ご飯を食べて異世界に行こう

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第二章 戦

食事

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ちょっと早いけどちょうど着いたから、15時過ぎにチェックイン。
外見は立派なホテルの駐車場に車を着ける。  
ここ、ホテル◯坊は伊香保温泉で検索すると真っ先に出て来る、伊香保を代表するホテルらしい。

「予約してある青木ですが。」
「いらっしゃいませ。……ええと、和室でよろしいんですよね?」
10代~40代の女性3人の中に20代の男が1人。
よくわからない組み合わせではあるね。
ちょっと訝しげな顔をされちゃった。まぁ無理もない。
その気配を察した青木さんがすかさずフォローする。
「あ、この人は私の婚約者なので。」
「はい!」

…受付の人の余計な気の回しっぷりで、僕の周りに余計な設定がどんどん積み上がっていく。
余計だってば。兄弟とかでいいじゃん。
あと何故嬉しそう?受付のお姉さん。

部屋は割と高層階の和室。
最近だと、洋間と畳のハイブリッドな部屋が増えているけど、ここは3畳もある次の間付きの、昔ながらの和室。
そこにはソファセットが置かれているのは、お約束。

「わぁ。」 
「温泉街が丸々見えるわね。」
「あ、あそこに佳奈さんの車が見えますよ。」
高いとこ大好きな親娘が、早速窓に齧り付いてる。

あと青木さんが中居さんにポチ袋をこっそり渡しているのを見ちゃったけど、何か言おうとしたら睨まれた。
…こういうとこ、ちゃんとしてんだよな、この人。23歳とは思えない程、社会常識をきちんとわきまえている。
形の上では今回のスポンサーしてる僕に、今回は高速代とか入場料とかの細かいお金を一切払わせてくれない。
無職とはいえ、僕の方が金持ってんぞぅ(いやらしいか)。
昔はもう少し遠慮がちに頭を下げ奢られてたんだけどね。

先様から告白されてからは、僕がお金を無駄に使う事自体を嫌う様になった。
そこら辺は玉と同じ。
何故だ。僕のお金だぞ。
無駄遣いって言っても、本当に無駄な物は買って無いと思うぞ。

「婿殿の財布は、将来的には玉と青木お姉さんの財布になりますからねぇ。」
しずさんに割と真理を言われた様な気がする。聞きたく無い。
2人とも、告白はされたけど返事は返してないのに。
もう女房気取りですか? 
「しっかり者が向こうから押し掛けて来たんだから、幸せに思いなさいな。それも2人もですよ。」
…同い年の人よりは、多少は財布に余裕があるつもりだけど、その紐が握られる事がもう確定ですか。
まだ独身なのになぁ。
「あらあらうふふ。」
しずさんの、何もかも心得ている様な笑顔か怖いよぅ。

さて。(閑話休題・閑話休題)
晩御飯にも時間があるし、荷物を部屋に置いて、伊香保名物の階段に全員で散歩に出かけた。

雪はどうかなぁと心配だったけど、きちんと掻いてありました。
階段をゆっくりと登って、射的場では我が家の遠距離攻撃担当者がキャラメルを取りまくったり。(人形とかの玩具は最初から無視している辺りも彼女らしい)

「うふふふふふふふふふふふふふふ。」
「佳奈さん凄いです。大漁です。」
「これは甘い甘いきゃらめるですね、これ。玉が時々持って来てくれるんですよ。」
「甘味は大切ですから。でも、甘いは太る、甘いは虫歯ですよ。」

……なんか皆んなのテンションがおかしいので、近寄らない様にしよう。
あぁ、店先で適当に買った、串に刺された玉蒟蒻が美味しいや。(久しぶりの交通事故駄洒落)


冬の山中は、日の暮れるのも早い。
少し薄暗くなった伊香保散歩のゴールは伊香保神社。
うちには巫女さんが2人居るので、やっぱり興味津々に目指しました。
ここまで階段を登って来て、おじさんは疲れたよ。
僕より歳上の筈のしずさんは元気に、最後は玉と駆け上って行っちゃった。

