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第五話
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今日の客人をもてなすために侍女達が王城内を忙しなく駆け回り準備をしている。その様子を横目で見ながら今日の客人を迎えるため王城の正門のエントランスで待機する。
「兄様、アーシュと一緒じゃないんですか?」
背後から呼び止められて振り向くと、カリーノの姿にギョッとする。
体の曲線に沿った膝丈の赤いドレスは、胸元が大きく開き申し訳程度の黒いレースがあしらわれている。そこを手で隠している姿をみて思わず苦言が出てくる。
「カリーノ、そのドレスは着替えた方がいいんじゃないか?」
「兄様もそう思いますよね?私もこのドレスは嫌だと言ったんですけど。」
カリーノが恥ずかしそうに隣の美丈夫を睨む。人目をひく中性的な顔立ちに、顔の輪郭に沿って綺麗にカットされた金髪と柔らかい青い瞳と見た目は整っている美丈夫もといレトア卿が口を開く。
「ヴィルム殿下、何をおっしゃいますか。今日ほど、このドレスが相応しい日はないでしょう」
「リドール帝国から使者が来る日に、そのドレスは品性を疑われるのではないか?」
「そんなことはございませんよ。本日来るリドール帝国の第一皇子はオメガ好きで有名ですから、大変お喜びになると思いますよ。」
レトア卿の発言に1ミリも共感できずに不快感が顔に出る。カリーノがこいつと番になりたくないと思うのは当然だ。
レトア卿は、見た目こそいいが中身は最悪だ。それにオメガを蔑視していることも隠しもしない。
「お前は仮にもカリーノの番候補なのに、他のアルファを誘惑する様なまねをさせるのか?」
僕がそう聞けばストレートの金髪を指先で弄び小首を傾げている。そして僕の耳元に顔を寄せ
「オメガはアルファをその気にさせてなんぼでしょう?こんなにフィリアス卿の匂いを漂わせている貴方がそんなこと言っても説得力はありませんよ」
「お前っ…」
カリーノに聞こえない様に囁かれたその内容に頭に血が上り、レトア卿の胸ぐらを掴むと睨み上げる。
匂いがついてるだと⁈
アーシュに触れさせていないのに、そんなでまかせを!
「なぜ、怖い顔をなさるのですか?」
レトア卿が分からないという様子で言ってくることに苛立ちが更に募る。空いている方の手を握りしめ振り上げようとした時
「私の殿下にそれ以上近づかないでもらえるか?」
頭上から声がして体を後ろから抱きとめられる。
「そう言うなら、君のお姫様のじゃじゃ馬ぶりをなんとかしてくれないか?これから客人がくるのに、正装に皺がついたよ。」
「それはお前が殿下を怒らせたのだろ?殿下達に対するその態度をなんとかしろ。」
レトア卿が乱れた衣服を正しながら嫌味ったらしく言えば、いつもより冷たい声でアーシュが忠告する。お姫様と揶揄されたことに怒りたいのに、アーシュの腕の中で久々に感じる温もり、匂いに体の奥が疼きそうになり、それどころじゃなくなる。
「離せっ…」
体が反応する前に腕を解き体を離す。そのままアーシュの方を見やると、普段と違う装いに胸がときめき言葉に詰まる。
普段の騎士服ではなく首元にクラバットを締め胸に勲章をつけた正装を着ている。艶やかな黒髪も今日はオールバックにあげられている。
「アーシュかっこいいわね!」
カリーノがレトア卿を押し退けアーシュをまじまじと見て言う。
「カリーノ殿下ありがとうございます。今日は大分大人っぽい装いなんですね。私は普段の服装の方がカリーノ殿下らしいと思いますよ」
「そうかしら?アーシュにそう言われると嬉しいわ!」
カリーノがうっとりした様子でアーシュを見つめる。アーシュの方は遠回しに今日のドレスが似合っていない事を言っても恋する乙女の耳には褒め言葉しか届いていない様だ。
「殿下、クラバットが緩んでいます。」
唐突にアーシュがそう言い、僕が払いのける前に首元のクラバットを締め直す。
「正装、よく似合っていらっしゃいますよ」
そう言い昔と同じ優しい微笑みを向けられる。
そんな優しく見つめないで。
僕に特別な感情があると、また勘違いしてしまう。
僕の恋心の暴走を止める様に使用人の足音が響く。そして、
「リドール帝国訪問団が城門を通過しました!」
使用人に告げられる。
