ご飯を食べて異世界に行こう

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第二章 戦

ふむふむふむちゃん

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「ふむふむ。」
キクヱさんが2人を交互に眺めてる。

なんか関わるの、面倒くさいなぁ。

玉が出しっぱなしにしている◯ッ矢サイダーを貰ってっと、コンビニ袋を漁って見ると、あらら甘そうなお菓子ばかりだ。
塩味が食べたかったなぁ。
まぁそこら辺は女子2人だし、僕が何か口出しするとこじゃないか。

「先ず、玉ちゃん。」
「は、はい。」
「ふむふむ。玉ちゃんはねぇ。」

えぇと、さっき通り過ぎたのが常磐大橋だったから、あぁ玉の地図地図。

「こら、邪魔しない!」.
「玉、地図見して。」
「はい、こちらです。」

助手席が後ろ向いてる変態車内で、(わざと)キクヱさんの顔の前を横切るように地図を受け取る。

「あら、貴女。巫女としての力は凄いわね。荼枳尼天様の巫女かと思いきや、恵比寿神様の巫女も務めているの。」
「一言主様に金冠を授けられましたので。」
「ふぅん。…でも使える力はお母さんに敵わないのね。」
「お母さんに一言主様は甘えていますから。殿の世界で住んでいる限り、多分お母さんは殿に次ぐ力を発揮出来ると思います。」
「なるほど。」

冷たいサイダーって、口の中が切れそうな刺激があるなぁ。

「玉はあくまでも殿の内儀としての力があれば良いですから。荼枳尼天様の巫女で居られるのも、殿のお力の余録ですし。」

成田線で言うなら、「滑川駅」を過ぎたあたりか。

「おいこら菊地。」
「なんだキクヱ。」
「………なんで私が貴方に呼び捨てにされてんの?」
「貴女が先に呼び捨てたから。」
「まったく、あぁ言えばこう言う。」
「それはこっちの台詞だなぁ。」

「ねぇ玉ちゃん。なんでこの人、神様の御使いにタメ口で話してるの?」
「そりゃ、殿ですから。」
君達、もう少し緊張感をだね。
さっきから何回この漢字三文字を頭の中で繰り返してるかな。

「んん。コホン。話しを戻します。玉ちゃん、貴女は貴女の行いに責任を取る覚悟はありますか?」
「玉は。」

玉さんはベルトを外して身を乗り出し、僕の左手を取った。
あぁもう、他人のふりして地図見てんのに。

「玉は、どんな事があろうと、殿に従います。殿が死ねとの仰るなら死にます。それだけの御恩が殿にはあるので。」

「おいこら菊地!」
「なんだキクヱ!なんだこの''菊キク''リフレイン。」
「仕方ないでしょ。菊は神にとって大切な花なんだから……じゃなくて、女の子に何て事言わせてるのよ。」
「僕は別に何も言って無いぞ。大体、僕の嫁として、いずれは過去に遡って死んだ母さんに紹介するって言ったのに、死ねって言う訳ないだろう。」
「……なんていうか、貴方達、壮絶よね。」
「それだけのものを僕達は掻い潜ってきたの!」
「くそう。羨ましいじゃねぇか。」
「神の使いの口調じゃねぇなぁ。」

この人、榛名神社で会った時は、もう少し威厳と清冽さがあったけどなぁ。

………

「コホン。玉ちゃんの方は大体わかりました。」
「え?今のでもう良いんですか?」
「私は貴女達の資格と覚悟を問うてるだけですから。死ねと言われれば死ぬと言い切る、恋する乙女にダメ出しは出来ません。」

ちょろい。

「なんか言ったか菊地?」
「キクヱ何にも。それよりそろそろ現実世界では下総神崎くらいだろう。もうすぐ佐原に着いちゃうぞ。」
「わ、わかってよわよ。えぇと次!青木さん!」
あ、噛んだ。
「かみまみた。」
玉さん、パクリは駄目だよ。
「はい。って言うか、神様の御使いを無駄に刺激しないてよ。」

知らんがな。

………

「あら?貴女面白いわね。」
「はい?」

あ、そうだ。
いつもの駅前のお煎餅屋で買う、抹茶煎餅が良いや。
ほい。いつものインチキパワーで手元に来ました。
あ、さっきのコーヒー、これで出しておけば良かったじゃないか。
反省、反省。
それはともかく。
サイダーとは普通は合わないけど、実は結構好きな組み合わせ。

「あ、玉にも下さい。お煎餅。」
「何が良い?」
「ぬれ煎餅が欲しいです。」

「ちょっと待ってね、佳奈ちゃん。」
グギギって音を立てて、青筋立てたキクヱさんがこっちを向いた。
「申し訳有りません。ご主人さま。もう少しお静かにして頂けませんか?」

「はい、玉。」
「ありがとうございます、殿。」

「この2人に言うだけ無駄だと思いますよ。」
「まったくもう。まったくもう。」
「それで、私はどうなんですか?」
「そうね。」

さてね。

「貴女は確かに菊地さんと同じ匂いがするわね。うぅん、多分。江戸時代中期あたりかな。菊地さんからの血筋が分かれたの。」
「そうなの?」
「僕に聞かれてもなぁ。浅葱家が熊本の殿様に仕えていたとか、調べた事ないからなぁ。知る限りだと名字帯刀の庄屋・名主だったけど、士分じゃないし。」
「役立たず!」
「僕は菊地姓だしなぁ?当時の熊本の殿様は細川家かな?参勤交代か何か人間ついて行って上京してるとか有り得るかもね。」