「元気だ。特にしずさんが。」
「ね。」

20代の2人はヨロヨロになって到着した。階段の天辺だもんなぁ、ここ。
親娘並んでニ礼ニ柏手一礼。
ぱんぱん。
後ろから僕らもぱんぱん。

うちは神様やら神様の御使いやらがゴロゴロいる異様な家だけど、やはり清冽な空気は気持ちいいし、引き締まるね。

「みなさん、写真を撮りますよ。」
青木さんがショルダーバッグから小さなデジカメを取り出した。
なんかホッとしたぞ。
ここでなんか、お高そうなミラーレス一眼レフとか取り出したら、少し引いたかも。
うちの人達は趣味人ばかりだからなぁ。
玉もしずさんも、現代技術を利用した新しい趣味を見つけて楽しんでいるし。


「撮りましょうか?」
竹箒で境内の掃除をしていた巫女さんが、僕らの会話に入って来た。
あぁ、そう言えば、青木さんは三脚を持っていない。
「あ、ありがとうございます。」
「ありがとうございます。」
「いいえ。」

玉と青木さんと巫女さんが、頭をぺこぺこ下げあっている。

…巫女さん?…巫女さんねぇ。

「あら。どうしました?婿殿?」
「ん?いえ、なんでもありませんよ。」
(しずさんが気がついていないのなら、この和やかな雰囲気を壊す必要もないか)

「はい、1足す1は?」
「にぃ!」

しずさんを中心に、夕暮れ迫り灯りが点き始めた伊香保神社を背景に、僕ら4人が写った1葉の写真は、これから僕らには大切な宝物になって行くのだけど、今はそんな事も分からず。

巫女さんに挨拶をして、僕らはホテルに戻る事にした。
まぁ、お土産はホテルの売店で買っても、売っている物も値段も一緒だし。
ここで買う必要もないか。

★  ★  ★

女性陣が温泉に行っている間、僕は水晶をテーブルに並べて潜っていた。
龍笛を吹いた事はあっても祝詞なんか詠めない僕は、神様にお土産を捧げてお終い。
たぬきち達にさっき買った鮎の甘露煮をご馳走しに来た訳だ。

わふ。
『美味しいよ』
フクロウくんもテン達も、自分が気に入った物を食べている時に漏らす声をくぅくぅ立てながら、貪り食べている。
甘露煮は、ぽん子やちびに食べさせるには味が濃いからなぁ。
身体壊しちゃう。
あっちは草食動物が多いし、しずさんをこちらで独占した分、何かを考えないとね。

今朝、出かける前に1人で潜って畑仕事だけしておいたんだよね。

今日はピーマンの初収穫が出来た。

冷蔵庫の野菜室に納めておけば、浅葱屋敷でしずさんも自由に使える。
肉詰めとか青椒肉絲とか、あぁただの野菜炒めでもアクセントになってくれる、
出かける場所は少ないけど、主張の強い野菜だ。

今まで作ってなかったのは、玉の食い付きがイマイチだったから。
苦い野菜は、山菜を中心にいくらでも食べてこれたので、見た事ない野菜なんかどうでも良かったらしい。

でもテレビで見たという、塩昆布と胡麻油の炒め物をねだられたので、適当にクックなパッドでレシピを探して作ってみたら、玉さんの好みにドンピシャだったらしく大ハマり。
その日のうちに、種を買いに行かされましたよ。えぇえぇ。
種まきから1週間もすれば実がなる聖域仕様。
余った種は、青木さんにでもあげよう。
浅葱の畑を世話しているのはしずさんだけど、実際に鍬を振って耕しているのは青木さんだから。

こんな風に、僕は何処に居ても日常の日課をこなすのでした。
せっかくの旅行だし、やっぱりみんなには日常を忘れて楽しんで欲しいからね。

………

「良いお湯でした。」
「広いお風呂って良いね。殿、うちのお風呂も広げよう。」
「だったら掃除係は玉ね。」
「やはり今のままで良いですね。」

ちゃっかり玉さん。
いや、浅葱温泉も元は家畜小屋と隠居部屋だった建物を建て替えた建物だから、しずさんちより、お風呂自体は広いぞ。
浅葱の力(あと土地神の協力)のインチキパワーで作ったから、脱衣所2畳、湯船2畳洗い場2畳。換気扇と扇風機と洗面台付き。
泳げる程では無いにせよ、しずさん・玉・青木さんが一度に入っても相当余裕がある広さだそう。


