156 / 231
第二章 戦
出発
しおりを挟む
準備をしなくちゃとか思いつつ。
ちょっとした事件発生!
宗次郎さんから引き取った仔牛が怪我をした。
いや、大した怪我ではないんだけどね、蹄を少し剥がしちゃったんだ。
牛の蹄は、爪と同じで定期的に削蹄をしないとならないとは聞いていたけどねぇ。この仔、成長が早すぎるんだよ。
どうしたものかなぁと、家で対処策を調べていたら、お母さんが何とかしちゃったと、玉から連絡があったので、改めて浅葱屋敷に潜ってみた。
長屋門の外の道は、舗装はされていないけど、恐らくは人、或いは牛馬の通行によって固く踏み固められている道だ。
この水晶内の時代設定は、明治中期から大正時代の空間らしいので、実世間ではアスファルトどころかコンクリート道路もなかったのだろう。
とりあえず患部をタライに入れた温泉に浸けさせて、そこら辺に生えているアロエで作った傷薬を塗り込んでいたら、固いとこ歩きたいと意思表示したんだって。
仔牛の意思(リクエスト)で、しずさんが道の上をしばらく歩かせていたら、治っちゃったそうだ。
「少し固いところを歩かせて、蹄を削ろうと思っただけですけどねぇ。」
もう。
『なんかねぇ、神様に叱られたの。お母さんに心配かけるな!って』
僕は獣医じゃないし、動物が怪我をする事が初めてだったから、何が何やらオロオロしていたら、仔牛君の方から玉を連れたまま近寄って来て、内情を教えてくれた。(牛に引かれてなんとやら)
要は、土地神が治してくれたらしい。
そう言う事ですか。
こっちの仔達も、色々おかしな事になってますね。
「ねぇモーちゃん。」
玉さんがニコニコしてブラッシングをしている。
仔牛は気持ち良さそうだ。
もう。
この仔もすっかり僕らに懐いてくれた。
普段は家畜小屋で寝転がっているけど(どんな牛だ)、誰かが庭に出ていると、きちんと挨拶に出てくる。
「因みに玉さん。仔牛はその名前でいいんですか?」
モルモットのモルちゃんと、変わり映えしませんが。
もう。
『玉ちゃんがせっかく付けてくれたので、私の名前はモーです』
そうですか。
本人(本牛)がいいならいいや。
対策としては、時々道を歩いて蹄をすり減らしなさいって事で大丈夫みたい。
まぁ、別に人通りや車通りがあるわけでなし。
今のところ、この辺に肉食獣もいなさそうだし。
「良いかモーちゃん。1日1回で良い、外に出てしばらくグルグル歩き回りなさい。その時は、しずさんに必ず1声掛ける事!」
もう。
『わかったぁ。でもお母さん、なんだか普段忙しそうだよ』
あれま。
しずさん、日中は暇してるのかと思ってたら、結構動いているんだ。
当のご本人はニコニコ笑っているだけだけど。
ふむ。そう言う事ならば。
「ちび!いざという時は、モーちゃんを護りなさい。」
わん!尻尾をぶんぶん振って、胸を張る仔犬。
この仔は、僕らの役に立てる事が嬉しくてしょうがないみたいだ。
『任して』
わふ?首を傾げる狸。
『私は?』
君、女の子でしょ。
わふ?
『モーちゃんも女の子だよ?』
なんだかわからないけど、狸と仔犬が、仔牛のボディガードになりました。
「あらあら、私は仲間はずれですか?」
もう!
わふ!
わん!
慌ててしずさんに甘え出す牛と狸と犬。
「玉も!」
一緒に甘え出す玉さん。
何だこりゃ。
以上、ちょっとした事件の顛末でした。
そんな事をしていたら、買い物に行く日が無くなりました。
青木さんが決めた日程は、それだけ詰まってたんです。
…本人も有給を取らなければならないのに、まさかコレも全部、妹と話をあらかじめ付けていたんじゃ無かろうな?
