如月荘は慌ただしい

ゆきつき

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2話 人の金で食う飯

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 さてさて。いいモノ探し再開。
 ティッシュ。うん、ゴミだね。いやー、こんな場所に捨ててるなんて、俺ってばうっかりしてた。既にカピカピ。臭いは嗅がなくても良いだろう。絶対臭い。これはゴミ箱に捨てる。
 包帯。うーん、これは威力が足りないな。てか、そもそも原型を保ってられない。途中でヒラヒラと舞うだろう。
 あいや、そもそも俺、手怪我したんだった。包帯を普通に包帯として使おう。

「左手だと上手くいかない」

 俺の利き手は右なので、右手の負傷はそこそこ辛い。けどまあ、使えない訳では無いので、今は問題ない。
 が、包帯を上手く巻けないので、ちょっと困った。

「その箱から、なんか良い飛び道具探してくれない?」
「え?私が?」
「そうそう。一応今治療中だし」
「そんな汚い包帯とか、ティッシュとか出てきた、その箱を探すの?私が?」
「そこまで言うなら、俺は襲撃者にこの矢を投げつけるぞ」
「なにその変な脅し」
「いや、弓矢を使って、お前さんを襲ってきた相手に対して、穏便に済ませようとしてたんだけど。俺が間違ってたか。うん、自分の命を狙ってくる相手だ。たとえ知り合いだとしても、殺したくなるよな」
「なんで、」
「しゃーない。そこで隠れてろ。危ないから」
「……わかった。どんなのをご所望で?」
「投げやすそうなのがあればなんでも」

 俺はとにかく、包帯を巻く。
 俺だってね。人殺しはごめんだから。出来るのなら穏便に済ませたい。

「これは?」
「おお、野球ボール。イイネ。でもなんでこんなのあるんだ?野球少年だった訳じゃないのに」

 いつか来た襲撃者の戦利品かな。それなら別に使っていいか。俺のじゃないし。

「よし、とにかく身を隠してろ。危ないから」
「なにするつもり?」
「そりゃ、襲撃者の撃退」

 お相手も、そろそろ撃ちたくてうずうずしている頃合だろう。
 集中しろ。さっきみたいな、違和感を感じ取る程度じゃダメだ。もっと、深く。矢を放ったタイミングすら感じ取れるぐらい。
 もうない窓の前に立つ。まばたきはしない。いつ、どのタイミングだろうと見逃してはならない。

「ちょ、なにしてるの!」

 焦ってはダメだ。俺は相手の居場所を把握していない。相手が矢を撃つ前でないとだめだ。だから、タイミングを間違えてはいけない。

 ……

 来た!

 10時の方向、距離25ぐらいか。
 集中。外してはいけないとか、そんな事すら考えるな。無になれ。今はただ、相手の動きを追うだけ。
 矢が到達する。腕を伸ばし、掴む。それだけ。
 すんすん。
 無臭。毒液らしきものも付着もなし。相手がどこまで見えているのか分からないが、仕留め損なった獲物が再び姿を見せた。確実に仕留めるのなら、毒液とかを鏃に塗るのが良いはず。なのに無い。
 これは、考察すべきか。
 相手は移動している。逃げているのか、いやこの感じは、普通に場所を変えようとしている。とりあえず、動きは追える。
 考察。なぜ毒を使わないのか。1、毒がない。2、そもそもちゃんと見えている訳ではなく、動いたものをなんとなく捉えている。3、見えているが、仕留めたかの確認を後回しにして、居場所がバレないよう先に移動している。4、俺が考えれないような、特別な事情がある。
 1。結構ありそう。なくはない。けど、標的がちゃんと決まっているのなら、麻痺毒ぐらいは用意しても良い気がする。
 2。有り得ない事はないだろうけど、そんななんとなくでこんな精密射撃とかほぼありえない。能力関係だと、有り得ないとか言ってられないのだが、もし能力だとしたら、矢の動きが直線的すぎる。これは現状、考えなくていいはず。
 3。これは、どうだ?俺はスナイパーではない。つまりこの辺りの動き方は全くもって分からない。

「くそっ、考察してる時間もない」

 相手の動きがゆっくりになった。完璧ではないが、いい場所を見つけたからこそ、こうなったんだろう。
 仕方がない。相手の動きが読めないのなら、こっちが誘導すらしかない。

