ご飯を食べて異世界に行こう

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第二章 戦

2人の試練

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国道356号が利根川から離れ内陸に切り込み、国道51号と立体交差する先に、ファッションセンターし◯むらがある。

青木さんの目に少しずつ光が戻ってくるのを確認しつつ、駐車場に車を入れる。
ここならトイレもあるし、一休みにちょうどいいだろう。

「殿、お買い物ですか。今?」
「まぁね。そろそろ冬も終わるから、玉としずさんの春物を買い足しとこうかなと。玉が来たのは秋だったし、しずさんが来たのは真冬。玉の秋春ものって、基本的に僕のお古を玉が仕立て直したものばかりだから。」

エンジジャージなんか、袖口も裾も全部自分で糸を解いて寸を詰め、ゴムを入れ直してる。

「だから殿!玉とお母さんに無駄遣いするのは、何度もメッってしてるですよね!」
「可愛い。」

あ、青木さんが玉のメッで堕ちた。
正気に戻ったのかな。

「そろそろ下着も買い足してもいいだろ?」
玉がこの半年で少し背が伸びて、バストも膨らんでいる事は、さすがにずっと一緒に居て、毎晩同じ布団で隣に寝てるから、いかに野暮天な僕でも気がつくさ。

「でも、でも。」
「と言う訳で、青木さん玉を連れてって見立ててくれ。あと適当に君も春物を2~3着買いなさい。」

さっき後ろでごちゃごちゃしている間に、こっそり自分の財布から抜いた諭吉を数枚押し付ける。

「別にTシャツ一枚一万円とかするセレクトショップじゃなくて、ユ◯クロとかヨー◯ドーより安い量販店なんだから。遠慮する必要ないだろ。ついでに僕のカーディガンも見繕ってくれないか?僕はス◯バに3人分買出しに行くから。」  

「ちょっと、ちょっと待って。なんで今買わないと行けないの?帰りでも良いじゃん。」
「玉は殿のお古が良いんです!」



「3人で、いや。」 


「4人で新しい春を、4月を迎える準備だよ。」

「あ……。」
「ひょっとして願掛けですか?殿…。」

「その話は後で。」
玉とは話しておくべきだろう。
「とりあえず、僕に女性のファッションセンスを求める方がおかしいんだから、青木さんに全部任せた!」
「私のセンスって言われてもなぁ。」
「僕に買わせると、赤かピンクばかりになるぞ。」
「たしかに。玉ちゃんのお出掛け着ってピーコートにしてもダッフルコートにしても赤ね。」

そのダッフルコートも、玉を着せ替え人形にした店員に勧められたから、そのまま買ったものだし。

「玉はなんでも良いんですけどね。今着てるじゃんぱぁも、あったかくて軽くて、殿の匂いがして、着てて気持ちいいですから。」
「僕のセンスは、妹が小さかった時分から何も変わって無いの。お人形さんみたいに見た目が可愛ければなんでも良くなるの。でも玉も大人っぽい格好しても良いでしょ。僕も見てみたいし。君が通勤に着てるベージュや紺のスーツとか、似合ってていいなぁって見てるし。」

「………この人はどうしてこう、女性を何の臆面もなく褒められるのかしら。」
「殿は女性に下心をあんまり抱きませんから。思った通りの事をそのまま言います。お母さんとか時々照れて困ってます。」
「まさしく女の敵ね。」
「だから、玉と佳奈さんでしっかりと手綱を握りなさいって、妹さんに言われました。」
「私達、厄介な人を旦那様にしちゃったわね。」

僕に味方って居ないのかなぁ。

★  ★  ★ 

2人を店内に押し込んで、僕は隣のブロックへ。
初めて来る街を1人で歩くのは、多分玉と出会った日以来だ。

あ、赤い自動販売機がある。
よしよし。マ◯クスコーヒーも冷えてる。

2本買うと、1本はジーンズの尻ポケットに押し込んで、1本はプルトップを開けてガブ飲みする。
なんだかね。
このコーヒーは、こんな風におざなりな扱いで飲んだ方が美味しい気がする。

続けてスタ◯の本格ドリップコーヒーを飲むんだから、改めて馬鹿舌だね。僕は。

★  ★  ★

あの人を見送って私達は店に足を運ぶ。
何やら足運びがウキウキしているのが微笑ましいやら、そんなに1人になりたかったのかと邪推して少しだけムカついたり。
 
「意外と縁起を担ぐ人なんだね。」
「殿は五節句や、二十四節気を大切になさる方ですよ。桃の節句も玉の為にお祝いしてくれましたし、啓蟄の日はお昼に蕗のとうを天ぷらにしてました。」
「ひな祭りなんかやったの?」
「佳奈さんは会社でしたからねぇ。」

