捨て駒のはずが、なぜか王子から寵愛されてます

きど

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13.思惑 side.ラヴェル

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side.ラヴェル

我が国のミズリー侯爵たぬきシアー侯爵きつねは互いに腹の内はみせずに、相手を出し抜く機会を見計らっていた。
陛下父上が、床を共にした踊り子に襲撃され、瀕死の状態になった事件は彼らにとって好機に他ならなかっただろう。

でも、それは彼らに限った話ではない。
僕にとっても同じだ。

狐が僕の部屋を訪ねてきたのは、父上が襲撃された報せを聞いてすぐのことだった。

「突然の訪問にも関わらず、受け入れてくださりありがとうございます」

「貴方が僕を訪ねてくるなんて珍しいから驚いた。父上が危篤のときに急ぎの用なんて、碌なことじゃなさそうだけど」

うやうやしく挨拶をしたシアー卿に、御託はいいから本題を話せと遠回しに伝える。

「酷い言われようだ。今回の取引きはあなたにとっても悪い話ではないと思いますよ」

「悪い話かどうか決めるのは貴方じゃない。それで、その話っていうのは?」

「殿下にはまだ妃が居ないので、私が紹介するご令嬢をにしていただけませんか?」

「弟の方ではなく、僕の側妃に?シアー卿が推すご令嬢を、ミズリー侯爵じいが認めるとは思えない。用件が済んだなら、もう話は終わりだ」

第二王子の後見を務めるシアー侯爵家と、僕の後ろ盾のミズリー侯爵家は王位継承を巡って対立している。対立貴族の息がかかった、ご令嬢を側妃に召し上げるなんて、じいが許すはずない。そんなこと少し考えれば分かるだろうに…。
若くして第二王子おとうとの後見になったシアー卿が持ってきた取引だから少しは期待したが、聞けば凡人でも思いつく内容でしかなかったということだ。

「この話は殿下がお決めになることであって、ミズリー侯爵に認めてもらう必要などありません。それとも、殿下は侯爵に全てを委ね何も決められない傀儡かいらいのままでよろしいのですね?」

私にあしらわれたシアー卿は引き下がらなかった。それどころか僕の痛い部分を容赦なく突いてくる。そのことに苛立ちを感じたが、ここで怒れば狐の作にまんまとハマることになる。

「傀儡…貴方には僕がそう見えているのかな?取引をしに来たというには、その内容は凡庸で僕には貴方の意図がみえないのだが?」

「ええ。私には、殿下があの老いぼれ狸の手中から逃れようともがいているように見えます。そして狸の方が殿下より一枚上手で、殿下は傀儡のように動くしかない状況になっている、違いますか?
今回の取引が成功すれば、殿下と狸の力関係を逆転させることが可能になりますよ」

シアー卿が話す内容は最もで、僕がもの心ついた時には僕の周囲はミズリー侯爵じいの息がかかったもので固められていた。僕が自分の思うままに動いても、それがじいの意思にそぐわなければ、全て握りつぶされてきた。じいの裏をかこうと動けば動くほど、僕の周りに張り巡らされた、じいの策略にどんどん嵌り身動きがとれなくなっていった。気付けば周りはじいを褒め称え、功績はじいのものになっていった。
もしシアー卿の言うことが本当なら、これは僕にとって願ってもいない機会だ。ただ、じいと対抗する、この男がなにも裏もなく、僕と取引するなんて考えられない。

「それなら、この取引は僕にとっては好都合だが貴方には何の得があるんだ?」

「私というより、我が侯爵家が第一王子と繋がりが持てることが、何よりの恩恵ですよ。これで、どちらの王子が王になっても、我が家は困りませんから」

シアー侯爵家の視点で見れば妥当な回答だが、この男がそれだけで満足するように思えなかった。

「貴方の考えは分かった。ただ、父上が危篤のタイミングで、この話はうまく出来過ぎているよな気がしてならないのだが、それは邪推しすぎか?」

「そうですね。このタイミングは疑われても仕方ありませんが陛下襲撃の事件に私は関与していません。陛下を狙った者は別にいます。
それに不躾を承知で言わせていただくと、私としては立太子前に殿下の資質を見極める良い機会が巡ってきたなと思っています。老いぼれの傀儡が王になってしまったら国のためにはなりませんから」

シアー卿は今回の取引で私が王になる器かどうか見極めるつもりのようだ。器でないと判断したら、排除してくることは目に見えたが、そのリスクを負っても、取引をする価値はあると私は感じた。

「分かった。貴方が紹介するご令嬢を私の側妃に迎え入れよう」

「ありがとうございます。では、日取りは…」

私が返事をするとシアー卿が具体的な日取りを口にする。
腹の内で何を考えているか分からない、この狐を信頼した訳じゃない。狐が私を利用するように、僕も目的のために利用させてもらうだけだ。

* * *
シアー卿が紹介してきた、ご令嬢だからどんな子がくるのかと思えば、至って普通の子だった。特別美人とか、異性を誑かす魔性を秘めているとか、そんなことは全くないような普通の子。

-なぜ、この子が選ばれたんだ?

ツィーリィと関わり抱いた率直な感想だった。馬に乗り少し体が密着しただけで、真っ赤になるような子が選ばれたことが不思議だった。仮にも側妃として対立貴族から送り込まれてくるのなら、私を誑かすような女性がくると思っていたからだ。

でも逆に好都合だと考えた。異性に慣れていないなら、うんと優しくして僕に惚れさせてしまえば、扱いやすい駒になるはず。

そうして優しく接していたある日、ツィーリィが僕に夜伽を懇願してきた。
その時の彼女の様子は、シエラ子爵夫人の存在に心を痛めているというより、何かに怯えているように見えた。だから何か仕掛けてくることは分かった上で夜伽に応じ、彼女の目の前で寝たふりをしてやった。
そうしたら、彼女は僕が思った通り行動を起こしてくれた。父上の時と同じように床で襲撃してくるなんて短絡的方法でくるのは意外だったけど。それに魔法も使わず氷の短剣で刺そうとするなんて、これがシアー卿の目的だったなら、あまりにもお粗末で落胆した。
でも、これで彼女がシアー卿から指示されたと吐けば、こちらに有利な条件で事を進めることができる。そう思ったが案の定、盟約の魔法で口止めされていた。

-この子は、目的を達成するための捨て駒にすぎないか

彼女を追求してもシアー卿にたどり着くことはないと諦めた私に、彼女は泣いて謝ってきた。

『傷つけてごめんなさい』と。

こんなこと魑魅魍魎が蔓延る王宮では日常茶飯事で慣れていると言ってやりたかったが、言葉にできなかった。
僕を慰めるように撫でる彼女の手が震えていたから。
怖いだろうに命乞いもせずに、僕を傷つけたことを謝るツィーリィに心揺らされた。
彼女が僕を慰めてくれた分、僕も彼女を守ろうと思った。

僕の暗殺を失敗した彼女は、このままいけば全ての責任を取らされるはずだ。そうなる前に、話をつけなければならない。

僕はツィーリィが握りしめていた氷の短剣を手に、彼女の私室を後にした。





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