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第十八話
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「いつからだ?」
「ヴィルに告白して振られた後すぐの発情期から。ダメだと分かっていたけど自制出来なかった。ごめん。」
執務室に入るなりアーシュに聞けば後ろから抱きしめられる。そしてアーシュは後ろめたい様子で経緯を話す。僕が発情期の時にアーシュに抱かれる夢を見始めた時期だと思い、本音がポロリと漏れた。
「…夢じゃなかったんだ」
「うん。初めてヴィルに触れて発情期が落ち着いたヴィルにもう一度想いを伝えようとしたら、開口一番に名前を呼ぶなと言われたから拒絶されたと思った。」
その時の事はよく覚えている。発情期が通常より短く終わって不思議に思っていたら、何故かベッドサイドにアーシュがいて僕の手を握りしめていた。その時、二人とも服を着ていたから、まさか交わっていたなんて思いもしなかった僕は悲しい現実を直視したくなくて、アーシュを突き放した。夢でもいいからアーシュに愛されたことに浸って、錯覚していたかったから。
「これ以上触れてはいけないと理性で押し留めようとしても、気持ちを止められなかった。発情期の時のまやかしだったとしても、ヴィルが俺に愛を囁いて求めてくれた事が嬉しくて、何度も何度も繰り返してた。ヴィルが夢だと勘違いしている事に気付いて罪悪感を感じていたけど本当の事を伝える事も止めることも出来なかった。発情期の間だけでも、俺だけのものにしていたかった。」
らしくない言い訳をして僕への思いを口にするアーシュに胸がときめく。それに僕の言動でアーシュが動揺するのが嬉しく感じてしまう。顔を動かし僕を後ろから抱きしめるアーシュに視線を向ける。
「…アーシュ。発情期の度に抱いていたなら、なんで頸を噛まなかったの?」
僕に何度も番になることを断られていても、発情期の時に噛んでしまえば番になれたはずなのに。
「ヴィルの気持ちがないまま形だけの番にはなりたくなかったから。順序は間違えたけど、ヴィルが番になりたいと望んでくれたら、すぐにでも噛むつもりだった。」
僕だけがこんなに好きで、アーシュの一挙一動に振り回されていると思っていた。アーシュに番になることを求められる度に届かない想いにもがき苦しんでいた。でも、アーシュも僕と同じだった。そのことが何より嬉しい。
「ねぇ、ヴィル。俺はヴィルが居てくれれば他に何も要らない。だからお願い、俺の番になって」
「……」
アーシュは抱きしめていた僕の体を反転させ、まっすぐ僕を見て言う。
何度も聞いた台詞のはずなのに、こんなに心が揺さぶられるのは、アーシュの気持ちを知ったから。でもアーシュと番うのは、リドールからの縁談を蹴るということだ。それは二人とも地位も家族も全て捨てて駆け落ちをするということに他ならない。僕のためにアーシュにそんなことさせていいのかと迷い口篭ってしまう。
「これからの事は何も心配しなくていい。ヴィルが俺の番になってくれるなら、俺の全てを賭けて必ず守るから。リドールの王子になんて絶対に渡さない。」
「…アーシュ」
僕の心のうちを見透かすみたいに、アーシュは僕が欲しい言葉をくれる。それを聞いて目頭が熱くなり、涙が滲んで目の前にいるアーシュの顔がぼやける。
アーシュに裏切られたと思いすれ違ってしまった日から、何度も嫌いになろうとした。でも嫌いになれなくて、アーシュに番になることを求められる度に心が痛くて痛くて辛かった。そんな切ない思いになるのは、アーシュが好きで好きで堪らなくて、僕だけのものになって欲しかったから。
「…僕が番になりたいのも、触ってほしいと思うのもアーシュだけなんだ。他の人となんて嫌だ。シャロル王子の側室になんてなりたくない。ずっと、アーシュと一緒にいたい」
自分の気持ちを素直に認めてしまえば、蓋をしていた想いが堰を切って溢れ出す。
「ヴィル愛してる。ヴィルを他の誰にも渡さないから」