★ ★ ★
出発の朝。
普段はテレコで車を出すことにしている僕らだけど、僕の番を飛ばして今回は青木さんがハンドルを握る。
だって、僕の車にはタイヤチェーンを備え付けてないから。
何しろ中古で買って乗り出してから、中を殆ど見ていない。
ETCだって前のオーナーが付けたものをそのまま使用したから、初めてゲートを潜る時、使えるのかどうか、実はちょっとドキドキした。
そう言えば、スペアタイヤや三角表示器とか、何処にあるんだろう。
若い頃はね。
あれ買おうとか、このグレードを買おうとか、色々考えましたよ。ええ。
でも実際には、デートの相手が途絶えちゃった独り者が、高い車買っても都内は道狭いし、仕事と生活と便利な鉄道に追われて、いつしか中古の軽でいいやって変わりました。
勿論、玉も青木さんも文句言わないし。
寮から一番近い中古車屋で、一番近くにディーラーがある、当時よく売れていた車種を、値段よりも取り回しの良さと納車期間だけを気にして購入したのが、今の車。
結局、近場にしか行かないし、熊本まで帰省する時は、まさか車で帰る距離でなし。
例え故障しても、修理が楽ならばなんでも良い。車検もお安く。
が、今の僕の車に対する距離感なので。
6ヶ月点検とか、「きちんと出す人珍しいですよ」って、ディーラーに言われるほど、こまめに出している僕です。
その点、新車で使用目的をきちんと決めた上で、少しマイナー車種を買った青木さんは、必要な工具・機材を全部揃えてあるし(お父さんの登さんのこだわりらしい)、JAFも保険もがっちり入っている。
何よりも、雨降ったら車使わない、雪降ったら車の鍵にも触らない僕と違って、雪道運転にもそれなりに経験がある(北春日部は降る時は降るらしい)青木さんの方がよっぽど安全運転出来そうだから。
…なんでこの人、男の僕よりも男性スキルが高いんだろう。
あと、それなのに、なんで迂闊にも雪道で転んで、坂を滑り落ちて行く様な愉快な失敗をするんだろう。
★ ★ ★
「はいはい皆さん、そろそろ行きますよ。忘れ物はありませんね?施錠も大丈夫?」
「はい、殿の部屋も佳奈さんの部屋も、ちゃんと鍵かかってました。」
「玉ちゃんありがと。えぇと、席は助手席がお母さん。玉ちゃんと貴方は後ろでお願いします。」
「あら、お隣は婿殿か玉じゃなくていいの?」
「玉ちゃんは地図に夢中になっちゃうし、前に座った方が景色が良い見えますから。」
「……それなら玉の方が。」
「玉ちゃんならカバン抱えて、もう後ろに座ってます。どうせ後ろで''殿''とイチャイチャするつもりですよ。」
「あらあらまぁまぁ。」
「………僕の意思って、この4人が揃うとおざなりにされるなぁ。」
まだ陽が明ける前の、街が寝ている、そして夜露の香りが残る中、青木さんは静かに車を発車させた。
陽が昇らないと地図を読むことが出来ない玉は、窓にべったり張り付いている。
普段見る事の無い近所の風景が興味深いらしい。
自動販売機の灯りだけが目立つ、いつもならご近所さんと挨拶を交わす人気のない街角は、確かに面白いかもね。
暖かくなったら、深夜の散歩に出ようかね。
「これから24時間経営のドラッグストアに行きます。必要なものは一通り揃えていきましょう。」
「ん?なんか買いもんあんのか?」
「1泊だから大したものはないけど、サニタリー的な奴、買っておいた方がいいでしょ。私、持って来てないもん。」
歯磨きセットとかタオルとかは、大体ホテルに揃っているから、出張慣れしてる僕は、あまり旅先で買う事はないんだ。
「簡単な薬を買っておいた方がいいでしょ。みんな大丈夫そうだけど、酔い止めとか、あと鎮痛剤と正露丸?」
あぁ、正露丸はあって損は無いね。
「あと、女性が3人いるんだから、其方方面もあった方がいいでしょ。」
「そう言う事は黙ってなさいよ。僕はこれでも男なんだから。」
「あら、婿殿?嫁御さんの月のモノはきちんと把握しないといけませんよ。」
「しずさんまで、朝っぱらから何言ってるの?」
まぁこの人達は、こんな人達だからしょうがない。
玉としずさんの生理用品を買わされる僕だし。
ついでに、飲み物とお菓子とおにぎりなどの軽食も一緒に。
この車には小さな冷温器を積んであるので、保存や保温に便利。
「殿、アーンですよ。」
店から車に戻ったそうそう、最近玉がハマっている黒糖飴を口の中に放り込まれた。
コーヒーを買ったのに、こんな大きな飴を舐めさせられたら、しばらく飲めないじゃん。
なんてことは、青木さんとしずさんにも楽しそうに配り始める玉さんに言える筈もなく。
車は黙って、外環道の三郷南ICに吸い込まれていく。
「そう言えば、たぬきち君って、この辺で逢ったんですよね、殿。」
「多分1,000年くらい前のね。もろもろ。」
黒糖飴がデカくて、上手く喋れない。
★ ★ ★
