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第二章 戦
また厄介な事言われました
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「菊地様、お約束の物をお願い致します。」
そこには佐原で会った愉快なお姉ちゃんではなく、巫女装束をきちんと織り目正しく着込んだ、武甕槌の巫女として、キクヱさんが僕らの前に立っていた。
同時に一瞬だけ鼓膜が引き攣る感触がする。
そして世界から色が無くなる。
今生の現実世界を離れ、神域に入って行った事を示しているわけだ。
玉も青木さんも、僕の半歩後ろに左右控えて推移を黙って見守っている。
この2人も、ついさっき香取神宮の別空間に案内されていたし、試練中の記憶は消されているにしても、僕といると巻き込まれるいつもの異常事態なので、特に慌てるそぶりはない。
約束の物。
それは素朴な糸1束と棒2本。
玉と青木さんとしずさんとの間に縁(えにし)を更に深く結ぶ為に、わざわざしずさんにお願いして用意してもらった。
別にこれといった特別な物では無い。
糸は浅葱の山の麓に自生している麻(アマ)から編んでくれたもの。
神職のしずさんには、大麻(オオアサ)は神具の一つであるから、麻を探すのも糸を紡いで布にするのも朝飯前だ。
ただし浅葱屋敷には織機がないので、ただの麻糸を作ってもらった。
棒はそれこそただの棒。
ぼっこなら、普段焚き付けにする程そこら辺にいくらでも落ちているから、それをそこら辺に転がっている刃物で適当に成形してもらった。
全部、浅葱屋敷の周辺で揃えたお手軽品だ。
「たしかにお預かり致しました。」
糸と棒を抱えると、キクヱさんは背にしていた要石に振り返った。
「後ほどお届けにあがりますね。」
後ほど、どこにお届けにあがられるのやら。
僕の家に竜脈を繋げちゃったからなぁ、この人。
台地の際にあるアパートなので、地形的には一応条件には適しているんだろう。
あと、大口真神のいる場所にはどこでも行けるらしいし。
大口真神は僕のいる所なら、地球の裏側にいても現れるって言ってたな。
「あ、そうそう。」
キクヱさんは、身体半分だけ透き通らせて(器用ですね)、最後にとんでもない爆弾を置いていきやがった。
「貴方と佳奈ちゃんのえにしを強固にする為に''まぐわっとき''なさい。最低でもチューくらいしときなさい。」
後ろの2人が固まったのが気配でわかった。
★ ★ ★
こちらの要石にも、僕の左手から伸びる光を交換して終わり。
さて、これで取り敢えず用事は全部終わった。帰ろう帰ろう。
そろそろ陽が傾きだす時間だ。
市川までは遠いぞ。
世界に色が戻って、元の空間。
巨大な杉の木だらけの中に僕らは再び現れた。
幸い他の参拝客観光客はいなかった。
人払いでもしておいてくれたのかな?
あぁ、帰りに武甕槌に挨拶しておかないとな。
「ね、ねぇ。」
「なんですか?」
恐る恐る青木さんが話しかけて来た。
「……するの?」
「したいの?」
「…女にそれを言わせる気?」
とは言っても、僕の女性経験は覚えている限り、女性に引き摺り込まれてなんですな。
僕から口説きに行ったり、誘った事は殆どない。
基本的に狩られてばかりだった。
考えてみれば玉だって、玉の方が一方的に積極的だし。
玉には手は出してないよ。
玉に手を出されてもいないよ。
因みに、デリカシーの欠片も無い返答をしているのは、わざと。
この先に何が待ち受けているのか大体の予想が付いている僕の方が、気持ち的に全く盛り上がれないからだ。
「まぁ、きちんと婚約して結婚するのなら僕は子供が欲しいし頑張りますが。」
でも今日のこれはなんか違う。
義務みたいで変だし嫌。
ましてや初めてなんでしょ。
僕が割と受け身な初体験だったから、本当にお嫁さんになる気なら、もう少しロマンチックな、ね。
って、ありゃりゃ。
青木さんは顔を真っ赤にして、多分深く考えてなさそう。
「玉にもしてくれますか?」
おっと。今のはちょっと来たぞ。
上目遣いの玉は反則だ。
自重、自重。
「玉にするのはやぶさかでは無いけど、今回玉のご指名なかったぞ。」
「なんででしょうか?」
多分チューまでは玉と済ませているからだと思う。
やれやれ。
やれやれやれやれやれやれやれやれ。
これはもう、武甕槌に一言もの申さないとあかんね。
今度はもじもじしっぱなしの青木さんに僕が着ているパーカーの裾を引っ張られて参道を歩く羽目になった。
玉は僕の手をニコニコしながら繋いでいるので、せっかく香取神宮では避けられたヘイトを、それもジャージを着て多分お勤めボランティアに来ているのであろう、竹箒を持った中学生(女子多め)から買う僕でした。
あっ!コラ!
