ご飯を食べて異世界に行こう

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第二章 戦

お馬さんパカパカ

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「う、馬ぁ?」 
わん!

やっぱりこうなったか。
青木さんは神様2柱が、唐突に馬を連れて来るという状況についていけないらしく、口を大きく開いたまま固まってしまった。 
ちびが仔犬肉球パンチで、自らの主人の正気を呼び起こそうとしている姿が可愛い。
 
「あらあら、馬ですか。家畜小屋を広げないといけませんね。人参畑も拡張しましょうか?ね、てんいち。」
あらあら母さんは、いつも動じない。
というか、待って下さい。
「てんいちってなんですか?」
「こっちの仔は少し大きいでしょ。テンのお兄さんだからてんいちです。だからこっちはてんじ。」
天麩羅屋とディスプレイみたいな名前の兄弟ですね。

「くぅ」
「くぅ」
「くぅ」

「お母さんも喜んでいるから、そう決めました。婿殿、私をたまには聖域に連れて行ってくださいな。時々みんなに逢いたいです。」
「玉にお願いした方が確実ですよ。僕はこっちでもあっちでも、何かに塗れてる事が多いですから。」
ルリビタキ塗れになっていると言うのに、鶉とハクセキレイと山鳥が、ジリジリと近寄ってきてるし。

「殿、あの馬って、ひょっとして?」
モル塗れになった玉が、鳥塗れの僕にトコトコやって来た。
「昨日、荼枳尼天が武甕槌の件で用があるって言ってたろ。多分それだ。」
「じゃあ、やっぱり、おとといのお馬さんですか。」
「キクヱさんの言ってた''お土産“だろうね。持ち帰らせるんじゃ無くて、送るって言ってたし。」
「でもあんな馬居たかなぁ。玉がみんなにぶらしをかけてあげましたけど。」
「神社が飼っている馬は、大抵神様の遣いって事になってるから。武甕槌が適当に在庫から出したんじゃないかなぁ。」 
「在庫って…適当過ぎませんか?それにどうやってここに来たんでしょう。」
確かにここは、隔離された空間の筈だ。
ちびとか、この空間のどこからか迷い込んできた訳だけど。

「梟がルリビタキを案内しとる段階で、悩む必要も無かろうて。儂の庵と一言主の庵は、神界では周知の的じゃ。」
「梟が竜脈を引っ張ったのじゃろう。忘れたか?浅葱の。お主と巫女が呼んだから、この庵と巫女の父とのえにしが繋がった。その庵はここにも、荼枳尼天殿の世界にもある。」

神様連中、庵と申したか。  
もはや社でも無く、書斎か別荘扱いじゃないか。

「つまり、しずさんに、というか荼枳尼天に頼まれて治承4年に旅立った僕と玉が、フクロウ君に助けを求めたせいで、あの建物と僕とフクロウ君の間にパスが通じた、と。」
「お主と、そのなんとやら言う武甕槌の巫女ともえにしは繋がっておるな。お主と、梟と、庵がある場所ならば、時間も空間も関係無く辿って来れるのだろう。」
一言主がとんでもない推論を言い出した。
「つまり、お主はまた新しい女と縁付いた!」
「ちょっと待てコラ。」

「ちび!行け!」
わん!
「モルちゃん、行きなさい。」
きゅうきゅうきゅう!
わぁ、2人の瞳孔が開きっぱなしだぁ。

それにバタンしてきゅうきゅうしたいのは僕だ。
ルリビタキとハクセキレイに潰されかけているのに、シェルティとモルモットまで飛び付いて来た。
助けてぇ、とりあえず誰かおたまを預かってくれぇ。お鍋溢しちゃう。

「ちょっと目を離すと、すぐ女と縁作って!」
「そう言えばキクヱさん、変なこと言ってたです。」
知らんがなぁ!