「お母さん、もう大丈夫だよ。あとは道なりだから。」
「そう。では。」
高速に乗って数分、青木さんの合図を聞いたしずさんが、手持ちのトートバッグから黒いモノを取り出すと、チャックを開けた。
あぁ、不織布の蛇腹CDケースだ。
そういえば、僕の車のオーディオは、引越しの時にCD類は全部処分しちゃったから、普段はFMを薄く流してる以外に使ってないや。
この車にはMP3用のデバイスジャックも付いてるし、さすがは最新型だなぁ。
などと我がポンコツ愛車に想いを馳せていたら、僕の後付け安物ナビとは違う、純正埋め込みナビの画面に映ったのは。
ウインクするフクスケさんだった。
どうでしょうかよ。
因みにこれ、青木さんが外回り中に古道具屋のショーウィンドウで見つけたもの。
たしかに僕が、バラエティよりも旅情性が高い(ただし国内に限る)シリーズを買って上げてたけどさぁ。
『中国製粗悪コピー品。一応視聴可能です』
って素晴らしく投げやりななPOPがついていたそうな。
BOX第6弾までコンプリートされていた事と、5,000円(税抜)という値段に惹かれて即買いしたものだ。
問題は、その時は社有車で外回りの最中だったのと、場所が浅草橋だった事。
始末に困った青木さんからhelp!の連絡を受けて、わざわざサルベージに行かされたという、はた迷惑ないわく付きのセットだった。
しかし、旅行先にまで持ってくるかなぁ。
まぁ、ハマってるなら良いか。
……話題がアンルイスのインタビューだなぁ。これ、◯イコロ1じゃん。
最初から見るってか。
玉は、外環道のオレンジの街灯が演出する明け方の光の乱舞に夢中になっているし、しずさんはDVDを見ながらくすくす笑ってる。
なんだかよくわからない一行を乗せた車は、外環道を西へ疾走していた。
行き先は伊香保温泉。
(因みに青木さんから行き先を聞いたのは夕べ、今日が4時出発なのに遅いぞ!わざとだな?)
ちょっとした事件発生!
宗次郎さんから引き取った仔牛が怪我をした。
いや、大した怪我ではないんだけどね、蹄を少し剥がしちゃったんだ。
牛の蹄は、爪と同じで定期的に削蹄をしないとならないとは聞いていたけどねぇ。この仔、成長が早すぎるんだよ。
どうしたものかなぁと、家で対処策を調べていたら、お母さんが何とかしちゃったと、玉から連絡があったので、改めて浅葱屋敷に潜ってみた。
長屋門の外の道は、舗装はされていないけど、恐らくは人、或いは牛馬の通行によって固く踏み固められている道だ。
この水晶内の時代設定は、明治中期から大正時代の空間らしいので、実世間ではアスファルトどころかコンクリート道路もなかったのだろう。
とりあえず患部をタライに入れた温泉に浸けさせて、そこら辺に生えているアロエで作った傷薬を塗り込んでいたら、固いとこ歩きたいと意思表示したんだって。
仔牛の意思(リクエスト)で、しずさんが道の上をしばらく歩かせていたら、治っちゃったそうだ。
「少し固いところを歩かせて、蹄を削ろうと思っただけですけどねぇ。」
もう。
『なんかねぇ、神様に叱られたの。お母さんに心配かけるな!って』
僕は獣医じゃないし、動物が怪我をする事が初めてだったから、何が何やらオロオロしていたら、仔牛君の方から玉を連れたまま近寄って来て、内情を教えてくれた。(牛に引かれてなんとやら)
要は、土地神が治してくれたらしい。
そう言う事ですか。
こっちの仔達も、色々おかしな事になってますね。
「ねぇモーちゃん。」
玉さんがニコニコしてブラッシングをしている。
仔牛は気持ち良さそうだ。
もう。
この仔もすっかり僕らに懐いてくれた。
普段は家畜小屋で寝転がっているけど(どんな牛だ)、誰かが庭に出ていると、きちんと挨拶に出てくる。
「因みに玉さん。仔牛はその名前でいいんですか?」
モルモットのモルちゃんと、変わり映えしませんが。
もう。
『玉ちゃんがせっかく付けてくれたので、私の名前はモーです』
そうですか。
本人(本牛)がいいならいいや。
対策としては、時々道を歩いて蹄をすり減らしなさいって事で大丈夫みたい。
まぁ、別に人通りや車通りがあるわけでなし。
今のところ、この辺に肉食獣もいなさそうだし。
「良いかモーちゃん。1日1回で良い、外に出てしばらくグルグル歩き回りなさい。その時は、しずさんに必ず1声掛ける事!」
もう。
『わかったぁ。でもお母さん、なんだか普段忙しそうだよ』
あれま。
しずさん、日中は暇してるのかと思ってたら、結構動いているんだ。
当のご本人はニコニコ笑っているだけだけど。
ふむ。そう言う事ならば。
「ちび!いざという時は、モーちゃんを護りなさい。」
わん!尻尾をぶんぶん振って、胸を張る仔犬。
この仔は、僕らの役に立てる事が嬉しくてしょうがないみたいだ。
『任して』
わふ?首を傾げる狸。
『私は?』
君、女の子でしょ。
わふ?