…僕の顔見て引っ込むんじゃないよ、武甕槌!
………
武甕槌が逃げちゃったので、普通に参拝。
ようやく正気に戻ってくれた青木さんと並んでぱんぱん。
玉も後ろでぱんぱん。
向かいにある社務所というか、売店デカいな。
ここにある建物の中で一番大きいぞ。
しかも大抵神社仏閣の売店て、客(?)は外から買うけど、ここは客も普通の店みたいに中に入れる。
初詣とか、このくらい無いと参拝客を捌き切れないんだろうなぁ。
お土産というか、お守りやお札も大量にあるので、端っこから一つ一つ眺めて行こう。
ふむふむ。と僕が手にしたのは木製の御神刀(8,000円)と白蛇のお守り(1,500円)。
本物の御神刀は右腕だか左腕だかに格納(笑)されているけど、お土産屋で木刀を買うノリで買ってしまった。
白蛇のお守りは、白木の箱に納められていたから。
なんとなく白木の箱に惹かれて。
「佳奈さん。常陸帯ですよ。常陸帯。」
「なぁにそれ?」
「安産のお守りだそうです。」
「むむ!」
隣で玉が何か言ってるけど、聞こえない聞こえない。
あと安産祈願帯は妊娠して安定期に入ってから戌の日に贈られるものだぞぅ。(遠くに向かって小声で言う僕。しずさんに買ってあげた圓生師のCDで教わった落語知識です。)
………
御神籤が無いなぁと思ったら、売店の建物の外にあった。
なんだろう。僕らの御神籤引きもすっかり恒例化し始めてるな。
一言主神社や榛名神社で御神籤引いたっけなぁ。
僕のは、はい大吉です。
「鹿島の事触れおみくじ」って書いてある。
御神籤も鹿島神宮オリジナルですか、儲かっているなぁ。
『いやぁ、それほどでも』
ふと気がつくと、武甕槌が玉と青木さんの手を取って、御神籤に導いてます。
神様の姿が見えない2人には、自分の意思で御神籤を引いていると思っているのだろう。
…こういうのもインチキとかカンニングとか言うのだろうか。
虫の知らせとか、ヤマ勘とか、まさか神様が傍からちょっかい出しているんじゃないだろうか?
『では。結婚式はウチで挙げると良い』
それだけ言うと、武甕槌は本殿に戻って行った。
なんだかなぁ。
荼枳尼天と一言主に叱られそうだから、返事は軽々しく出来ないよ。
「あ、殿!こっちも大吉ですよ!」
「私も!今日はついてるね。」
そうでしょうねぇ。
呆気に取られて、キクヱさんの分まで武甕槌にもの申すの忘れましたよ。
香取神宮のキクヱさんの正体ってなんなのだろう。
★ ★ ★
さぁ帰るぞ帰るぞ。
トンチキな事態連チャンで、僕はなんだか凄い疲れたぞ。
あと。
「予約。」
とだけ言って、青木さんが青いお守りを押し付けて来た。
予約、と言うのは、''その日が来る前に手を出せ''って事だろうなぁ。
その日って今月中なんだけど。直近にして近々なんだけど。
青いお守りは、青木という名前にかけて本人を暗示しているんだろうし。
「あ、殿。今日はお土産買ってませんよ。」
「香取神宮の草餅を沢山買ってあるから、後で好きなだけご近所に配りなさい。」
しずさんと菅原さんの分は本物で、あとは浅葱の力で複製したものだけど。
「あの草餅美味しかったですねぇ。」
「僕はしずさんが作ってくれる餅の方が好きだけどね。」
「それはそれ。これはこれです。」
「そうですか。」
車は潮来ICからさっさと東関道に乗る。
途中北浦を渡る橋にちょっとだけ玉が歓声を上げたけど、青木さんが直ぐ寝ちゃっていたので「わぁのわ」の途中で声出すのやめた。
もはやどっちが歳上なのかわからない。
代わりに。
「ぷいぷいぷいぷい。」
「玉さん、何それ。」
「モルちゃんの真似ですよ。」
「あぁ。」
確かにサラダ菜とかあげてご機嫌な時、我が家のモルモット達は歌を歌い出すな。
ただの鳴き声かと思いきや、きちんと旋律がある事に最近気がついた。
どんなモルモットだと言われても、こんなモルモットだ!としか言いようがないモルモットになってしまったぞ。
誰が悪いんだろ。
