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第二章 戦
2人の試練2
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「まったく、どこをほっつき歩いているんだか。」
私は腰に手をやり、溜息混じりに周りを見渡した。
付近は結構なショッピング街になっているらしい。
土曜日と言う事もあり、人も車も多くて、中肉中背で地味な出立ちをしていたあの人は、例え近くを歩いていても気がつかない自信が私にはある。
我が想い人であり、婚約者なんだけどなぁ。我ながら自分もあの人も情け無い。
でも、いつまでも大きな買い物袋を抱えていてもしょうがないので、ハッチバックの後ろで、玉ちゃんと2人大荷物を地面に下ろす。
車のスペアキーは私も持っているので、あの人が居ようが居まいが実は困らない。
あの人はそれを見込んで、好きにしているんだろう。
バックからキーケースを取り出して解錠する。
一応、私は婚約者って扱いなので、この車は多少は私達の共有財産になるのかな。
次の保険の更新で被保険者の数増やさないと、ってあの人ぶつぶつ言ってたな。
実は私の保険は最初から(お父さんをダシに)あの人の分まで入れてある。
というか、玉ちゃんを介在にして菊地さんの部屋と車の鍵を私も、私の部屋と車の鍵は菊地さんも持っている。
車を運転出来ない玉ちゃんは、2つの部屋の鍵を持っている。
スペアキーはわざわざ大家さんに許可を得て、駅前のスーパーのテナントにある鍵屋で作ってもらった。
多分今時は、店子が変わると鍵も交換するんだろうし。
「佳奈さんも玉達の家族ですから!」
と、お互いの鍵を渡し合った時の玉ちゃんは嬉しそうだったな。
その玉ちゃんは、荷物をトランクに置いてドアを閉めると、
「おしっこでぇす。」
って走って行っちゃった。
我慢してたなら、お店入る前に言えば良いのに。
仕方ないなぁ。
私は1人、元の席に戻る。
私は、最初から飲み物を控えていたので、今のところまだ大丈夫。
………
しばらくして玉ちゃんが戻ってきた。
両手にマ◯ックスコーヒーを持ってんだけど。
あと、あれ何?
茶色い鳥が玉ちゃんの頭に纏わりついてる。
あぁ言うの見ると、やっぱり玉ちゃんはあの人の側にいるべき人よねと納得しちゃうな。
私が外に出ると鳥を脅かしちゃうと思い、中から玉ちゃん側のドアをそっと開ける。
「ありがとうございます、佳奈さん。じゃあねぇ。」
玉ちゃんが鳥に頭を下げると、鳥はピーチクパーク聞き覚えのある鳴き声を発して飛んで行った。
へぇ、あれが雲雀なんだ。初めて見た。
そっか。もう春よね。
春物を買わされる訳よね。
「殿が飲んでたこーひーを自動販売機で見つけたので買ってみました。」
「玉ちゃんこれ、砂糖の代わりに練乳が入った甘いあっまい奴よ。」
「そうですか。殿は普段は苦いのが好きなんですけどね。真っ黒なのに牛乳もお砂糖も入れないで、顔を顰めて飲んでますよ。」
「……なんでそこまでしてブラック飲んでるの、あの人は。」
「なんか好きなんだそうですよ。玉は甘いこーひー牛乳の方が好きですけどねぇ。」
「まぁ、なんかわかるかも。」
苦いものを美味しく感じるのって、最近わかる様になったのはあるね。
畑で育てた野菜とか、たぬちゃんとこの川で釣った魚(私は3人と違って釣りも楽しむ人間なのだ。温泉の暖簾掛けになっていた釣竿をきちんと正規の役割で使っているのだよ。)とかで味わうちょっとした苦味とか、或いはどこで手に入れてくるんだか、ただの緑茶の甘味を含めた苦味とか、最近は好きだ。
「ところでさっきの雲雀よねぇ。何て言ってたの?」
「??。玉は殿と違って、動物達が何を喋っているかわかりませんよ。」
「そうなの?モルちゃんとかと、いつも話してるのに?」
「あ、それは殿の御指導ですよ。」
「ごしどお?」
「最初にモルちゃんと仲良くなった時に、殿に言われたんです。動物達は人間の言葉を喋れない代わりに、全身を使って玉に話しかけているんだよ。舐めたり、鼻を押し付けたり、穏やかに鳴いたり、両手で玉に触ったりして。だから玉は、話しかけてあげなさい。歯を見せるのは威嚇に感じることがあるから、あまり口を開けずに名前を呼んで、笑いかけなさいって。この人間には敵意が無く、自分と一緒にいて楽しんでるんだって伝わるから。って。」
「へぇ。…そう言われると私はちびをちゃんと可愛がっていれてるかな?」
「殿が仰るには、殿はお父さんで、お母さんはお母さんで、ぽん子ちゃんはお姉ちゃんで、玉は玉ちゃんで、佳奈さんはご主人様って使い分けてるって。ただ、ちびちゃんは殿が大好きだし、お母さんはご飯をくれるからやっぱり大好きだそうです。」
「むむ、私の世話が足りないのかな?」
「何言っているんですか。佳奈さんがいる時は、ちびちゃんはいつも佳奈さんの隣にいるじゃないですか。」
「そ、そうかな?」
「ちびちゃんは、佳奈さんを護りたいんだそうですよ。」
なんだかなぁもう。
私はこの2人に甘やかされっぱなしだ。
………
突然、運転席のドアが開いた。やば、女子2人が後部座席で喋ってたから、変な奴がやって来たか?