『モーちゃんも女の子だよ?』
なんだかわからないけど、狸と仔犬が、仔牛のボディガードになりました。
「あらあら、私は仲間はずれですか?」
もう!
わふ!
わん!
慌ててしずさんに甘え出す牛と狸と犬。
「玉も!」
一緒に甘え出す玉さん。
何だこりゃ。
以上、ちょっとした事件の顛末でした。
そんな事をしていたら、買い物に行く日が無くなりました。
青木さんが決めた日程は、それだけ詰まってたんです。
…本人も有給を取らなければならないのに、まさかコレも全部、妹と話をあらかじめ付けていたんじゃ無かろうな?
★ ★ ★
出発の朝。
普段はテレコで車を出すことにしている僕らだけど、僕の番を飛ばして今回は青木さんがハンドルを握る。
だって、僕の車にはタイヤチェーンを備え付けてないから。
何しろ中古で買って乗り出してから、中を殆ど見ていない。
ETCだって前のオーナーが付けたものをそのまま使用したから、初めてゲートを潜る時、使えるのかどうか、実はちょっとドキドキした。
そう言えば、スペアタイヤや三角表示器とか、何処にあるんだろう。
若い頃はね。
あれ買おうとか、このグレードを買おうとか、色々考えましたよ。ええ。
でも実際には、デートの相手が途絶えちゃった独り者が、高い車買っても都内は道狭いし、仕事と生活と便利な鉄道に追われて、いつしか中古の軽でいいやって変わりました。
勿論、玉も青木さんも文句言わないし。
寮から一番近い中古車屋で、一番近くにディーラーがある、当時よく売れていた車種を、値段よりも取り回しの良さと納車期間だけを気にして購入したのが、今の車。
結局、近場にしか行かないし、熊本まで帰省する時は、まさか車で帰る距離でなし。
例え故障しても、修理が楽ならばなんでも良い。車検もお安く。
が、今の僕の車に対する距離感なので。
6ヶ月点検とか、「きちんと出す人珍しいですよ」って、ディーラーに言われるほど、こまめに出している僕です。
その点、新車で使用目的をきちんと決めた上で、少しマイナー車種を買った青木さんは、必要な工具・機材を全部揃えてあるし(お父さんの登さんのこだわりらしい)、JAFも保険もがっちり入っている。
何よりも、雨降ったら車使わない、雪降ったら車の鍵にも触らない僕と違って、雪道運転にもそれなりに経験がある(北春日部は降る時は降るらしい)青木さんの方がよっぽど安全運転出来そうだから。
…なんでこの人、男の僕よりも男性スキルが高いんだろう。
あと、それなのに、なんで迂闊にも雪道で転んで、坂を滑り落ちて行く様な愉快な失敗をするんだろう。
★ ★ ★
「はいはい皆さん、そろそろ行きますよ。忘れ物はありませんね?施錠も大丈夫?」
「はい、殿の部屋も佳奈さんの部屋も、ちゃんと鍵かかってました。」
「玉ちゃんありがと。えぇと、席は助手席がお母さん。玉ちゃんと貴方は後ろでお願いします。」
「あら、お隣は婿殿か玉じゃなくていいの?」
「玉ちゃんは地図に夢中になっちゃうし、前に座った方が景色が良い見えますから。」
「……それなら玉の方が。」
「玉ちゃんならカバン抱えて、もう後ろに座ってます。どうせ後ろで''殿''とイチャイチャするつもりですよ。」
「あらあらまぁまぁ。」
「………僕の意思って、この4人が揃うとおざなりにされるなぁ。」
まだ陽が明ける前の、街が寝ている、そして夜露の香りが残る中、青木さんは静かに車を発車させた。
陽が昇らないと地図を読むことが出来ない玉は、窓にべったり張り付いている。
普段見る事の無い近所の風景が興味深いらしい。
自動販売機の灯りだけが目立つ、いつもならご近所さんと挨拶を交わす人気のない街角は、確かに面白いかもね。
暖かくなったら、深夜の散歩に出ようかね。
「これから24時間経営のドラッグストアに行きます。必要なものは一通り揃えていきましょう。」
「ん?なんか買いもんあんのか?」
「1泊だから大したものはないけど、サニタリー的な奴、買っておいた方がいいでしょ。私、持って来てないもん。」
歯磨きセットとかタオルとかは、大体ホテルに揃っているから、出張慣れしてる僕は、あまり旅先で買う事はないんだ。
「簡単な薬を買っておいた方がいいでしょ。みんな大丈夫そうだけど、酔い止めとか、あと鎮痛剤と正露丸?」