「玉、さすがに僕も今日は疲れた。青木さんも疲れたみたいだし、晩御飯は外食にしよう。何が良い?」
「そうですね。お昼はお肉でしたから、お魚かなぁ。」
「洋食や中華にも広げてみよう。」
「んんと。んんと。」
そもそもお魚って何食べたらいいんだろ。
「炒飯は殿が作ってくださる方がお店より美味しいですし、餃子はみんなで作る大蒜たっぷりを一度味わってしまうと、お店の餃子じゃ満足出来ない身体に玉はなってしまいました。」
あのニンニク餃子を食べた後は、外出出来ないくらい強烈だからなぁ。
「そうだ。お母さんに何か作ってもらいましょう。」
「それは駄目。しずさんはしずさんで、自分で今晩の献立をもう考えているだろうし、みんなで押しかけたら迷惑だよ。」
しずさんは畑を回って収穫した野菜を軸に、冷蔵庫の前で考えるのが大好きなんだってさ。
後ろにぽん子とちびがついて回る姿が目に浮かんで、疲れた頭がほっこりする。
「そうですか…。」
「まぁ玉だけなら大丈夫だろうけど、しずさんの事だから自分が食べる分を玉にあげちゃうだろうね。」
「それは駄目です。けしからんです。」
「誰がけしからんの?」
「それはえっと。玉とお母さん、どっちもかなぁ。」
あれま。
玉が首を傾げて考えこんじゃった。
まぁいっか。
適当に高速降りて、適当にも店探そう。
「ふぁぁ。」
玉も欠伸し出したし。
そこには佐原で会った愉快なお姉ちゃんではなく、巫女装束をきちんと織り目正しく着込んだ、武甕槌の巫女として、キクヱさんが僕らの前に立っていた。
同時に一瞬だけ鼓膜が引き攣る感触がする。
そして世界から色が無くなる。
今生の現実世界を離れ、神域に入って行った事を示しているわけだ。
玉も青木さんも、僕の半歩後ろに左右控えて推移を黙って見守っている。
この2人も、ついさっき香取神宮の別空間に案内されていたし、試練中の記憶は消されているにしても、僕といると巻き込まれるいつもの異常事態なので、特に慌てるそぶりはない。
約束の物。
それは素朴な糸1束と棒2本。
玉と青木さんとしずさんとの間に縁(えにし)を更に深く結ぶ為に、わざわざしずさんにお願いして用意してもらった。
別にこれといった特別な物では無い。
糸は浅葱の山の麓に自生している麻(アマ)から編んでくれたもの。
神職のしずさんには、大麻(オオアサ)は神具の一つであるから、麻を探すのも糸を紡いで布にするのも朝飯前だ。
ただし浅葱屋敷には織機がないので、ただの麻糸を作ってもらった。
棒はそれこそただの棒。
ぼっこなら、普段焚き付けにする程そこら辺にいくらでも落ちているから、それをそこら辺に転がっている刃物で適当に成形してもらった。
全部、浅葱屋敷の周辺で揃えたお手軽品だ。
「たしかにお預かり致しました。」
糸と棒を抱えると、キクヱさんは背にしていた要石に振り返った。
「後ほどお届けにあがりますね。」
後ほど、どこにお届けにあがられるのやら。
僕の家に竜脈を繋げちゃったからなぁ、この人。
台地の際にあるアパートなので、地形的には一応条件には適しているんだろう。
あと、大口真神のいる場所にはどこでも行けるらしいし。
大口真神は僕のいる所なら、地球の裏側にいても現れるって言ってたな。
「あ、そうそう。」
キクヱさんは、身体半分だけ透き通らせて(器用ですね)、最後にとんでもない爆弾を置いていきやがった。
「貴方と佳奈ちゃんのえにしを強固にする為に''まぐわっとき''なさい。最低でもチューくらいしときなさい。」
後ろの2人が固まったのが気配でわかった。
★ ★ ★
こちらの要石にも、僕の左手から伸びる光を交換して終わり。
さて、これで取り敢えず用事は全部終わった。帰ろう帰ろう。
そろそろ陽が傾きだす時間だ。
市川までは遠いぞ。
世界に色が戻って、元の空間。
巨大な杉の木だらけの中に僕らは再び現れた。
幸い他の参拝客観光客はいなかった。
人払いでもしておいてくれたのかな?