「まぁまぁ2人とも、旦那様が女性におモテになる事は、誰にも相手にされない事よりも、とても良い事ですよ。男性として魅力に富んでいるって事でしょ。」
おたまと菜箸だけ、さりげなく僕から救出したしずさんが、珍しく真面目モードの口調で諭した。
「でもね。玉!お姉ちゃん!」
「は、はい。」
「な、なんですか?お母さん。」
顔は見えないけど、緊張した返事が聞こえる。
「宜しいですか?多少の浮気は男の甲斐性ですが、最終的に男が戻ってこない女になってはいけません。最後の最後は、貴方達のものにしなさい。」
て言うか、玉と青木さんに余計な事吹き込んでいるのはあんたか!
大家さんもそうだけど。
「あなたなにいってんの?」
あぁ、話がどんどんズレていく。
馬はどこ行ったんだよ。


「で、お主、どっちが本妻で、どっちが妾じゃ?浅葱の氏神として把握しておかんとないでの。」
動物塗れで身動き取れない僕に、一言主が話しかけて来た。
顔だけようやく出せたので、反論しよう。
「僕はフリーですよぉ。」
「なるほど、不倫か。」
「あんたどんな耳してんだよ!」
「こんな耳。」  
「あぁしまった。ツッコミゼリフ間違えた。」
一言主は別名・恵比寿天。
持っている耳は、福耳に決まってるじゃん。

………

やれやれ、やっと解放されたよ。

しずさんが
「はいはい。みなさん、ご飯の時間ですよ。」
と、手を叩いて促してくれた。

その声に動物達は、それぞれのポジションに戻ってくれた。
ポジションとはなにか?
草食動物は牧草地に集い、雑食動物及び神の眷属は、我々人間と神様の足元に陣取っている。
つまり、それぞれのポジション(食事場所)に散ったわけだよ。

解説を一つ。
浅葱屋敷の庭は花壇跡と芝生の敷かれた本庭部分とに分かれている。

花壇''跡''と言うのは、熊本にある本物の浅葱屋敷に於いては、物故した祖父母が現役の時は、きちんと手入れがされた灌木や花木が季節ごとに目を楽しませてくれていたちゃんとした花壇だったからだ。
僕が知る時には、その殆どが剪定もされなくなり枝葉が伸び放題だったり、元は椿か何かであったであろう枯れ木がただ立枯れているだけだった。

うさぎやモルモットの草食動物を受け入れた時に、僕と玉で、枯れ木を処分して、チモシー種の牧草を植えた。
といっても、全部片付けたわけでなく、枯れ木や枯葉等のゴミはそのまま端に寄せたままだった。

ぽん子やうさぎ達は、僕らが居ない時も、芝生に落ちた枯葉や枯れ枝をせっせと運んで掃除をしてたりとかもしてくれてた。

その花壇跡を、今の様にきちんと最後まで掃除してくれたのは、しずさんだ。
枯葉や枯れ木は焚き付けに使うので、全部掻き集めてくれていた。
今でこそ、煮炊きはいくらでも補充出来る炭と七輪を使う事が多いけど、ご飯を炊いたりするのは、家の土間に据えられた竈の方が美味しいらしい。

しずさんが大好きな動物達も、積極的にしずさんの後をついてまわって、掃除を手伝っているうちに、おおよそ20畳近くにはなるであろう花壇跡は、すっかり綺麗になって、全域にびっちりと牧草が増えた。

だから草食動物達も自分達のテリトリーとしていたケージを離れて、花壇跡で寛ぐ姿がめっきり増えた。
そこにモーちゃんが来たわけだけど、牛が一頭増えたくらいで牧草を食べ尽くせる訳もなく。
当然、馬一頭増えたところで何も心配することもない。
何しろ土地神が調整している出鱈目仕様だしね。

という訳で、草食動物御一行様は、花壇跡に馬を引き込んで歓迎会の真っ最中。
というか、誰だ、掛け流しの湧水を出したのは。
ささやかな清水の流れが川の方に向かっているぞ。
モーちゃんがゴクゴク水を飲んでいる。
前はケージに給水タンクをぶら下げて、毎朝補充してたんだぞ。

「儂、儂。」
「でしょうね。」

土地神様こと一言主が嬉しそうに手を挙げた。
僕は枯れ井戸を復活させたり、温泉を掘ったり、水道や生簀を引いたりしたけど、排水をどうするか、あれこれアンタと相談してたじゃないか。

