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2話 誘拐事件
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『またもや、”精神喪失事件”です』
トラックに撥ねられたあと、飲みに行く事なんて無理だった。俺としては別に怪我とかも無かったから、晩飯を食べたかったと言わざるを得ないが。
『昨日午後7時半ごろ、”精神喪失”とみられる男性が乗ったトラックが歩行者に突っ込んでいく事件がありました』
結局あの後は、警察がやって来て、事情聴取だのなんだのを受けていた。後輩二人は目撃者であっても、被害者でもなんでもなかったから、なんか普通に帰ってたけど、俺はしっかりとパトカーに乗った。初めて乗った車の乗り心地はクソほど悪かった。
そして警察と雑談をした後、脳震盪だのなんだのの検査をして色々あって、会社に戻って来たのが夜中の2時。腹は減りすぎて、もうご飯もいらない境地にまで達していたので、今から大体20時間ぶりのご飯となる。
あ、ちなみに俺は既にベンチの争いには参加しておらず、会社の休憩室を寝室としている。もちろん許可も得てる。
『幸い、歩行者の方に怪我はなかった模様です』
にしても、さっきからどの局も同じニュースだな。全部トラックが突っ込んできた事件だもの。
それも仕方がないのかもしれんけど、どこのニュースも同じように、名前は全然出さないのに轢かれる瞬間の映像をプレイバックしてる。しかもモザイク無し。なんでだよ俺は基本モザイクは嫌いな人間だけど、プライバシーの問題で隠すべきだろうが。あと顔を映してるのならもう名前を出せよ。そうすればいっそ清々しいし、俺も有名人になれるってのに。
「おっ、剛力。すっかり有名人だな」
「からかわないで貰えます、先輩?」
「剛力凛愛(ごうりきりら)、通称ゴリラがネタじゃなくなるな」
「いやホントっすよ。そんで全然笑えないんですけど?」
先輩大爆笑。一体何がそんなにおかしいのか。前までの『ゴリラのくせに細いな』みたいな雑過ぎる煽りの方がまだ笑えるだろ。
あ、なんでゴリラなのかはわかると思うが、俺の名前にゴリラの三文字が入っているからだ。それだけだ。いやなんでこんな解説を自分でせなならんのだ。
「ま、笑えない話に戻すとして、しばらく面倒だぞ。取材陣がいっぱいくるだろうしな」
「え」
「そもそも”精神喪失事件”での被害者は数が少なくて、その被害者は全員死んでるんだ。その唯一の生き残りであるお前に、マスメディアは色々と言って貰いたい事があるだろ」
「ああ、確かに」
人の話を聞いて、馬鹿みたいな質問をするだけでお賃金が入ってくるなら、俺もマスゴミになるべきだったかもしれない。
「あと、有名になってる原因の、時速180kmぐらいのスピードのトラックが突っ込んできたにも関わらず、ふっ飛ばされないどころか怪我ひとつなかったんだ。そりゃもう、その秘訣を聞きたいだろうよ」
「おぅ」
秘訣。そんなのあるなら俺が聞きたいよ。そしてその秘訣を使って大儲けしたい。
「あ、先輩方、おはようございます!」
「ああ、おはよう」
「先輩、大丈夫なんです?」
「まあ大丈夫っちゃ大丈夫だな」
「じゃ、仕事始めるぞ」
「え、ちょっと俺まだ飯食ってないんですけど!」
「問題ない、バナナはおやつって事でいつでも食っていいから」
「ゴリラじゃねえよ!」
◇
結局あのあと、本当に飯を食べさせてくれなかったので、昼飯は朝食に用意したもやしともやしの煮汁にタンポポを入れたスープを頂いた。
あとで聞いた話ではあるのだが、昼過ぎは会社の入り口に記者が馬鹿程いたとかなんとか。出かけないでよかった。
んで夜。
昨日奢ると言ってしまったにも関わらず、結局行けなかったので、今日奢る事になった。
ただ、俺はちょっとした有名人になってしまっているため、飲食店ではなく、コンビニで酒と軽食を買う事になった。もちろん裏口から会社を出た。
「先輩、今度は気を付けてくださいね」
と、気の利く後輩。横断歩道の手前で俺に声を掛けた。
昨日は特に表情を変えなかった美人さんが、ちょっとだけ口元が緩んだ。大抵の人はそうだけど、やっぱり女性は笑っている方が美人に見える。
「わーってるよ。右見て左見て右を見る。よし」
なんでこんな子供っぽい事をしないといけないのかと思う俺がいるが、それを怠ったせいで交通事故に遭った訳だから、ちゃんと確認をする。
信号も青だし、車も止まってるっぽいし、渡るとしますか。
「あ、先輩!」
「え?」
何が起きたのかさっぱりわからなかったが、一瞬のうちに視界を奪われ自由を奪われ車に乗せられた。いや結構何が起きたのかわかってるな、俺ってば。
これがいわゆる、誘拐ってやつか?なんて流暢な事を考えている場合でもないのだが。俺にできる事は何一つない。
よし。何もできないけど、幸い思考は思ってるよりもクリア。なんで誘拐なんてされたのか考えてみよう。
俺の貯金なんてほぼゼロだ。金目当てじゃないよな。
親なんてのはいないし、うちの会社も別に大企業とかでもないから、身代金要求とかでもないし。
なんでぇ?