あぁ、帰りに武甕槌に挨拶しておかないとな。
「ね、ねぇ。」
「なんですか?」
恐る恐る青木さんが話しかけて来た。
「……するの?」
「したいの?」
「…女にそれを言わせる気?」
とは言っても、僕の女性経験は覚えている限り、女性に引き摺り込まれてなんですな。
僕から口説きに行ったり、誘った事は殆どない。
基本的に狩られてばかりだった。
考えてみれば玉だって、玉の方が一方的に積極的だし。
玉には手は出してないよ。
玉に手を出されてもいないよ。
因みに、デリカシーの欠片も無い返答をしているのは、わざと。
この先に何が待ち受けているのか大体の予想が付いている僕の方が、気持ち的に全く盛り上がれないからだ。
「まぁ、きちんと婚約して結婚するのなら僕は子供が欲しいし頑張りますが。」
でも今日のこれはなんか違う。
義務みたいで変だし嫌。
ましてや初めてなんでしょ。
僕が割と受け身な初体験だったから、本当にお嫁さんになる気なら、もう少しロマンチックな、ね。
って、ありゃりゃ。
青木さんは顔を真っ赤にして、多分深く考えてなさそう。
「玉にもしてくれますか?」
おっと。今のはちょっと来たぞ。
上目遣いの玉は反則だ。
自重、自重。
「玉にするのはやぶさかでは無いけど、今回玉のご指名なかったぞ。」
「なんででしょうか?」
多分チューまでは玉と済ませているからだと思う。
やれやれ。
やれやれやれやれやれやれやれやれ。
これはもう、武甕槌に一言もの申さないとあかんね。
今度はもじもじしっぱなしの青木さんに僕が着ているパーカーの裾を引っ張られて参道を歩く羽目になった。
玉は僕の手をニコニコしながら繋いでいるので、せっかく香取神宮では避けられたヘイトを、それもジャージを着て多分お勤めボランティアに来ているのであろう、竹箒を持った中学生(女子多め)から買う僕でした。
あっ!コラ!
…僕の顔見て引っ込むんじゃないよ、武甕槌!
………
武甕槌が逃げちゃったので、普通に参拝。
ようやく正気に戻ってくれた青木さんと並んでぱんぱん。
玉も後ろでぱんぱん。
向かいにある社務所というか、売店デカいな。
ここにある建物の中で一番大きいぞ。
しかも大抵神社仏閣の売店て、客(?)は外から買うけど、ここは客も普通の店みたいに中に入れる。
初詣とか、このくらい無いと参拝客を捌き切れないんだろうなぁ。
お土産というか、お守りやお札も大量にあるので、端っこから一つ一つ眺めて行こう。
ふむふむ。と僕が手にしたのは木製の御神刀(8,000円)と白蛇のお守り(1,500円)。
本物の御神刀は右腕だか左腕だかに格納(笑)されているけど、お土産屋で木刀を買うノリで買ってしまった。
白蛇のお守りは、白木の箱に納められていたから。
なんとなく白木の箱に惹かれて。
「佳奈さん。常陸帯ですよ。常陸帯。」
「なぁにそれ?」
「安産のお守りだそうです。」
「むむ!」
隣で玉が何か言ってるけど、聞こえない聞こえない。
あと安産祈願帯は妊娠して安定期に入ってから戌の日に贈られるものだぞぅ。(遠くに向かって小声で言う僕。しずさんに買ってあげた圓生師のCDで教わった落語知識です。)
………
御神籤が無いなぁと思ったら、売店の建物の外にあった。
なんだろう。僕らの御神籤引きもすっかり恒例化し始めてるな。
一言主神社や榛名神社で御神籤引いたっけなぁ。
僕のは、はい大吉です。
「鹿島の事触れおみくじ」って書いてある。
御神籤も鹿島神宮オリジナルですか、儲かっているなぁ。
『いやぁ、それほどでも』
ふと気がつくと、武甕槌が玉と青木さんの手を取って、御神籤に導いてます。
神様の姿が見えない2人には、自分の意思で御神籤を引いていると思っているのだろう。
…こういうのもインチキとかカンニングとか言うのだろうか。
虫の知らせとか、ヤマ勘とか、まさか神様が傍からちょっかい出しているんじゃないだろうか?