店頭のワゴンでバーゲン品の下着を、玉ちゃんは漁り出した。 

「そう言えば、殿のぱんつも草臥れちゃってましたね。いつから履いているんでしょうか。玉の事よりご自分の心配をした方が良いのに。ぶつぶつ。ご自分のお誕生日だって言わないから過ぎちゃった。じゃないですか。ぶつぶつ。」

「へぇ。どこでやったの?」
「水晶の玉の家ですよ。お母さんが菱餅を作ってくれて、殿は甘酒とひなあられをご馳走してくれました。あと小さなお雛様を一言主様のお社の祭壇に飾って、玉とお母さんで祝詞を捧げました。」
「普段から神様と接していると、迷信深くもなるのかな?」
「妹さんの仰る事には、ご両親を早くに亡くしたご家庭でしたので、妹さんが寂しく無い様に、暦に載っているあにばぁさりいは出来るだけしていたそうですよ。」
「ふぅん。」

菊地さん用のパンツセットを買い物籠に入れて、私達は店に入った。

ここは殆どが婦人服なのだけど
これと言ってお洒落な品揃えではない。 
あの人の言う通り、どちらかと言うとおばちゃん向けの、手頃な普段着を気軽に買う店だ。 
その少ない男性向けスペースに、玉ちゃんは真っ直ぐ歩いて行く。
 
まったく。
菊地さんはたしかに自分より家族を大切にする人だけど、玉ちゃんも自分よりもあの人を優先する人だね。

「殿はね。道すがらの小さなお地蔵様やお社にも、きちんと会釈してますよ。色々な神様や仏様が殿を慕うのも、殿が路傍の神様に敬意を持っていらっしゃるからですよ。巫女としての玉から見ても尊敬出来る方なのです。」
「気が付かなかったなぁ。」
「普通わからないですよ。殿は何も言いませんし。玉もお母さんに言われるまで気が付きませんでした。」
「変な人と言うか、律儀な人と言うか。」
「自分の中で決めた決まりは大切にする人なのです。でも、それを玉には押し付けませんよ。」 
「なるほど。」

それから、私達はしばらくの間、買い物を楽しんだ。
ブーメランの様な布の面積が狭いブリーフを見つけたよ。買っちゃえ買っちゃえ。
ふっふっふ。
どんな顔をするだろうか。

「殿はあんまり身体に余計なお肉がないので、似合っちゃうかもしれません。」
「え?裸見たの?」
「時々寝惚けたふりして、殿に抱きついたりしてますから。お固いお身体してますよ。」
「けしからんなぁ。」
「玉に手を付けてくれない方がけしからんです。」
「玉ちゃんもけしからんなぁ。」

玉ちゃんにミニスカートと膝上まであるニーソックスを買ったり。
仕返しに高校生みたいなプリーツスカートを買わされたり。
白いブラウスと合わせたら、そのまんまじゃないの。  

あ、あと。
玉ちゃんのおっぱいが少し大きくなっていたので、ブラも買い直しだ。
なるほど、あのスケベな私達の旦那様は、玉ちゃんの身体の変化も気が付いていたから、わざわざこの店に寄ったのか。

「玉、自分じゃ気が付きませんでしたよ。」
「玉ちゃんは、菊地さんのところで美味しくて栄養のあるご飯をお腹いっぱい食べて、朝から晩までくるくる働いてまわってるでしょ。私だって部活やってた高3まで身長が伸びてたし、まだ成長出来るよ。」
「でもまだ、おっぱいが佳奈さんには負けてます。」
「玉ちゃんに負けてたまるかぁ!」
「あ、隠れた交通事故駄洒落です。」 
「しまった。なんか恥ずかしい。」

てな感じて。
玉ちゃんには下着の他、リクエスト通り少し大学生っぽいジャケットも。
私は逆に子供っぽくデニムの上下。
あと、シンプルな男性向けカーディガンを2着。

「これとこれですね。」
「ワンポイントの有る無しがあるけど、何故どちらも白なの?」
「殿は白と黄色が好きな色なんです。」

玉ちゃんは、あの人の好みを良く弁えている。
毎日毎日、一緒にいる、いれるおかげだろう。
私も早く追いつかないとね。


と言う事で、2人して大荷物を持って外に出た。
車に戻ったけど、あの人は帰って来てなかった。
あの野郎。どこをほっつき歩いていやがる。
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