捨て駒のはずが、なぜか王子から寵愛されてます

きど

文字の大きさ
上 下
18 / 32

17.淑女の争いの結末

しおりを挟む
王宮に着くと使用人達にドレスを脱がしてもらい、すぐに湯浴みをする。
紅茶でずぶ濡れになった髪や体を一人で洗い、私室に戻ると使用人達が何やらコソコソと密談をしていた。

彼女達は私が戻った事に気づいていない様で
「これって、男性もののジャケットよね?」
「今日はお茶会って言ってたけど、本当は男と会ってたのかな?」
「ミズリー侯爵が危惧していた通りね。侯爵に報告しましょう」と口々に言う。

やっぱりここに居る使用人達も侯爵の息がかかっているのかと思うと辟易する。
先程のお茶会で虫の居所が悪かったのも災いし

「あなた達の主はミズリー侯爵なのかしら?」
と挑発的な物言いになる。

私が居る事に驚いた様子を見せるも、すぐにいつもの嫌がらせモードに戻り、一人が皆の気持ちを代弁する様に

「少なくとも貴方が主ではないのは確かです。」
と迷いなくはっきり口にする。

ここまで、きっぱり言われると逆に清々しいと思い

「あなた達の気持ちは、よーく分かりました。ここの部屋の主は私です。なので、私を主だと認められなら、暇をあげるから、今すぐ実家に帰りなさい。」と部屋にいる使用人達に命じる。

それを聞いた彼女達は表情を歪め反発心を滲ませるも、反論するものはいなかった。
使用人達との間に張り詰めた空気が流れ、互いに相手の出方を伺っていると、扉にドンドンッと忙しないノックをされ意識がそちらに向く。

扉を開けると
「至急の要件でミズリー侯爵様がお呼びです。」文官の正装を着た男性が慌てた様子で、そう告げた。

---

「お待ちしておりました、側妃殿。これまた奇抜なことをなされる。」

侯爵の執務室にいたツルピカハゲもとい侯爵が可笑しいものを見たと言わんばかりの口調で話す。何か言われると思っていたが、やはり指摘され歯嚙みする。

「使用人全員に暇をだしたもので。」
ここに部屋着で来た事を手短に説明する。
部屋着のまま行っていいものか迷ったが、使用人達にあんなことを言った手前、外出着の着付けをやらせる訳にもいかず、結局部屋着で来る羽目になったのだ。

