ご飯を食べて異世界に行こう

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第二章 戦

ドライフルーツ

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「殿、どっか行っちゃいましたよ。」
お母さんのところに戻って報告です。
まったくもう。
玉を置いて、殿は何処行っちゃうんでしょう。

神馬様が歩き出したので、従者として横に付こうとしたら、門を潜ると同時に全速力で走り出しました。
なんでしょう。
殿がたまに仰る、
「あいどりんぐ抜きでとっぷすぴーどに乗るには、あえて中途半端な所で仕事を辞めるって言うのも、一つの手段だよ。」
の体現の様です。
玉には(玉の名前なんとかならないかな、交通事故駄洒落が絶えないや)よくわからないのですが、佳奈さんが物凄く感心してましたね。

玉は仕事は一つ一つ片付け切らないと嫌なのです。そっちの方がスッキリしますから。
佳奈さん曰く、
「私も好きなだけ仕事してたい時はしてたいけど、そう言う時に限って忙しいのよ。菊地さんに全て打ち込める玉ちゃんって、女として羨ましいなぁ。」  
だ、そうです。
殿方に尽くす事が、女の生きる道と考えている玉にはピンと来ません。

せっかく外に出たので、向かいの栗林から栗の実を取って帰りましょうか。
って、挟むものも籠もありませんね。

「わふ」
「あれ?ぽん子ちゃん、来てたの?」
「わん!」
「ちびちゃんまで。あ、そうか、門の外に出る時はぼでぃがーどしてくれるんだっけ?」
 
殿と違って玉は皆んなとおしゃべりが出来ませんけど、なんとなく話は通じるのです。
ほら、ぼでぃーがーどって言ったら2人とも尻尾を振ってます。

「畑、行こっか?」
栗を諦めました。畑には外からも回って行けます。
佳奈さんが植えた菜の花が、黄色い柵を作っているんです。
殿には一応、敷地の外は僕でも安全性を保証出来ないよって言われているので、その目印になってます。

モルちゃん達にさらだ菜をたくさん。
れたすの仲間なんですけど、れたすそのものよりも皆んなが美味しそうに食べるので、最近では殿が荼枳尼天様の方でも植えてます。
あ、苺です。
くさいちごですね。
苺は荼枳尼天様の畑で育てていますが、これは野苺です。
甘くて美味しいですよ。   
少し摘んで行きましょう。

たくさんさらだ菜を抱えて帰って来たら、お母さんがてーぶるで何か飲んでました。

ばさっ。

さらだ菜を地面に撒くと、モルちゃん達がきゅうきゅう鳴きながら走ってきます。
うさぎさん達もさらだ菜は大好き。
後ろ脚で地面をぱんぱん蹴りながら、さらだ菜に齧り付きます。

「婿殿、馬に乗った事無いって言ってたのにねぇ。手綱も無しに乗れてるじゃない。」
「でも殿、不思議そうなお顔をされてましたよ。」
「婿殿はご自分が出来る事を理解してないんですよ。あの神馬、馬にしか見えないけど、どこかの神様じゃないかしら。」
「は?」
…まぁ、殿のやられる事は全て今更なんですが。これは玉も神馬さんをしっかりお世話しないとですね。

お母さんは玉が買って来たがらすの透明なこっぷに入れた橙色の飲み物を美味しそうに飲んでます。
蜜柑のじゅーすです。
玉は台所にあるじゅーさーみきさーで簡単にほいほい作っちゃうのですが、お母さんはお皿の真ん中がぽっこり盛り上がったはんどじゅーさーを使います。
蜜柑の皮は乾かすと薬や薬味になるのと、小鳥の餌になるそうです。

そう言えば、お屋敷の土間に筵を敷いて、色々乾かしてますね。
さつまいも・椎茸・大根の皮。
椎茸や大根は昔の家でも乾してました。
椎茸は干すと栄養が高くなって、大根は長持ちするそうです。
殿のお家で料理する時は、根菜の皮は捨ててましたけど、これからは考えた方がいいのでしょうか。
例えばお漬物にしちゃうとか。

話が逸れました。
今は殿と神馬様の事でした。

「殿、大丈夫かなぁ。」
「神様の御神託を受けたから呼んだんですよ。」
「御神託って、神様に蜜柑じゅーすをあげた時の世間話ですか?」
「ただでさえ一年中なりっぱなしなのに、玉が箱で持って来るものだから、皆んなで一生懸命食べてるのよ。神様に橙の代わりに奉納したら、蜜柑の甘味を食べさせてくれって出て来たの。」
「その御神託で、神馬様に乗って、どっか行っちゃった。」
「玉、婿殿はそういう方です。いつも誰かに頼られてます。(誰かというのは人ならざる者も含むけどね)ならば、玉のすべき事はわかりますね。」
「玉は殿のお家を護りますよ。ついでにお布団も暖めておきましょう。」
「早くそんな日が来ると良いですね。」

親娘の会話としては、結構際どい線まで攻めている気もしますが、玉が殿のお嫁さんになる事は、玉達には決定事項なのです。
殿は「嫌だ」ではなく「待て」と仰ってますし。

ぴっちゃぁというがらすのぼっとに、蜜柑じゅーすが沢山入っているので、玉もお家からこっぷを持って来ましょう。
あ、氷も。

余計な食器類は、全部殿のお屋敷の台所にしまってあります。
お母さんの家だと、箱膳に入り切らないので、玉が買い足した物が邪魔になるからです。

とてててて。
って走っていくと、ちびちゃんがわんわん鳴きながら一緒に走ります。 
ぽん子ちゃんは、さっき採った苺に夢中で、玉にはついて来ません。
モルちゃんは、玉の駆け足について来れないので、無理だと判断したら最初から来ないのです。