「別にただの湧水だから、生活排水みたいに汚れているわけでなし、そのまま川に流しても、な~んの問題もないぞ。」
「まぁ、ただの飲み残しですしねぇ。」

聖域もそうだけど、こっちも神様の介入が酷くなって来たなぁ。
社を建てる前は「1本も生えてなかった立木」が、すっかり大木に育って社を隠してるし。

「こっちは陽の昇り降りがあるでの。朝陽や夕陽が眩しいんじゃ。」
「アンタどんな神様なんだよ。」
「時々、屋敷の方で昼寝させてもらっておるぞ。部屋に敷かれた鉄道模型を眺めるのが楽しいのう。」
ローティーンと思しき(本人が正確な歳をまだ教えてくれない)玉と、日本神話に出てくる神様が、やってる事が同じレベルなのかよ。

………

2×4材でテーブルセットを作ろうと思い立って、どのくらいになるかなぁ。
しずさんが庭で調理や食事をするのに、僕のキャンプ用具を使っているからだ。

折りたたみの白いプラスチックのテーブルセットは、紫外線による劣化や色褪せがいずれ起こるだろうと心配していたのだけど、今のところはまだ、その気配が見受けられないようだ。

でも、やっぱり安定性に若干の不安があるわけで、うん。
今日は後で、ホームセンターに行こう。

ざっくり作った泥鰌のまる鍋を真ん中に、鯉こくとミルキークイーンのお椀とお茶碗が並ぶ。
小皿には、しずさんお手製のお漬物。
漬物と言えば、玉が一番最初に身につけた料理(と言っていいのか)なのだけど、毎朝畑から採ってくる茄子や胡瓜の一夜漬けには、玉の糠漬けが勝てない。

「お漬物は、お母さんにもお婆ちゃんにも、誰にも勝てませんよう。」
「僕が玉の糠漬けが好きだから、良いですよ。」

しずさんのお漬物を食べると時々溢す玉さんです。


「うむ。泥鰌を食べるのは初めてじゃが、イケルの。」
「浅葱の。コイツを飼って増やす計画があるとは本当か?」
「くにゃ」

神様~ズには好評だったらしく、たちまち平らげると、しずさんに空っぽの器を差し出した。
一応、余裕を見て7~8人前を作っておいてよかった。
うちの神様達(相変わらず頭が沸騰しそうな言葉だ)は大食漢揃いだからなぁ。 

しずさんも泥鰌を食べる事は初めてらしく、目を白黒させながら、それでも美味しそうに味わってくれている様だ。
良かった。

「ん?君は泥鰌食べた事あるのか?割と見た目グロテスクな料理だけど。」
青木さんは泥鰌をひょいぱく食べて、玉とお米変えた?とか話している。

「私は東武線育ちだよ。浅草は春日部・大宮・北千住の次くらいに家族で行ったの。駒形どぜうにも何回も入ったし、なんならハゼやワカサギは釣ったその場で揚げて食べた事あるよ。」
「意外と逞しいお嬢さんでしたか。」
「というより、玉ちゃんとお母さんの方が食べた事なかった方が意外だわね。」
「だって、鯉はともかく、泥鰌は一度にそんなに採れないし、初めて殿に食べさせて貰った料理なんか数え切れませんよ。」
「それだけでも、玉が婿殿の元に居る価値がありますね。」
  
………。
まぁ、浅葱の力の使い方がわからなくて、最初なんとはなしに考えていた目標は達成された、の、かな?

因みに、僕の足元では、いつのまにか仲良くなっていたらしいたぬきちとぽん子が並んで鯉の焼き物を齧ってます。
テンの一家は、子供達に小骨の多い泥鰌はどうだろうかと少し考えて出したローストビーフの塊に親子で齧り付き、フクロウ君は浅葱屋敷に住む鳥達に栗林の方に案内されて行きました。
あっちはミミズや甲虫類、蜥蜴とかが多いからなぁ。
ミミズはともかく、害虫駆除はうちの鳥達の仕事なのです。

★  ★  ★

「さて、腹も膨れたところで本題に入ろうぞ。」
鍋とお櫃を空っぽにしたところで、荼枳尼天が切り出した。
一言主は御狐様とお腹をぱんぱんに膨らませて、テーブルの下にひっくり返っている。
たぬきち達が、御狐様に身体のどこかをくっつけて食休みをしている姿が微笑ましい。

「本題……馬の件ですね。」
「うむ。」
しずさんが淹れてくれたお茶を一杯。
「浅葱、お主、乗馬は出来るか?」
「ありません。」
どこのお金持ちだよ。
「ならば乗れるようにしておけ。さもないと。」
「さもないと?」
「お主、死ぬぞ。」
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