捨て駒のはずが、なぜか王子から寵愛されてます

きど

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8.側妃と婚約者

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晩餐会は、本来主役であるはずの殿下を差し置いてミズリー侯爵を褒め称える会になっていた。
皆、ミズリー侯爵の功績を我先にと言い、ポイント稼ぎに必死な様子だ。
侯爵も、それを止めることなく満更でもなさそう。

かれこれ2時間以上続いている状況に派閥争いだけじゃなく、内部でも競っているのが分かり辟易する。

眠気を覚ますために目頭を指で揉むと
「少し疲れたかな?」私の様子に気づいた殿下から声をかけられる。

「こういった会は慣れていないので、少し疲れたみたいです。」

「確かに、こういう会は疲れるよね。」と肩をすくめる。

この派閥の部外者の私でも、殿下を差し置くこの状況にイラつきを感じているのに、殿下は、この場にいて腹立たしくならないのかしら。と思い、その顔をじっと見る。

すると斜め前から刺すような視線を感じた。そちらに目をやると側妃が婚約者を見つめていたとでも勘違いしたのだろう、ミズリー侯爵令嬢が睨みつけていた。

「リリィは疲れていないかい?」何かを察したのか、殿下が彼女に声をかける。

「少しだけ。でも、もう少し殿下と一緒にいてよろしいですか?」不安そうに聞く、その表情は恋する乙女そのものだった。

「私は公務で明日朝が早いから中座しようと思っているんだ。レディを夜遅くまで引き留めるのも忍びないから、途中まで送るよ。」
殿下が柔らかく微笑めば、
ご令嬢は咄嗟に扇で口元を隠し小さく「お願いします。」と言う。

「じい、明日の公務があるから私は退席させてもらう。リリィと私の側妃も一緒にお暇しても、よろしいか?」

「そうですね。明日の公務に差し障るといけません。ですが最近、王都で夜間に貴族の馬車が襲撃されていると聞きますので、可愛い孫娘に何かあったら大変ですので、リズリアは私と一緒に帰ります。ですので、殿下は側妃殿とご一緒にどうぞ」侯爵がそういうと、ご令嬢は肩を落とした。

「分かった。では皆、本日はここまで、ご苦労であった。では、私の妃帰ろうか。」殿下が形だけの挨拶をし、私をエスコートするために手を差し出した。


殿下になんて声をかけたらいいんだろうと悩んでいる間に側妃の部屋に着いてしまった。
応接間から側妃の部屋までは距離があるはずなのに、思いつかなかった自分のポンコツ加減が悔やまれる。

「じゃあ、ここで。今日はありがとう。」殿下は腰に回していた手を離す。
ここで声をかけなければ、今日のことにもう触れられない気がして、離れる殿下の手を握る。

「あのっ、殿下!」

「?どうしたの?」と流石の殿下も少し驚いたが、すぐに笑顔を作る。

「あの、うんと、うまく言えないんですが、殿下は辛いことがあったら自分に話して欲しいと仰ってくれました。私も…殿下が辛い時には、教えていただきたいです。」

私がそういうと、殿下の口元がピクリと動く。何を言っているんだと思ったのかもしれない。

「あの…私は何の力も持っていないので、話を聞くだけしかできないんでしが、殿下の肩に乗っかっている重荷を一緒に持って、支えられたらとっ」言い終わる前に握っていた手を引かれ抱きしめられる。
慣れないシチュエーションに鼓動がうるさくなる。

「ありがとう。」そういうとチュッと頬にキスが落とされる。

えっ?

呆けた後、事態を理解すると、自分の顔がどんどん熱くなるのが分かった。

「じゃあ、おやすみ。ゆっくり休んでね。」
と言い、殿下は部屋から出ていく。

不意打ちは反則よ。ヘタリと座り込みキスされた場所を抑え、誰に言うでもなく呟いた。

***

「側妃様、ミズリー侯爵令嬢がお見えです。」殿下からの不意打ちに呆気に取られていた私を、使用人の言葉が現実に引き戻した。

晩餐会に引き留められたはずの彼女が、私の部屋に来たことは予想外だったが、好意的な来訪ではないことは想像がついた。
殿下に話しかけられて顔を赤らめていたから、殿下に好意を寄せているのは確かだろう。

このタイミングで来るってことは牽制しに来たのね。と考え何を言われても動じない様に心の準備をした。
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