ご飯を食べて異世界に行こう

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第二章 戦

最後の何もない日2

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抱えた手作りお手軽コンテナに、焼いただけ焼いたアルミホイル包焼き芋の山と、赤蕪を数本乗せて庭に戻る。

焚き火は灰を被せて消火。
数メートル後ろには貯水池があるのだけど、迂闊に水を汲みに行くと、オイカワや川海老が桶やジョウロに飛び込んでくるのと、どうせ土地神が火の元管理をしているから火事にはならない事がわかっているので、このまま酸素不足による自然鎮火に任せます。

こうすれば灰の温度が下がる頃を見計らって、青木さんなりしずさんなりが畑の肥料として撒くので。
そう言う用途でも、水をかけずにサラサラの粉状にさせておいた方が良いんです。

畑と居住域の堺になっている柿の木を潜る時にふと見上げると、百舌鳥と鶯が仲良く並んで柿を突いていた。

あぁ、これは市川の庭で梅の木に止まっていた仔たちだ。
なんだか知らないけど直感で分かった。
ここまでどうやって来たんだろう。
まぁ、ここには猛禽類どころか烏を見かけた事ないし、天敵がいなくて餌に困らない楽園なのは事実だ。
市川にいるよりは安全かな。

それに百舌鳥も鶯も、山に番になる仲間もいそうだ。だったらまぁ良いか。

最初の頃は、ここは音まで凍った世界だったけれども、玉と2人で土地神の穢れを祓ったその時からその瞬間から、風の音や鳥の鳴き声が谷間に響き渡った。

今でも、うちにいるハクセキレイや山鳥やルリビタキや鶉とは明らかに違う野鳥の声が何処からしている。

しずさんが望むように、アルビノモルモットに子供が出来たように、ハクセキレイや山鳥の雛鳥が遊ぶように、いずれこの世界にも、動物達の出産・子育てラッシュが来るだろう。
 
…いざとなれば雌犬を買ってくれば良いちびはともかく(シェルティって高そうだけど)、ぽん子はどうしよう。
やっぱり聖域から、たぬきちを引っ張ってくるしか無いのかなぁ。
昔そういえば、玉がそんな事を企んでいたなぁ。

………

「あ、殿。ご苦労様でした。」
白いゴムヘラを持った割烹着姿の玉がとてとて走って迎えてくれた。

足元にはモルモット達が玉をうろちょろ追いかけてくるので、ちょっと心配。

しずさんはいつものテーブルで鍋を掻き回しているけど、青木さんの姿が見えないな。

「佳奈さんなら、台所で何か焼いてますよ。」

僕がキョロキョロしたので勘付いたのだろう。
そうか。ピザ釜をいじっているんだっけ。
そう言いながら、玉がコンテナの中を覗き込んで来る。

「あ、かぶ!かぶを育てて下さったんですね。…でもこのかぶ赤いですねぇ?普通かぶって白くないですか?」
「赤蕪という種類だよ。」
「種、どこにありましたか?玉は買ったまますっかり忘れてました。」
「たぬきちが咥えてきた。」
「たぬきち君が…。じゃあっちに置いたまま忘れちゃったんだ……。この匂いは??お芋さん?」

忘れ物の反省から秒で立ち直る玉さん。

「せっかくの焚き火だからね。あっちで掘って来た。」
「お母さん、殿が焼き芋作ってくれましたぁ!」
人からコンテナごと奪い取って走って行く玉さん。
追いかけるモルモット達。
一生懸命なちびモルが可愛いな。

やれやれ。

『お疲れさま』
ぽん子がやって来て癒してくれたよ。
抱っこすると、僕の顔を舐め回してくれる。
「まぁ、これもいつもだよ。」
小声でボヤくと、ぽん子は頭を僕の胸に押し付けて慰めてくれた。

