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第二章 戦
旅行
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「菊地さぁん、書留でぇす。」
「はいはい、ハンコですね。」
とある晴れた冬の日。
僕は、白いシクラメンの花(玉と大家さんがやり過ぎた)に囲まれた縁側で、足の爪を切っていた。
ぱちん。
ぱちん。
爪って知らないうちに伸びてるよね。
それとも、僕がおじさんになったから、体感時間経過を早く感じる様になっただけかな?
なので、玄関に郵便屋さんを迎えたのはより玄関に近い居間に居た玉さん。
お昼ごはんも終わって、のんびりと座椅子で日課の読書をしていた、本っ当にちんたらした午後でした。
…2人して、ちんたらしていたのに。
「殿ぉ、妹さんからお手紙ですよ。」
「あぁちょっと待ちなさい。本人から丁度電話だ。」
なんだろう。
書留と電話の同時攻撃?
「玉、開封してていいよ。もしもし?」
『なんで正月にも2月にも帰ってこないのよ!』
「第一声がそれかよ。」
僕の状況わかってるだろ?
玉が居るのに連れてけってか。それに、年末に青木さんも越して来たし、一言主に呼び出されたり、里帰りする暇なんかなかったんだよ。
『佳奈ちゃんには話聞いてるけどね。色々兄さんの周りが変わってるって。』
「ちょっと待て。お前らつるんでいるのか?」
『玉ちゃんともね。メールも電話もしてるよ。』
「なんてこった。」
ちんたら遊んで過ごしている毎日が、全部筒抜けじゃないか。
『うっふっふっふ。佳奈ちゃんに告られたんだって?』
「そんな事まで話しているのかよ。」
『当たり前です。私は兄さんの味方だし、兄さんのお嫁さん探しは私の仕事です!』
「お前の仕事は、主婦であり母親だろ。」
『どっちにしても、兄さんが片付かないと、私も落ち着かないんです!30を前にして無職独身の兄って、旦那側の親族にも私の体裁が悪いし。』
「う!」
やばい。
今のは急所に刺さった。
「ぐさっ。」
「玉さんうるさい。」
「ぐさぐさ、ぐさぐさぐさぐさ!」
ペーパーナイフ片手にオノマトペ連発で開封するの、やめて下さい。
「……言い返せない…。」
『でもさ、玉ちゃんはお母さんに再会させてあげられたし、佳奈ちゃんもお父さんから挨拶に来たんでしょ。』
「あぁ、まぁ。」
事実ではあるので、否定はしない。
「で、お前は何しに電話して来たんだ?」
『あら、忙しかった?』
「まだ左足の小指と人差し指の爪を切り終わっていない。」
『まぁ、それは一大事じゃない。早く切らないと夜になっちゃうわよ。』
「まだ1時過ぎだし、親の死に目にはもう両方とあって来たから大丈夫。」
『……不謹慎な例えを出したと、我ながら思うけど、それを理解してすぐさま冗談で返せる兄さんって、少し変よね。』
「失礼な。」
実際は読書家の玉が、玉の生きた時代以降に成立した諺や風習を質問してくるので、そっち方面の知識がたまたま厚くなっているだけなんだよね。
『でもさ、あと3人、新しく親が増える予定なんでしょ?』
「………。」
そんな覚悟はまるでついていないのだけど、否定したら全方面から叱られそうなので、ノーコメントと言う事で。
「コソコソ…殿。」
玉さん、コソコソと口に出したらちっともコソコソしませんよ。
コソコソ玉さんが書留から出したのは、J◯B旅行券。それも10万円分。
て、ちょっと待て。
「おいコラ。この旅行券はなんだ?」
『あれ?もう届いたんだ。それよそれ。私が今日連絡した用事は。』
妹曰く、貰い物なので僕らに使って欲しいそうだ。
『旦那が4月から昇進の内示が出てて、慣れるまでクソ忙しくなるのと、子供がまだまだ小さいからね。家族旅行とかしばらく無理だし。』
