あなたの愛に溺れて眠りたい

きど

文字の大きさ
上 下
1 / 5

プロローグ

しおりを挟む
人々の怒号や馬の蹄の音、鎧や剣が交わる金属音の喧騒のなか、愛しい人の声だけははっきりと聞こえた。

「イルダ、目を閉じるな!今すぐ治療してやるから、気をしっかり持て!」

彼は普段からは考えられないような焦った声音で私を呼び、苦しそうな表情を私に向ける。彼が何故、そんな顔をしているのかすら分からなかった。そして体中に広がる痛みの訳も分からないまま、私の体はどんどん冷え、耳鳴りはどんどん大きくなり、視界も狭まっていく。

-あぁ、これはもうダメだ

状況が何も分からない中で、それだけははっきりと理解できた。

「イルダ!もう少しだ!目を閉じるな、頑張れ」

「…へ…か」

私を抱き止める、愛しい人に最期の言葉を伝えたいのに、声は掠れ言葉にならない。
私が身じろぐと、彼のシャツを私の血が汚していく。

「体に障るから、無理して話すな」

「あ、あ…い」

彼の瞳にうっすら涙が溜まる。それを拭ってあげたいのに、体は鉛のように重く、自分の意思で動くことができない。それなら、せめて彼の目を見て伝えたいと思った。

-陛下、愛してます。あなたの腕の中で死ねるなら、私は本望です。だから、私のために泣かないで。私にあなたの涙は勿体無いです。

伝えたかった言葉は声に出ることはなかった。
私が貴方に心を奪われるなんて許されないことだった。だって貴方を葬り去ることが、私の使命だったから。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

罰ゲームって楽しいね♪

あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」 おれ七海 直也(ななみ なおや)は 告白された。 クールでかっこいいと言われている 鈴木 海(すずき かい)に、告白、 さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。 なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの 告白の答えを待つ…。 おれは、わかっていた────これは 罰ゲームだ。 きっと罰ゲームで『男に告白しろ』 とでも言われたのだろう…。 いいよ、なら──楽しんでやろう!! てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ! ひょんなことで海とつき合ったおれ…。 だが、それが…とんでもないことになる。 ────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪ この作品はpixivにも記載されています。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話

あめ
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話 基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想 からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

その部屋に残るのは、甘い香りだけ。

ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。 同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。 仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。 一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。

処理中です...