「変な奴とは失礼ね!プンプン。」
「あら、貴女は。」
「キクヱさんです?」
「いつまで経っても来ないから、迎えに来ちゃった。」
いや、さっき別れてから、まだせいぜい30分くらいですよ。
「真っ直ぐ来れば10分で着く!」
「そんなに急がないとならないんですか?」
「あの、殿がまだ帰って来てません。」
「先に行かせたから大丈夫。私は早く草団子が食べたいの!」
「は?」
「はい?」
「んじゃ、行くよぅ。」
「ちょっと待って!免許は?」
「戸籍の無い私にそんなものない!」
「威張るなあぁぁぁ!」
キクヱさんは、ハンドルを子供みたいに右に左に回しながら、エンジンをかけていない車を走り出させた。
めちゃくちゃだ。
★ ★ ★
100メートル程の参道の先に赤い鳥居が見える。
「んじゃぁねぇ!」
大口真神こと狼の化身・人化したオレっ娘は、僕から草団子をもらうと、手を振りながら帰って行った。
右手の指の股に4本。口に1本咥えて団子真神になってる。
なんとかフラペチーノとか、かんとかスコーンとかを適当に3人分買って店の外に出たら、外の世界から色が消えていた。
こう言った異常事態にはすっかり慣れっこの僕です。
更に今回は、自動ドア開けたら神馬が待っていたし。
犯人(多分キクヱさん)は何考えてんだ?
「僕に乗れと?」
「おう。先に行っとけってさ。」
やれやれ。
やれやれやれやれ。
まぁ今日は玉と青木さんが主役だし、佐原に入った事で、神域扱いとかになったのかな。
「行っくぞぉ!」
「あぁ待ちなさい。コーヒーの袋を抱えるから。」
一応道路に沿って神馬は走って行くけど、多分次元がズレているんだろう。
信号も停車中の車も全部無視して(通り過ぎて)、ついでにビルも成田線の線路も無視して、香取神宮まで一直線だ。
「今、俺が走っている道は、現代では失われた古代の参道だから大丈夫。」
僕の思考を読んだのだろう。神馬がすかさず解説してくれた。
何が大丈夫なんだか。
「そう言われると、幽霊ってのは自分が生きていた時代の有り様で動くから、道が付け替えられたり、家が改築されても関係無いって聞いた事あるなぁ。だから壁を抜けて見えるとか。」
「おや、我が主は幽霊なんか信じてんのか。」
「祠で人外を何回か見てるし、大体今も神様の背中に跨っているのに、幽霊が存在しないって言われてもなぁ。うちの人間で誰が信用するのよ。」
「我が主が一番人外だけどな。」
「ほっとけ。」
そんなこんなで、ものの5分で参道入り口に到着。
駐車場はあまり広くはないけど、それなりにスペースは余ってるようだ。
土曜日だと言うのに、参道の店舗は半分も開いていない。
ここって一応観光地だよなぁ。
あぁでも、成田山も境内の土産物が並んでたけど半分以上は閉まってたなぁ。
まぁ、それが現代なんだなぁ。
参道入口にある厄落しの団子屋に、真神と一緒に入って、茶を飲みながら、のんびりのほほんとしていたら、僕の車が走って来た。
あらあら、運転手はキクヱさんかよ。
それを踏まえて、うちの団子真神は帰って行った訳だ。
さてと。
いくらスペースがある駐車場と言っても、近場はみんな埋まっているので、一番遠い200メートルくらい離れた西の端に車を停めて、トコトコ走って来るのが見える。
「あと、草団子を3箱下さい。」
「ありがとうございます。」
「ぐえ。」
間抜けな声は、全速力からの玉のタックルを食らった僕からだ。
この娘はまぁ、僕から離れても、もう大丈夫とわかっていても、僕から離れる事は滅多に無い。