「いや、でもこの旅行券期限ないだろ。換金してもちょっとした小金になるし。」
『あのねぇ。経済状況は兄さんとこと大差なくて悪くはないのよ。うちは。兄さんと違ってうちの旦那はきちんと働いてるし。』
「だから、僕の急所を突くのはやめなさい。」
『どっちにしても我が家が家族旅行に行けるのは5~6年先になるでしょう。だったら兄さんが使いなさい。玉ちゃんと佳奈ちゃんと、あと玉ちゃんのお母さんの4人で行けば、割と豪勢な1泊旅行ができるわよ。』
まぁ確かに。
年が明けてからこっち、激動の毎日だった。
激動じゃない日は、とことんだらけてたけど。
『という訳で、みんなで楽しんで来てね。新会社からのスカウトを請けるにしても、公務員試験を受けるにしても、4月からは忙しくなるでしょ。だったらその前に楽しんでいらっしゃい。』
だから漠然と考えていた再就職について、なんでそこまで知ってんだよ。
『あと、お土産宜しくね!』
それだけ言うと、妹は電話を切った。
…そう言う事なら有り難く使わせてもらうけど、市川の僕が熊本の妹に旅先で買うものは、お土産ってカテゴリーでいいのだろうか?
★ ★ ★
「と言う事で、妹から旅行に行く様に命令された。」
「はぁ。」
爪を切り終わったら、僕から爪切りを奪い取った玉さんが引き出しに大切そうに仕舞う(何故!)後ろ姿に話しかけた。
「それで、行きたい場所を募集しようと思う。参加者は、僕、玉、しずさん、青木さんの4名だ。」
「お母さんも良いんですか?」
「勿論。」
じゃないと、10万円分も使い切れん。
「でも玉の知ってる場所は、殿と一緒に行ったとこだけですよ?」
「別に具体的にどこって事じゃなくてもいいよ。玉は時々旅行番組を見てただろう。温泉とか。」
「あれはその土地の料理や食材に興味があったから見てただけですし。」
「主婦か?」
「はい。」
真っ直ぐに返事されちゃった。
「玉の時代に観光旅行って、普通の人はしませんでしたからねぇ。お役人さんが任地に行くとか、お殿様がお参りに行くくらいですから。」
ふむ。それはそうか。
庶民の旅行と言えは「講」という制度があったけど、あれは確か江戸時代からの筈だ。
「それにほら、温泉はお母さんのとこにあるし、美味しいご飯と美味しい食材は大体この部屋で賄えますから。」
しまった。
うちの周りで、粗方の事は済んじゃった。
だとすると、観光地自体を知らない玉は役に立たないか。
しずさんも、市川から出た事ないだろうなぁ。この親娘には頼れない。
「なんか失礼な事、考えませんでしたか?殿?」
「ないよ。」
この子をお嫁さんにして、僕は大丈夫なんだろうか。
………
『で、どうすんの?』
「いや、だから意見を募っているんだけど。ていうかメールを送って1分も立たずに電話を返して来て、君はちゃんと仕事をしているのか?」
『言ったでしょ。私は今期ノルマを達成済なので、比較的自由に外回りしてんの。だからお昼の時間も外して、悠々とお蕎麦を食べてたとこでした。』
はぁ。
まぁ結果さえ出していれば、事務職なんかより時間を自由に使えるのが、営業職の醍醐味だ。
『わかった、考えとくね。』
「あぁ頼む。」
こう言った情報収集は、若いOLさんの方が得意だろう。
ネットと生半可な知識・経験しかないおじさんよりもね。
『移動は車?』
「それも任せる。玉は鉄道に興味があるけれど、荷物背負ってまで行くかと言ったら考えるだろうし。」
あ、玉はまだ浅葱屋敷の◯ラレールでしばらく遊ぶのが日課ですよ。
毎日掃除に行く傍ら、色々やってるらしい。
時々見に行くと、レールの配置が変わってるし。
『飛行機とかは大丈夫かな?』
「玉もしずさんも、この時代の人じゃ無いって認識をしっかり持っていたから、自動車で騒ぐ様な事はしなかったけど、空飛ぶとなったら、現代人だって騒ぐ人がいます。やめとこう。」
