはあるけど、サージャの姫君だって、殿下に会ってみたいよな。それにしても、殿下のために、ここに集められたんだから一度くらいは姫君達に会いに行こうと殿下は思わないのかな」

 俺の失敗の尻拭いをカリーノ様にしてもらうことが非常に申し訳ないと思うが、それよりもオメガの園ここにいる姫君達がシャロルに一度も会ったことがないというんだから驚きだ。やはりカリーノ様は他の姫君と違って特別ということなのだろう。

「それはさ、ここの姫君達のバックには貴族がついているから、そういった力関係も絡んでるんじゃないかな。実際、カリーノ様の後ろ盾のハルバー侯爵は殿下の右腕だしさ」

「そうなんだ。俺には難しい話は分かんないや」

 サージャのとこのエイメ侯爵だって、シャロルの側近のはずだ。でも、その姫君はシャロルに会ったことがないのだから、カリーノ様の寵愛はシャロルの気持ちとしか言いようがない。苦い現実をみたくなくて、話を切り上げた。

「ふふ。リーテらしい」

 そう言って柔らかく微笑むサージャの顔には、まだ眼帯がつけられている。

「あのさ、サージャ。こんなこと言うの失礼かもしれないけど、番に乱暴に扱われてない?」

 軍手を脱いでサージャの眼帯に触れる。サージャの体はビクリと跳ねる。

「これは番にやられたんじゃなくて、僕の不注意でできた傷だから。心配してくれて、ありがとう」

サージャはやんわりと拒絶するように俺の手を掴む。触れた手は異様に冷たくて、サージャの手を握り返そうとした時

「こんな所で、何をしている?」

聞き慣れた声が、酷く不機嫌な様子を隠すことなく聞いてきた。
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