ご飯を食べて異世界に行こう

compo

文字の大きさ
上 下
203 / 231
第二章 戦

最後の何もない日

しおりを挟む
香取神宮と鹿島神宮に行った(行かされた)翌日の日曜日の昼下がり。
浅葱の畑の隅っこの焚き火場で、僕は1人焚き火をしている。
ぱちぱち、ぱちぱち。

実世界の市川市ではダイオキシンがどうだとか、匂いが洗濯物に移るだとか火事の心配だとか、色々法律的に出来ないけれど、ここでは土地神の許しを得ているので、何でも燃やせる。
市川から通販のダンボールとか、ボロ切れだとか、カレーのパッケージだとかを持ち込んでいるので、我が家がゴミステーションに出す燃えるゴミと資源ゴミはとても少ない。
玉さんが毎朝ゴミ捨てに行くのも楽だ。
僕がまだ寝ている間に捨てに行くけど、玄関先の袋はいつも小さいから。

大体のものはしずさんが竈門の焚き付けにしちゃうんだけど、固めた天ぷらの廃油とか使い古しの竹とか、竈門には危ないものも多い。
変なものを焼くと竈門が傷んじゃうし。
今焼いているのも、それ。

さっき玉と青木さんが拾って来た栗のイガだ。
中身の栗は、しずさんと3人で色々調理を始めている。
で、こう言った物を燃すのは僕の仕事なので、1人柿の木の下から畑に出ているわけだ。
そしてこの灰のアルカリ性は、堆肥として最適になってくれるので、後で青木さんが回収してくれる。


僕の側には、紫色をしたサルビアの花が列を作って結界を成している。
背の高いサルビアの長い花は、垣根としては頼りないけど、誰かが入って来るわけでなし。(そもそも僕や神馬が出入り出来るように何箇所か切ってある。)

元々は青木さんが向日葵とか菜の花を植えていた。
何故か彼女が選ぶ花は黄色ばかりなので、暇に任せて玉と買って来て植え替えたものだ。
あと、向日葵は直径30センチを越える花がちらほら。
…大き過ぎない?

「ほら、たぬきち君のところは、玉が昔の家の前で摘んできた花で真っ白じゃないですか。だから佳奈さんは黄色くしようと思ったそうですよ。」
「一輪草は玉の想い出の花だからって理由があったけど、青木さんは黄色けりゃ何でも良さそうだよ?」
彼女のラッキーカラーなのかな?
或いは風水的に金運上昇の願掛けとか。

菜の花とか向日葵とか。
種類に関係なく、黄色い花を通路の側に植えて、畑と通路の区分けにしているよ
彼女。

「それなら、青とか赤とかがいいですねぇ。」
「いっそのこと色を混ぜようか?」
「はい?色を混ぜるってなんですか?」
あぁ、玉は水彩絵の具を使った事なかったか。
お絵描きは青木さんの役割だったな、
という訳で紫色のサルビアになりました。


サルビアの外は南北に走る土の街道。
誰も通りがからないけど街道。
穢れた狼とか、迷い込んで来たちびとかしか通らない街道。
人が歩いて来たら、それはそれで嫌だぞ街道。
今はモーちゃんが蹄を削る為に神馬と日課の散歩中。
神馬がいるから、ボディガード役のちびもぽん子もいない。
もぅもぅ、ひんひん。
なんか仲良しな2頭。(どちらも雌)

道路を挟んで向かいには一年中実がなりっぱなしの栗林が茶色いイガを満載にしている。
風に揺れると、イガ同士がぶつかって、がしがし独特な音がする。
この水晶の世界に夜が来る様になってから、クワガタやカブトムシがやたら増えて、ぽん子が怖がり出している栗林。
山鳥が捕まえてくるけど、逃げ出すぽん子。
狸なら虫を食べなさいよ栗林。
虫をたぬきちやテン親子は美味しそうにコリコリ食べるぞ。
まぁ、イガは踏むと危ないから近寄ってはいけませんって言ってるけど。

栗林の北側はグッと地面が下がって休耕田の形がそのまま残っている。
本物の熊本にある浅葱屋敷では、栗林のある部分にお屋敷がある、お向かいさんの田んぼだった。
僕が浅葱の本家に出入りしていた頃は、現役の田んぼとして黄金色の稲穂が首を垂れていたな。