あぁ、正露丸はあって損は無いね。
「あと、女性が3人いるんだから、其方方面もあった方がいいでしょ。」
「そう言う事は黙ってなさいよ。僕はこれでも男なんだから。」
「あら、婿殿?嫁御さんの月のモノはきちんと把握しないといけませんよ。」
「しずさんまで、朝っぱらから何言ってるの?」
まぁこの人達は、こんな人達だからしょうがない。
玉としずさんの生理用品を買わされる僕だし。
ついでに、飲み物とお菓子とおにぎりなどの軽食も一緒に。
この車には小さな冷温器を積んであるので、保存や保温に便利。
「殿、アーンですよ。」
店から車に戻ったそうそう、最近玉がハマっている黒糖飴を口の中に放り込まれた。
コーヒーを買ったのに、こんな大きな飴を舐めさせられたら、しばらく飲めないじゃん。
なんてことは、青木さんとしずさんにも楽しそうに配り始める玉さんに言える筈もなく。
車は黙って、外環道の三郷南ICに吸い込まれていく。
「そう言えば、たぬきち君って、この辺で逢ったんですよね、殿。」
「多分1,000年くらい前のね。もろもろ。」
黒糖飴がデカくて、上手く喋れない。
★ ★ ★
「お母さん、もう大丈夫だよ。あとは道なりだから。」
「そう。では。」
高速に乗って数分、青木さんの合図を聞いたしずさんが、手持ちのトートバッグから黒いモノを取り出すと、チャックを開けた。
あぁ、不織布の蛇腹CDケースだ。
そういえば、僕の車のオーディオは、引越しの時にCD類は全部処分しちゃったから、普段はFMを薄く流してる以外に使ってないや。
この車にはMP3用のデバイスジャックも付いてるし、さすがは最新型だなぁ。
などと我がポンコツ愛車に想いを馳せていたら、僕の後付け安物ナビとは違う、純正埋め込みナビの画面に映ったのは。
ウインクするフクスケさんだった。
どうでしょうかよ。
因みにこれ、青木さんが外回り中に古道具屋のショーウィンドウで見つけたもの。
たしかに僕が、バラエティよりも旅情性が高い(ただし国内に限る)シリーズを買って上げてたけどさぁ。
『中国製粗悪コピー品。一応視聴可能です』
って素晴らしく投げやりななPOPがついていたそうな。
BOX第6弾までコンプリートされていた事と、5,000円(税抜)という値段に惹かれて即買いしたものだ。
問題は、その時は社有車で外回りの最中だったのと、場所が浅草橋だった事。
始末に困った青木さんからhelp!の連絡を受けて、わざわざサルベージに行かされたという、はた迷惑ないわく付きのセットだった。
しかし、旅行先にまで持ってくるかなぁ。
まぁ、ハマってるなら良いか。
……話題がアンルイスのインタビューだなぁ。これ、◯イコロ1じゃん。
最初から見るってか。
玉は、外環道のオレンジの街灯が演出する明け方の光の乱舞に夢中になっているし、しずさんはDVDを見ながらくすくす笑ってる。
なんだかよくわからない一行を乗せた車は、外環道を西へ疾走していた。
行き先は伊香保温泉。
(因みに青木さんから行き先を聞いたのは夕べ、今日が4時出発なのに遅いぞ!わざとだな?)
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない
たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。
何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る
電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。
女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。
「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」
純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。
「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる