捨て駒のはずが、なぜか王子から寵愛されてます

きど

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24.乳母

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「井戸の水を調べたら、おかしな事が分かった」

集会所から屋敷に戻るとそれぞれ役割の分かったことを共有するために実家の応接間に殿下、義兄さま、ティア、兄様に私が顔を揃えた中、義兄さまが口を開いた。

「おかしなこととは?」

「はい。北側と南側の井戸で水質が異なっておりました」

殿下に促され義兄さまが報告する

「水質が違うということは、水を引いてる場所がそれぞれ違うのか?」

「違いますねー。北側と南側に大きな川が流れているので、それぞれそこから引いてますー。」

「そうなのか。北と南で疫病の発症者数は異なるのか?」

「あくまで体感ですが、北側の方が多い気がします。最初の発症者がでたのも北側でした」

状況を整理する様に殿下が質問していけば、ティアと兄様が答え情報提供していく。
そしてそれらを聞いた殿下が合点のいった表情をすると兄様を向き直り

「ファナー男爵領とその周辺の位置関係が分かる地図はあるか?」

「あります!今持ってまいります!」

兄様は急いで立ち上がり地図を持ってくる。殿下は地図に目を落とすと

「まさか。」

小さく呟いた後に、私の方を向き直り

「ツィーリィ、明日、僕の乳母だった人の見舞いに行こうと思うのだが、一緒について来てくれないか?ぜひ、君を紹介したいんだ」

「はい!ご一緒させてください」

紹介したいと言われ嬉しくなり心がくすぐったく感じながら、迷わず返事をした。

* * *
ファナー男爵領から川の流れに沿って北上し隣の領地に入ると馬車はまっすぐ領主の屋敷を目指す。

馬車の車窓から見える街並みは、うちの領地と同じで、一際大きい集会所には人が集まっているのが見え、ここでも疫病が猛威を奮っているのがわかり驚く。疫病が流行っているのは、どうやらうちの領地だけでは無かった様だ。

領主の屋敷、ハナト子爵邸に到着すると扉の呼びベルを鳴らす。しかししばらくしても誰も出てこないので、何度か鳴らすと扉がゆっくりと開く。

「どちら様ですか?」

急いできたのだろう侍女が対応する

「第一王子のラヴェルだ。乳母だったハナト子爵婦人の見舞いに来た。」

殿下が要件を告げると、殿下の赤い瞳を確認した侍女が恭しく頭をさげ、屋敷に招き入れる。


案内された部屋には老婦人が壁に寄りかかる様にベッドの上で体を起こしていた。よく見ると顔色がだいぶ悪い。

「ラヴェルぼっちゃま…ですか?」

老婦人が殿下の姿をみて確かめる様に言う。

「ああ。久しいな、ばあや。」

「大きくなられて…」

老婦人もといハナト子爵婦人が懐かしむ様に目を細めると、涙が溜まっていく。かがむ殿下の頬を撫でようとするが、上手く動かないのか手を持ち上げるだけでも辛そうに見える。

「辛いなら無理しないでくれ。ばあや、紹介する。僕の妃のツィーリィだ。」

「まぁ、ぼっちゃまにお妃さまができたのですね。ばあやは嬉しゅうございます」

殿下に紹介され、婦人の目線が私に移り瞳に溜まっていた涙がハラハラ溢れおちる。そしてゆっくり手を動かし、涙で濡れる顔を拭う。

「初めまして。ラヴェル殿下の側室のツィーリィと申します。ハナト子爵婦人、お体はいかがですか?」

上手く手を動かせない婦人の目元にハンカチを当てる。

「あぁ、こんな老ぼれのご心配していただくなんて、なんてお優しい。体の方は、最近急激に手足が動かせなくなってきまして、自分の身の回りのこともできず情けない次第でございます。」

最後の方は悔しそうに声を振るわせながら、話す。

「ばあや、そんなことは言わないでくれ。僕は、ばあやがまだ話せる状態でいてくれてよかったと思っている。今までよく耐えてくれた」

殿下が婦人の手を握ると柔らかな光が指の隙間から漏れ出る。

「…ぼっちゃま、私なぞにお力を使っていただくなんて」

「ばあやには、将来産まれる僕の子供を見てもらいたいから、まだ元気でいてくれなきゃ困るんだ」

恐縮していた婦人は殿下の言葉を聞き破顔する。そして改めて私の方を向き

「妃殿下、ぼっちゃまは何でも器用にこなし、立ち回り方も上手ですが、魑魅魍魎がはびこる王宮の中で心許せる方は限られています。短い時間しか接してませんが、貴方様はお優しい方だと感じました。どうかお願いです。貴方様がぼっちゃまの心の拠り所となり、ぼっちゃまを支えてあげてください」

「…もちろんです」

婦人の言葉から、殿下を大切に思う気持ちがひしひし伝わってきて、躊躇いながらも返事をする。もしかしたら、私にはそれに応える資格はないのかもしれないけど、昨日民のためになりふり構わない殿下を見て支えたいと思った。それと、この人の隣に立ち続ける権利が欲しいと。

「流石、ばあやは人を見る目がある。ツィーリィは優しくて逞しい僕の自慢の妃なんだ」

殿下が自慢気に言うと隣に屈む私の腰に手を回し引き寄せ、頬にチュッとキスをする

「っ殿下!」

「まぁ、お熱いこと」

私の焦る声と、婦人の朗らかに笑う声が部屋に響く。殿下はイタズラが成功した子供の様に笑いこんな穏やかな時間がずっと続けばいいのにと心の中で密かに願った。
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