「あらあら、焼き芋ですか?」
「適当に保温しておくので、後で皆んなで食べて下さい。」
お昼も済んでいるし、ここの動物達は3食という事もない。
 
普通なら時間を決めて給餌されるものだけど、主食類はいつでも食べ放題にしてあるので、お腹が空いた時だけ食べるそこら辺のだらしがない身体した人間より、よっぽど規律正しい生活をしている動物達だ。

ぽん子とちびは、
「太ると、婿殿やお姉ちゃんに抱っこして貰えなくなるわよ。」
って、しずさんから聞かされて、食べ過ぎたら出来るだけ走り回るダイエッターな生活を送っているとか。

そういえば大口真神も
「俺も女の端くれだから、痩身には気をつけているんだ!」
って、僕の前で腰に手を当てて宣言してたな。(馬から人化したばかりだったから、全裸で。だから前を隠せ)

あなたも神様の端くれなんだから、身体付きなんか自由自在だろうに。
なんだかよくわからないけど、多分可愛い奴なんだろう?
性別は荼枳尼天に騙され済みなので、真神を女性と扱うには、色々躊躇する僕です。

………

玉が縁側にコンテナを置いて、中から赤蕪だけを取り出して、持って来てくれた。
さすがの玉さんでも、お昼を食べたばかりで芋を食べる気にはならないらしい。

2×4材で拵えたテーブルでは、七輪と鍋を前に、しずさんが白玉を湯掻いている。
白玉は米から作るので、ここの動物にも食べられる。
餡子は小豆なので、糖分を抑えてあげれば少しくらいは大丈夫。
って言うか、うさぎが食べるとは思わなかった。
考えてみたら、うさぎ用のおやつとか売ってるな。

ミニ豚やミニうさぎも後ろ脚で立って、しずさんがわざと落とす白玉カスを、まだかまだかと待っていたり。

これが普段の「ここ」なんだよね。
しずさんが動物達から「お母さん」と言われる由縁だよ。
なのに僕が、「殿」ならともかく「お父さん」と言われるのはどうなんだ?

「玉にとっては殿は殿で、いずれお父さんになりますから良いですよ。そうなったら、お母さんはお婆ちゃんって呼ぶようになると思います。」
「まぁまぁ、私がお婆ちゃんですか。その日が待ち遠しいけど、女としては複雑ですよ。ね、婿殿。」
「僕に何と答えろと?」

………

さて。
蕪はまず葉を包丁で落とします。
これは漬物に最適なので、化学調味料と塩をほんの少し、あと鷹の爪をビニール袋に入れて揉みます。

「お漬物は玉の仕事です。」

って玉さんに取られるところまでがデフォルトです。

「もみもみ。もみもみ。」

オノマトペと一緒に作業するのもデフォルト。
ほっておいても数分で浅漬けにはなるのだけど、玉は茎の芯の残らない漬物が好きなので、もみもみ柔らかくするんです。

蕪は薄切りにして、麺つゆに漬けておく。
厚揚げを一口大に切り揃えて、きのこを、歯応えを複雑にしたいからエリンギを、それに豚こまを同じくらいエリンギと同じ大きさに切り分けてっと。

「かきかきしゅっしゅっ!かきしゅっしゅっ!」

…創作料理を作っていると言うのに、玉のオノマトペで力が抜けるぞぉ。

今、玉がしているのは鰹節をカンナで削る事。
元々、節約大好き玉さんは、出汁殻の昆布や花かつおを再利用する事も大好きで、ペラペラになるまで煮込んだ昆布は味醂醤油と生姜で佃煮にする。
佃煮ばかりそうそう食べきれないから、おにぎりにして、たぬきち達のご飯にもする。

これはいつだったか、大多喜にキャンプに行った時、上総中野駅前の露天で伽羅蕗を売っていたお婆さんに聞いた料理。
メモ魔玉さんは、あれこれお婆さんに聞いてはノートに書き写していた。
実践に役立てているのは褒めるべきところだ。