『ふむふむ。』
幾つかのNGだけ教えて、後は全部青木さんに任せる事にした。
青木さん任せにしても、僕が仕切るにしても、どちらも多分妹に叱られる未来しか見えないので。
だったら、青木さんの原案を僕が監修する(主に費用面で)方がいいと判断したからね。
…改めて考えてみたら、女性の好みとかわからないし。
筑波山に行った時を思い出すと、一応、玉は良い景色を見るのが好きみたいだけどね。
あ、因みに玉はしずさんのところに行ってます。
婿殿命令なので。
しずさんは最近、僕の命令という事にすれば、割と素直に従ってくれる様になったので、こっちは楽っちゃあ楽だ。
さて、どうしたもんかね。
一応、関東近県の◯るぶを◯マゾンの欲しいものリストに放り込んどくか。
玉は一度しずさんのところに行っちゃうと、しばらく帰ってこないからなぁ。
それでは、改めてダラダラしようっと。
ダラダラ。フヒィ。
★ ★ ★
「じゃじゃぁん。」
早速、る◯ぶを欲しいものリストから消去する羽目になった。
なんでこの人、関東るる◯を何冊もまとめ買いしてるの?
「重たいから、駅からタクシー使っちゃいました。」
「無駄遣いしてるし。」
「あのね。私ここに越して来てから、お金減らないの。朝晩は貴方の家でご飯食べてるし、お風呂も頂いてるし。家賃の他は光熱費が異様に安いの。」
そりゃ、週5日きちんと出勤してるし、玉が夜更かし(と言ってもせいぜい22時くらいまで)するようになったので、それまでうちに居るから、電気もガスも使わないわな。
「いっそ、家賃も節約出来ないかしら。」
そう言うと、青木さんは僕の顔を物欲しげに見つめてくる。
こらこら。
「ふむ。玉は大歓迎ですよ。」
「ね。」
家主は僕なんだけどなぁ。
時間は18時過ぎ。
って17時定時だとすると、早かぁないか?
あの野郎、早退しやがったな。
「外訪から直帰しただけだよ。」
あ、営業職には、その手があったか。
青木さんが帰宅早々、持ち込んだ紙袋からは、旅行ガイドのムック本がどさどさ出て来たので、さっきの場面になったのさ。
「どさどさ。」
どさどさ言いながら、写真大好き玉さんが早速食い付いた。
僕はというと。晩御飯のメニューに選んだキノコのバターソテーと炒飯という、一歩間違えると脂ギッシュな料理に余念が無い。
今さっきまで、一緒に晩御飯を作ってたんだけどなぁ、玉さん?
あぁ、もうこっちを見てくれない。
フライパンを使うと、バターキノコは脂だけでなく水も出るので、鉄板に網を乗せる2重構造を考案した。
炒飯は先に厚切りベーコンを炒めて、その脂で炒めましょうか。
彩りを考えて、カニ蒲鉾を丁寧にほぐしてレタスを加えて、赤・ピンク・緑の炒飯。
あっ、グリーンピース乗せる代わりは聖域製とうもろこしを茹でて乗せときますか。
赤・緑・黄色。
具がチューリップか信号機みたいな炒飯の出来上がり。
コンソメスープにネギをごっちゃり入れて、国籍不明スープに搾菜をつけて、はい一応炒飯セットが今晩のご飯です。
「ちょっと目を離したら、もうご飯出来てるし。」
「佳奈さん。あとはご飯の後にしましょう。殿の炒飯は美味しいですよ。」
「そうなるか。うん、そうね。また私の良妻スキルが宙に浮いたけど。」
ハイハイ。聞こえません聞こえません。
とりあえずご飯にしますよ。
いただきます。
「いただきまぁす。」
「です。」
「はいはい、ハンコですね。」
とある晴れた冬の日。
僕は、白いシクラメンの花(玉と大家さんがやり過ぎた)に囲まれた縁側で、足の爪を切っていた。
ぱちん。
ぱちん。
爪って知らないうちに伸びてるよね。
それとも、僕がおじさんになったから、体感時間経過を早く感じる様になっただけかな?
