スパダリ様は、抱き潰されたい

きど

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はじまりは、あの日

38.急転直下

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「終電ないなら、駅の近くにビジネスホテルがあるからそこに泊まるといいよ。話なら後日聞くから。」

「え。あぁ、うん。じゃあ、彼も今日はホテルに泊まるのかな?」

意外にも川奈さんが良平さんにきっぱり断りを入れる。良平さんもそれは予想外だったのか、歯切れ悪く返事をして俺に視線を向け尋ねる。腕の力が緩んだ隙に川奈さんが良平さんから体を離し俺の腕に手を絡める。俺はその行動に驚くも、嬉しさが勝り川奈さんを見つめる。

「田浦くんは俺と親しい間柄だから、うちに泊まってもらうよ」

「知り合いに、親しい間柄ねぇ。じゃあ、俺はまた出直してくるよ。また連絡するから」

俺達の様子を見て、品定めする様に俺に視線を巡らせてから、川奈さんの頭を撫でる。その左手にはあるはずの指輪は無かった。川奈さんの話では、良平さんは結婚したはずじゃ…。

「既婚者が何を言ってるの」

「もう違うから。だから俺の話を聞いて。またね。」

「ちょっと、良平!」

川奈さんが良平さんの手を払ってあしらう様に言うと、良平さんがさっきまでとは打って変わり真剣な表情で川奈さんの顔を覗き込む。そして川奈さんが言葉を返す前に、足早に去ってしまう。

「断れなくてごめん」

「言い逃げみたいな感じだし、いっそのこと関わらないっていうのは?」

申し訳なさそうに言う川奈さんをフォローし、忘れられない元彼と俺が居ない場所で会って欲しくないと女々しいことを考え、それとなく誘導する。

「良平は言い出したらきかないタイプだから、それは難しいかも。」

「そっか」

「あのさ、田浦くん」

川奈さんが決めた事に恋人でもない俺が口出しなんてできない。そう思っていると川奈さんが俺の腕に縋るみたいにギュッと抱きしめる。

「ん?どうしたの?」

「俺が良平との過去ときちんと決別できたら、その時は俺の気持ち聞いて欲しいんだ」

俺を見上げる川奈さんの表情は真剣そのもので。それに過去との決別って、俺の都合よく解釈してもいいのだろうか。単純な俺は川奈さんの言葉が嬉しくなり、胸に燻る嫉妬やモヤモヤがほんの少しだけ晴れた。

「うん。もちろん」

期待する気持ちを悟られない様に川奈さんの頬にそっと手を添えた。

* * *

川奈さんのマンションの駐車場で待機していた俺の元に、川奈さんからのメッセージが入る。

『話終わったよ』

良平さんが出現してから初めての週末の今日、川奈さんと良平さんが話をすることになった。内容が色恋についてなので川奈さんの立場を考慮し場所は川奈さんの自宅になった。何と言っても川奈さんが恋愛音痴になるくらい拗らせる原因を使った相手だ。その人と二人きりにさせるのが不安で待機を申し出たら、女々しいと引かれるかと思っていたら、意外にも快諾された。俺は車から降りると不安な気持ちや醜い嫉妬を早く打ち消したくて川奈さんの元へ急ぐ。川奈さんの自宅フロアにエレベーターが止まり扉の開閉時間すらもどかしく感じる。そして扉が開くと、今一番見たくなかった顔が目に入る。

「もしかして待ってたの?」

俺を見る良平さんは勝ち誇った顔をしていて、それに違和感を感じる。

「はい。それじゃ俺はこれで」

「あのさ、男同士で付き合うってどういう事か真剣に考えたことある?」

良平さんのペースに巻き込まれる前にその場を去ろうとエレベーターから降りる。しかしすれ違う時に不意に肩を掴まれ射抜く様な視線を向けられ、俺達の関係を知っている口ぶりで言われた内容に神経が逆撫でられる。

「俺達の関係についてあなたに口を挟まれる筋合いはありません」

「それはどうかな。真斗との関係を君は親や友達に迷いなく伝えられる?俺は伝えられるし、真斗が一番望んでいることを叶えてあげられる。」

「川奈さんが望んでいること?」

俺の拒絶をものともせず話続ける良平さんの口から意外な言葉が出て思わず反芻する。

「もしかしてそんな事も分からないの?やっぱり君じゃ真斗の相手には役不足だね」

「っ!なんであなたにそこまで言われなきゃいけないんですか⁈」

「はいはい。きゃんきゃん喚かないでみっともないよ。だって、君は真斗が仕事で大変な時に何をしてあげられたの?」

「それは…」

「ほら、君は真斗が困っていても何一つ助けられない。君と真斗は生きる世界が違うってこと分かったでしょ?まぁ、俺が言うまでもないことだけどね。じゃあね。」

痛い所をつかれ反論できないことが分かっているのか良平さんはエレベーターに乗り込む。なんとか言葉を絞り出そうとしたら、扉を閉じられ反論の余地すら与えてもらえなかった。

良平さんに指摘された内容はどれも、ある意味図星だったからこそ、心に突き刺さった。でも、川奈さんに言われた訳じゃない。関係ない第三者の言葉に振り回されてはいけない。そう思っていたのに



「田浦君、もう終わりにしよう」

川奈さんから告げられた言葉に俺は耳を疑った。







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