「そこから出てくるなよ、危ないから」
「ちょっと、何する気!危ないんでしょ!」
「襲撃者退治」

 役に立つか分からないが、服を脱いで盾にした机に貼り付ける。丁度矢があるから、いい囮になってくれる事を期待する。
 ボールを握る。あまりボールとか投げないから、上手くいくのかわからないが。なるようになるさ。

 相手に見られないように、目立つ場所、屋根に上る。
 うん、狙えるはず。いける。俺が狙いを外さない限り、なんとかなる。

 夏とはいえ、夕方の風は少しだけ冷たく、気持ちい。
 とはいえ、ドタバタしたんだ。汗をかいた。汗臭い。
 相手は未だに見えない。相手は見えているのだろうか?いや、それはどちらでもいい。相手が狙ったタイミングを見逃さなければ良い。
 相手の呼吸は聞こえる。俺の心臓の音がうるさく、意識してないと聞き逃しそうだ。だが、場所はわかってる。なら問題ない。

 相手が弓を構えた。
 姿を確認した。
 相手は少し、動揺しているようだ。だがすぐに、辺りを探している。
 こちらを見た。目があった。
 狙いは肩。というか、動けなくなるならどこでもいい。

「いっけぇ!」

 サッカーボールを蹴ったのではないので悪しからず。

「当たったかな」

 まあ当たってなくても近づくんだけど。それしか選択肢がない。

 現場に到着。
 肩を抑えてうずくまってる容疑者発見。

「さて。色々聞きたいことはあるけど、これ以上巻き込まれたくもないんだ。さっさと帰ってくれないかな?」

 今回の襲撃は、怪我した人もいないし、まあ窓とか割られたけど、あんなのどうとでもなる。
 一番嫌なのが、これ以上こいつと関わる事。

「一つ聞いて良いですか」
「……、まだ俺の機嫌はいい方だな。手は出ない」
「彼女は無事ですか?」

 おいおい。こいつ頭がオカシイぜ。
 二射目はどういうつもりだったのか分からんけど、一射目は確実に殺すつもりだったろ。

「さてどうだろ。見えてたと思うけど」
「じゃあ、無事なんですね。良かった」

 こいつ頭がオカシイぜ。
 ま、どうでもいいんですけどね。どーせ俺の方がオカシイ。

「さてさて。本当にさっさと帰ってくれないか?負けたのにこんな場所にいる理由なんてないでしょ」
「負けた?私が?肩がやられただけで、まだ負けていない」

 わあ、つよそうなセリフだ。

「じゃあさっさと攻撃しろ。んでコテンパンにしてやる。こっちも忙しいんだ。晩御飯作らねえといけないんだよ」
「ふざけるなっ!!」

 ムチを取り出して腕に巻き付けられた。え、抵抗はしないのかって?する訳ないじゃん、遠距離はちょっとばかし怖いけど、この間合いなら問題ない。やりたいことやらせてから、反撃する。

「喰らえ」

 さっきの質問タイムは何だったんだと思いたくなるような、清々しいまでの敵意。別にいいんだけどね?この方が心が痛まないですむから。

「な、なんで」
「さてさて。これで終わりか?なら反撃するぞ?」
「なんで効かないのよ!」
「ん?ああ、お前の能力の話?確かにビリビリするけど、所詮その程度だろ?俺の方が強いから効くわけないじゃん」
「そ、そんな理由で、」
「俺はこれでもフェミニストだからな。男だとか女だとかで、殴る殴らないを決めたくないんだが、それでもやっぱり綺麗な人を殴るのは躊躇われる。けど帰れって言ったのに帰らないどころか、反撃してくる始末。流石になにもせずに帰す訳には行かなくなった。別に殴ってもいいんだが、お生憎様、手袋を忘れてしまった。これじゃあ弱いあなた程度では命すら危うい。コンクリすら砕く俺の拳で殴ったら、大変な事になっちまう。だから間をとって、財布出せよ、あ?」






 晩御飯。色々忙しそうだったから、転校生こと秋月さんの分のご飯も用意した。まあ、利き手がやられたので、惣菜ばかりだが。まあ文句は受け付けない。

「いただきまーす」
「なんか、豪華すぎない?」
「そんな事ないだろ」

 唐揚げ、天ぷら、トンカツ、サラダに寿司。あと蕎麦とチャーハン。他にも色々ある。ジュースとか。

「いや、豪華でしょ。中学生2人が食べる量でもないし」
「まあいいんだよ、俺の金じゃないし」
「え?」
「いやー、人の金で食う飯はうまい」
「はい?」
「あとこの財布返しといてね」
「はい!?」
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