「青木さ…。」
「ちょい待ち。私今すっぴん。」
慌てて顔を背けて、自分のカバンから化粧バックを取り出した。

あの…君。
毎日、うちの風呂に入っているよね。
普通に毎日、すっぴんで出てくるよね。
などと言ったら3人から叱られるのはわかり切っているので、何も言わないよ。
改めて思う。
女性って謎だ。

★  ★  ★

晩御飯は懐石料理でした。
…なんで?いいけど。

「ここの食事はバイキングがメインだけど、多分玉ちゃんが迷うでしょ。」
という理由だそうだ。
うわぁ。お皿抱えて、あっち行ってこっち来て、結局何も取らずに目を回し出す光景が目に取る様に見えるぞ。

「失礼ですよ、殿。玉は目を回したりしません。」
「おや、失礼。」
「玉の知らない料理をあれこれ殿に質問しまくって、周りに迷惑をかけるだけです!」
「駄目じゃん。」
「その隣には、私が居ますよ。さて何から聞こうかしら。」
「親娘揃って駄目じゃん。」
 
でもま、気持ちはわかる。
僕も会社員時代たまにバイキングに行ったけど、メニューはご飯・味噌汁・お新香の基本トリオに、卵焼きとカリカリベーコンと決まっていた。カリカリベーコンがないホテルだと、朝ご飯をたべなかったくらい、カリカリベーコン原理主義派だ。
とある取引先指定のホテルがそれだったので、出張期間中一切朝食を取らなかった事がある。
僕は普段から朝食抜きは珍しく無かったので、そのまんま清算したら、後で会社に問い合わせの連絡が来たなんて事があった。

「何か私共に不具合でもありましたでしょうか?」

って。
まさかカリカリベーコンがなかったからとは言えないので、適当に誤魔化したけど。
まさか朝食券をそのまま返したくらいで、そんな騒ぎが起こるとは思わないじゃないか。
確かにウチは大手だったけど、そんな忖度するかね。

ましてや我が家と来たら。
美味い物食べてる様に見えて、実は質素に一汁三菜だし。(一つ一つの食材は質素じゃないけど、ご飯・味噌汁・糠漬けプラス主菜が基本なのは変わりない)
だったら迷わない様に、最初から食卓に全種類どんと並んでたほうが、彼女達のためか。 
今晩の献立は。

・高野豆腐と練り物と油揚げの小皿
・蕪と大根の梅漬け
・鮪、イサキ、鯛、イカ・エビのお造り
・小鍋立てのすき焼き 
・ローストビーフの山葵添え
・アイスクリーム

因みにお酒はなし。
別に呑兵衛は1人もいないからいいけど。


「殿!この小鉢美味しいです。」
玉には前菜と言うか、お通しみたいな物が、お肉よりもお気に召した様だ。
…すき焼きやローストビーフの方が高いんだけどなぁ。
「あと蕪。こんなお漬物あるんですね。そう言えば蕪を植えてませんね。帰りに種を買って帰りましょう。」
何故この子は、肉や魚よりも野菜を美味しいと言うのだろう。
普段僕が、肉や魚を食べさせていないみたいじゃないか。

しずさんはすき焼きに興味を持ったらしい。というか、つけだれの生卵とポン酢に。
そう言えば、肉食も普通に熟す様になったけど、生卵を食べるって習慣は教えてなかったな。
玉はTKGを楽しんでいるのに。
今度、卵料理の講習会を開くか。
卵は奥が深いからなぁ。
卵ならば、ぽん子もちびも、ミニ豚なんかも試食できるな。
山鳥やハクセキレイも食べられるけど、倫理的にそれはどうなんだろう。

何はともあれ。
多分普段の我が家の食事からは、おそらく高級な食事を楽しんで終える事が出来ました。

帰ってから、すき焼きはともかく、ローストビーフを作れと言われません様に。
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