アーシュは涙を流す僕を愛おしそうに見つめ更に強く抱きしめ、愛を囁いた。
「ヴィルに告白して振られた後すぐの発情期から。ダメだと分かっていたけど自制出来なかった。ごめん。」
執務室に入るなりアーシュに聞けば後ろから抱きしめられる。そしてアーシュは後ろめたい様子で経緯を話す。僕が発情期の時にアーシュに抱かれる夢を見始めた時期だと思い、本音がポロリと漏れた。
「…夢じゃなかったんだ」
「うん。初めてヴィルに触れて発情期が落ち着いたヴィルにもう一度想いを伝えようとしたら、開口一番に名前を呼ぶなと言われたから拒絶されたと思った。」
その時の事はよく覚えている。発情期が通常より短く終わって不思議に思っていたら、何故かベッドサイドにアーシュがいて僕の手を握りしめていた。その時、二人とも服を着ていたから、まさか交わっていたなんて思いもしなかった僕は悲しい現実を直視したくなくて、アーシュを突き放した。夢でもいいからアーシュに愛されたことに浸って、錯覚していたかったから。
「これ以上触れてはいけないと理性で押し留めようとしても、気持ちを止められなかった。発情期の時のまやかしだったとしても、ヴィルが俺に愛を囁いて求めてくれた事が嬉しくて、何度も何度も繰り返してた。ヴィルが夢だと勘違いしている事に気付いて罪悪感を感じていたけど本当の事を伝える事も止めることも出来なかった。発情期の間だけでも、俺だけのものにしていたかった。」
らしくない言い訳をして僕への思いを口にするアーシュに胸がときめく。それに僕の言動でアーシュが動揺するのが嬉しく感じてしまう。顔を動かし僕を後ろから抱きしめるアーシュに視線を向ける。
「…アーシュ。発情期の度に抱いていたなら、なんで頸を噛まなかったの?」
僕に何度も番になることを断られていても、発情期の時に噛んでしまえば番になれたはずなのに。
「ヴィルの気持ちがないまま形だけの番にはなりたくなかったから。順序は間違えたけど、ヴィルが番になりたいと望んでくれたら、すぐにでも噛むつもりだった。」
僕だけがこんなに好きで、アーシュの一挙一動に振り回されていると思っていた。アーシュに番になることを求められる度に届かない想いにもがき苦しんでいた。でも、アーシュも僕と同じだった。そのことが何より嬉しい。
「ねぇ、ヴィル。俺はヴィルが居てくれれば他に何も要らない。だからお願い、俺の番になって」
「……」
アーシュは抱きしめていた僕の体を反転させ、まっすぐ僕を見て言う。
何度も聞いた台詞のはずなのに、こんなに心が揺さぶられるのは、アーシュの気持ちを知ったから。でもアーシュと番うのは、リドールからの縁談を蹴るということだ。それは二人とも地位も家族も全て捨てて駆け落ちをするということに他ならない。僕のためにアーシュにそんなことさせていいのかと迷い口篭ってしまう。
「これからの事は何も心配しなくていい。ヴィルが俺の番になってくれるなら、俺の全てを賭けて必ず守るから。リドールの王子になんて絶対に渡さない。」
「…アーシュ」
僕の心のうちを見透かすみたいに、アーシュは僕が欲しい言葉をくれる。それを聞いて目頭が熱くなり、涙が滲んで目の前にいるアーシュの顔がぼやける。
アーシュに裏切られたと思いすれ違ってしまった日から、何度も嫌いになろうとした。でも嫌いになれなくて、アーシュに番になることを求められる度に心が痛くて痛くて辛かった。そんな切ない思いになるのは、アーシュが好きで好きで堪らなくて、僕だけのものになって欲しかったから。
「…僕が番になりたいのも、触ってほしいと思うのもアーシュだけなんだ。他の人となんて嫌だ。シャロル王子の側室になんてなりたくない。ずっと、アーシュと一緒にいたい」
自分の気持ちを素直に認めてしまえば、蓋をしていた想いが堰を切って溢れ出す。
「ヴィル愛してる。ヴィルを他の誰にも渡さないから」
アーシュは涙を流す僕を愛おしそうに見つめ更に強く抱きしめ、愛を囁いた。
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