なので、玄関に郵便屋さんを迎えたのはより玄関に近い居間に居た玉さん。
お昼ごはんも終わって、のんびりと座椅子で日課の読書をしていた、本っ当にちんたらした午後でした。
…2人して、ちんたらしていたのに。
「殿ぉ、妹さんからお手紙ですよ。」
「あぁちょっと待ちなさい。本人から丁度電話だ。」
なんだろう。
書留と電話の同時攻撃?
「玉、開封してていいよ。もしもし?」
『なんで正月にも2月にも帰ってこないのよ!』
「第一声がそれかよ。」
僕の状況わかってるだろ?
玉が居るのに連れてけってか。それに、年末に青木さんも越して来たし、一言主に呼び出されたり、里帰りする暇なんかなかったんだよ。
『佳奈ちゃんには話聞いてるけどね。色々兄さんの周りが変わってるって。』
「ちょっと待て。お前らつるんでいるのか?」
『玉ちゃんともね。メールも電話もしてるよ。』
「なんてこった。」
ちんたら遊んで過ごしている毎日が、全部筒抜けじゃないか。
『うっふっふっふ。佳奈ちゃんに告られたんだって?』
「そんな事まで話しているのかよ。」
『当たり前です。私は兄さんの味方だし、兄さんのお嫁さん探しは私の仕事です!』
「お前の仕事は、主婦であり母親だろ。」
『どっちにしても、兄さんが片付かないと、私も落ち着かないんです!30を前にして無職独身の兄って、旦那側の親族にも私の体裁が悪いし。』
「う!」
やばい。
今のは急所に刺さった。
「ぐさっ。」
「玉さんうるさい。」
「ぐさぐさ、ぐさぐさぐさぐさ!」
ペーパーナイフ片手にオノマトペ連発で開封するの、やめて下さい。
「……言い返せない…。」
『でもさ、玉ちゃんはお母さんに再会させてあげられたし、佳奈ちゃんもお父さんから挨拶に来たんでしょ。』
「あぁ、まぁ。」
事実ではあるので、否定はしない。
「で、お前は何しに電話して来たんだ?」
『あら、忙しかった?』
「まだ左足の小指と人差し指の爪を切り終わっていない。」
『まぁ、それは一大事じゃない。早く切らないと夜になっちゃうわよ。』
「まだ1時過ぎだし、親の死に目にはもう両方とあって来たから大丈夫。」
『……不謹慎な例えを出したと、我ながら思うけど、それを理解してすぐさま冗談で返せる兄さんって、少し変よね。』
「失礼な。」
実際は読書家の玉が、玉の生きた時代以降に成立した諺や風習を質問してくるので、そっち方面の知識がたまたま厚くなっているだけなんだよね。
『でもさ、あと3人、新しく親が増える予定なんでしょ?』
「………。」
そんな覚悟はまるでついていないのだけど、否定したら全方面から叱られそうなので、ノーコメントと言う事で。
「コソコソ…殿。」
玉さん、コソコソと口に出したらちっともコソコソしませんよ。
コソコソ玉さんが書留から出したのは、J◯B旅行券。それも10万円分。
て、ちょっと待て。
「おいコラ。この旅行券はなんだ?」
『あれ?もう届いたんだ。それよそれ。私が今日連絡した用事は。』
妹曰く、貰い物なので僕らに使って欲しいそうだ。
『旦那が4月から昇進の内示が出てて、慣れるまでクソ忙しくなるのと、子供がまだまだ小さいからね。家族旅行とかしばらく無理だし。』
「いや、でもこの旅行券期限ないだろ。換金してもちょっとした小金になるし。」
『あのねぇ。経済状況は兄さんとこと大差なくて悪くはないのよ。うちは。兄さんと違ってうちの旦那はきちんと働いてるし。』
「だから、僕の急所を突くのはやめなさい。」
