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第四話
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「あのカリーノ様は、まだ眠っていらっしゃいますか?」
シャロルはバルコニーから移動し、席につく。側を通ったシャロルからは石鹸の匂いがほのかに香る。その香りは、シャロルがこの部屋で何をしていたかを俺に教える。
「アルヴィが風呂に入れている。あと少ししたら来るはずだ」
「そうですか。あの…」
カリーノ様のことを淡々と話すシャロル。その内容に疑問を抱いたが、言葉にする直前で思い止まった。だって俺には口出しする権利なんてない。
「なんだ?」
「すみません。何でもありません」
「途中で言いかけて辞めただろう?言え」
腰掛けたシャロルが立っている俺を見上げ、語気を強める。
「では、差し出がましいようですが、殿下は、他の男がカリーノ様のお風呂の世話をすることに何も感じないのですか?」
「王族や貴族が使用人に身の回りの世話を任せるのは普通だから、何も感じないな。それとも…」
シャロルの言う通り、王侯貴族が身の回りの世話を使用人にしてもらうのは普通のことだ。でも着替えや風呂の世話など、肌を露出させるものは同性の使用人がすることが一般的なはずだ。それにカリーノ様はシャロルが求めたから番になったんじゃないのか?
シャロルが目をすがめ、声をワントーン落とす。見透かす様な視線を向けられ、胸がざわめく。
「情事の後に私がお前の世話をしていたのは、お前が特別だったから」
シャロルの言葉にドクリと脈打ち胸が痛くなる。でも言葉とは裏腹に口調は相変わらずで俺に向けられた視線は冷たい。
「と、言って欲しいのか?」
シャロルが続けて放った言葉で、早鐘のようにドキドキと高鳴った心が一瞬にして冷えていく。何を期待してたんだか。
「…ち、違いますっ!そうではなく、カリーノ様の裸を他の男に見られて平気なんですか?」
「別に構わない。言いたいことはそれだけか?」
シャロルに即答され、裏切られた気分になる。勝手なのは重々承知だ。でも、カリーノ様を愛していると言ってくれたら、未練がましくシャロルを想う気持ちに蓋をできたのに。だからか無性にシャロルを困らせたくなった。
「殿下はカリーノ様を寵愛しているから番にしたと、巷では噂されてますが、それなら何故アルファの姫君と婚約されるのですか?」
こんなの八つ当たりだ。みっともない。と分かっているが、もう止められなかった。
「どこでそれを聞いた?」
「この離宮の使用人は皆、知ってますよ」
シャロルが眉間に皺を寄せて聞く。
シャロルの婚約については、先日、サージャが使用人達に確かな情報として伝えていたからだ。シャロルがすぐに否定しないあたり、この情報は事実なのだろう。
「そうか。ならばお前は何故だと思う?」
質問を質問で返され、俺は苛立ちムッとする。
「…それが王族…殿下の努めだからですか?」
「半分は正解だな。それにしても、そんなに嫌そうな顔をするなら、初めから聞かなければいいだろう」
「半分…残り半分は一体?」
シャロルが姫君と婚約する理由が他に思いつかなかった。俺がポツリと呟いたのを聞いてシャロルが綺麗に微笑む
「それは…」
シャロルはバルコニーから移動し、席につく。側を通ったシャロルからは石鹸の匂いがほのかに香る。その香りは、シャロルがこの部屋で何をしていたかを俺に教える。
「アルヴィが風呂に入れている。あと少ししたら来るはずだ」
「そうですか。あの…」
カリーノ様のことを淡々と話すシャロル。その内容に疑問を抱いたが、言葉にする直前で思い止まった。だって俺には口出しする権利なんてない。
「なんだ?」
「すみません。何でもありません」
「途中で言いかけて辞めただろう?言え」
腰掛けたシャロルが立っている俺を見上げ、語気を強める。
「では、差し出がましいようですが、殿下は、他の男がカリーノ様のお風呂の世話をすることに何も感じないのですか?」
「王族や貴族が使用人に身の回りの世話を任せるのは普通だから、何も感じないな。それとも…」
シャロルの言う通り、王侯貴族が身の回りの世話を使用人にしてもらうのは普通のことだ。でも着替えや風呂の世話など、肌を露出させるものは同性の使用人がすることが一般的なはずだ。それにカリーノ様はシャロルが求めたから番になったんじゃないのか?
シャロルが目をすがめ、声をワントーン落とす。見透かす様な視線を向けられ、胸がざわめく。
「情事の後に私がお前の世話をしていたのは、お前が特別だったから」
シャロルの言葉にドクリと脈打ち胸が痛くなる。でも言葉とは裏腹に口調は相変わらずで俺に向けられた視線は冷たい。
「と、言って欲しいのか?」
シャロルが続けて放った言葉で、早鐘のようにドキドキと高鳴った心が一瞬にして冷えていく。何を期待してたんだか。
「…ち、違いますっ!そうではなく、カリーノ様の裸を他の男に見られて平気なんですか?」
「別に構わない。言いたいことはそれだけか?」
シャロルに即答され、裏切られた気分になる。勝手なのは重々承知だ。でも、カリーノ様を愛していると言ってくれたら、未練がましくシャロルを想う気持ちに蓋をできたのに。だからか無性にシャロルを困らせたくなった。
「殿下はカリーノ様を寵愛しているから番にしたと、巷では噂されてますが、それなら何故アルファの姫君と婚約されるのですか?」
こんなの八つ当たりだ。みっともない。と分かっているが、もう止められなかった。
「どこでそれを聞いた?」
「この離宮の使用人は皆、知ってますよ」
シャロルが眉間に皺を寄せて聞く。
シャロルの婚約については、先日、サージャが使用人達に確かな情報として伝えていたからだ。シャロルがすぐに否定しないあたり、この情報は事実なのだろう。
「そうか。ならばお前は何故だと思う?」
質問を質問で返され、俺は苛立ちムッとする。
「…それが王族…殿下の努めだからですか?」
「半分は正解だな。それにしても、そんなに嫌そうな顔をするなら、初めから聞かなければいいだろう」
「半分…残り半分は一体?」
シャロルが姫君と婚約する理由が他に思いつかなかった。俺がポツリと呟いたのを聞いてシャロルが綺麗に微笑む
「それは…」
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