『では。結婚式はウチで挙げると良い』
それだけ言うと、武甕槌は本殿に戻って行った。
なんだかなぁ。
荼枳尼天と一言主に叱られそうだから、返事は軽々しく出来ないよ。
「あ、殿!こっちも大吉ですよ!」
「私も!今日はついてるね。」
そうでしょうねぇ。
呆気に取られて、キクヱさんの分まで武甕槌にもの申すの忘れましたよ。
香取神宮のキクヱさんの正体ってなんなのだろう。
★ ★ ★
さぁ帰るぞ帰るぞ。
トンチキな事態連チャンで、僕はなんだか凄い疲れたぞ。
あと。
「予約。」
とだけ言って、青木さんが青いお守りを押し付けて来た。
予約、と言うのは、''その日が来る前に手を出せ''って事だろうなぁ。
その日って今月中なんだけど。直近にして近々なんだけど。
青いお守りは、青木という名前にかけて本人を暗示しているんだろうし。
「あ、殿。今日はお土産買ってませんよ。」
「香取神宮の草餅を沢山買ってあるから、後で好きなだけご近所に配りなさい。」
しずさんと菅原さんの分は本物で、あとは浅葱の力で複製したものだけど。
「あの草餅美味しかったですねぇ。」
「僕はしずさんが作ってくれる餅の方が好きだけどね。」
「それはそれ。これはこれです。」
「そうですか。」
車は潮来ICからさっさと東関道に乗る。
途中北浦を渡る橋にちょっとだけ玉が歓声を上げたけど、青木さんが直ぐ寝ちゃっていたので「わぁのわ」の途中で声出すのやめた。
もはやどっちが歳上なのかわからない。
代わりに。
「ぷいぷいぷいぷい。」
「玉さん、何それ。」
「モルちゃんの真似ですよ。」
「あぁ。」
確かにサラダ菜とかあげてご機嫌な時、我が家のモルモット達は歌を歌い出すな。
ただの鳴き声かと思いきや、きちんと旋律がある事に最近気がついた。
どんなモルモットだと言われても、こんなモルモットだ!としか言いようがないモルモットになってしまったぞ。
誰が悪いんだろ。
「玉、さすがに僕も今日は疲れた。青木さんも疲れたみたいだし、晩御飯は外食にしよう。何が良い?」
「そうですね。お昼はお肉でしたから、お魚かなぁ。」
「洋食や中華にも広げてみよう。」
「んんと。んんと。」
そもそもお魚って何食べたらいいんだろ。
「炒飯は殿が作ってくださる方がお店より美味しいですし、餃子はみんなで作る大蒜たっぷりを一度味わってしまうと、お店の餃子じゃ満足出来ない身体に玉はなってしまいました。」
あのニンニク餃子を食べた後は、外出出来ないくらい強烈だからなぁ。
「そうだ。お母さんに何か作ってもらいましょう。」
「それは駄目。しずさんはしずさんで、自分で今晩の献立をもう考えているだろうし、みんなで押しかけたら迷惑だよ。」
しずさんは畑を回って収穫した野菜を軸に、冷蔵庫の前で考えるのが大好きなんだってさ。
後ろにぽん子とちびがついて回る姿が目に浮かんで、疲れた頭がほっこりする。
「そうですか…。」
「まぁ玉だけなら大丈夫だろうけど、しずさんの事だから自分が食べる分を玉にあげちゃうだろうね。」
「それは駄目です。けしからんです。」
「誰がけしからんの?」
「それはえっと。玉とお母さん、どっちもかなぁ。」
あれま。
玉が首を傾げて考えこんじゃった。
まぁいっか。
適当に高速降りて、適当にも店探そう。
「ふぁぁ。」
玉も欠伸し出したし。
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