花かつおも我が家では大量に使うので、ふりかけにしようとしていたのだけど、花かつおは薄くて大きいから、いわゆるオカカふりかけにはならない。

「むむ。乾かして砕けば良いって思ってたのにぃ。」
「だったら鰹節を削るかい?」

で、熊本の実家でお袋が使い、親父が使い、僕が使ってた鰹節削りカンナを浅葱の力で出してみた。
うわぁ。敗れかけたボール紙の箱とか、少し欠いて小さくなった鰹節とか。
僕の記憶のまんまだ。
せめて新品が出て来ても良いのに…。新品のカンナって何処に売ってんだろう。

乾物屋とか?
市川のうちの近所に乾物屋とかあるのかなぁ。
あと、鰹節カンナなんか、家族が15年以上使って壊れないくらい長持ちすらものだから、多分家族の想い出を大切にする妹は、まだ熊本で使っているだろうなぁ。

的な、カンナを市川と浅葱屋敷に常備している玉さんです。
という事で、出汁殻の鰹節も味醂で煮込んで乾燥させて、海苔と胡麻と塩で味を整えて、うちやしずさんちの食卓にふりかけとなって乗ります。

今日の鰹節は出汁ではなく、蕪の葉の浅漬けに、鰹節粉をかける為に削るという、かつての殺人料理人が進化した姿を見せてくれてる訳ですな。


「殿?摺鉢とすりこぎって何処に仕舞ってありますか?」
「ん?」

鉄板を出して、蕪を炒め始めよう。
蕪の炒めものは、僕的に新基軸だ。

「最近使ってないから、しずさんが使って無ければ、下の台所にある筈だよ。」
浅葱屋敷は、土間の台所と床板を張った台所が並んでいる。
「お母さん?」
「お母さんは使って無いですよ。とろろをしばらく作ってないもの。」

「わん!」
山芋って、川の向こう岸にあるから嫌なの。

あ、ぽん子が言い訳してるぞ。

「ぽん子ちゃんが川に行くの嫌がるから掘りに行けないの。後でモーちゃんに付き合ってもらいましょうかしらね。」
「僕もお付き合いしますよ。筍2~3本採って晩御飯のおかずにしますから。」

「それじゃ、いつものとこですね。行こっ!モルちゃん達。ぴゅー。」
ぴゅーとオノマトペを立てる割に、とことこのんびり歩いて行く玉さんと。
「ぷいぷい」
「ぷいぷい」
ご機嫌そうに玉の後を追いかけて行くモルモット軍団。

「あらあら。」
あらあら母さんが、白玉を作り終わってバットに並べながら、細い目をして、娘の姿を呆れながら見守っている。

「あんなので、婿殿のお嫁さんが務まるのかしらねぇ。」

それは多分、娘の無作法を婿に謝っている言葉だと思う。
なので僕は、童謡をちょっとだけ歌う事にする。

「15で姐やぁは嫁にいぃきぃ。」

作詞をした三木露風にはお姉さんは居なくて、子守りをしてくれた近所のお姉さんだとか、この歌のモデルとなった登場人物が殆ど不幸な境遇だったとかは内緒。

「僕が子供の頃に、幼稚園か小学校、しずさんに分かりやすく言うと手習所ですかね。そこで習った子供向けの唱歌です。ほんの100年にも満たない昔まで、玉の歳で嫁入りするのは当たり前だったんですよ。」

玉の実年齢は未だに教えてもらってないけど。
この嫁に行った姐やは、当時の事だから数え年。つまり14歳で結婚したんだろう。

「身の丈に合った身分が人を作ります。それは昔も今も同じですよ。」
って言った側から。


「うひゃァァァァァ!」
「佳奈さぁん!」
「わんわん」

浅葱屋敷の台所の方から、残念姉妹とちびの悲鳴が聞こえる。

「多分。」
「ごめんなさい。」

しずさんにはっきりと謝られました。
せっかくフォローしてあげたのに。アイツら。
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