高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】

きど

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【ヤンデレβ×性悪α】 高慢αは手折られる

第二十八話 ※加虐シーンあり

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一階に降りると、パーティーが開かれている大広間の方向とは逆側に進んでいくと、使用人が使っている勝手口が見えた。そこから、出ると、正面玄関とは間反対の屋敷の裏側に続いていた。燭台で明るく照らされている正面とは対照的に、木々がうっそうと繁り暗く荒涼としていた。

こんな暗い所で商談をするのか?と疑問を覚え、立ち止まると先に歩いていたエイヴィア伯爵は私が着いてきていないことに気づいたらのか、振り返る。

「セラフ様、どうかされました?」

「約束していた場所が中庭だったので、てっきりその周辺かと思っていたので」

少しイメージと違ったので。と伝える。

「あぁ、中庭からここに抜けられるので、待ち合わせ場所は中庭にしたんです。中庭なら、初めて来られた方も分かりやすいし迷わないので」

さあ行きましょうと背中をそっと押される。よく知らない相手からのボディータッチを内心、不快に思いつつも、促されるまま着いていこうとした時、カタリと背後の勝手口から音がした。

「うわっ」

音のした方に振り向くと、ドアの隙間から誰かがこちらを覗き込んでいて、それに驚いて小さな悲鳴があがった。

「どうされました?はぁ」

私の悲鳴に伯爵も勝手口の方を見る。そして状況を察するとため息をついた。

「エウラ、そこで何をしている?」

「…す、すみません。あなたが、こちらに歩いてくるのが見えたものですから」

伯爵らしからぬ冷たい声で勝手口から覗いていた人物に声をかける。すると相手は躊躇したあと、勝手口から姿を見せ、おどおどした様子で応えた。
エウラと呼ばれた女性は、上質なドレスを着ているものの、痩せ細り、頬もこけていた。伯爵と目を合わせないように、俯いている。その様子はどことなく怯えているように見えた。

「パーティーが終わるまで客人達をもてなすのが、妻であるお前の勤めじゃないのか?こんな所で油を売っていないで、ささっと会場に戻りなさい」

「あっ、ですが…」

「何だ?」

その女性はエイヴィア伯爵の奥方らしいが、二人のやり取りを見ていると、主人と使用人の方がしっくりくる。何か伝えようと言い淀む奥方に伯爵は舌打ちをして答えを急かす。

「あ、あなたはどちら様ですか…?」

顔をあげて私の方をじっと見る。その瞳は暗澹として光がなく、顔も蝋人形のように表情が固まっていた。その顔にギョッとしたが、そこである考えに至る。

もしかして奥方は、私と伯爵の不貞を疑っているのか?私は、今シーツを羽織っているだけだから、男娼に見えているのかもしれない。

この格好で外に出たのは失敗だったなと内心で思いながら、奥方に微笑む。

「これから、私と伯爵で商談をする予定なんです。諸事情で今はこんな格好をしていますが、今日のパーティーに出席しているバナト商会の関係者なので、ご安心ください」

「商談…?じゃあ、いつもの会では…」

「エウラ!客人に失礼だぞ!早く戻りない!」

驚いたように言った奥方の言葉を、伯爵が遮る。いきなり怒鳴られた奥方は、萎縮したように体を縮こまって「す、すみません」と震える声で返事をする。

この方は本当に奥様なのか?そうなら、なぜこんなに怯えているんだ?

「あの伯爵、奥様は体調が悪いのではないでしょうか?さっきから震えられているようですし」

「セラフ様、みっともない姿をお見せしてすみません。妻は、人前に出るのが極度に緊張するみたいで、いつもこうなんですよ」

「じゃあ、パーティーのホストを一人で務めるのはお辛いでしょうから、商談は早めに切り上げて、伯爵もご一緒にパーティーに戻られた方が奥様も安心するのでは?」

商品はどちらにありますか?と私が聞いてすぐ、伯爵は舌打ちをした。それに驚いていると

「はぁ。めんどくせぇ」

そう言ったのは、まぎれもなく伯爵の声だった。何かがおかしいと察した時には、もう既に遅かった。

「ぅぐっ…」

鳩尾に衝撃が走り、私はその場に倒れ込んだ。伯爵は悶える私の首を鷲掴みにして、力を込める。呼吸が苦しくなり、涙で視界が滲む。抵抗しても力の差は歴然で、伯爵の手のひらを剥がそうと爪でかくことしかできなかった。落ちていく意識の中、奥方が伯爵を止めている声が聞こえていた。

* * *
「んぐっ…」

顔に冷水を浴びせられ、意識が沼から浮上する。徐々に意識を取り戻すと、何やら騒ぎ立てる声と、むせ返るほどの甘い香りと体が痺れた感覚に本能のまま動きたい衝動にかられる。

犯したい。孕ませたい。思考がそれ一色になる。

衝動のまま体を動かそうとしても、手足は何かに縛られて動かない。やっと目を開くと、

「おはよう。セラフ様。ご機嫌いかが?」

下卑た笑いを浮かべる伯爵の他に、複数の男達が、私を見下ろしていた。理解の範疇を超えた状況に、第六感が警鐘を鳴らす。

「最初見たときも思ったけど、本当に綺麗な顔してるな。今日は当たりの日だな」

私を見下ろしていた男の一人が、私の顔を掴んで自分の方に向ける。その男の顔には見覚えがあった。パーティーで声をかけてきた、ユーグ子爵だ。

「だろ。セラフ様は外見だけなら一級品だからな。でも、バナトに可愛がられてるみたいだし、こっちの方も昔よりマシになったかもな」

伯爵は何かを辿るみたいに私の胸元を弄る。そこには昨晩の情事でフェナーラにつけられたキスマークがあった。直に指が触れる感触に嫌悪感が体の底から湧き立つ。伯爵は私の体を撫であげると、そのまま後孔に指を突き立てた。

「やめてっ」

不快感に金切声が上がる。体を硬くして拒んでも、伯爵は指を抜き差しする。フェナーラ以外に触れられている気持ち悪さに吐きそうになっているのに、体には得体の知れない熱が籠っていた。自分の下半身に視線を向けると、屹立は膨らみ先端からは、だらしなくツユをこぼしていた。

「…なんで」

こんな嫌悪感しかないのに、体の反応が信じられず、思考の定まらないまま呆然とした。

「あぁ。あんたオメガ嫌いだったから、オメガのフェロモンに当てられたの、もしかして初めて?」

あれ見てみなよ。伯爵が指差す方を見遣ると、今までただ騒がしく聞こえるだけだった音がはっきり聞こえ始める。

「おねがっ…もうやだぁっ…やめっ…んんっ」

それはネックガードをつけた小柄な青年の悲痛な叫び声だった。男達に押さえつけられ蹂躙され、まるで道具の様に男達の欲をぶつけられていた。

それを見て全てを察すると、恐怖で喉が潰れ声が出なかった。

「それじゃあ、俺たちを楽しませてくれよ」

伯爵の顔には、あの人の良い笑顔の片鱗なんてなく、ただただ下品な笑いと欲情を私に向けていた。
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