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第二十八話

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「カリーノ殿下、それは一体どういうことでしょうか?」

「どういうことって、そのまんまの意味よ。昨日、レトア卿が父様とアーシュのおじ様に話をつけたみたい」

カリーノの話を聞き僕は昨日の出来事を思い出し目頭を押さえた。レトア卿はすぐさま有言実行したのだろう。でもまさか、アーシュのおじさんまで丸め込まれるなんて。アーシュも同じことを考えているのか渋い顔をしている。

「…そうなんですね。私はまだ父から聞けていなかったので。でも、そういうことならばリドール帝国に滞在の間はカリーノ殿下をエスコートさせていただきます」

「ちょっと、アーシュ」

「アーシュ、よろしくね!」

アーシュがベッドから降りてカリーノに近づく。アーシュの言葉に反論しようとする僕の言葉を遮る様にカリーノがアーシュに飛びつく。それに僕はギョッとし声を上げる。

「カリーノ!」

「カリーノ殿下、あらぬ誤解が生まれては困るでしょう?」

「あら、私はアーシュなら構わないわ」

アーシュは穏やかに言いカリーノの体を離す。カリーノはそんなことは気にしない様子だ。アーシュに一度振られたことで、メンタルが鍛えられたのかもしれない。そんなカリーノの様子を見て僕の心はざわついた。

「あっ!ねえ、アーシュ。リドール帝国に来訪する時期と私の発情期が重なると思うの。だから、と間違いが起きない様に守ってくれる?」

カリーノが僕に好戦的な視線を向ける。アーシュもそれに気付いているはずなのに

「もちろんです。カリーノ殿下は大切な姫君ですから」

カリーノの申し出を躊躇いなく受け入れる。
あぁ、嫌だ。この二人の会話をこれ以上聞いていたら、醜い感情が言葉になって出てきてしまう。きっとこのままだと僕はアーシュに八つ当たりしてしまう。

「カリーノ要件は済んだろう?僕はこれから身支度をしたいから、一度出てもらってもかまわないか?」

「ええ。リドール帝国に行くなんて憂鬱だったけど、アーシュのおかげで少し楽しみになったわ」

ぶっきらぼうに言う僕にカリーノは勝ち誇った笑顔を向け部屋から出ていく。その後ろ姿を思わず睨む。カリーノは大切な妹だけど、最悪なことに僕達は同じ相手に思いを寄せている。カリーノはリドールにいる間に何としてもアーシュに振り向いてもらうつもりなんだろう。

「アーシュ…僕を好きか?」

「もちろん。ヴィル以外なんて興味ないよ。俺はヴィルのものだから安心して」

アーシュの気持ちを疑っている訳ではないけど、不安に押しつぶされてしまいそうで確認せずにはいられなかった。僕の不安を察したアーシュは僕の手をとりアーシュの頬に添えられる。そして僕を愛おしそうに見つめ甘く囁いた。その言葉を心のうちで反芻し、大丈夫と自分に言い聞かせる。

僕達の仲は誰にも邪魔されない。そう信じさせて欲しいのにアーシュはこの日をさかいに僕を抱かなくなった。

そして、とうとうリドール帝国訪問の日を迎えた。今の僕からアーシュの匂いはするのだろうか?
リドールではアーシュと一緒に行動できなくなるのに、こんな状況ではシャロル王子が僕を諦めるとは思えない。

ねぇ、アーシュ。僕のこと手放したりしないよね?
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