ご近所や大家さんとの付き合いで、ちょこちょこ出歩いても、帰宅後はたぬきちみたいに僕の掌なり腰なりにしがみついて離れなくなる。
あぁ、またその顔だ。
嬉しそうな、少し怒っていそうな、さみしそな、不思議な顔してる。
「どうしてこうなった?」
仕方ないなぁって顔をして玉を眺めている青木さんに聞いてみた。
キクヱさんに聞けば手っ取り早いけど、まぁ愚痴の一つも聞いておかないとね。
「私が聞きたいわよ。何故貴方がそこで呑気に団子を食べてるのよ。」
「ここに居れば来るのは分かってだからね。この入り口の団子屋に居れば駐車場が見渡せるし。」
「そう言う問題じゃないわよ。」
「まぁまぁ喧嘩しないの。」
元凶が口出しして来たので、すかさず2人でデコピンをかましてやろう。
こう言う時の以心伝心は大したものだ。
「あいたたたぁ。夫婦ツープラトンは効くなぁ。」
「貴女、榛名神社でカグツチの案内してる時はもう少し真面目だったでしょう。」
「どうせ私はすっ転ぶ白鳥ですよ。」
「どうしてわかったし?」
一応、これから2人は試練を受けるんだよな?
大口真神の団子狼化といい、武甕槌の巫女といい、なんでこんなはしゃいでいるんだ?
「早く私に草団子を下さい。その為に貴女達を連れて来たんです。」
……ひょっとして草団子に秘密があるとか?
「いや、貴女神の遣いなんだから、団子くらいいくらでも食べられるでしょうが。」
「ダメだもん。私、お金持ってないから。」
「ひらんがな。」
あ。僕の服に顔を付けたままの玉が突っ込んだ。
私は腰に手をやり、溜息混じりに周りを見渡した。
付近は結構なショッピング街になっているらしい。
土曜日と言う事もあり、人も車も多くて、中肉中背で地味な出立ちをしていたあの人は、例え近くを歩いていても気がつかない自信が私にはある。
我が想い人であり、婚約者なんだけどなぁ。我ながら自分もあの人も情け無い。
でも、いつまでも大きな買い物袋を抱えていてもしょうがないので、ハッチバックの後ろで、玉ちゃんと2人大荷物を地面に下ろす。
車のスペアキーは私も持っているので、あの人が居ようが居まいが実は困らない。
あの人はそれを見込んで、好きにしているんだろう。
バックからキーケースを取り出して解錠する。
一応、私は婚約者って扱いなので、この車は多少は私達の共有財産になるのかな。
次の保険の更新で被保険者の数増やさないと、ってあの人ぶつぶつ言ってたな。
実は私の保険は最初から(お父さんをダシに)あの人の分まで入れてある。
というか、玉ちゃんを介在にして菊地さんの部屋と車の鍵を私も、私の部屋と車の鍵は菊地さんも持っている。
車を運転出来ない玉ちゃんは、2つの部屋の鍵を持っている。
スペアキーはわざわざ大家さんに許可を得て、駅前のスーパーのテナントにある鍵屋で作ってもらった。
多分今時は、店子が変わると鍵も交換するんだろうし。
「佳奈さんも玉達の家族ですから!」
と、お互いの鍵を渡し合った時の玉ちゃんは嬉しそうだったな。
その玉ちゃんは、荷物をトランクに置いてドアを閉めると、
「おしっこでぇす。」
って走って行っちゃった。
我慢してたなら、お店入る前に言えば良いのに。
仕方ないなぁ。
私は1人、元の席に戻る。
私は、最初から飲み物を控えていたので、今のところまだ大丈夫。
………
しばらくして玉ちゃんが戻ってきた。
両手にマ◯ックスコーヒーを持ってんだけど。
あと、あれ何?