僕ら全員先程とはうってかわり表情を引き締める。うちの様な小国は大国リドール相手に失態は許されない。皆、頭を下げ王城の正門が開くのを待った。
「兄様、アーシュと一緒じゃないんですか?」
背後から呼び止められて振り向くと、カリーノの姿にギョッとする。
体の曲線に沿った膝丈の赤いドレスは、胸元が大きく開き申し訳程度の黒いレースがあしらわれている。そこを手で隠している姿をみて思わず苦言が出てくる。
「カリーノ、そのドレスは着替えた方がいいんじゃないか?」
「兄様もそう思いますよね?私もこのドレスは嫌だと言ったんですけど。」
カリーノが恥ずかしそうに隣の美丈夫を睨む。人目をひく中性的な顔立ちに、顔の輪郭に沿って綺麗にカットされた金髪と柔らかい青い瞳と見た目は整っている美丈夫もといレトア卿が口を開く。
「ヴィルム殿下、何をおっしゃいますか。今日ほど、このドレスが相応しい日はないでしょう」
「リドール帝国から使者が来る日に、そのドレスは品性を疑われるのではないか?」
「そんなことはございませんよ。本日来るリドール帝国の第一皇子はオメガ好きで有名ですから、大変お喜びになると思いますよ。」
レトア卿の発言に1ミリも共感できずに不快感が顔に出る。カリーノがこいつと番になりたくないと思うのは当然だ。
レトア卿は、見た目こそいいが中身は最悪だ。それにオメガを蔑視していることも隠しもしない。
「お前は仮にもカリーノの番候補なのに、他のアルファを誘惑する様なまねをさせるのか?」
僕がそう聞けばストレートの金髪を指先で弄び小首を傾げている。そして僕の耳元に顔を寄せ
「オメガはアルファをその気にさせてなんぼでしょう?こんなにフィリアス卿の匂いを漂わせている貴方がそんなこと言っても説得力はありませんよ」
「お前っ…」
カリーノに聞こえない様に囁かれたその内容に頭に血が上り、レトア卿の胸ぐらを掴むと睨み上げる。
匂いがついてるだと⁈
アーシュに触れさせていないのに、そんなでまかせを!
「なぜ、怖い顔をなさるのですか?」
レトア卿が分からないという様子で言ってくることに苛立ちが更に募る。空いている方の手を握りしめ振り上げようとした時
「私の殿下にそれ以上近づかないでもらえるか?」
頭上から声がして体を後ろから抱きとめられる。
「そう言うなら、君のお姫様のじゃじゃ馬ぶりをなんとかしてくれないか?これから客人がくるのに、正装に皺がついたよ。」
「それはお前が殿下を怒らせたのだろ?殿下達に対するその態度をなんとかしろ。」
レトア卿が乱れた衣服を正しながら嫌味ったらしく言えば、いつもより冷たい声でアーシュが忠告する。お姫様と揶揄されたことに怒りたいのに、アーシュの腕の中で久々に感じる温もり、匂いに体の奥が疼きそうになり、それどころじゃなくなる。
「離せっ…」
体が反応する前に腕を解き体を離す。そのままアーシュの方を見やると、普段と違う装いに胸がときめき言葉に詰まる。
普段の騎士服ではなく首元にクラバットを締め胸に勲章をつけた正装を着ている。艶やかな黒髪も今日はオールバックにあげられている。
「アーシュかっこいいわね!」
カリーノがレトア卿を押し退けアーシュをまじまじと見て言う。
「カリーノ殿下ありがとうございます。今日は大分大人っぽい装いなんですね。私は普段の服装の方がカリーノ殿下らしいと思いますよ」
「そうかしら?アーシュにそう言われると嬉しいわ!」
カリーノがうっとりした様子でアーシュを見つめる。アーシュの方は遠回しに今日のドレスが似合っていない事を言っても恋する乙女の耳には褒め言葉しか届いていない様だ。
「殿下、クラバットが緩んでいます。」
唐突にアーシュがそう言い、僕が払いのける前に首元のクラバットを締め直す。
「正装、よく似合っていらっしゃいますよ」
そう言い昔と同じ優しい微笑みを向けられる。
そんな優しく見つめないで。
僕に特別な感情があると、また勘違いしてしまう。
僕の恋心の暴走を止める様に使用人の足音が響く。そして、
「リドール帝国訪問団が城門を通過しました!」
使用人に告げられる。
僕ら全員先程とはうってかわり表情を引き締める。うちの様な小国は大国リドール相手に失態は許されない。皆、頭を下げ王城の正門が開くのを待った。
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