そんな私の説明にミズリー侯爵の代わりに、別の人物が私達の間に割って入ってくる。

「恥ずかし気もなく、ここまで部屋着で来るなんて、こんな下賤な方、王宮にいるべきではありませんわ。」と昼間に散々、聞いた声がする。

声のした方に目を向けると、プライドお高めガールの伯爵令嬢がふんぞり返って椅子に腰掛けていた。

彼女の隣には子爵令嬢、二人の背後には、その父親達が控えている。
侯爵の至急の要件とやらは昼間の喧嘩についてだと察し、寝不足の頭がズキズキと痛む。

「伯爵令嬢よ、気持ちは分かるが、今しばし落ち着きなさい。さて側妃殿、なぜここに呼ばれたか分かるか?」とミズリー侯爵が優越感を隠す事せずに問いかける。

ああ、このツルピカハゲは昼間の件を引き合いにし、目障りな私を王宮から排除する算段なのだろう。

さて、どうするべきかと思案していると、ノックもなく執務室の扉が開けられ

「じい、私の許可なく何をしているんだ?」
会いたいと思っていた彼が姿を現し、ミズリー侯爵に冷たく問いかけた。

- - -

「これは、殿下お戻りになられましたか。
側妃殿が何やら粗相をしたと報告を受けたので、殿下の代わりに確認をしていました。」

ミズリー侯爵は、殿下の冷たい視線や声など気にもとめていない様子だ。

「そうか。私の妃を部屋着のまま、ここに呼びつけるほどの粗相とは一体なんだ?」

部屋着のまま来たのは私の落ち度です。と口を挟める雰囲気ではなく二人のやりとりを見守るしかできない。

「なんでも伯爵邸でのお茶会で、側妃殿が、そこにいる伯爵令嬢と子爵令嬢に手を挙げた様でして。妃たる方が、その様な振る舞いをしていたら殿下の面子が潰されかねません。

ちなみに部屋着のまま来たのは、このじいも予想外でした。」

ミズリー侯爵が内容を説明し、最後に余計な一言を付け加える。

「ツィーリィ、手を挙げたというのは本当?」

侯爵の話を聞き、先ほどまでとは打って変わり柔らかい口調で問われる。

あ、初めて名前を呼ばれた。と心が跳ねるが

「…本当です。」

昼間に起こしたいざこざの説明をしなければならない事が苦しく言い淀んだが殿下に告げる。

「なんで手を挙げたんだい?」

「……」

なおも優しく聞いてくる殿下に原因を言いたくはない。
臣下が自分を侮辱してたなんて、またこの人を傷つけてしまう。
そう思い何も言えずに押し黙る。


「殿下聞いてくださいませ!側妃殿は私に平手打ちをし、子爵令嬢の手首を捻りあげたのです。この様な方、殿下の妃に相応しいとは思えません!」

私が黙って何も言えないことをいいことに、伯爵令嬢が話に割って入ってくる。
自分達の非は一切話さず、私に一方的にやられ自分達は被害者だといいたげな口振だ。

「側妃殿が何も弁明できない以上、彼女の意見に私も同意せざるを得ませんな。」

ここぞとばかりに、ミズリー侯爵も言葉を重ねる。
侯爵は勝ち誇った様に私を見る。

二人の言葉を聞いた殿下が、伯爵令嬢達の方へ視線を向ける。
その瞳は、暗殺に失敗した直後に見たものと同じものだった。

「君たちは、ツィーリィに何もしていないのに、彼女が一方的に手を出したのかい?」

「そ、そうですわ!何が側妃殿の気に触ってしまったのか皆目検討もつきませんの!」

伯爵令嬢は殿下の冷たい視線と声に怯みながらも、自分達の都合の悪い事は隠し、被害者なのだと訴える。

「そうか。分かった。」

「殿下!」

彼女の話を聞いた殿下が短い返答をすると、彼女が感激した様に声をあげ、侯爵も満足した様に頷く。

あぁ、やっぱり。ここでバッドエンドか。

何も言えない自分に対するもどかしさと、殿下に見限られた悲しみが、心の中でごちゃ混ぜになり

きっと、この後、私には処罰がくだるのね。

どこか他人事の様に思う。
でも凛とした声が、そんな私の思考を妨げた。

「では、伯爵邸から戻ったツィーリィが、なぜ紅茶でずぶ濡れになっていたのか、おしえてくれないか?」

「えっと…それはねぇ。」

殿下から予想外の質問をされ伯爵令嬢が口籠もり、子爵令嬢と顔を見合わせる。
紅茶を被ったことを、もう殿下が知っているなんて、やはり側妃付きの侍女達は口が軽い。

「殿下、側妃殿は自分が被害者に見える様に、自ら紅茶を被ったのです!」

クトゥル伯爵が娘の窮地に素っ頓狂な助け船を出すも、苦しい言い訳は殿下の琴線に触れた様で

「自分から?
伯爵邸で騒ぎを起こした後に、そんな事をしても、すぐに嘘とばれるのに?」

「それは…」

殿下に追求され、伯爵も口籠もってしまう。
これでは、私に紅茶をかけたと認めている様なものだった。
その様子を見たミズリー侯爵は呆れた様に目頭を揉む。

「つくなら、もっとましな嘘をついたらどうだ。」
殿下は不愉快そうに眉間に皺を寄せ言い放ち、

「じい、これでツィーリィへの疑いは晴れたな?」
とミズリー侯爵を冷め切った目でみる。

まさか、殿下が庇ってくれるなんて。

「はい。今回の件はお互いに手を出していたとは、私も初めて知り驚いております。」
さっきまで呆れた様子だったのに飄々と言ってのける。

「では、側妃殿、今日はあらぬ疑いをかけられ大変でしたね。お部屋に戻られてゆっくりなさってください。」
私を労わる振りをし、この話題を強制的に終わらせようとする。

「じい、私の話はまだ終わっていないが?」
殿下がミズリー侯爵にそう伝え、私の方へ視線を向けられる。

-暗殺未遂を罰するために殿下は、今回のことは不問にしたんだ。

という仮説が頭によぎり、
背筋が凍りつき、無意識に手を握りしめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

処理中です...