「ま、まぁ。そこら辺は菊地さんにご先祖様を調べてもらうとして。」

また何か仕事を押し付けられたぞ。
まぁ、必要なら時を遡れば済むけど。
いつぞやの棒坂探し並みに、調べものが面倒くさそうだ。

「やはり浅葱の力そのものは、市井の人間として極々薄れています。菊地さんの話では、浅葱本家で人間でも力が使えるのは、本当に限られた代のものだけだったそうです。」
「はぁ。じゃ、私は普通の人間なんですね。」
「いいえ。全然。」
「は?」

そっけない否定は、青木さんの異常性を肯定するものだった。

「だって、貴女は貴女にしか出来ない色々なスキルがあるでしょ。私と会った記憶が残っていたり。私生活でも人とは違う、人より優れた結果を出し続けているでしょ。それは浅葱の力が関わっているからよ。具体的に言えば、菊地さんと知り合ったからだね。」

まぁね。
会社の業務成績がやたら良かったり、弓道や薙刀術を身につけていたり。
何をやらしても一級品なのは事実だ。

一方で残念なやらかしも人の域を超えている訳で。
多分そうやって釣り合いが取れているんだろう。

あと、青木さんの努力と能力まで、人のせいにするな。

「わ、私はただ、その。頑張っていただけです…。」
「頑張れる理由があったんでしょ。」
「そ、それはそれで。…菊地さんと玉ちゃんとはずっと一緒に居たいから、…菊地さんのお嫁さんになりたかったから…。」

ボム!
「痛て!」

何故僕はキクヱさんにぶん殴られた?
しかも突然手にした軍配で。
ていうか、音が変だ。
あと、何故巫女が軍配を持ってんだよ。

「うちの神様は戦神ですから。軍配の一つや二つ持ってます。」  
知らんがな。

「良いなぁこんちくしょう。良い子ばかり嫁にしやがって。」
「何でアンタにヤキモチ焼かれにゃならないんだ?」

「ふむふむ。ふむふむふむふむ。」
改めて、キクヱさんは青木さんを上から下まで、舐める様に見回しているっぽい。  
僕はお昼を何処で食べるかの下調べで忙しいから、視界の隅っこに入っているけど放置。
玉の方からは、ぱふぱふってぬれ煎餅を齧る間抜けな音がしてるし。

「玉は間抜けじゃないですよ。」
だからね。
僕の意味ない思考に突っ込まないで下さい

「あ、あの?」
「ふむふむちゃん。」

この人(?)って、ここまで砕けた人(?)だったかなぁ。

「貴女は貴女がすべき事が、きちんとわかっているのね…。」
「はい。ずっと。ずっと昔から。でも、私にはその資格があるとは思えなかったから。今でもその資格が自分にあるとは、思い切れてません…。」
「…まぁね。今の貴女なら、多分死ぬわ。」
「………。」
「だから来た、のね。」
「ここで終わるなら、私はそれだけの女だっただけです。菊地さんと玉ちゃんについていけないんだったら、その先の私の人生に意味はないから。」
「思い詰めてんだ。」
「………。」
「今日、これから貴女が乗り越えなきゃならない試練はつらいよ。」
「…私は、今でものほほんと生きて来ましたから。生きて来れましたから。だから、私は、私にも、私の両親にも向き合える強さがいるんです。」
「わかった。」

ぐるん。
キクヱさんは、また助手席を回転させて前を向く。
…僕の車、8月に車検なんだけど。
車検通るかなぁ。
あと、そこに座るの大体玉なんだけど。
嫌だよ。事故に巻き込まれた時に、怪しい挙動を始めたら。

「みすたぁおおいずみぃぃぃ!ですか?」
「何で玉がどうでしょうネタがわかるの?」 
「最近、お母さんと一緒に見てます。」
あの人は、娘の教育をだね。
小一時間お説教かな。

「んじゃ、待ってるねぇ。あ、あと、草団子宜しくぅぅぅ。」

それだけ言うと、キクヱさんは白鳥になると、フロントガラスを突き抜けて飛び去った。

ふと気がつくと、車は元の国道365号線を走る。 
何だよ、前回みたいに鳥居まで連れてってくれないのかよ。
慌ててハンドルを握っただろ。

左前方に近づいて来るのは、水郷大橋だな。
だとしたら、すぐ佐原市街地じゃないか。
通り沿いに、し◯むらとス◯バが並んでたな。
あらかじめ玉の地図とググる先生でチェックしておいてよかった。

魂が抜けた様な青木さんの顔をルームミラーで確認しながら、さて玉としずさんに春物を買ってあげようと企もう。

もっとお高いブティック(笑)で買ってあげたいけど。
「無駄遣いです!」
「私は野良仕事しかしないのに、スカートとか履く機会ないでしょう!婿殿!」
って、親娘に叱られるから。
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