5 / 21
僕はその時初めて自分の名前さえ知らなかったことに気づく
しおりを挟む「誰だっ!?!」
言葉がわかる。低い声は明らかに目の前に出てきた彼から発せられていた。
この世界に転生して初めて(村の人たちを除く)二足歩行の生き物に会って、僕は少し感動した。
いや、まさか自分以外の誰かに会って感動する日が来ようとは思いもしなかったけど、なんだかちょっとほっとした。
しなやかな細身の体躯にユラユラと揺れるフサフサの尻尾。鋭い目に髪の間から覗くフサフサしてて柔らかそうな耳。綺麗な群青色の髪はどこか異国の騎士を思わせる色だった。
獣人…?だろうけど、なんの動物だろうか。全然想像つかない色なんだが。
「お前…」
僕を見て驚いたように目を見張ったその彼は、突き出していたナイフを下ろした。
優しい人(?)なのかも知れない。
「まだ子どもがなぜこんなところにいる?」
ええ、子どもです。幼児ですとも。
「えっ…と…」
それにしても、なんで答えればいいんだろう。目が覚めたらこの姿になっていて、捨てられました?
……いや、同情されるだけだろう…。それにどんな状況だよ、目が覚めたら知らない世界に飛ばされてたなんて。僕だったら信じないね。だから
「…わからないの。ここどこ?」
子どもの特権。知らぬふり。
泣きそうなところも、リアルだろう。だって本当に泣きそうなんだから。
妙に舌足らずなところがほんとっぽい。実際舌足らずにしか喋れないんだけどね。
「わからないって…父や母はどうした」
やけに驚いて心配そうな彼は、わざわざ目線を合わせるように片膝をついてしゃがみ込んでくれる。
「しらない」
実際あの村の男女が両親だったのかすら疑問だからな。
この答えで間違ってはいない。
「いつの間にかここにいたの」
間違ってはないだろう。ただ色々説明を省いているだけで。
「…!?……捨てられたのか…。こんな小さな子どもを!酷いことをする」
ボソボソと喋った獣人の彼は、なぜかぽっと赤くなって上目遣いにこちらを見た。
……え、なに…!?
思わず構えてしまったのも無理はないだろう?だって年上の男の人がそんなことをしたんだから。
それに尻尾がパタパタ。
「もしよければ、俺と一緒に来ないか?」
……誘拐パターンですかね。まぁ、人が良さそうな人なのでそれはなさそうだが。ついて行って街まで案内してもらうのもいいかもしれない。が、
「どこに?」
ちょっととぼけてみる。
すると獣人さんは、あたふた慌てて耳をピクピクさせながら言葉を考え始めた。
なにこれ、かわいい。かわいいけどやり過ぎると可哀想なのでほどほどにしておく。
「うん、行ってみるよ!」
「おぉ!そうか!!俺はファルクと言う。オメェさんの名前なんて言うんだ?」
うん…?
「にゃまえ?」
……噛んだ。恥ずかしい。
ファルク!耳をぱたつかせて尻尾振るのやめい!!鼻息まで荒くして変態に見えるぞ!!
この体は富永理玖…じゃないよね。
名前なんて呼ばれたことないな。それ以前に喋ってもいないけど。
……あれ?僕、名前なんて無くね?
理玖はそのまま固まった。
0
お気に入りに追加
246
あなたにおすすめの小説
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
出戻り巫女の日常
饕餮
ファンタジー
転生者であり、転生前にいた世界に巻き込まれ召喚されて逆戻りしてしまった主人公、黒木 桜。桜と呼べない皆の為にセレシェイラと名乗るも、前世である『リーチェ』の記憶があるからか、懐かしさ故か、それにひっついて歩く元騎士団長やら元騎士やら元神官長やら元侍女やら神殿関係者やらとの、「もしかして私、巻き込まれ体質……?」とぼやく日常と冒険。……になる予定。逆ハーではありません。
★本編完結済み。後日談を不定期更新。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる