ご飯を食べて異世界に行こう

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終章 そして

ある日の市川

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「バァバ!」
「あら、珠緒ちゃん、おはよう。」
「おはよう。」

洗濯が終わって、庭に干しに出てみると、2軒隣の大家さんがシャベルを振るっていました。
私にくっ付いて回る珠緒は、大家さんの姿を見て歓声を上げている。
大家さんは、そんな珠緒を見て目を細めている。
なんかある意味、珠緒や要ちゃんは自分の本当の孫より別の意味で可愛いそうだ。

適度に手入れされたお隣のグビ姐(菅原)さんの庭は、ご本人の許可を得て(むしろ頼まれて)大家さんが作り上げたガーデンです。
玉ちゃんが季節毎に植え替えている花畑(1番崖際にベルト状に咲いている)以外は、人工芝を敷いて物干しがあるだけだったのに、今ではプランターが並び毎朝水を撒くグビ姐さんの姿を見ます。

「朝に仕事を増やして面倒くさいが、でも育っていくのは楽しいものだな。」
「でしょう。玉ちゃんが忙しくなっちゃって、少し寂しかったの。」
「お付き合いしますよ。」

という事で、グビ姐さんも庭いじり同盟に加入しました。
なので大家さんは、我が家の庭の全ての面倒を見ているんです。
あ、と言っても、このアパートは丸ごとうちの人のものだから、大家さんというのも変なんですけどね。
まぁ、仲人を予定していたりと縁(えにし)のある人なので、自由にしてもらっています。

うちの珠緒も直ぐ懐いて、バァババァバとニコニコ笑うんです。
珠緒には血の繋がらない祖母が2人いるんだよね。
うちのお母さんも、しずさんもバァババァバで、珠緒が来るのを待ち侘びている。
しずさんには直ぐに逢えるんだけどね。
北春日部の実家に行くには、船橋と柏で乗り換えないとならないから、会いたければ勝手に来てってお父さんお母さんには言ってある。
お父さんはまだ定年前だし、そうそう市川にまで来れませんから。

という訳で、庭で池の増築工事(ホームセンターで買って来たFRPの池を埋めるだけだけど)をしていた大家さん。
なんでも水槽で飼っていた金魚が大きくなってしまったので、移し替えるそうだ。

因みに犯人はうちの人。
珠緒と要ちゃんをしずさんに預けて、玉ちゃんとあの人と一緒に夏祭りに行ったときに、金魚掬いで手持ちのボウルから溢れるほど掬っちゃったから。

店番していた町内会のお父さんが困り果てていたわぁ。
だって、金魚の方から掬われに来るんだもん。
いや、自分からボウルに飛び込んで行った奴までいたぞ。

なので3人で3匹ずつ貰って来た金魚は大家さんの水槽に移して、庭でみんなで世話していた。
3センチくらいしかなかった小赤や出目はスクスク育って、あっという間に水槽が狭くなった。
元はメダカを飼っていた水槽だから、そんなに大きくなかったし。


「佳奈さん、お父さんはあっちの日なの?」
「いえ、朝から仕事で出てますよ。」

大家さんは、浅葱屋敷の存在を知っている。
「あっちの日」とは、玉ちゃんの旦那様になる日で、浅葱屋敷に行っているのか?という意味だ。
玉ちゃんの結婚式に招待されてから、たまに行って(交通事故駄洒落)しずさんと一緒に畑仕事したり、山から百合や筍を掘り出したりしてる。
そんな時は、ちびやぽんちゃんが、しっかりボディガードをしてくれてます。

「茨城の動物園から狸の仔を貰いに行ってます。あの人が居ると獣医師さんよりも動物が安心するんです。」
「わかるわぁ。だってこの金魚たち、お父さんの姿が見えると、水面から飛び跳ねて来て来てって言ってるの。」
「私と玉ちゃんからすると、子供達にどう説明したら良いんだか、途方に暮れてるんです。」
「困った人ですもんね。」

★  ★  ★

「ただいま。」
「お帰りなさい。」
「お帰り、パパ。」

うちの人の帰宅は今日は早く、3時を回ったくらい。
珠緒のお昼寝が終わって、ミルクを飲んでも最中だった。
なお、その手には、何やら茶色いものを抱えている。

「何、それ。」
「モモンガの子供だね。」
「また貰って来たの?」
「いや、道端に落ちてた。怪我をしているから連れ帰って来た。」
「野生動物を無闇矢鱈と拾ってくるんじゃありません!」
「もう、懐いちゃたから。」