殿だったら、皆んなついて来るのになぁ。

殿のお屋敷には台所がニつあります。
一つは昔ながらの土間に、竈が設えてあります。 
もう一つは床板を張った屋内に、水道や茶箪笥、冷蔵庫などが並ぶ普通の台所です。
この冷蔵庫は、外の部屋と荼枳尼天様の茶店で中身が繋がっている「謎仕様」です。
殿のお力は、「食欲に関すれば無限大」だそうなのだそうです。 
だから、お母さんもこの冷蔵庫から好きなものを持って行ってます。

冷凍庫から氷、茶箪笥からこっぷ。
あ、鶏皮煎餅です。
そういえば夕べ、食べきれなかった鶏皮で殿がお煎餅を作ってましたね。

「余計な脂をキッチンペーパーで拭いて、塩を揉み込んだ鶏皮を、フライパンで揚げるだけだよ。焦げない様に低温でじっくりとね。」

鶏皮は殿の好物なんですが、脂が身体に宜しくないとの事で(あ、地味に交通事故だ)、普段おかずには上がりません。
そのかわり、食べる時には色々な料理をします。玉は覚えるのに大変です。

お供に来てくれたちびちゃんにご褒美です。2~3枚あげると、飛び上がって喜んでくれました。
ぽん子ちゃんにバレない様に声を出さない良い子(悪い子?)です。

お盆にこっぷと、氷を入れた銀色の器(殿曰く、この中に入れておけば断熱がどうたらで氷が溶けにくいそうです)を乗せてお庭に戻ろうとして、また一つ筵が目に入りました。
こちらは果物ですね。

ばなな、柿、蜜柑、林檎。
あ、これは無花果ですね。
さっき畑で見つけたくさいちごもあります。
果物を乾かして、どうするんでしょうか。

あと、地面に並べてあっても、誰も盗み食いに来ていないっぽいのも、如何にもうちらしいですね。

「お母さん、あれなぁに。林檎とか乾してる奴。」
「何言ってるの。玉が持って来た本に書いてあったのよ。食べきれない果物を干すと長持ちするし、お菓子代わりにもなるの。」
「なんと?」
それはびっくりです。なんでしょう。たまたま興味のなかった頃なのか、斜め読みでもしてたのでしょうか。

瓶に詰めた乾燥林檎を出してきてくれました。 
というか、てーぶるの下の台に常備してある様です。
小さいのはモルちゃんから、大きいのはモーちゃんまで、皆んな一列に並びだしましたよ。あれあれ、お母さんから一枚ずつ貰って、嬉しそうです。
玉も一番後ろに並んでみました。
あれあれ、お母さんが吹き出しました。

「玉、あなたねぇ。」
でも、乾燥林檎は甘酸っぱくて、とても美味しいですね。
 
「ねぇお母さん。」
「なんですか?」

最近、玉はこうやってお母さんと話せる時間、甘えられる時間を大切にしています。
それは玉が、ずっとずっと欲しかった時間で、殿が玉にくださった大切な宝物だから。

佳奈さんと2人で作ったてーぶるにほっぺたをくっつけて、蜜柑じゅーすの入ってこっぷを揺らします。
氷ががらすに当たる音が心地よいです。
考えてみると、これも殿がくださった音ですね。

「玉ね、もっと料理が上手くなりたいの。」
「私が見る限り、玉は立派にお母さんになれる料理の腕前ですよ。」
「あのね。おみおつけをもっと美味しく作りたいの。殿はね、佳奈さんの作るおみおつけが大好きなの。早くに亡くされた殿のお母さんが作ってくれた味にそっくりなんだって。玉も同じお味噌とお出汁とお水を使っているんだけどなぁ。」

「なるほどねぇ。でも玉、それは多分お姉ちゃんに勝てないわよ。」 
「そうなの?」
「お姉ちゃんは婿殿の想い出にたまたまピッタリ合っちゃったのね。それを覆すのは多分無理。」 
「無理なのかなぁ。」
「私だって、死んだお父さんが奉公先で食べていたっておみおつけには、とうとう勝てなかったわよ。」
「…難しいなぁ。」
「でもね、私は玉にだけの''お母さんの味“って残せてあげたと思うけどなぁ。」
「玉にとってのお母さんの味…玉が一番大好きなのは炊き込みご飯かなぁ。」
勿論、殿が作る具沢山の釜飯も大好きなんですが、殿が仰るには「いんすたんとだから」と、手抜きな事を強調しますね。
その割には、お野菜を加えたり、澄まし汁を作ったり、目一杯手を掛けてますが。

「玉にも玉だけの味って作らないとね。男は胃袋でつかみなさい。婿殿も、いずれ生まれてくる子供も。」
「うむ。わかりました!」
「うむ。」

こんな事言ってるから、玉や佳奈さんの黒幕がお母さんと、殿に言われる訳ですが。(あと、大家さんのおばあちゃん)
殿を堕とす為には玉達は悪魔(お母さんとおばあちゃん)にも魂を売るのです。
うむ。

そうこうしてたら、殿が帰って来ました。
疾風の様に飛び出して行った行きと違って、ぽっくりぽっくりと。
その両側に白いヤギを連れて。
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