南側は2~3日前まで荒地というか、休耕地のままだったのだけどね。

「ここはのんびり出来て楽しいけど、折角だから走り回りたい!今の俺、馬だし!いいでしょ!」

って大口真神からリクエストを受けたので、一言主と三者会談を開いて開拓してみた。

余計な塵を大口真神自ら(人化して)掃除していたので、僕はその後を耕してからチモシー種の芝を植えた。
彼女(かのめがみ)は、枯れ枝は焚き付けに、落ち葉は焚き火場にと抱えて、何回も何回も畑や庭を往復していた。
人化すると艶かしいお姐ちゃんになる大口真神が、汗をかきかきゴミを一生懸命運んでいた姿がなんとも微笑ましかった。
この俺っ子神様、なんか僕には健気なんだよね。
知らないうちに、しずさんとも顔見知りになっていて、玉達が居ない時は人化しては時々会話をしているって聞いた。
温泉にも1人浸かっているんだとか。
あと、なんでも神馬が馬じゃ無いと見抜いたのは、しずさんが一番早かったらしい。
一応、玉には伝えているそうだけど、玉も青木さんも、普通の馬としてブラッシングをしたり、人参をあげたりしている。



浅葱の力で複製した狼の像と、ホームセンターで買った小さなお宮を端に置いて、一言主自らに自分の分霊を祀ってもらった。
雨が降らない水晶の世界なので、白木のお宮を直接地面に置かなければ不朽しないし、本物の神様がいるから劣化もしない。
なので、ブロックを積み上げて台座にして、芝生地の隅に小さな社を築いた。
しずさんが栗拾いのついでに榊の交換に来てくれたり、御神酒をあげたりしてくれている。
これでこの芝生地も、浅葱屋敷の敷地と同じだけの土地神の加護が受けられる。はい、インチキとも言います。

道路と芝生地の間に温泉の湯気の立つ排水溝があって、お風呂大嫌いなぽん子は近寄ろうともしないのだけど、排水溝は動物が落ちない様に、聖域の川に使った玄武岩だか凝灰岩だかで作った岩盤で蓋をしてみた。
ついでに土地神が勝手にまた湧水を通したので、大型草食動物は昼間こっちで過ごす事も考えているようだ。

でも、皆んなしずさんと離れたがらないから、誰かがいないと屋敷外のここまでなかなか来ないんだよね。

今日は僕が向かいに居るし、サルビアの隙間から僕の姿も見えるからだろう。
ヤギの夫婦がやって来て、のんびり草を食んでいる。
普段このヤギは蔵の一階で寝て、昼間は敷地内をうろちょろしている事が多い。
うちのヤギは畑にいる時は、野菜や花卉には手をつけず雑草だけを選んで食べてくれる特殊なヤギなので、

「偉い!みんな偉い!2人とも偉い!ありがとう。ありがとうね。これで美味しい野菜が食べられるよ!」

って青木さんが褒めて褒めて褒めまくるので、嬉しそうになついているとか。
ヤギの夫婦を2人と言う青木さんも、相当毒されているなぁ。(自分で毒とか言うか、僕)
今、雄の方は思いっきり気を抜いて、座り込みながら牧草をむしゃむしゃ食べてるな。
うちの動物達は皆、野生と警戒心をどこかに捨ててしまって久しい。

そして、珍しく僕は1人。
屋敷の庭からは玉達の歓声が聞こえるけどね。
普段ならぽん子やらうさぎやらが周りに屯っているのだけど、庭で開いている栗料理会に夢中らしい。
誰も僕の側に来てくれない。

しずさんとご飯の組み合わせは、動物達には必中マストなんですな。

焼き栗とか、栗きんとんとか、渋皮煮とかをしずさんが時々作ってくれるので、御相伴に預けるのを期待しているとか。
うちでも玉がお裾分けを持って来てくれる事を、大家さんが楽しみにしている。
我が家は色々関係性が複雑だ。

今日は部屋から白玉粉と、そこの畑で育てた小豆の自家製餡を玉が持参しているので、白玉金時とか栗ぜんざいとかを期待してもいいのかな。
青木さんはピザ釜の使い方をさっき僕には聞いていたので、洋食系デザートを作るのかな。
栗じゃなく、マロンと名のつく甘味かね。