トラックに撥ねられたあと、飲みに行く事なんて無理だった。俺としては別に怪我とかも無かったから、晩飯を食べたかったと言わざるを得ないが。
『昨日午後7時半ごろ、”精神喪失”とみられる男性が乗ったトラックが歩行者に突っ込んでいく事件がありました』
結局あの後は、警察がやって来て、事情聴取だのなんだのを受けていた。後輩二人は目撃者であっても、被害者でもなんでもなかったから、なんか普通に帰ってたけど、俺はしっかりとパトカーに乗った。初めて乗った車の乗り心地はクソほど悪かった。
そして警察と雑談をした後、脳震盪だのなんだのの検査をして色々あって、会社に戻って来たのが夜中の2時。腹は減りすぎて、もうご飯もいらない境地にまで達していたので、今から大体20時間ぶりのご飯となる。
あ、ちなみに俺は既にベンチの争いには参加しておらず、会社の休憩室を寝室としている。もちろん許可も得てる。
『幸い、歩行者の方に怪我はなかった模様です』
にしても、さっきからどの局も同じニュースだな。全部トラックが突っ込んできた事件だもの。
それも仕方がないのかもしれんけど、どこのニュースも同じように、名前は全然出さないのに轢かれる瞬間の映像をプレイバックしてる。しかもモザイク無し。なんでだよ俺は基本モザイクは嫌いな人間だけど、プライバシーの問題で隠すべきだろうが。あと顔を映してるのならもう名前を出せよ。そうすればいっそ清々しいし、俺も有名人になれるってのに。
「おっ、剛力。すっかり有名人だな」
「からかわないで貰えます、先輩?」
「剛力凛愛(ごうりきりら)、通称ゴリラがネタじゃなくなるな」
「いやホントっすよ。そんで全然笑えないんですけど?」
先輩大爆笑。一体何がそんなにおかしいのか。前までの『ゴリラのくせに細いな』みたいな雑過ぎる煽りの方がまだ笑えるだろ。
あ、なんでゴリラなのかはわかると思うが、俺の名前にゴリラの三文字が入っているからだ。それだけだ。いやなんでこんな解説を自分でせなならんのだ。
「ま、笑えない話に戻すとして、しばらく面倒だぞ。取材陣がいっぱいくるだろうしな」
「え」
「そもそも”精神喪失事件”での被害者は数が少なくて、その被害者は全員死んでるんだ。その唯一の生き残りであるお前に、マスメディアは色々と言って貰いたい事があるだろ」
「ああ、確かに」
人の話を聞いて、馬鹿みたいな質問をするだけでお賃金が入ってくるなら、俺もマスゴミになるべきだったかもしれない。
「あと、有名になってる原因の、時速180kmぐらいのスピードのトラックが突っ込んできたにも関わらず、ふっ飛ばされないどころか怪我ひとつなかったんだ。そりゃもう、その秘訣を聞きたいだろうよ」
「おぅ」
秘訣。そんなのあるなら俺が聞きたいよ。そしてその秘訣を使って大儲けしたい。
「あ、先輩方、おはようございます!」
「ああ、おはよう」
「先輩、大丈夫なんです?」
「まあ大丈夫っちゃ大丈夫だな」
「じゃ、仕事始めるぞ」
「え、ちょっと俺まだ飯食ってないんですけど!」
「問題ない、バナナはおやつって事でいつでも食っていいから」
「ゴリラじゃねえよ!」
◇
結局あのあと、本当に飯を食べさせてくれなかったので、昼飯は朝食に用意したもやしともやしの煮汁にタンポポを入れたスープを頂いた。
あとで聞いた話ではあるのだが、昼過ぎは会社の入り口に記者が馬鹿程いたとかなんとか。出かけないでよかった。
んで夜。
昨日奢ると言ってしまったにも関わらず、結局行けなかったので、今日奢る事になった。
ただ、俺はちょっとした有名人になってしまっているため、飲食店ではなく、コンビニで酒と軽食を買う事になった。もちろん裏口から会社を出た。
「先輩、今度は気を付けてくださいね」
と、気の利く後輩。横断歩道の手前で俺に声を掛けた。
昨日は特に表情を変えなかった美人さんが、ちょっとだけ口元が緩んだ。大抵の人はそうだけど、やっぱり女性は笑っている方が美人に見える。
「わーってるよ。右見て左見て右を見る。よし」
なんでこんな子供っぽい事をしないといけないのかと思う俺がいるが、それを怠ったせいで交通事故に遭った訳だから、ちゃんと確認をする。
信号も青だし、車も止まってるっぽいし、渡るとしますか。
「あ、先輩!」
「え?」
何が起きたのかさっぱりわからなかったが、一瞬のうちに視界を奪われ自由を奪われ車に乗せられた。いや結構何が起きたのかわかってるな、俺ってば。
これがいわゆる、誘拐ってやつか?なんて流暢な事を考えている場合でもないのだが。俺にできる事は何一つない。
よし。何もできないけど、幸い思考は思ってるよりもクリア。なんで誘拐なんてされたのか考えてみよう。
俺の貯金なんてほぼゼロだ。金目当てじゃないよな。
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なんでぇ?
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