28 / 32
27.理由
しおりを挟む
「なぜここに?」
「先日はありがとうございました。まさかここで会うとは思いませんでした!」
「…ツィーリィの知り合いなの?」
呆然と呟く彼に先日の礼を述べ再開出来たことに感激しているとリリィが訝し気に声をかける。
「知り合いってほどの間柄ではなくて、以前イザコザで揉めてしまった時に助けてもらったの」
「そうなのね。ねぇ、あなたお名前は?」
「えっと、ラールです。お二方はベラドンナ叔母さんをお尋ねですか?」
リリィは私の説明に納得してくれた様だ。もし根掘り葉掘り聞かれたらクトゥル伯爵邸での出来事を話すのは憚られたから良かった。ツルピカハゲもといミズリー侯爵の派閥の体裁を保つため、あの出来事は緘口令が敷かれているから。私がそっと胸を撫で下ろしている横で、リリィは何故か肩を震わせる。
「ふふっ。あの女をおばさんと呼ぶなんて、あなた素敵ね!」
「ああ、それは」
ラールさんに詰め寄り彼の手を取ると笑いながらそう言う。手を握りしめられているラールさんはリリィに柔らかく微笑み
「僕とベラドンナ叔母さんは親戚なんで。僕、甥っ子なんです」
「甥っ子?」
「はい。うちの父がベラドンナ叔母さんの兄になるので。そうだよねベラドンナ叔母さん。」
いつの間にか私達の後ろに立っていたシエラ子爵婦人に声をかける
「そうね。そういえば殿下はご一緒じゃないの?てっきり一緒に帰ってくるものだと思ったのだけど」
シエラ子爵婦人の口ぶりだとラールさんと殿下は一緒にたみたいだけど二人はどういう間柄なんだろう。
「殿下ならパティスリーに寄ってから直帰すると仰っておりましたよ。王宮で待っている方を喜ばせたいんでしょうね」
ぼんやり考えているとラールさんが無邪気な笑顔をこちらに向けてくる。殿下は私を喜ばせたいって勘違いしてもいいのかしら?
「まぁ、なら早く王宮に帰らなくては!と言いたい所ですが、どちらにしろ今日ここに来た事は殿下の耳に入るのですから、せめて殿下は何をしにこの屋敷に通っているのかを聞くまでは帰れません」
リリィが握るラールさんの手を強く握り、堂々とそう告げたのだった
* * *
「殿下がシエラ邸に通う理由が分かって良かったね」
「そうね!理由を聞いてお優しい殿下らしいと思ったわ」
『殿下がここに来ているのは、僕に経済や経営の知識を教えるためですよ。僕は銀行に就職できたのですが、身分が低い家庭に産まれたので、基本的な知識すら知らなくて困っていたんです。その時に殿下が家庭教師を買ってでてくれました。叔母さんの亡くなった旦那さんと殿下が親しかったので、そのご縁で、今も殿下から色々と教わっています』
ラールさんはが説明した内容を聞く限り、シエラ子爵夫人と何かある訳じゃないと、はっきり分かり安心した。
そしてリリィも安心した様できたみたいだ。往路の時は、疑心と焦りで張り詰めていた雰囲気だったが、今はそんなことなく和気藹々としている。
自領からの帰りに殿下が噂になると言っていたから、てっきりシエラ子爵とのことかと思っていたが、別のことを言っていたのかもしれない。
とりあえず今日は殿下がシエラ邸に通う理由を聞けたのが一番の収穫だが、リリィが案外押しの強いタイプだと分かったのは第二の収穫だろう。どうやら、おしとやかに周りが動いてくれるのを待つのではなく、自分からドンドン行動して解決していくタイプな様だ。前に、殿下にシエラ子爵婦人との関係を確認するのに二の足を踏んでいたのは、殿下に恋をしているから。恋は人を臆病にしてしまうみたいだ。
「ツィーリィ、こちらを見て何ニヤニヤしているの?」
「んー。リリィと友達になれて良かったと思って。行動力があって頼りになるから見習わなきゃなって」
「もう!ツィーリィは褒め上手ね」
私の素直な言葉にリリィは照れた様子で顔を扇子で隠す。可愛いなと思っていたら、突如馬車が大きく揺れた。
「え?」
「きゃっ」
シエラ子爵邸から王宮までは王都の整備された道しかないはずだから、こんなに馬車が揺れるはずがない。体勢を崩すリリィを抱き止め、頭をぶつけない様に体を丸めていると馬車が急停車する。おかしい。直感がそう訴え周囲を確認しようと顔を上げた時、馬車の扉が無遠慮に開かれる。
「おい!女が二人乗ってるぞ!」
いかつい族の風貌をした男が私達の姿を見て外にいる仲間にそう声をかける。私は背中に冷たい汗が流れるのを感じ腕の中にいるリリィをキツく抱きしめた。
「先日はありがとうございました。まさかここで会うとは思いませんでした!」
「…ツィーリィの知り合いなの?」
呆然と呟く彼に先日の礼を述べ再開出来たことに感激しているとリリィが訝し気に声をかける。
「知り合いってほどの間柄ではなくて、以前イザコザで揉めてしまった時に助けてもらったの」
