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【ヤンデレβ×性悪α】 高慢αは手折られる

第二十一話

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フェナーラが部屋を去ってから、彼の寵愛を受け続けるために私にできることを考えたが、結局これといった案は思いつかなかった。気づけば部屋は暗く、辺りは夜の静寂に包まれている。

そもそも、フェナーラが好きなのは私の見た目だ。歳を重ねても、変わらずに私の外見を好きでいてくれるだろうか?
見た目も整っていて、あれほど能力が高ければ周囲の女性達が放っておくはずがない。現に幼馴染のアンヌ嬢はフェナーラ以外は嫌だと言っていたし…。
その時のことを思い出して胸がチクリと痛む。

フェナーラに思いを寄せているのは私だけじゃない。私はフェナーラに執着されているだけで、彼の気持ちが冷めたらあっという間に捨てられる…。

考えれば考えるほど、私とフェナーラでは釣り合っていないことが分かり気持ちが沈んでいく。ベッドの上で自分の体を抱きしめるように三角座りになる。嫌な考えが頭に浮かばないように膝の皿に額をグリグリ押し当てた。その時、首に何かが擦れるのを感じて、そこに手をあてるとネックガードが触れる。
そして、ハタと気づく。

あったじゃないか。フェナーラに必要とされる私にうってつけの役割が。

指先でネックガードを撫で、夜があけたらフェナーラになんて伝えようか。それを考えていたら、結局一睡もできずに朝になっていた。

誰かを想い頭を悩ませて、眠れずに朝を迎えるなんて、初めてだった。

* * *
「ダメだ」

翌朝、朝食のために顔を合わせたタイミングでフェナーラにリドールのパーティーでネックガードの宣伝をしたいことを申し出た。それを聞いたフェナーラはバッサリと私の申し出を切り捨てた。

「なぜですか?」

普段私にネックガードをつけているのも、趣味ではなく宣伝のためのはず。パーティーなど人が集まる場所に行かなければ、結局宣伝にはならないのに。そう思い、食い下がるとフェナーラが何かを抑えるみたいに奥歯を噛み締めた。

「むしろ、何で行きたいんだ?リドールは、セラフにとってもいい思い出はないだろ?」

「確かに、いい思い出はありませんが、もう二度と行きたくないと思うほど嫌な場所でもありませんよ」

普段のフェナーラからは考えられないような、棘のある言い方をしてくる。フェナーラの言う通り、私はリドールでヴィルム殿下に無体を働いた結果、貴族地位を剥奪されているので、いい思い出はない。でも、それが無ければフェナーラとこういう関係になれなかったから、ある意味で私にとっては始まりの地なのだ。

「それに、私にネックガードを付けているのは宣伝のためなのでしょう?それなら、顧客が集まる場所に出向かなければ意味がないじゃないですか」

「あぁ、だから次回のパーティーからは一緒に参加してもらう。昨日も言ったと思うが、今回のパーティーでは既に別のご令嬢にモデルをお願いしてある。だから、セラフはここで留守番だ」

昨日と同じ内容を改めて言われる。昨日は気にもならなかったことが、今は無性に気になって仕方なかった。

「……もっともらしいことを言っていますが、お願いしているご令嬢とパーティーに行きたいだけなのでしょう?伴侶の私を差し置いて、モデルをお願いするなんてそうとしか考えられません」

「はぁ?何訳の分かんないことを言ってるんだ?相手とはそんな間柄じゃない。とにかく、今回はセラフを連れて行く気はない」

フェナーラは呆れたように言うと、一方的に話を切り上げ、まだ朝食を食べ終えていないのに席を立つ。フェナーラはやましいことがあるから、うやむやにしようとしているようにしか私には見えず、腹立たしくなる。

「そんなにそのご令嬢の方がお好きなら、私なんぞ伴侶にせず、その方と婚姻すればいいじゃないですか」

苛立ちが自分の中の卑屈な気持ちを言葉にして押し出した。発言した後のことなんて考えていなかった。だから、怒らせたと気づいた時には遅かった。私の言葉を聞いたフェナーラが青筋をたてこちらを睨みつけていた。その姿に恐怖を覚え喉がヒュッと詰まった。

テーブルの挟み向こう側にいたフェナーラが、無言で私の側にくる。そのまま荒っぽい手つきで私の顎をとり、上を向かせる。私を見下ろすフェナーラの瞳には、激しい憤りがありありとみえた。

「さっきの言葉、もう一度言ってみろ」

激昂しているはずなのに、口調は荒立っていない。代わりに冷たく言い捨てるように言われる。

「…ご、ご令嬢と婚姻すればいいじゃないですか」

フェナーラがこれほどまでに怒る理由はわからないが、私だってご令嬢の存在が腹立たしいのだから、ここまで憤慨される筋合いはない。
フェナーラの怒りの圧に折れそうになる心を奮い立たせ、さっきと同じ言葉を吐き出す。
するとフェナーラは舌打ちをして、私の首筋に噛み付いた。

「いたっ…はなしてっ」

不意打ちで思い切り噛まれ悲鳴に似た声があがる。目からじんわり涙がふきこぼれて、頬を伝う。

「セラフは全然分かってないな。リドールのパーティーにそんなに行きたいなら連れて行く。ただし」

「うっ…ひっ…」

フェナーラは私の眦を優しくなで涙をすくっていく。その手つきは慈愛に満ちていて、噛みついてきた人物と同じには思えなかった。
とめどなくこぼれる涙のせいで視界はぼやけて、フェナーラがどんな表情をしているのかよく見えなかった。それに泣いたせいで嗚咽が漏れて止まらず上手く話せない私はフェナーラの次の言葉を待った。

「リドールでは俺が抱きたいタイミングで抱くから。抱きたくなったら、一日に何度でも。セラフが嫌がっても、俺の気の済むまで抱かせてもらう。その条件を飲むなら連れていくけど、どうする?」

私の気持ちが追いつくまで抱かないと言って、昨夜も最後までしなかったのに。これまでと真逆なことを言われ、ショックを受けているのに、体の奥底がキュンと疼いた。言われている内容は相当酷いのに、どんな形であれフェナーラに抱かれることを期待してしまう、あさましい自分が嫌になる。
今、私はいやしく肉欲を期待する顔になっていないだろうか。

「うっ…ひっく…はい」

嗚咽まじりに承諾の返事をした。

あなたが私を求めてくれるなら、どんな酷いことをされたってかまわない。
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