『どっちにしても我が家が家族旅行に行けるのは5~6年先になるでしょう。だったら兄さんが使いなさい。玉ちゃんと佳奈ちゃんと、あと玉ちゃんのお母さんの4人で行けば、割と豪勢な1泊旅行ができるわよ。』
まぁ確かに。
年が明けてからこっち、激動の毎日だった。
激動じゃない日は、とことんだらけてたけど。
『という訳で、みんなで楽しんで来てね。新会社からのスカウトを請けるにしても、公務員試験を受けるにしても、4月からは忙しくなるでしょ。だったらその前に楽しんでいらっしゃい。』
だから漠然と考えていた再就職について、なんでそこまで知ってんだよ。
『あと、お土産宜しくね!』
それだけ言うと、妹は電話を切った。
…そう言う事なら有り難く使わせてもらうけど、市川の僕が熊本の妹に旅先で買うものは、お土産ってカテゴリーでいいのだろうか?
★ ★ ★
「と言う事で、妹から旅行に行く様に命令された。」
「はぁ。」
爪を切り終わったら、僕から爪切りを奪い取った玉さんが引き出しに大切そうに仕舞う(何故!)後ろ姿に話しかけた。
「それで、行きたい場所を募集しようと思う。参加者は、僕、玉、しずさん、青木さんの4名だ。」
「お母さんも良いんですか?」
「勿論。」
じゃないと、10万円分も使い切れん。
「でも玉の知ってる場所は、殿と一緒に行ったとこだけですよ?」
「別に具体的にどこって事じゃなくてもいいよ。玉は時々旅行番組を見てただろう。温泉とか。」
「あれはその土地の料理や食材に興味があったから見てただけですし。」
「主婦か?」
「はい。」
真っ直ぐに返事されちゃった。
「玉の時代に観光旅行って、普通の人はしませんでしたからねぇ。お役人さんが任地に行くとか、お殿様がお参りに行くくらいですから。」
ふむ。それはそうか。
庶民の旅行と言えは「講」という制度があったけど、あれは確か江戸時代からの筈だ。
「それにほら、温泉はお母さんのとこにあるし、美味しいご飯と美味しい食材は大体この部屋で賄えますから。」
しまった。
うちの周りで、粗方の事は済んじゃった。
だとすると、観光地自体を知らない玉は役に立たないか。
しずさんも、市川から出た事ないだろうなぁ。この親娘には頼れない。
「なんか失礼な事、考えませんでしたか?殿?」
「ないよ。」
この子をお嫁さんにして、僕は大丈夫なんだろうか。
………
『で、どうすんの?』
「いや、だから意見を募っているんだけど。ていうかメールを送って1分も立たずに電話を返して来て、君はちゃんと仕事をしているのか?」
『言ったでしょ。私は今期ノルマを達成済なので、比較的自由に外回りしてんの。だからお昼の時間も外して、悠々とお蕎麦を食べてたとこでした。』
はぁ。
まぁ結果さえ出していれば、事務職なんかより時間を自由に使えるのが、営業職の醍醐味だ。
『わかった、考えとくね。』
「あぁ頼む。」
こう言った情報収集は、若いOLさんの方が得意だろう。
ネットと生半可な知識・経験しかないおじさんよりもね。
『移動は車?』
「それも任せる。玉は鉄道に興味があるけれど、荷物背負ってまで行くかと言ったら考えるだろうし。」
あ、玉はまだ浅葱屋敷の◯ラレールでしばらく遊ぶのが日課ですよ。
毎日掃除に行く傍ら、色々やってるらしい。
時々見に行くと、レールの配置が変わってるし。
『飛行機とかは大丈夫かな?』
「玉もしずさんも、この時代の人じゃ無いって認識をしっかり持っていたから、自動車で騒ぐ様な事はしなかったけど、空飛ぶとなったら、現代人だって騒ぐ人がいます。やめとこう。」
『ふむふむ。』