茶色い鳥が玉ちゃんの頭に纏わりついてる。
あぁ言うの見ると、やっぱり玉ちゃんはあの人の側にいるべき人よねと納得しちゃうな。
私が外に出ると鳥を脅かしちゃうと思い、中から玉ちゃん側のドアをそっと開ける。
「ありがとうございます、佳奈さん。じゃあねぇ。」
玉ちゃんが鳥に頭を下げると、鳥はピーチクパーク聞き覚えのある鳴き声を発して飛んで行った。
へぇ、あれが雲雀なんだ。初めて見た。
そっか。もう春よね。
春物を買わされる訳よね。
「殿が飲んでたこーひーを自動販売機で見つけたので買ってみました。」
「玉ちゃんこれ、砂糖の代わりに練乳が入った甘いあっまい奴よ。」
「そうですか。殿は普段は苦いのが好きなんですけどね。真っ黒なのに牛乳もお砂糖も入れないで、顔を顰めて飲んでますよ。」
「……なんでそこまでしてブラック飲んでるの、あの人は。」
「なんか好きなんだそうですよ。玉は甘いこーひー牛乳の方が好きですけどねぇ。」
「まぁ、なんかわかるかも。」
苦いものを美味しく感じるのって、最近わかる様になったのはあるね。
畑で育てた野菜とか、たぬちゃんとこの川で釣った魚(私は3人と違って釣りも楽しむ人間なのだ。温泉の暖簾掛けになっていた釣竿をきちんと正規の役割で使っているのだよ。)とかで味わうちょっとした苦味とか、或いはどこで手に入れてくるんだか、ただの緑茶の甘味を含めた苦味とか、最近は好きだ。
「ところでさっきの雲雀よねぇ。何て言ってたの?」
「??。玉は殿と違って、動物達が何を喋っているかわかりませんよ。」
「そうなの?モルちゃんとかと、いつも話してるのに?」
「あ、それは殿の御指導ですよ。」
「ごしどお?」
「最初にモルちゃんと仲良くなった時に、殿に言われたんです。動物達は人間の言葉を喋れない代わりに、全身を使って玉に話しかけているんだよ。舐めたり、鼻を押し付けたり、穏やかに鳴いたり、両手で玉に触ったりして。だから玉は、話しかけてあげなさい。歯を見せるのは威嚇に感じることがあるから、あまり口を開けずに名前を呼んで、笑いかけなさいって。この人間には敵意が無く、自分と一緒にいて楽しんでるんだって伝わるから。って。」
「へぇ。…そう言われると私はちびをちゃんと可愛がっていれてるかな?」
「殿が仰るには、殿はお父さんで、お母さんはお母さんで、ぽん子ちゃんはお姉ちゃんで、玉は玉ちゃんで、佳奈さんはご主人様って使い分けてるって。ただ、ちびちゃんは殿が大好きだし、お母さんはご飯をくれるからやっぱり大好きだそうです。」
「むむ、私の世話が足りないのかな?」
「何言っているんですか。佳奈さんがいる時は、ちびちゃんはいつも佳奈さんの隣にいるじゃないですか。」
「そ、そうかな?」
「ちびちゃんは、佳奈さんを護りたいんだそうですよ。」
なんだかなぁもう。
私はこの2人に甘やかされっぱなしだ。
………
突然、運転席のドアが開いた。やば、女子2人が後部座席で喋ってたから、変な奴がやって来たか?
「変な奴とは失礼ね!プンプン。」
「あら、貴女は。」
「キクヱさんです?」
「いつまで経っても来ないから、迎えに来ちゃった。」
いや、さっき別れてから、まだせいぜい30分くらいですよ。
「真っ直ぐ来れば10分で着く!」
「そんなに急がないとならないんですか?」
「あの、殿がまだ帰って来てません。」
「先に行かせたから大丈夫。私は早く草団子が食べたいの!」
「は?」
「はい?」
「んじゃ、行くよぅ。」
「ちょっと待って!免許は?」
「戸籍の無い私にそんなものない!」
「威張るなあぁぁぁ!」
キクヱさんは、ハンドルを子供みたいに右に左に回しながら、エンジンをかけていない車を走り出させた。
めちゃくちゃだ。
★ ★ ★
100メートル程の参道の先に赤い鳥居が見える。
「んじゃぁねぇ!」
大口真神こと狼の化身・人化したオレっ娘は、僕から草団子をもらうと、手を振りながら帰って行った。
右手の指の股に4本。口に1本咥えて団子真神になってる。
なんとかフラペチーノとか、かんとかスコーンとかを適当に3人分買って店の外に出たら、外の世界から色が消えていた。
こう言った異常事態にはすっかり慣れっこの僕です。
更に今回は、自動ドア開けたら神馬が待っていたし。
犯人(多分キクヱさん)は何考えてんだ?
