捨て駒のはずが、なぜか王子から寵愛されてます

きど

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26.魔女と妃と婚約者

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「リリィさすがにやりすぎよ。帰りましょう」

「何を言っているのツィーリィ。殿下がお世話になっているご婦人に側妃と婚約者がに伺う事の何がおかしいのかしら?」

王都のシエラ邸の前に乗り付けた馬車の中でなんとか食い止めようと声をかければ、逆にリリィは自信満々に言い返してくる。

「行くわよ」

「あっ!リリィ」

そう言い馬車を降りるリリィを止めるのは諦め後についていくと、リリィは躊躇いなく邸宅の呼びベルを鳴らす。


使用人に客室まで案内され小ぶりなカウチにリリィと並んで座って待っていると、扉が開き、若々しいご婦人が姿を表す。

「ようこそいらっしゃいました。側妃殿下、ミズリー侯爵令嬢様。側妃殿下とお会いするのは初めてになりますね。シエラの妻のベラドンナになります。以後お見知りおきを」

「初めまして。ご丁寧にありがとうございます。ラヴェル殿下の側室のツィーリィと申します。風の知らせで聞いていた通りのお美しさで羨ましい限りです」

シエラ子爵婦人は殿下と一回り歳が離れているはずだが、彼女の容姿だけを見るとそうは見えない。それに男を惑わす色気を持っているというのも納得してしまう程に妖艶だった。艶とコシのある黒髪は前髪も全て肩口で綺麗に切り揃えられている。微笑む目元は切長で涼やかで、唇は潤っていて男性なら惹きつけられてしまうだろう。そして口元のホクロが彼女の妖艶さをさらに引き立てている。正直、リリィや周囲の話を聞いたときに一回りも歳上の彼女が相手というのが腑に落ちなかったが、本人と対面したら皆が邪推する気持ちがよく分かった。

「そんなことありませんよ。でも側妃殿下に褒めていただけて光栄です。」

「それよりもシエラ婦人、殿下は何処にいらっしゃいます?」

シエラ子爵婦人が顔の前で手を柔らかく振り謙遜する仕草が可愛いくて、第一印象とのギャップに男性はやられてしまうだろう。
そんな婦人にリリィが本題を投げかける。

「殿下ですか?」

「とぼけないでくださいな。殿下がここに頻繁に通っていることは私達の元にも届いているのですよ。この邸宅の大きさからして客室はここ一室ですよね?じゃあ、この部屋に居ないとなると、殿下はどこにいらっしゃるのかしら?」

シエラ子爵婦人が小首を傾げると、リリィがいつぞやの時と同じ様にビシリと扇を婦人に向け言い詰める。
客室に居ないということは殿下はこの邸宅に居ないか、別室つまり婦人の部屋に居ると考えざるを得ない。

この屋敷に殿下は居ませんよ」

ということはどこかに出掛けているのかしら?いつ戻られるの?」

「それは私にも分かりません」

「ここに来てわざわざ出掛けるなんて、殿下は何をしに来ているのかしら?」

「それは私の口からは言えませんので、殿下にお尋ねください」

私口を挟めるタイミングを見失い、二人の応酬を静観する。リリィが言い詰めるもシエラ子爵婦人にかわされてしまう。なんとなくシエラ子爵婦人の手の上で転がされている気がするので、魔女の通り名は伊達ではない。

「甘いお菓子で小休止されてはいかがですか?」

話が平行線になり膠着状態になった時、私達をここまで案内してくれた初老の使用人に声をかけられる。他の使用人の姿はなかったから、もしかしたらこの邸宅の使用人はこの人だけなのかもしれない。

「それもそうですね。クッキーでも持って来てください」

シエラ子爵婦人がそう答え、使用人の男性が下がろうとした。その時、邸宅の呼びベルが鳴り来客を告げる。

「殿下がお戻りになられたのかしら」

「どうですかねぇ」

「対応して参ります」

「ツィーリィ、一緒に行くわよ」

私の言葉にシエラ子爵婦人は相変わらずのらりくらりと相槌をうち、使用人の男性は来客を出迎えるため部屋を足早に去ろうとする。その後を私の腕を掴んだリリィが着いていく。大貴族の箱入り娘とは思えない程の行動力だ。そして正面玄関に着き使用人男性が扉を開くと、見覚えのある人がそこに佇んでいた。

「セバスチャン、何故ミズリー侯爵家の馬車が敷地内に停まっているんだ?」

聞き慣れた声に似た声音と健康的な小麦色の肌に黒髪、そして眼帯が特徴的なその人は、クトゥル邸で落ち込んだ私を励ましてくれた恩人だった。

彼は、使用人の男性の後ろに控える私達に気づくと驚きで目を見開いた。

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