あの人曰く。
「多分親に捨てられたかなんかだと思う。怪我は大した事無いってウチのドクターが言ってたから、ウチで面倒見た方が入院させるより良いって言われてね。」
だ、そうです。

確かに市川動物園のぽん太は、うちの人と関わる事によって骨折の完治が早まったから、うちの人をスカウトしたんだよね。

「かわいい!」
「あぁこら、触っちゃ駄目だよ。どんな病気を持っているか、わからないから。」
「ええぇ。」

珠緒が触ろうとしたら、モモンガはいち早くあの人の懐に逃げ込んだ。
服の合わせから顔だけ出して、きゅうきゅう鳴いてる。

「この仔どうするの?」
「しずさんにお願いするよ。あっちならこっちの変な病原菌も跳ね返せるから。」
「…神様が居るからねぇ。」
「真神にでも頼んでおけば、直ぐに元気になるだろう。しずさんがOKを出せば珠緒にも要にも触らせてあげられるよ。」

触ったら病気になるって言われた珠緒は、さすがに手を出さなくなっているけど、テーブルの上に常備してある、しずさん特製のドライフルーツの欠片を差し出してる。

まだ小さいから固形物を食べるかどうかと思いきや、手ずからコリコリ齧り出したので、キャッキャ喜んでる。
確かにこの子、玉ちゃんちに行くと、庭でうさぎたちに囲まれているんだよね。
そこら辺は、私達の娘というべきか。
動物と仲良くなるスキルは、私や玉ちゃんを超えている。

要ちゃんもそうなのかなぁ?
ちびやぽんちゃんは、要ちゃんのお兄さんお姉さんを気取っているそうだけど。
しかも、ちびやぽんちゃんの子供達よりちびやぽんちゃんに可愛がられている様子が窺えるって、どういう事よ。

しずさんが庭にいれば、子供達はみんなしずさんのところに集まって、珠緒や要ちゃんには、それこそ最初期の動物達が面倒を見たがっている。
寝転んだモーちゃんや神馬のお腹に寄りかかって寝ていたりするんだよ。
うちの子達。

「あっちに連れて行くの?」
「いや、要の日だから。僕が行っちゃいけないんだ。」
「あぁ、あの日か。」

珠緒にも、そんな日があったっけ。
迂闊に神様と仲良しな菊地(浅葱)一族だから、きちんと調整しないと化け物が出来上がってしまうそうだ。

「このトンデモさん、神様と仲良くなり過ぎたのよ。玉ちゃんは荼枳尼天様と恵比寿様に認められて巫女様だし、貴女は浅葱の娘。菊地さんとのお子さんなんか、どんなトンデモに育つかわからないわよ。だから、ある程度制限をかけさせてもらうわ。」
「久しぶりに会った一言目がトンデモさんかい。」
「うるさい。なんで知らない内に、そこら辺の国津神より神格が高くなってるのよ!もはや御神刀なしでも、私じゃ敵わないじゃないの!」
「うぅん。大口真神と50年くらい一緒に剣の訓練をしたからかなぁ。」
「本邦開国以来、そんな人間は居ませんでしたよ。」

ってキクヱさんが呆れ返って、私達の元に顕現したのだ。

要は、ちゃんとした子供に育てたいなら、余計な力が育ち過ぎない様にしないとならないんだって。

まぁ私にも自覚なかったけど、浅葱の力は私の努力にフィードバックしていたそうだし、珠緒にしても目の前で見た様に父親譲りの動物懐かれの天才でもある。
最近から自分の力を知っていて生きてきたお父さんと違って、まだ珠緒も要ちゃんも何も知らない。

今の自分、今の環境が当たり前だとか思っていたら、将来碌なことにならないだろう。


こんな出鱈目な生活が私は好きだ。
この出鱈目な生活を求めて私は頑張って来た。
私の「浅葱の力」で頑張って来た。
私は想い人を手に入れたし、私達の大切な宝物も手に入れた。

私の旦那様は、多分この先ずっと、このまんまの人。
だから私達、菊地佳奈と菊地玉は、菊地珠緒と菊地要を一人前の大人に育てないと。

だって。
私達はそう、私達の「今は亡き」お母さんに約束したのだから。

幸せになるって。
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