「僕に乗れと?」
「おう。先に行っとけってさ。」
やれやれ。
やれやれやれやれ。
まぁ今日は玉と青木さんが主役だし、佐原に入った事で、神域扱いとかになったのかな。
「行っくぞぉ!」
「あぁ待ちなさい。コーヒーの袋を抱えるから。」
一応道路に沿って神馬は走って行くけど、多分次元がズレているんだろう。
信号も停車中の車も全部無視して(通り過ぎて)、ついでにビルも成田線の線路も無視して、香取神宮まで一直線だ。
「今、俺が走っている道は、現代では失われた古代の参道だから大丈夫。」
僕の思考を読んだのだろう。神馬がすかさず解説してくれた。
何が大丈夫なんだか。
「そう言われると、幽霊ってのは自分が生きていた時代の有り様で動くから、道が付け替えられたり、家が改築されても関係無いって聞いた事あるなぁ。だから壁を抜けて見えるとか。」
「おや、我が主は幽霊なんか信じてんのか。」
「祠で人外を何回か見てるし、大体今も神様の背中に跨っているのに、幽霊が存在しないって言われてもなぁ。うちの人間で誰が信用するのよ。」
「我が主が一番人外だけどな。」
「ほっとけ。」
そんなこんなで、ものの5分で参道入り口に到着。
駐車場はあまり広くはないけど、それなりにスペースは余ってるようだ。
土曜日だと言うのに、参道の店舗は半分も開いていない。
ここって一応観光地だよなぁ。
あぁでも、成田山も境内の土産物が並んでたけど半分以上は閉まってたなぁ。
まぁ、それが現代なんだなぁ。
参道入口にある厄落しの団子屋に、真神と一緒に入って、茶を飲みながら、のんびりのほほんとしていたら、僕の車が走って来た。
あらあら、運転手はキクヱさんかよ。
それを踏まえて、うちの団子真神は帰って行った訳だ。
さてと。
いくらスペースがある駐車場と言っても、近場はみんな埋まっているので、一番遠い200メートルくらい離れた西の端に車を停めて、トコトコ走って来るのが見える。
「あと、草団子を3箱下さい。」
「ありがとうございます。」
「ぐえ。」
間抜けな声は、全速力からの玉のタックルを食らった僕からだ。
この娘はまぁ、僕から離れても、もう大丈夫とわかっていても、僕から離れる事は滅多に無い。
ご近所や大家さんとの付き合いで、ちょこちょこ出歩いても、帰宅後はたぬきちみたいに僕の掌なり腰なりにしがみついて離れなくなる。
あぁ、またその顔だ。
嬉しそうな、少し怒っていそうな、さみしそな、不思議な顔してる。
「どうしてこうなった?」
仕方ないなぁって顔をして玉を眺めている青木さんに聞いてみた。
キクヱさんに聞けば手っ取り早いけど、まぁ愚痴の一つも聞いておかないとね。
「私が聞きたいわよ。何故貴方がそこで呑気に団子を食べてるのよ。」
「ここに居れば来るのは分かってだからね。この入り口の団子屋に居れば駐車場が見渡せるし。」
「そう言う問題じゃないわよ。」
「まぁまぁ喧嘩しないの。」
元凶が口出しして来たので、すかさず2人でデコピンをかましてやろう。
こう言う時の以心伝心は大したものだ。
「あいたたたぁ。夫婦ツープラトンは効くなぁ。」
「貴女、榛名神社でカグツチの案内してる時はもう少し真面目だったでしょう。」
「どうせ私はすっ転ぶ白鳥ですよ。」
「どうしてわかったし?」
一応、これから2人は試練を受けるんだよな?
大口真神の団子狼化といい、武甕槌の巫女といい、なんでこんなはしゃいでいるんだ?
「早く私に草団子を下さい。その為に貴女達を連れて来たんです。」
……ひょっとして草団子に秘密があるとか?
「いや、貴女神の遣いなんだから、団子くらいいくらでも食べられるでしょうが。」
「ダメだもん。私、お金持ってないから。」
「ひらんがな。」
あ。僕の服に顔を付けたままの玉が突っ込んだ。
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