幾つかのNGだけ教えて、後は全部青木さんに任せる事にした。
青木さん任せにしても、僕が仕切るにしても、どちらも多分妹に叱られる未来しか見えないので。
だったら、青木さんの原案を僕が監修する(主に費用面で)方がいいと判断したからね。
…改めて考えてみたら、女性の好みとかわからないし。
筑波山に行った時を思い出すと、一応、玉は良い景色を見るのが好きみたいだけどね。
あ、因みに玉はしずさんのところに行ってます。
婿殿命令なので。
しずさんは最近、僕の命令という事にすれば、割と素直に従ってくれる様になったので、こっちは楽っちゃあ楽だ。
さて、どうしたもんかね。
一応、関東近県の◯るぶを◯マゾンの欲しいものリストに放り込んどくか。
玉は一度しずさんのところに行っちゃうと、しばらく帰ってこないからなぁ。
それでは、改めてダラダラしようっと。
ダラダラ。フヒィ。
★ ★ ★
「じゃじゃぁん。」
早速、る◯ぶを欲しいものリストから消去する羽目になった。
なんでこの人、関東るる◯を何冊もまとめ買いしてるの?
「重たいから、駅からタクシー使っちゃいました。」
「無駄遣いしてるし。」
「あのね。私ここに越して来てから、お金減らないの。朝晩は貴方の家でご飯食べてるし、お風呂も頂いてるし。家賃の他は光熱費が異様に安いの。」
そりゃ、週5日きちんと出勤してるし、玉が夜更かし(と言ってもせいぜい22時くらいまで)するようになったので、それまでうちに居るから、電気もガスも使わないわな。
「いっそ、家賃も節約出来ないかしら。」
そう言うと、青木さんは僕の顔を物欲しげに見つめてくる。
こらこら。
「ふむ。玉は大歓迎ですよ。」
「ね。」
家主は僕なんだけどなぁ。
時間は18時過ぎ。
って17時定時だとすると、早かぁないか?
あの野郎、早退しやがったな。
「外訪から直帰しただけだよ。」
あ、営業職には、その手があったか。
青木さんが帰宅早々、持ち込んだ紙袋からは、旅行ガイドのムック本がどさどさ出て来たので、さっきの場面になったのさ。
「どさどさ。」
どさどさ言いながら、写真大好き玉さんが早速食い付いた。
僕はというと。晩御飯のメニューに選んだキノコのバターソテーと炒飯という、一歩間違えると脂ギッシュな料理に余念が無い。
今さっきまで、一緒に晩御飯を作ってたんだけどなぁ、玉さん?
あぁ、もうこっちを見てくれない。
フライパンを使うと、バターキノコは脂だけでなく水も出るので、鉄板に網を乗せる2重構造を考案した。
炒飯は先に厚切りベーコンを炒めて、その脂で炒めましょうか。
彩りを考えて、カニ蒲鉾を丁寧にほぐしてレタスを加えて、赤・ピンク・緑の炒飯。
あっ、グリーンピース乗せる代わりは聖域製とうもろこしを茹でて乗せときますか。
赤・緑・黄色。
具がチューリップか信号機みたいな炒飯の出来上がり。
コンソメスープにネギをごっちゃり入れて、国籍不明スープに搾菜をつけて、はい一応炒飯セットが今晩のご飯です。
「ちょっと目を離したら、もうご飯出来てるし。」
「佳奈さん。あとはご飯の後にしましょう。殿の炒飯は美味しいですよ。」
「そうなるか。うん、そうね。また私の良妻スキルが宙に浮いたけど。」
ハイハイ。聞こえません聞こえません。
とりあえずご飯にしますよ。
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「いただきまぁす。」
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