………

そろそろ良いかね?
火かき棒で灰を掻き回して、アルミホイルを幾つか掻き出した。
これは朝、聖域に玉と毎朝のお勤めに行った時に収穫しておいた「紅あずま」。

芋けんぴとか、大学芋とか、粉末にして小麦粉と一緒にスナック菓子にしたりするさつまいもですが、今日はなんとなく焼き芋にしたくて、焚き火が自由なコチラでホイル焼きにしていたんだよ。
聖域では焚き火は今まで何となくしてないし。

ええと。
荼枳尼天・御狐様・たぬきち・ふくろう君・テンママ・てんいち・てんじっと。   
焼き芋は7本有れば良いかな。

普段は玉が自分で作ったり、しずさんが作ってくれてたりする奉納品やご飯をめしゃめしゃもしゃもしゃ食べているんだけど、僕のご飯も喜んで食べてくれるから。

というか、荼枳尼天には僕のご飯を定期的に要求される始末。
その為には、本来なら祟り神のおっかない神様が、全国を回って自分で食材を調達してくれる。
聖域にある「泥鰌池」は、いつの間にやら「お止め池」にされている。
柳川鍋にする日を目指して、泥鰌は丸々太らされている訳です。
あ、「泥鰌」と「まる」は考えオチの交通事故駄洒落だ。

「あちち。」
板切れを適当に組み合わせて釘打ちしただけの小さなお手製コンテナに7本の焼き芋をアルミホイルごと入れて、浅葱の力で保温しておく。

ひょん。

浅葱の水晶から聖域の水晶に転移すると。

「くにゃ」

この時間は大抵みんな寝ているのだけど。
荼枳尼天の眷属が主人を放置して、いつもみんなで憩う川沿いの緋毛氈の上でお座りをして待っていてくれた。
…この御狐様は、最近主人を蔑ろにしがち過ぎやしないか?

「くにゃ」
「はいはい。」

御狐様がお手をして来たので、おかわりをさせてあげて、胸元を撫でてあげる。
幸せそうに目を瞑る姿が可愛い。

「焼き芋だから、毛並みを汚しちゃ駄目だぞ。」
「くにゃ」

光り輝くくらい綺麗な白い毛並みの狐なので、撫でているだけで、コチラも気持ちいい。
たぬきちと違って、ブラシを使わずに手で漉いてあげると喜ぶ。

「みんなの分はあるから、仲良く食べなさい。」
「くにゃ」

最後に頭を軽くグリグリすると、頭を押し付けてくるのは玉みたいだ。

「じゃあね。」
「くにゃ」

………

浅葱の畑に戻って、残りの焼き芋を焚き火から回収。一休み。

さて、今日の目的はもう一つ。
焼き芋を置いて、畑の中に入っていくと。あるある。緑色のノコギリみたいな葉っぱ。

うんとこしょ、どっこいしょ。
(玉に買ってあげようかな、この絵本)

出来た出来た。
玉が種を買ったままほったらかしにしてあった赤蕪ですな。
なので僕がこっそり植えてみた。
こっちは基本的に青木さん主導なんだけど、玉の種なのでなんとなくこっちに植えた赤蕪。

玉は漬物にする気だった(なのに忘れるほど、やる事が多くて充実していると見てあげよう)のだけど、これはこれで別の料理にしようじゃないか。

「おぉい。僕はもう行くぞ。」
ヤギに声をかける。
一応、僕も彼らの保護監督の役割があるから。
「メェ」
「メェ」

大口真神とモーちゃんがまだ居るから、もうしばらくここに居ます。

そうですか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

もしもしお時間いいですか?

ベアりんぐ
ライト文芸
 日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。  2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。 ※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々

饕餮
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある商店街。 国会議員の重光幸太郎先生の地元である。 そんな商店街にある、『居酒屋とうてつ』やその周辺で繰り広げられる、一話完結型の面白おかしな商店街住人たちのひとこまです。 ★このお話は、鏡野ゆう様のお話 『政治家の嫁は秘書様』https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981 に出てくる重光先生の地元の商店街のお話です。当然の事ながら、鏡野ゆう様には許可をいただいております。他の住人に関してもそれぞれ許可をいただいてから書いています。 ★他にコラボしている作品 ・『桃と料理人』http://ncode.syosetu.com/n9554cb/ ・『青いヤツと特別国家公務員 - 希望が丘駅前商店街 -』http://ncode.syosetu.com/n5361cb/ ・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 ・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376 ・『日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)』https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232 ・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』https://ncode.syosetu.com/n7423cb/ ・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』https://ncode.syosetu.com/n2519cc/

処理中です...