「そうなのね。ねぇ、あなたお名前は?」
「えっと、ラールです。お二方はベラドンナ叔母さんをお尋ねですか?」
リリィは私の説明に納得してくれた様だ。もし根掘り葉掘り聞かれたらクトゥル伯爵邸での出来事を話すのは憚られたから良かった。ツルピカハゲもといミズリー侯爵の派閥の体裁を保つため、あの出来事は緘口令が敷かれているから。私がそっと胸を撫で下ろしている横で、リリィは何故か肩を震わせる。
「ふふっ。あの女をおばさんと呼ぶなんて、あなた素敵ね!」
「ああ、それは」
ラールさんに詰め寄り彼の手を取ると笑いながらそう言う。手を握りしめられているラールさんはリリィに柔らかく微笑み
「僕とベラドンナ叔母さんは親戚なんで。僕、甥っ子なんです」
「甥っ子?」
「はい。うちの父がベラドンナ叔母さんの兄になるので。そうだよねベラドンナ叔母さん。」
いつの間にか私達の後ろに立っていたシエラ子爵婦人に声をかける
「そうね。そういえば殿下はご一緒じゃないの?てっきり一緒に帰ってくるものだと思ったのだけど」
シエラ子爵婦人の口ぶりだとラールさんと殿下は一緒にたみたいだけど二人はどういう間柄なんだろう。
「殿下ならパティスリーに寄ってから直帰すると仰っておりましたよ。王宮で待っている方を喜ばせたいんでしょうね」
ぼんやり考えているとラールさんが無邪気な笑顔をこちらに向けてくる。殿下は私を喜ばせたいって勘違いしてもいいのかしら?
「まぁ、なら早く王宮に帰らなくては!と言いたい所ですが、どちらにしろ今日ここに来た事は殿下の耳に入るのですから、せめて殿下は何をしにこの屋敷に通っているのかを聞くまでは帰れません」
リリィが握るラールさんの手を強く握り、堂々とそう告げたのだった
* * *
「殿下がシエラ邸に通う理由が分かって良かったね」
「そうね!理由を聞いてお優しい殿下らしいと思ったわ」
『殿下がここに来ているのは、僕に経済や経営の知識を教えるためですよ。僕は銀行に就職できたのですが、身分が低い家庭に産まれたので、基本的な知識すら知らなくて困っていたんです。その時に殿下が家庭教師を買ってでてくれました。叔母さんの亡くなった旦那さんと殿下が親しかったので、そのご縁で、今も殿下から色々と教わっています』
ラールさんはが説明した内容を聞く限り、シエラ子爵夫人と何かある訳じゃないと、はっきり分かり安心した。
そしてリリィも安心した様できたみたいだ。往路の時は、疑心と焦りで張り詰めていた雰囲気だったが、今はそんなことなく和気藹々としている。
自領からの帰りに殿下が噂になると言っていたから、てっきりシエラ子爵とのことかと思っていたが、別のことを言っていたのかもしれない。
とりあえず今日は殿下がシエラ邸に通う理由を聞けたのが一番の収穫だが、リリィが案外押しの強いタイプだと分かったのは第二の収穫だろう。どうやら、おしとやかに周りが動いてくれるのを待つのではなく、自分からドンドン行動して解決していくタイプな様だ。前に、殿下にシエラ子爵婦人との関係を確認するのに二の足を踏んでいたのは、殿下に恋をしているから。恋は人を臆病にしてしまうみたいだ。
「ツィーリィ、こちらを見て何ニヤニヤしているの?」
「んー。リリィと友達になれて良かったと思って。行動力があって頼りになるから見習わなきゃなって」
「もう!ツィーリィは褒め上手ね」
私の素直な言葉にリリィは照れた様子で顔を扇子で隠す。可愛いなと思っていたら、突如馬車が大きく揺れた。
「え?」
「きゃっ」
シエラ子爵邸から王宮までは王都の整備された道しかないはずだから、こんなに馬車が揺れるはずがない。体勢を崩すリリィを抱き止め、頭をぶつけない様に体を丸めていると馬車が急停車する。おかしい。直感がそう訴え周囲を確認しようと顔を上げた時、馬車の扉が無遠慮に開かれる。
「おい!女が二人乗ってるぞ!」
いかつい族の風貌をした男が私達の姿を見て外にいる仲間にそう声をかける。私は背中に冷たい汗が流れるのを感じ腕の中にいるリリィをキツく抱きしめた。
2
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。

なにをおっしゃいますやら
基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。
エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。
微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。
エブリシアは苦笑した。
今日までなのだから。
今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる